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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
1章

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23/45

23話:海の向こう側

 交易船は穏やかな波を切りながら、ドワーフの地、ドゥルガン大陸を目指して進んでいた。

 ラトナ村を出航してから一日が過ぎ、周囲には見渡す限り青い海が広がっている。


 船首へ立ったヒロは、遠ざかってしまった王国の方角を静かに見つめていた。

 目を閉じるたびに浮かぶのは、バルドとソフィの姿だった。


 守れなかった。


 その言葉だけが胸の奥に残り続けている。

 そんなヒロとは対照的に、船室ではリゼットが机いっぱいへ工具を並べ、トランシーバーを夢中になって眺めていた。


ヒロ「また研究してるのか」


リゼット「もちろん。時間があるなら手を動かさないともったいないもの」


 乾電池を光へかざし、角度を変えながら観察する。


リゼット「ねぇ、本当に分解しちゃ駄目?」


ヒロ「絶対駄目」


リゼット「ちょっとだけ」


ヒロ「その『ちょっと』で終わる気がしない」


 リゼットは頬を膨らませる。


リゼット「職人は壊して覚える生き物なの」


ヒロ「それを聞くたびに不安になる」


 近くにいた船員たちが吹き出した。


船員「嬢ちゃん、我慢してやれ」


リゼット「むぅ……」


 笑い声が船内へ広がる。  ヒロも思わず口元を緩めた。

 リゼットは乾電池の両端を指差した。


リゼット「この印が気になるの」


ヒロ「プラスとマイナスだよ」


リゼット「流れを作る印?」


ヒロ「そんな感じ」


 リゼットは紙へ図を書き込み始める。


リゼット「魔力蓄積石にも流れがあるなら、この考え方が使えるかもしれない」


ヒロ「俺には難しいな」


リゼット「だから職人がいるのよ」


 父ギデオンならどう考えただろう。

 その言葉は飲み込んだ。

 三人とも同じことを考えていたからだ。

 ギデオンはどうしているだろうか。


 無事でいてほしい。


 昼になると船員たちが大きな魚を釣り上げた。


船員「今日はご馳走だ!」


 船上は一気に賑やかになる。

 焼き魚の香りが漂う中、ヒロだけは青い顔をしていた。


ヒロ「まだ揺れに慣れない……」


リゼット「情けないわね」


ヒロ「陸なら負けないんだけど」


アリア「相手が海では勝負にならんな」


 真顔で返すアリアに、リゼットが目を丸くする。


リゼット「今、冗談言った?」


アリア「言ってない」


 その真剣な顔に、船員たちは再び笑った。

 少しずつ重苦しかった空気がほぐれていく。

 船旅は続いた。


  航海三日目。


 突然、船が大きく揺れた。


船員「総員、持ち場につけ!」


 ヒロは慌てて剣へ手を伸ばす。


ヒロ「魔物ですか!」


 海面の下を巨大な影が横切る。

 思わず息をのむヒロだったが、リゼットは落ち着いていた。


リゼット「あれは海竜よ」


ヒロ「りゅ、竜!?」


リゼット「温厚だから平気。船の音が好きで近寄ってくるの」


 次の瞬間、巨大な背びれが海面から姿を見せ、そのままゆっくりと船の横を泳いでいった。


船員「縁起がいいぞ!」


 船員たちは笑顔で手を振る。

 ヒロもようやく肩の力を抜いた。


 五日目の夜。


 眠れなかったヒロは甲板へ出る。

 そこには夜風を浴びるアリアの姿があった。


アリア「眠れないか」


ヒロ「また夢を見ました」


アリア「団長か」


ヒロ「……はい」


 静かな波音だけが響く。


アリア「鉱洞で、お前は私へ魔力を流した」


ヒロ「正直、覚えてません」


アリア「私は覚えている」


 身体が軽くなり、魔法の威力まで増したこと。

 本来ならあり得ないこと。


アリア「生き物へ魔力を流すことは禁忌だ」


ヒロ「でも何も起きませんでした」


アリア「ああ」


ヒロ「試した人は?」


アリア「いない」


ヒロ「え?」


アリア「禁忌だから試されていない」


 ヒロは苦笑した。


ヒロ「じゃあ、本当に危険か誰も知らないってことですよね」


 アリアは少し考え、静かに頷く。


アリア「……そうなるな」


ヒロ「俺の世界でも、常識が覆ることはたくさんありました」


アリア「焦るな」


アリア「だが、お前の発想がこの世界を変えるかもしれん」


 その言葉は師匠としての期待にも聞こえた。


 そして七日目の朝。


 船員の大声が船中へ響き渡る。


船員「陸だ!」


船員「ドゥルガン大陸が見えたぞ!」


 ヒロたちは一斉に甲板へ飛び出した。

 霧の向こうから現れたのは巨大な岩山。

 断崖へ張り付くように築かれた街並み。

 何本もの煙突から立ち上る白い煙。

 風に乗って聞こえてくる金属を打つ音。

 それは王国では聞いたことのない音だった。


リゼット「帰ってきた……」


 その声はどこか嬉しそうで、少しだけ寂しそうでもあった。

 船はゆっくりと港へ近づいていく。

 巨大なクレーンが鉱石を積み下ろし、屈強なドワーフたちが忙しく行き交っている。


船員「まもなくバルグ港へ入港する!」


 ヒロはその光景に息をのむ。


ヒロ「これが……ドゥルガン大陸」


 新たな大地が、三人を静かに迎えようとしていた。

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