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異世界交信 〜元の世界とつながるトランシーバーで異世界を攻略します〜  作者: のる
1章

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12/45

12話:旅立ち

 部屋へ戻ったヒロは、机の上に置かれたトランシーバーを手に取った。

 相変わらず、何の反応もない。

 電源を入れても、ノイズすら聞こえない。

 ただの古い機械にしか見えなかった。


ヒロ「もう少し」


 誰に言うでもなく呟く。

 魔力蓄積石が電池の代わりになる保証はない。

 手に入れても、動かないかもしれない。

 それでも、今は進むしかない。

 トランシーバーを布で包み、鞄の奥へ入れる。

 今回の目的は、そのための石を持ち帰ることだ。

 ノックの音が響いた。


ヒロ「はい」


 扉を開けると、ソフィが立っていた。

 両手には、折り畳まれた服や布が抱えられている。


ソフィ「明日、鉱洞へ向かわれると聞きました」


ヒロ「もう聞いたんですか?」


ソフィ「館の中では、話が伝わるのが早いですから」


 ソフィは部屋へ入り、持っていたものをベッドの上へ置いた。


ソフィ「旅用の服と、雨避けの外套です」


ヒロ「ありがとうございます」


ソフィ「こちらは包帯と薬草です」


ヒロ「そんなに怪我する予定はないんですけど」


ソフィ「予定して怪我をする方はいません」


ヒロ「それはそうですけど」


 ソフィは鞄の中身を確認する。


 水筒。

 保存食。

 着替え。

 火を起こすための道具。

 簡単な薬。


 ヒロが知らないうちに、必要なものが揃えられていた。


ソフィ「忘れ物はなさそうですね」


ヒロ「ソフィさんが全部用意してくれたからですよ」


ソフィ「初めての旅でしょうから」


ヒロ「また初めてのお使いみたいに言ってません?」


ソフィ「今回は初めての遠出ですね」


ヒロ「子供扱いされてる気がする」


 ソフィは小さく笑った。

 だが、その表情には少しだけ心配が滲んでいた。


ソフィ「必ず、無事に戻ってきてくださいね」


 ヒロは少しだけ姿勢を正した。


ヒロ「はい」


ソフィ「アリア様と一緒なら、心配はないと思いますが」


ヒロ「俺のことは心配なんですね」


ソフィ「もちろんです」


 迷いのない返事だった。

 ヒロは少し照れくさくなり、視線を逸らした。


ヒロ「ちゃんと戻ります」


ソフィ「約束ですよ」


ヒロ「約束します」


 ソフィが部屋を出たあと、今度は料理長が保存食を持ってきた。


 硬いパン。

 干し肉。

 乾燥させた果物。

 それに、小さな包みが一つ。


ヒロ「これは?」


料理長「揚げた芋だ」


 包みを開くと、薄く揚げたルーナ芋が入っていた。


ヒロ「作ったんですか?」


料理長「お前のやり方を真似した」


ヒロ「保存できます?」


料理長「一日や二日なら問題ない」


ヒロ「旅のおやつみたいだな」


料理長「酒のつまみだ」


ヒロ「俺、酒飲まないんですけど」


料理長「アリア副団長に渡せ」


ヒロ「副団長も飲むんですか?」


料理長「知らん」


 どうやら適当に作ったらしい。

 それでも、ありがたく受け取った。

 夜になると、バルドが部屋を訪れた。

 手には、一本の剣を持っている。

 本物の剣だった。

 ヒロが訓練で使っていた木剣より少し短い。

 革の鞘に収められている。


バルド「持っていけ」


 ヒロは剣を受け取った。

 ずしりと重い。

 木剣とはまったく違う。

 鞘から少しだけ抜く。

 鈍い銀色の刃が、灯りを反射した。


ヒロ「これ、俺が使っていいんですか?」


バルド「騎士団の予備だ」


ヒロ「高くないですか?」


バルド「なくしたら弁償しろ」


ヒロ「金ないんですけど」


バルド「なら、なくすな」


 ヒロは剣を鞘へ戻した。

 手に持っているだけで緊張する。

 これで魔物を斬ることになるかもしれない。


バルド「抜く必要がないのが一番だ」


ヒロ「でも、抜くことになるんですよね」


バルド「可能性は高い」


 バルドは冗談を言わなかった。

 その表情を見て、ヒロも笑うのをやめた。


バルド「訓練とは違う」


バルド「魔物は待ってくれねえし、一本取ったから終わりにもならん」


ヒロ「はい」


バルド「自分の力を過信するな」


ヒロ「分かってます」


バルド「アリアの言うことを聞け」


ヒロ「それも分かってます」


バルド「危ないと思ったら逃げろ」


ヒロ「……はい」


 バルドはヒロの肩を叩いた。


バルド「だが、怖がりすぎるな」


ヒロ「どっちなんですか」


バルド「怖がっていい。動けなくなるなってことだ」


 模擬戦のときにも言われた言葉だった。

 ヒロは剣を握り直す。


ヒロ「必ず戻ります」


バルド「当たり前だ」


 バルドは笑った。


バルド「まだ鍛え足りねえからな」


ヒロ「戻る理由が嫌だな……」



 翌朝。

 空にはまだ薄暗さが残っていた。

 領主館の前には、二頭の馬と荷物が用意されている。

 ヒロは旅用の服の上から外套を羽織り、腰に剣を下げていた。

 背中には荷物を詰めた鞄。


 その中には、布で包んだトランシーバーが入っている。

 隣には、白銀の鎧を身につけたアリアが立っていた。

 腰には細剣。

 馬の鞍へ荷物を固定しながら、何度も確認している。


アリア「水は持ったか」


ヒロ「持ちました」


アリア「保存食は」


ヒロ「入ってます」


アリア「薬は」


ヒロ「ソフィさんが入れてくれました」


アリア「剣は」


ヒロ「腰にあります」


アリア「トランシーバーは」


ヒロ「鞄の中です」


 アリアはヒロの荷物を一通り見た。


アリア「忘れ物はなさそうだな」


ヒロ「ソフィさんにも同じこと言われました」


アリア「なら問題ない」


 館の前には、見送りのためにバルドとソフィも来ていた。

 料理長は厨房が忙しいらしく、姿はない。

 エドガーも早朝から仕事があるため、昨夜のうちに言葉をもらっていた。


ソフィ「お気をつけて」


ヒロ「行ってきます」


ソフィ「必ず戻ってきてくださいね」


ヒロ「約束しましたから」


 バルドがヒロの腰にある剣を確認する。


バルド「無駄に振り回すなよ」


ヒロ「分かってます」


バルド「アリアを困らせるな」


ヒロ「俺だけに言うんですか?」


アリア「困らせるのはお前だろう」


ヒロ「まだ何もしてないですよ」


 バルドが笑う。


バルド「まあ、仲良くやれ」


アリア「任務です」


バルド「はいはい」


 アリアは馬へ乗った。

 その動きは滑らかで、慣れているのが一目で分かる。

 ヒロも自分の馬へ近づいた。

 だが、乗り方が分からない。


ヒロ「……これ、どうやって乗るんですか?」


 アリアが振り返る。


アリア「馬に乗ったことがないのか?」


ヒロ「ないです」


アリア「先に言え」


ヒロ「聞かれなかったので」


アリアは目を閉じ、短く息を吐いた。

バルドが肩を揺らして笑っている。


バルド「出発前から大変だな」


アリア「笑っていないで、乗せるのを手伝ってください」


 バルドに支えられながら、ヒロはどうにか馬へ乗った。


 思っていたより高い。

 地面が遠い。

 馬が少し動くだけで身体が揺れる。


ヒロ「これで一週間は無理じゃないですか?」


アリア「すぐに慣れる」


ヒロ「それ、最近何回も聞いてる気がします」


アリア「慣れるしかないからだ」


 アリアが馬を進める。

 ヒロの馬も、その後を追ってゆっくりと歩き始めた。

 領主館の門を抜ける

 朝のミレイアは、まだ静かだった。

 店の扉は閉まり、人通りも少ない。

 ヒロは馬上から街を見渡した。

 初めてこの街へ来たときは、何も分からなかった。


 文字も。

 魔法も。

 自分がどうなるのかも。

 今も分からないことばかりだ。

 それでも、少しずつ前へ進んでいる。

 剣を振れるようになった。

 魔法も、わずかに使えるようになった。

 この世界で話せる相手も増えた。

 そして今、自分の意思で街の外へ向かっている。


 目的地は、グラナ鉱洞。


 かつて魔力蓄積石が採掘されていた場所。

 今は魔物が住み着き、ユニークモンスターまで目撃されている危険地帯。

 怖くないわけではない。

 だが、立ち止まるつもりもなかった。

 鞄の中には、沈黙したままのトランシーバーがある。

 それを再び動かすために。

 元の世界と、もう一度繋がるために。


アリア「ヒロ」


 前を進んでいたアリアが振り返る。


アリア「遅れるな」


ヒロ「今行きます」


 ヒロは手綱を握り直した。

 朝日が昇り始める。

 街道の先を、淡い光が照らしていた。

 魔力蓄積石を求める、初めての旅。


 その一歩が、今始まった。

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