11話:試験
買い出しへ出た日から、さらに数日。
ヒロの生活は、ほとんど決まった流れになっていた。
朝は走り込み。
そのあとに素振り。
昼は重力魔法の訓練。
夕方には館の仕事を手伝い、夜はソフィから文字を教わる。
同じことの繰り返しだった。
けれど、以前とは違う。
最初は百回振るだけで腕が上がらなくなっていた木剣も、今では最後まで構えを崩さずに振れるようになった。
走り込みでも、途中で立ち止まることはほとんどなくなった。
足運びも少しずつ安定している。
重力魔法も、まったく変化が起きなかった頃と比べれば、明らかに扱えるようになっていた。
ヒロ「……軽く」
掌の上に乗せた小石へ魔力を流す。
意識するのは、持ち上げることではない。
地面に引かれる力を、ほんの少しだけ弱める。
小石を指で弾く。
いつもより高く上がり、地面へ落ちた。
ヒロ「今のは、できたよな」
ヒロは落ちた小石を拾い上げる。
もう一度試す。
だが、今度は何も変わらない。
ヒロ「毎回できれば楽なんだけどな……」
ヒロが一人で木剣を振っていると、訓練場へ大きな足音が近づいてきた。
振り返ると、バルドが木剣を片手に歩いてくる。
その後ろには、アリアもいた。
ヒロ「今日は二人ともいるんですね」
バルド「なんだ。いちゃ悪いか」
ヒロ「最近、ずっと外に出てたじゃないですか」
アリア「北の森の調査は、ひとまず落ち着いた」
ヒロ「異変が収まったんですか?」
アリア「完全にではない。ただ、魔物の目撃数は減っている」
ヒロは少しだけ安心した。
騎士団が頻繁に出動している間、怪我人が出ることもあった。
バルドやアリアが戻るまで、落ち着かない夜も何度かあった。
だが、バルドは安心させるようなことは言わなかった。
バルド「静かになったからって、終わったとは限らん」
アリア「むしろ、急に落ち着いたことが気になる」
ヒロ「悪いことが起きる前みたいな言い方しないでくださいよ」
バルド「油断して痛い目を見るよりましだ」
バルドはそう言いながら、木剣を肩へ担いだ。
バルド「まあ、その話はあとだ」
ヒロ「何かあるんですか?」
バルド「お前の訓練を見る」
ヒロ「いつも見てるじゃないですか」
バルド「今日は少し違う」
バルドは訓練場の中央へ歩いていく。
数歩進んだところで足を止め、ヒロへ向き直った。
バルド「そろそろ仕上げだ」
ヒロ「仕上げ?」
バルド「俺と一本やる」
ヒロは一瞬、言葉を失った。
バルドの持っている木剣と、自分の木剣を見比べる。
ヒロ「いやいや、無理ですよ」
バルド「安心しろ。本気じゃやらねえ」
ヒロ「それでも団長ですよね」
バルド「だから試験になるんだろうが」
ヒロ「試験って、何のですか?」
バルド「あとで分かる」
嫌な予感しかしなかった。
アリアは訓練場の端へ移動し、腕を組んだ。
アリア「始めろ」
ヒロ「副団長は止めてくれないんですか?」
アリア「なぜ止める必要がある」
ヒロ「俺が一方的にやられる未来しか見えないからです」
バルド「話してる暇があるなら構えろ」
バルドが木剣を構える。
ただ、それだけだった。
大きく腰を落とすわけでもない。
剣先をこちらへ向けるわけでもない。
自然に立っているように見える。
それなのに、隙がまったく見えなかった。
ヒロは木剣を握り直した。
勝てるとは思っていない。
だが、ここまで訓練してきた。
何もできずに終わるのだけは嫌だった。
ヒロ「……お願いします!」
ヒロは地面を蹴った。
前へ踏み込みながら、木剣を横へ振る。
バルドは身体をわずかにずらした。
木剣が空を切る。
ヒロ「っ!」
振り切る前に、バルドの木剣が脇腹へ触れた。
バルド「一本」
ヒロ「早すぎません?」
バルド「敵が待ってくれると思うな」
ヒロはすぐに構え直した。
今度は正面から踏み込む。
木剣を上から振り下ろす。
乾いた音が響いた。
バルドの木剣に受け止められる。
そのまま押し切ろうとするが、びくともしない。
バルド「力みすぎだ」
次の瞬間、木剣を横へ弾かれた。
ヒロの体勢が崩れる。
足を踏み出して耐えようとしたが、バルドの足がその前へ入った。
視界が傾く。
気づいたときには、背中から地面へ転がっていた。
ヒロ「痛っ……」
バルド「二本目」
ヒロ「これ、何本取られたら終わりですか?」
バルド「俺がいいと言うまでだ」
ヒロ「最悪の答えだ……」
ヒロは木剣を支えに立ち上がった。
もう一度構える。
息を整える。
今度はすぐに踏み込まない。
バルドの動きを見る。
肩。
腕。
足。
どこが先に動くのか。
じっと見ていると、バルドが笑った。
バルド「来ないなら、こっちから行くぞ」
姿がぶれた。
そう感じるほど速かった。
ヒロ「っ!」
木剣が横から迫る。
ヒロは慌てて受け止めた。
重い。
両腕が一気に痺れる。
踏ん張った足が地面を滑った。
さらに二撃目が飛んでくる。
上。
横。
下。
ヒロは防ぐだけで精いっぱいだった。
剣を受けるたびに腕が軋む。
足が止まる。
呼吸が乱れる。
アリア「足を止めるな」
訓練場の端から、アリアの声が飛んできた。
ヒロは歯を食いしばり、横へ動く。
バルドの木剣が目の前を通り過ぎた。
避けた。
そう思った瞬間、肩へ軽い衝撃が走る。
バルド「三本目」
ヒロ「今、避けましたよね?」
バルド「一撃目はな」
ヒロ「二撃目が見えなかったんですけど」
バルド「見えるようになれ」
ヒロ「無茶言わないでくださいよ」
バルドは笑いながら木剣を構え直した。
バルド「まだやるか?」
ヒロ「やります」
答えはすぐに出た。
ここで終われば、今までと何も変わらない。
ヒロは再び地面を蹴った。
踏み込み。
横薙ぎ。
受け流される。
戻しながら、下から振り上げる。
避けられる。
木剣が肩へ落ちてくる。
転がるように避ける。
立ち上がる。
また向かう。
何度やっても届かない。
バルドはほとんどその場から動かず、すべての攻撃を受け流した。
ヒロが焦るほど、剣筋は乱れていく。
アリア「呼吸が浅い」
ヒロは大きく息を吸う。
アリア「肩の力を抜け」
言われた通りに力を抜こうとする。
だが、バルドの木剣が迫ると、身体が勝手に固まってしまう。
バルド「怖がるのは悪くねえ」
木剣同士がぶつかる。
バルド「だが、怖がって動けなくなるなら意味がない」
押し返される。
足が地面を滑る。
ヒロ「分かってます!」
バルド「分かってる奴の動きじゃねえな」
木剣が横から飛んでくる。
ヒロは身を沈めて避けた。
そのまま前へ踏み込む。
下から木剣を振り上げる。
バルドは半歩下がった。
木剣の先が、服の端をかすめる。
ヒロ「惜しい!」
バルド「声に出す余裕があるなら、次を出せ」
バルドの木剣が返ってくる。
ヒロは受け止めきれず、再び地面へ転がった。
背中が痛い。
腕も重い。
呼吸も苦しい。
それでも、木剣を握る手は離さなかった。
バルド「もう終わりか?」
何度目か分からない言葉だった。
ヒロは地面へ手をつき、ゆっくり立ち上がった。
ヒロ「まだです」
バルド「なら来い」
ヒロは構えた。
だが、すぐには動かなかった。
何度やっても、普通に振るだけでは届かない。
足運びも。
剣の速さも。
力も。
すべてバルドの方が上だ。
それなら、自分にしかできないことを使うしかない。
掌の上で小石を軽くした感覚を思い出す。
果物の動きを鈍らせたときの感覚。
魔力を対象へ流し、重さへ触れる。
相手に使うのは、まだ難しい。
なら、自分の持っている物ならどうか。
ヒロは木剣を見た。
以前、無意識に木剣へ魔力が流れたことがある。
あのときは、少しだけ振りやすくなった気がした。
同じことができれば。
ヒロは木剣を握る手へ意識を集中させた。
身体の奥にある熱を、指先へ流す。
そこから、木剣へ。
最初は何も起きない。
焦るな。
力を入れすぎるな。
重くするのではなく、軽くする。
ほんの一瞬でいい。
バルド「来ないなら、こっちから行くぞ」
バルドが前へ出た。
ヒロは息を吸う。
足を踏み込む。
腰を回す。
木剣を振る。
その瞬間。
手の中の重さが、わずかに消えた。
ヒロ「っ!」
木剣が、今までより速く走る。
バルドの目がわずかに見開かれた。
木剣同士がぶつかる。
乾いた音が響いた。
バルドが受け止めた。
そう思った。
だが、ヒロの木剣は受け止められる直前に軌道を変えていた。
軽くなった木剣を、手首でわずかに返す。
バルドの木剣を滑り、その先へ届く。
バシッ。
軽い音が訓練場へ響いた。
ヒロの木剣の先が、バルドの肩へ触れている。
その場が静まり返った。
ヒロ「……え?」
自分でも何が起きたのか分からなかった。
木剣を見る。
バルドの肩を見る。
確かに当たっている。
ほんのわずかに。
触れただけに近い。
それでも、今まで一度も届かなかった一撃だ。
訓練場の端にいたアリアも、目を見開いていた。
アリア「今のは……」
バルドはしばらく動かなかった。
やがて、自分の肩へ触れた木剣を手で押し退ける。
その口元が、ゆっくりと上がった。
バルド「一本、とは言えねえな」
ヒロ「……ですよね」
嬉しさが一瞬でしぼむ。
だが、バルドは笑ったままだった。
バルド「だが、初めてだ」
ヒロ「何がですか?」
バルド「訓練で、俺に一撃入れた」
ヒロは顔を上げた。
バルド「もちろん、本気なら避けられた」
ヒロ「やっぱり」
バルド「そこで落ち込むな」
バルドは木剣を肩へ担いだ。
バルド「俺が手を抜いていたとしても、今までのお前なら届かなかった」
その言葉に、ヒロは黙った。
バルド「今の一撃は、お前が考えて、自分で掴んだものだ」
ヒロ「木剣を軽くしました」
バルド「見りゃ分かる」
アリアが二人の方へ近づいてくる。
アリア「木剣へ魔力を流したのか?」
ヒロ「たぶん」
アリア「たぶん?」
ヒロ「意識はしました。でも、本当にできるとは思ってなくて」
アリアはヒロの木剣を受け取った。
表面を確かめるように眺める。
だが、見た目に変化はない。
アリア「もう一度できるか?」
ヒロ「今すぐは難しいかもしれません」
アリア「やってみろ」
ヒロは木剣を受け取り、魔力を流そうとした。
だが、何も変わらない。
もう一度試す。
わずかに軽くなったような気がしたが、先ほどほどではなかった。
ヒロ「駄目ですね」
アリア「完全に制御できているわけではないか」
バルド「だが、使い道はありそうだな」
アリア「武器へ魔力を流し、属性の効果を与える……」
アリアは考え込むように呟いた。
ヒロ「この世界では、誰もやらないんですか?」
アリア「魔法は外へ放つものだ」
ヒロ「でも、魔道具は魔力で動くんですよね?」
アリア「魔道具には、魔力を受け取るための術式が刻まれている。普通の武器とは違う」
ヒロ「じゃあ、今のは何なんですか?」
アリア「私にも分からない」
アリアは木剣を見つめたまま、少しだけ目を細めた。
アリア「だが、面白い」
短い言葉だった。
けれど、アリアが素直に興味を示すのは珍しい。
ヒロ「褒めてます?」
アリア「興味深いと言っている」
ヒロ「似たようなものですよね」
アリア「違う」
即答だった。
バルドが横で笑う。
バルド「まあ、いいだろ」
バルドはヒロへ向き直った。
バルド「剣士としては、まだ半人前にも届いてねえ」
ヒロ「さっきより評価下がってません?」
バルド「話は最後まで聞け」
バルドは笑みを消し、真っ直ぐヒロを見る。
バルド「だが、自分なりの戦い方は見つけ始めている」
ヒロは木剣を握り直した。
バルド「魔物を前にしても、何もせずに逃げ回るだけにはならんだろう」
ヒロ「それって……」
バルド「ああ」
バルドは大きく頷いた。
バルド「合格だ」
ヒロ「……本当に?」
バルド「何度も言わせるな」
胸の奥が熱くなる。
初めて、バルドから認められた。
まだ強くなったわけではない。
勝てる相手も少ない。
それでも、ここまで続けてきたことが無駄ではなかった。
ヒロ「ありがとうございます」
バルド「礼はまだ早い」
ヒロ「え?」
バルド「次はアリアだ」
ヒロの表情が固まる。
アリアはすでに訓練場の奥へ歩いていた。
地面に置かれていた大きな石の前で足を止める。
抱えるには少し大きい。
人の頭ほどの大きさがある。
アリア「来い」
ヒロ「まだやるんですか?」
アリア「当然だ」
ヒロ「今、結構いい雰囲気で終われそうだったんですけど」
アリア「剣の試験が終わっただけだ」
ヒロは疲れた身体を引きずり、石の前へ向かった。
アリア「この石を重くしろ」
ヒロ「どれくらいですか?」
アリア「私が持ち上げにくいと感じる程度だ」
ヒロ「基準がおかしくないですか?」
アリアは無言で石を片手で持ち上げた。
重そうな様子はない。
ヒロ「それ、普通の人は片手で持てないですよね?」
アリア「私は持てる」
ヒロ「だから基準がおかしいって言ってるんです」
アリアは石を地面へ戻した。
アリア「始めろ」
聞く気はないらしい。
ヒロは石の前へ座り、両手を当てた。
小石よりはるかに大きい。
その分、魔力を流す対象としても分かりやすいかもしれない。
ヒロは目を閉じた。
身体の奥から魔力を集める。
石へ流す。
重くする。
地面へ沈めるように。
力を込める。
次の瞬間。
石の下から、鈍い音が響いた。
地面に細いひびが入る。
ヒロ「……」
アリア「流しすぎだ」
ヒロ「分かってます」
アリア「分かっている者は地面を割らない」
ヒロ「その言い方、前にも聞きました」
アリア「同じ失敗をしているからだ」
正論だった。
ヒロは一度、石から手を離した。
呼吸を整える。
魔力量は多い。
だからこそ、少し流したつもりでも出力が大きくなる。
水を樽から注ぐように。
少しずつ。
細く。
今度は力を押しつけるのではなく、石そのものへ触れる意識を持つ。
もう一度、両手を石へ当てた。
ヒロ「……重くなれ」
魔力を流す。
ゆっくり。
少しずつ。
石の周囲に変化はない。
地面も割れない。
だが、手の下にある感触が少しずつ変わっていく。
石が地面へ沈み込むような重さを持ち始める。
ヒロ「今です」
アリアが石へ手をかけた。
片手で持ち上げようとする。
石がわずかに浮く。
だが、先ほどのようには上がらない。
アリアの眉がほんの少し動いた。
今度は両手で持ち上げる。
石が地面から離れた。
数秒後、ヒロの集中が切れる。
石の重さが元へ戻った。
アリアは石を地面へ置いた。
ヒロ「どうですか?」
アリアはしばらく石を見つめていた。
アリア「合格だ」
ヒロ「本当ですか?」
アリア「ああ」
ヒロ「もう一回持ち上げなくていいんですか?」
アリア「必要ない。確かに重さは変わっていた」
ヒロは大きく息を吐いた。
その場に座り込みそうになる。
アリア「ただし、維持時間は短い」
ヒロ「分かってます」
アリア「対象が大きくなるほど、消費する魔力も増えている」
ヒロ「それも分かりました」
アリア「制御もまだ不安定だ」
ヒロ「一回くらい普通に褒めてくれてもいいんですよ」
アリアは少し黙った。
それから、短く口を開く。
アリア「よくやった」
ヒロ「……急に言われると怖いな」
アリア「二度と言わん」
ヒロ「すみません。嬉しいです」
アリアは小さく息を吐いた。
バルドが訓練場の端で笑っている。
バルド「これで二人とも合格だな」
ヒロ「合格って、結局何の試験だったんですか?」
バルドは木剣を置き、腕を組んだ。
バルド「グラナ鉱洞へ行くための試験だ」
ヒロの動きが止まった。
ヒロ「……行っていいんですか?」
バルド「ああ」
思わず声が出そうになる。
ずっと目標にしていた場所だ。
魔力蓄積石があるかもしれない鉱洞。
トランシーバーを動かすために必要なものが、ようやく手に入るかもしれない。
ヒロ「いつですか?」
バルド「早ければ明日の朝だ」
ヒロ「そんなにすぐ?」
バルド「何だ。行きたくないのか?」
ヒロ「行きたいです」
ヒロはすぐに答えた。
だが、アリアは冷静な表情のままだった。
アリア「一人で行かせるつもりではないだろうな」
バルド「当たり前だ」
ヒロ「さすがに一人じゃないですよね」
バルド「一人なら、今の倍は鍛えてからだ」
ヒロ「今の倍って、何か月かかるんですか」
バルド「さあな」
バルドはアリアへ視線を向けた。
バルド「お前がついていけ」
アリア「私が?」
バルド「ああ」
アリアはわずかに眉を寄せた。
アリア「騎士を数名つければ十分では?」
バルド「普通の鉱洞ならな」
バルドは表情を引き締めた。
バルド「最近、この辺りの魔物の動きは収まりつつある」
バルド「北の森も、ノルン神殿跡の周辺も、目撃数は減っている」
ヒロ「なら、危険も減ってるんじゃないですか?」
バルド「そう単純なら楽なんだがな」
バルドは首を横へ振った。
バルド「グラナ鉱洞の近くで目撃されたユニークモンスターは、まだ確認が取れていない」
ヒロ「ユニークモンスター……」
工房で聞いた話を思い出す。
普通の個体よりはるかに危険な、特異な魔物。
縄張りを持ち、周辺の魔物を従えることもある。
バルド「目撃情報が間違いならそれでいい」
バルド「だが、本当にいるなら、放っておくわけにもいかん」
アリア「鉱洞の調査も兼ねるということか」
バルド「そういうことだ」
バルドはアリアを指差した。
バルド「それに、お前が一番こいつの面倒を見てきただろ」
アリア「任務だからです」
バルド「魔法も、お前が一番分かってる」
アリア「重力属性については、私も分からないことが多い」
バルド「だからこそだ」
アリアは何も言わなかった。
バルドは続ける。
バルド「こいつが無茶をしたとき、一番止められるのもお前だ」
ヒロ「俺、無茶する前提なんですか?」
アリア「するだろう」
ヒロ「即答しないでくださいよ」
バルド「なんだかんだで面倒見てるしな」
アリア「面倒を見ているつもりはない」
ヒロ「俺もそこまで迷惑かけてないですよね?」
アリア「地面を割った」
ヒロ「今日だけじゃないですか」
アリア「訓練中に倒れた」
ヒロ「最初の頃だけです」
アリア「一人で魔力を使いすぎて、手が痺れたこともある」
ヒロ「何で全部覚えてるんですか」
バルドが豪快に笑った。
バルド「決まりだな」
アリア「まだ了承していない」
バルド「団長命令だ」
アリアはしばらく黙っていた。
やがて、小さく息を吐く。
アリア「……承知しました」
ヒロ「すごく嫌そうですね」
アリア「嫌とは言っていない」
ヒロ「でも、間が長かったですよ」
アリア「準備について考えていただけだ」
そういうことにしておくらしい。
バルドはヒロの肩を軽く叩いた。
バルド「出発は明日の朝だ」
ヒロ「はい」
バルド「今日はもう訓練を切り上げろ。身体を休めて、必要なものを準備しろ」
ヒロ「分かりました」
アリア「遠足ではない。油断するな」
ヒロ「分かってます」
グラナ鉱洞。
ようやくそこへ行ける。
胸が高鳴る。
同時に、わずかな恐怖もあった。
魔物がいる。
ユニークモンスターがいるかもしれない。
訓練ではない。
今度は、本当に命がかかる。
それでも、行くしかなかった。
初めての実戦へ向けた準備が、いよいよ始まろうとしていた。




