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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
1章

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24/51

24話:鍛冶の国

 交易船がゆっくりとバルグの街の港へ接岸した。


 太い綱が岸壁へ投げ渡され、船体が大きく軋む。港では屈強なドワーフたちが声を張り上げ、荷車いっぱいの鉱石を運んでいた。


ドワーフたちは見た目は人間と大きく変わらないが、屈強な体つきに対して、身長が低い。


 街の奥には大小さまざまな煙突が並び、白い煙が絶え間なく空へ昇っている。


 カン、カン、カン。


 金属を打つ音が幾重にも重なり、街全体が巨大な工房のように鼓動していた。


ヒロ「すごい……街全部が工房みたいだ」


アリア「ここでは鍛冶が生活そのものだからな」


 船を降りた三人は、人の流れに沿って港を進む。

 通りの両側には武器屋や防具屋が並び、店先には剣や斧、鎧が所狭しと飾られていた。露店では歯車や魔石が売られ、店主たちが大声で客を呼び込んでいる。


 女性たちも腰へ工具を下げ、子どもたちは木槌を振り回して遊んでいた。


リゼット「懐かしいな……」


ヒロ「ここで育ったんだよな」


リゼット「うん。あの広場でよく遊んでた」


 リゼットが指差した先では、子どもたちが木の板を剣に見立てて走り回っている。


リゼット「お父さんの工房から勝手にハンマーを持ち出して、みんなで鍛冶屋ごっこをしたこともあるわ」


アリア「怒られただろう」


リゼット「すごくね。でも次の日には、ちゃんとした持ち方を教えてくれた」


 ギデオンを思い出したのか、リゼットの笑顔が少しだけ曇る。

 ヒロは何も言わず、その歩調へ合わせた。

 坂道へ差しかかると、道端の店主が目を見開く。


ドワーフ「おい、リゼットじゃねぇか!」


リゼット「久しぶり!」


ドワーフ「いつ帰ってきたんだ!」


リゼット「今着いたばかり!」


 その声を聞きつけ、周囲のドワーフたちも集まってきた。


ドワーフ「でかくなったなぁ!」


ドワーフ「ギデオンは一緒じゃないのか?」


 リゼットの表情が一瞬止まる。


リゼット「……今は別行動なの」


 相手は何かを察したのか、それ以上は聞かなかった。


ドワーフ「そうか。落ち着いたら顔を見せろよ」


リゼット「うん。必ず」


 再び歩き出したあと、ヒロが静かに声を掛ける。


ヒロ「知り合いが多いんだな」


リゼット「小さい街だからね。悪いことをすると、次の日には全員知ってた」


アリア「逃げ場がなかったわけだ」


リゼット「本当にね」


 やがて、一際大きな煙突を備えた古い工房が見えてきた。

 看板には力強い文字で『ボルガン工房』と彫られている。


リゼット「着いた。ここよ」


 扉を開けると、熱気と鉄の匂いが押し寄せた。

 奥では大柄なドワーフが、真っ赤な鉄へハンマーを振り下ろしている。


 ガンッ!


 男が振り返った。


ボルガン「客なら少し待て。今、手が離せん」


リゼット「相変わらず忙しそうね、ボルガンおじさん」


 男の目が大きく見開かれる。


ボルガン「……リゼット?」


 次の瞬間、工房へ豪快な笑い声が響いた。


ボルガン「帰ってきたか! ギデオンの娘!」


 再会を喜ぶ二人を見て、ヒロは小さく笑う。

 しかし、リゼットの表情はすぐに真剣なものへ変わった。


リゼット「おじさん。今日は頼みたいことがあって来たの」


 その声色を聞いたボルガンも笑みを消す。


ボルガン「……中で聞こう」


 重い扉が閉まり、工房の音がわずかに遠ざかった。

 工房の奥にある休憩室で、リゼットは王国で起きた出来事を最初から説明した。

 領主館への襲撃。

 騎士団長の死。

 ヒロが濡れ衣を着せられ、王国から追われる身となったこと。

 そして、ギデオンが三人を逃がすため、ひとり工房へ残ったこと。

 ボルガンは腕を組んだまま、最後まで黙って聞いていた。

 話が終わると、外から聞こえる槌音だけが重い沈黙を刻む。


ボルガン「……あいつらしいな」


 低い声で呟き、深く息を吐く。


ボルガン「昔からそうだった。自分が損をしてでも仲間を逃がす。馬鹿みたいに義理堅い男だ」


リゼット「お父さん、無事かな」


ボルガン「簡単にくたばる奴じゃねぇ」


 即答だった。


ボルガン「ギデオンは腕のいい職人だ。それに逃げ道を作るのも昔から得意だった。今は信じろ」


 リゼットは唇を結び、やがて小さく頷いた。


ボルガン「それで、頼みってのは何だ」


 ヒロはトランシーバーと乾電池を机へ置いた。


ヒロ「これを、もう一度動かしたいんです」


ボルガン「これが異世界の魔道具か」


 ボルガンの目つきが変わる。

 裏返し、側面を指でなぞり、細部まで食い入るように観察する。


ヒロ「俺のいた世界で使われていた通信機です。遠く離れた相手と話せます」


ボルガン「声を届けるのか?」


リゼット「ヒロの世界と、この世界を繋いでいたの」


 ボルガンは乾電池へ視線を移す。


リゼット「動力はこっち。これと同じ役割を、魔力蓄積石で再現したい」


 船旅の間に書き溜めた紙束を広げる。

 魔力の流れや石の形状、乾電池の両端にある印まで、細かな図が書き込まれていた。


ボルガン「考え方は悪くねぇ。ただ、魔力を一定の強さで流し続ける仕組みが必要だ」


リゼット「そこが安定しないの」


ボルガン「なら器を作る。中へ削った魔力蓄積石を詰め、両端に導力金属を噛ませる」


リゼット「回路は二重?」


ボルガン「三重だ。暴走した時に逃がす道もいる」


 職人二人の会話は一気に加速した。


ヒロ「もう何を言ってるのか分かりません」


アリア「奇遇だな。私もだ」


 二人はすぐに作業へ取り掛かった。

 魔力蓄積石を細かく切り、慎重に削る。

 ボルガンが金属筒へ回路を刻み、リゼットが石を詰めた。

 最初の試作品は一時間ほどで完成した。


リゼット「いくよ」


 魔力を流すと、金属筒が淡く光った。


ヒロ「成功ですか?」


ボルガン「まだだ」


 直後、筒から白い煙が噴き出す。


リゼット「わっ!」


 ボルガンが素早く布を被せ、魔力を遮断した。


ボルガン「流れが強すぎる」


リゼット「でも反応はした」


ボルガン「なら次だ」


 二個目は魔力が流れず、三個目は途中で石が割れた。

 日が傾く頃、作業台には失敗作が並んでいた。

 ボルガンはようやく工具を置く。


ボルガン「仕組みは見えた。だが完成まで最低でも三日はかかる」


リゼット「三日でやる」


ボルガン「寝る時間も必要だぞ」


リゼット「少しくらいなら平気」


ボルガン「ギデオンと同じことを言いやがる」


 呆れながらも、ボルガンは楽しそうに笑った。


ボルガン「分かった。三日で形にする。お前たちは集中の邪魔になるから外へ行け」


アリア「承知した」


ヒロ「俺たちは何をすれば?」


アリア「訓練だ」


ヒロ「ですよね」


 工房の外へ出ると、夕焼けが街を赤く染めていた。


アリア「三日ある。お前の重力魔法と剣術を、今より一段階引き上げる」


ヒロ「分かりました」


アリア「まずは基礎からだ。魔力へ頼りすぎる癖を直すぞ」


 アリアは街外れの訓練場へ歩き始める。

 その背中を追いながら、ヒロは工房を振り返った。

 窓の向こうでは、リゼットとボルガンがすでに次の試作品へ取り掛かっている。

 異世界と現代を再び繋ぐため。


 それぞれの三日間が、静かに始まった。

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