13話:苛立ち(元世界)
放課後。
校舎の隅にある理科準備室には、機械の駆動音だけが響いていた。
机の上には、一台のトランシーバーが置かれている。
その周囲には、ケーブルや測定器、見慣れない小型の機械がいくつも並べられていた。
タスクは椅子へ座り、画面に表示された波形をじっと見つめている。
その隣では、ミナトが腕を組んだまま立っていた。
ミナト「まだか?」
タスク「さっきから同じこと聞いてますよね?」
ミナト「まだ終わってねえから聞いてんだよ」
タスク「急かして結果が出るなら、僕だって急ぎますよ」
タスクはそう言いながら、トランシーバーへ繋いだケーブルを確認した。
電源。
内部の基板。
送信機能。
受信機能。
調べられる範囲は、すでに何度も確認している。
それでも、目立った異常は見つからなかった。
ミナト「壊れてんじゃねえのか?」
タスク「壊れてません」
ミナト「じゃあ何で繋がらねえんだよ」
タスク「それを調べてるんです」
ミナト「同じところぐるぐる回ってねえ?」
タスク「黒瀬さんが横で話しかけるから、集中できないんですよ」
言い切ったあと、タスクの肩がわずかに固まった。
ミナトがじっとこちらを見ている。
タスク「……すみません」
ミナト「別に怒ってねえよ」
タスク「顔が怖いんですよ」
ミナト「生まれつきだ」
タスク「なおさら困ります」
タスクは視線を画面へ戻した。
トランシーバー自体は古い。
外装には傷もある。
だが、内部の状態はそれほど悪くなかった。
電池を入れれば、問題なく電源が入る。
送信もできる。
受信もできる。
近くに置いた別の無線機との通信も成立した。
普通に使う分には、何の問題もない。
ただし、一つだけ。
周波数の中に、説明できない異常が混ざっていた。
通常のトランシーバーでは拾わない帯域。
しかも、その異常は一定ではない。
まるで存在したり消えたりするように、わずかに揺れている。
タスク「やっぱり、変なんですよね……」
ミナト「何がだ?」
タスク「この周波数です」
タスクは画面の一部を指差した。
波形の端に、細い線が揺れている。
ミナト「前も言ってたやつか」
タスク「はい。普通なら、こんな反応は出ません」
ミナト「じゃあ、それがヒロと繋がってるんじゃねえの?」
タスク「可能性はあります」
ミナト「なら、そこに合わせて送ればいいだろ」
タスク「そう簡単じゃないです」
ミナト「何でだよ」
タスクは一度、深く息を吐いた。
説明しても伝わらない気がした。
だが、説明しなければもっと面倒になる。
タスク「まず、この反応が本当に通信に使える周波数なのか分かりません」
ミナト「でも出てんだろ?」
タスク「出ています。でも、安定してないんです」
タスクは測定器の数値を示した。
タスク「受信できる帯域が動いてるんですよ。少しずつ、ずっと」
ミナト「動いてる?」
タスク「ラジオのチャンネルを勝手に誰かが回し続けてるみたいな感じです」
ミナト「じゃあ、追いかければいいだろ」
タスク「人の話聞いてました?」
ミナト「聞いてる」
タスク「追いかけても、急に消えるんです」
ミナト「気合いが足りねえんじゃねえか?」
タスク「電波に気合いを求めないでください」
タスクは頭を抱えた。
理屈で考えるなら、ありえないことだらけだった。
周波数の異常はある。
だが、通信記録はない。
ノイズも入らない。
誰かが送信している形跡もない。
ただ、何かがそこにある。
それだけだった。
ミナト「で、どうすりゃいい?」
タスク「場所を変えて試してみるしかないですね」
ミナト「よし、行くぞ」
ミナトはすぐにトランシーバーへ手を伸ばした。
タスク「ちょっと待ってください!」
ミナト「何だよ」
タスク「機材を片づけないと」
ミナト「あとでいいだろ」
タスク「ダメです。これ、学校の備品ですよ」
ミナト「バレなきゃ平気だ」
タスク「そういう発想だから怖いんですって!」
ミナトは不満そうにしながらも、手を止めた。
タスクは急いでケーブルを抜き、機材を元の位置へ戻していく。
途中、一本のコードが椅子へ引っかかった。
机の上に置かれた小型の測定器が傾く。
タスク「あっ!」
落ちかけた機械を、ミナトが片手で受け止めた。
ミナト「危ねえな」
タスク「黒瀬さんが急かすからですよ!」
ミナト「助けてやったのに文句言うのか?」
タスク「それとこれとは別です」
タスクは機械を受け取り、傷がないか確認した。
無事だった。
それだけで、少し寿命が縮んだ気がする。
準備室を出る頃には、外は夕方になり始めていた。
ミナトはトランシーバーを持ち、廊下を早足で進んでいく。
タスクは鞄を抱え、その後を慌てて追いかけた。
タスク「どこへ行くんですか?」
ミナト「屋上」
タスク「屋上は立ち入り禁止ですよ」
ミナト「知ってる」
タスク「知ってて行くんですか?」
ミナト「高いところの方が電波入りそうだろ」
タスク「理屈が雑すぎます!」
ミナトは階段を上がり続ける。
タスクは何度も止めようとした。
だが、ミナトは聞かない。
最上階まで来ると、屋上へ続く扉の前で足を止めた。
扉には、立入禁止の紙が貼られている。
タスク「ほら、書いてありますよ」
ミナト「紙が貼ってあるだけだろ」
タスク「その紙に意味があるんです!」
ミナトが扉へ手をかける。
鍵は開いていた。
タスク「何で開いてるんですか……」
ミナト「入れってことだろ」
タスク「違いますよ!」
ミナトはそのまま屋上へ出た。
風が強い。
夕日に照らされた街が、遠くまで見渡せる。
タスクも周囲を気にしながら、仕方なく外へ出た。
ミナト「ここなら届くだろ」
タスク「何を根拠に言ってるんですか」
ミナト「高い」
タスク「それだけですか?」
ミナト「他に必要か?」
タスク「必要ですよ」
ミナトはトランシーバーの電源を入れた。
短い電子音が鳴る。
だが、それ以外に反応はない。
ミナトは送信ボタンを押した。
ミナト「ヒロ、聞こえるか」
返事はない。
ノイズすら返ってこない。
ミナト「おい、聞こえてんだろ」
タスク「怒鳴っても届く距離は変わりません」
ミナト「うるせえ。黙ってろ」
タスク「はい……」
タスクはすぐに口を閉じた。
ミナトは再び呼びかける。
ミナト「ヒロ、聞こえてたら返事しろ」
沈黙。
ミナト「俺だ。ミナトだ」
何も起きない。
風だけが、二人の間を通り抜けていく。
ミナトは送信ボタンから指を離した。
トランシーバーを睨む。
怒っているようにも見える。
焦っているようにも見えた。
タスク「……反応はないですね」
ミナト「次だ」
タスク「次?」
ミナト「場所変えるぞ」
タスク「もうですか?」
ミナト「ここでダメなら、次行くしかねえだろ」
ミナトはすぐに屋上を出ようとした。
そのとき、扉の向こうから足音が聞こえた。
教師「誰かいるのか?」
タスクの顔が青ざめる。
タスク「黒瀬さん!」
ミナト「走るぞ」
タスク「どこへ!?」
ミナトは屋上の隅へ走った。
フェンス沿いに回り込み、物陰へ身を隠す。
タスクも慌てて後を追う。
扉が開き、教師が屋上へ出てきた。
教師「誰もいないのか……?」
二人は物陰で息を潜める。
タスクは顔を引きつらせていた。
タスク「捕まったら、僕まで怒られるじゃないですか……」
ミナト「声出すな」
タスク「黒瀬さんのせいですよ」
ミナト「分かったから黙れ」
教師は周囲を見回したあと、首を傾げながら戻っていった。
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
タスクはその場に座り込んだ。
タスク「もう屋上は嫌です」
ミナト「じゃあ次は河川敷だな」
タスク「何でそんなに元気なんですか……」
◇
二人は学校を出て、河川敷へ向かった。
自転車を押しながら歩くミナトの後ろを、タスクがついていく。
タスク「本当に場所を変えれば、何か変わると思います?」
ミナト「分かんねえ」
タスク「分からないんですか?」
ミナト「分からねえから試すんだろ」
タスクは少し黙った。
それ自体は間違っていない。
理屈がないのは困る。
だが、何もしないよりはいいのかもしれない。
河川敷へ着く頃には、空が赤く染まっていた。
ランニングをしている人。
犬の散歩をしている人。
土手に座って話している学生。
ミナトは人の少ない場所まで歩いた。
ミナト「ここなら邪魔入らねえな」
タスク「今度は低いですけど」
ミナト「さっき高いところでダメだったからな」
タスク「正反対を試すんですね……」
ミナトは再びトランシーバーの電源を入れた。
送信ボタンを押す。
ミナト「ヒロ、聞こえるか」
反応はない。
ミナト「こっちは河川敷だ」
タスク「場所を報告する意味あります?」
ミナト「ヒロが知ってる場所かもしれねえだろ」
ミナトはトランシーバーへ向かって話し続けた。
ミナト「昔、ここでお前が川に落ちたの覚えてるか」
タスク「それ、今言う必要あります?」
ミナト「黙ってろ」
トランシーバーは沈黙したままだった。
ミナト「俺が助けたら、お前逆ギレしたよな」
タスク「なぜ逆ギレしたんですか?」
ミナト「靴をなくしたから」
タスク「助けてもらったのに?」
ミナト「そういうやつだったんだよ」
ミナトの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
だが、すぐに表情は戻った。
ミナト「聞こえてるなら、何か返せ」
返事はない。
タスクは少し離れた場所で、小型の受信機を確認していた。
波形に変化はない。
周波数の異常も、学校で見たものとほとんど同じだった。
タスク「黒瀬さん」
ミナト「何だ」
タスク「場所を変えても、反応は変わってません」
ミナト「もう少しやる」
タスク「でも」
ミナト「まだだ」
ミナトはもう一度、送信ボタンを押した。
そのとき、近くで犬の吠える声が聞こえた。
大きな犬が、二人の方をじっと見ている。
飼い主が引くリードを無視し、トランシーバーへ興味を示していた。
ミナト「何だ、あいつ」
タスク「こっち見てますね」
犬が一歩近づく。
ミナトは気にせず通信を続けようとした。
だが、犬は突然走り出した。
飼い主「こら、待ちなさい!」
リードが飼い主の手から抜ける。
犬は一直線にミナトへ向かってきた。
タスク「黒瀬さん!」
ミナト「何で俺なんだよ!」
ミナトはトランシーバーを持ったまま走り出した。
犬が追いかける。
タスクも巻き込まれないように逃げた。
ミナト「タスク! 何とかしろ!」
タスク「僕に犬をどうにかする技能はありません!」
ミナト「機械以外も勉強しとけ!」
タスク「無茶言わないでください!」
河川敷を、二人と一匹が走り回る。
飼い主も必死に追いかけていた。
しばらくして、犬はようやく捕まった。
飼い主「すみませんでした!」
ミナト「何で俺だけ追われたんだ……」
タスク「声が大きかったからじゃないですか?」
ミナト「関係あるか?」
タスク「動物には分かるのかもしれません」
ミナト「何がだよ」
タスク「危険人物が」
ミナトがタスクを見る。
タスク「……冗談です」
タスクはすぐに視線を逸らした。
◇
河川敷でも、何の反応もなかった。
二人は場所を変えた。
ヒロの家の近く。
二人が昔遊んでいた公園。
駅前の広場。
少し離れた高台。
ミナトが思いついた場所へ、片っ端から向かった。
そのたびにトランシーバーを起動し、呼びかける。
ミナト「ヒロ、聞こえるか」
返事はない。
ミナト「おい、何か言え」
何も起きない。
タスクは毎回、受信機や測定器を確認した。
だが、周波数の異常以外に変化はなかった。
場所を変えても。
時間を変えても。
呼びかける言葉を変えても。
何も届かない。
公園では、ミナトが滑り台の上から通信を試した。
タスク「何で滑り台なんですか?」
ミナト「少し高い」
タスク「屋上でダメだったじゃないですか」
ミナト「子供の頃、ヒロとここで遊んでた」
タスクは何も言わなかった。
ミナトは滑り台の上に立ち、トランシーバーを握る。
ミナト「ヒロ」
その声は、これまでより少しだけ静かだった。
ミナト「ここ、覚えてるか」
返事はない。
風に揺れた木の葉が、音を立てる。
ミナト「お前、ここから落ちて泣いてたよな」
タスク「黒瀬さんが落としたんじゃないですよね?」
ミナト「押した」
タスク「押したんですか!?」
ミナト「ふざけてただけだ」
タスク「普通に危ないじゃないですか」
ミナト「俺も一緒に落ちたから引き分けだ」
タスク「そういう問題じゃないです」
ミナトは滑り台から降りた。
トランシーバーの電源は入ったままだった。
何も聞こえない。
公園を出たあと、二人は近くの神社へ向かった。
すでに空は暗くなり始めていた。
タスク「なんで神社なんですか……」
ミナト「こういうところの方が、変なこと起きそうだろ」
タスク「発想が完全にオカルトなんですよ」
ミナト「異世界に繋がってるかもしれねえんだぞ。今さらだろ」
タスク「それはそうですけど……」
神社へ続く階段を上る。
周囲には誰もいない。
街灯も少なく、木々の間から暗闇が覗いている。
タスクは何度も後ろを振り返った。
ミナト「何してんだ?」
タスク「いや、別に」
ミナト「怖いのか?」
タスク「怖くないです」
風が吹き、木の枝が大きく揺れた。
奥から、何かが飛び出す。
タスク「うわっ!」
タスクはミナトの背中へ隠れた。
飛び出したのは猫だった。
猫は二人を一度だけ見て、そのまま闇の中へ消えた。
ミナト「怖くないんじゃなかったのか?」
タスク「急に出てきたら誰だって驚きますよ!」
ミナト「俺は驚いてねえ」
タスク「黒瀬さんと一緒にしないでください」
境内まで上がり、ミナトはトランシーバーを起動した。
ミナト「ヒロ、聞こえるか」
沈黙。
ミナト「そろそろいい加減にしろよ」
タスク「怒っても仕方ないですよ」
ミナト「分かってる」
ミナトは送信ボタンを強く押した。
ミナト「聞こえてんなら返事しろ!」
声が境内に響く。
鳥が驚いて飛び立った。
タスクが肩をすくめる。
タスク「黒瀬さん、近所迷惑です」
ミナト「神社に近所も何もねえだろ」
タスク「ありますよ」
しばらく待つ。
何も返ってこない。
ミナトはゆっくりと手を下ろした。
タスクは受信機の画面を見つめている。
やはり、変化はない。
周波数の異常だけが、細く揺れている。
それ以外は、何もなかった。
◇
夜。
二人は駅前のベンチに座っていた。
何か所も歩き回ったせいで、タスクはすっかり疲れている。
ミナトも、黙ったままトランシーバーを見つめていた。
自動販売機で買った飲み物が、二人の間に置かれている。
タスク「もう、今日はこれくらいにしませんか?」
ミナト「まだ試してねえ場所あるだろ」
タスク「どこですか?」
ミナト「山」
タスク「今からですか!?」
ミナト「電波なら山の方が入りそうだろ」
タスク「さすがに無理です」
ミナト「何でだよ」
タスク「暗いし、遠いし、僕は明日も学校なんですよ」
ミナト「俺もだ」
タスク「なら帰りましょうよ」
ミナトは不満そうにトランシーバーを握った。
だが、立ち上がろうとはしなった。
タスクは少し迷い、それから静かに口を開いた。
タスク「黒瀬さん」
ミナト「何だ」
タスク「これ、壊れてないです」
ミナト「それは聞いた」
タスク「送信もできます。受信もできます」
ミナト「じゃあ、何で何も来ねえんだよ」
タスクはトランシーバーを指差した。
タスク「こっち側に問題がないなら、相手側に問題がある可能性が高いです」
ミナト「相手側?」
タスク「もう一台のトランシーバーです」
ミナトの表情が変わる。
タスク「壊れたかもしれません」
タスク「電池が切れたかもしれません」
タスク「それか、ヒロ君が通信できる状況にいない可能性もあります」
ミナト「……」
タスク「こっちから送信しても、向こうの機械が受け取れないなら意味がありません」
ミナト「直す方法は?」
タスク「向こうにあるなら、僕たちには無理です」
ミナト「じゃあ、こっちから何もできねえのかよ」
タスクは答えに詰まった。
言い方を選びたかった。
だが、結論は変わらない。
タスク「現状は……」
ミナトがトランシーバーを握る手に力を込める。
タスク「向こうから通信が来ない限り、こちらでは何もできません」
駅前を車が通り過ぎる。
ヘッドライトの光が、二人の前を横切った。
ミナトは何も言わなかった。
しばらく、トランシーバーを見つめている。
あの夜。
ノイズの向こうから、ヒロの声が聞こえた。
短い声だった。
叫び声にも近かった。
すぐに切れた。
それでも、聞き間違いではない。
あれはヒロだった。
ミナト「待つしかねえってことか」
タスク「今は、そうなります」
ミナト「それじゃ遅いかもしれねえだろ」
タスク「分かってます」
ミナト「分かってねえよ」
ミナトの声が少しだけ強くなる。
タスクの肩がびくりと動いた。
だが、今回は目を逸らさなかった。
タスク「分かってますよ」
声は小さい。
それでも、はっきりと言った。
タスク「でも、分からないものを、分かったふりはできません」
ミナトはタスクを見る。
タスクは緊張していた。
膝の上で握った手が固い。
それでも続ける。
タスク「今できることは、周波数を記録することです」
タスク「変化が出たら、すぐに分かるようにしておく」
タスク「定期的に通信を試す」
タスク「それしかありません」
ミナト「……」
タスク「何もしないわけじゃないです」
ミナトはしばらく黙っていた。
やがて、背もたれへ身体を預ける。
ミナト「じゃあ、毎日やるぞ」
タスク「毎日ですか?」
ミナト「ああ」
タスク「僕にも予定があるんですけど……」
ミナト「何の」
タスク「ゲームとか、アニメとか」
ミナト「ヒロより大事か?」
タスク「そういう比べ方するのずるくないですか?」
ミナト「じゃあ決まりだな」
タスク「僕、まだ了承してませんよ」
ミナト「明日も放課後、準備室な」
タスク「話聞いてくださいよ!」
ミナトは立ち上がった。
トランシーバーを制服のポケットへ入れる。
タスク「壊さないでくださいよ」
ミナト「壊さねえよ」
タスク「黒瀬さん、扱いが雑そうなので心配なんです」
ミナト「お前、さっきからちょっと言うようになったな」
ミナトが振り返る。
タスクの顔が引きつった。
タスク「す、すみません」
ミナト「別にいいけど」
ミナトは少し笑った。
怒ってはいないらしい。
タスクは胸を撫で下ろした。
タスク「本当に怖いんですよ、その間」
ミナト「慣れろ」
タスク「無理です」
二人は駅前を歩き始めた。
何度試しても、反応はなかった。
トランシーバーに異常はない。
周波数だけが、説明できない揺れ方をしている。
相手側の機械に何かが起きたのかもしれない。
現状では、向こうから通信が来るのを待つしかない。
できることは少ない。
それでも、ミナトは諦めるつもりはなかった。
歩きながら、ポケットの中のトランシーバーへ手を触れる。
ミナト「ヒロ」
小さく名前を呼ぶ。
返事はない。
だが、ミナトは電源を切らなかった。
いつか、もう一度声が届くと信じて。




