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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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9/29

顕現

 影界の王。


 その言葉が響いた瞬間。


 世界の温度が落ちた。


 レイナは呼吸を忘れる。


 巨大な黒い人影。


 夜そのものを切り取って作ったみたいな異形。


 輪郭は曖昧なのに、“そこにいる”という圧力だけが異常なほど強かった。


 存在感。


 それだけで空間が軋んでいる。


 白銀の少女――もう一人の“白煌レイナ”が、剣を握り締める。


 だが、その手は震えていた。


「なんで……こんなに早く……」


 影の王は答えない。


 顔もない。


 目もない。


 なのに。


 確かに“笑っていた”。


 レイナは本能的に理解してしまう。


 あれは、生き物じゃない。


 もっと根源的な“闇”そのものだ。


 影の少女が苦しそうに膝をついている。


 黒い粒子が溢れ続けていた。


 輪郭が崩壊している。


 それでも。


 彼女の影だけが異常なほど濃く広がっていた。


『――器』


 声。


 頭へ直接響く。


 低く。


 重く。


 感情が存在しない声。


 レイナは頭を押さえた。


「ぁ……っ……!」


 聞くだけで意識が削られる。


 “白煌レイナ”が前へ出る。


「黙れ……!」


『適合率、九十七』


『接続安定』


『顕現可能』


 その瞬間。


 影の少女の身体が跳ねた。


「がっ……!?」


 苦悶。


 黒い線が全身へ走る。


 まるで内側から侵食されているみたいだった。


 白銀の少女が叫ぶ。


「やめろ!!」


 白光が放たれる。


 巨大な光刃。


 だが。


 影の王は動かなかった。


 触れた瞬間。


 光が消える。


 存在そのものを飲み込まれたみたいに。


 白銀の少女の顔が強張る。


「そんな……」


 格が違う。


 レイナでも分かってしまった。


 今までの怪物とは別次元だ。


 影の王はゆっくり影の少女へ手を伸ばす。


 黒い腕。


 空間を侵食しながら近づいていく。


 その時だった。


「……触るな」


 低い声。


 影の少女だった。


 俯いたまま。


 震えながら。


 それでも立ち上がる。


 黒い粒子が舞う。


 崩壊しかけた身体。


 それでも、その瞳だけはまだ消えていなかった。


「私は……まだ……」


 影が揺れる。


 周囲の闇が少女へ集束していく。


『影冥自己補完機構――過剰励起』


 空気が震えた。


 黒い奔流。


 都市規模の影が、一斉に少女へ流れ込む。


 街中の影。


 ビルの隙間。


 道路。


 夜空。


 あらゆる闇が吸い込まれていく。


 レイナは息を呑んだ。


 多すぎる。


 こんなの、人間が耐えられる量じゃない。


 白銀の少女が叫ぶ。


「駄目!! それ以上やったら、本当に――」


「うるさい」


 瞬間。


 黒い波動が爆発した。


 白銀の少女が吹き飛ぶ。


 光壁を展開しながらも、数十メートル後方へ叩き飛ばされた。


 レイナは目を見開く。


 影の少女が、ゆっくり顔を上げた。


 瞳が変わっている。


 黒。


 その奥に赤い光が混ざっていた。


 人間の目じゃない。


 だが。


 完全には飲まれていない。


 少女はまだ、自分を保とうとしていた。


「私は……」


 声がノイズ混じりに歪む。


「私は……」


 そこで。


 少女の動きが止まる。


 苦しそうに頭を押さえる。


 黒いノイズ。


 壊れた映像みたいに、彼女の輪郭が乱れた。


 レイナは思わず叫ぶ。


「名前……!」


 少女の瞳が揺れる。


 レイナを見る。


 まるで、何かを探しているみたいに。


 そして。


 掠れた声で呟いた。


「……レイナ」


 胸が跳ねた。


 その呼び方。


 その声。


 どこか懐かしい。


 知らないはずなのに。


 忘れていた何かが、心の奥で軋む。


 白銀の少女が息を呑む。


「思い出したの……?」


 影の少女は苦しそうに笑った。


「少しだけ……」


 次の瞬間。


 レイナの脳裏へ、断片的な光景が流れ込む。


 放課後。


 夕焼け。


 二人分の笑い声。


『レイナー! 早く帰ろ!』


 黒髪の少女。


 無邪気な笑顔。


 いつも隣にいた誰か。


 レイナの呼吸が止まる。


「……え」


 頭が痛い。


 記憶が無理やり開かれる。


 教室。


 帰り道。


 コンビニで半分こしたアイス。


 くだらない話で笑った夜。


 ずっと隣にいた。


 一番近くにいた。


 なのに。


 どうして忘れていた?


 影の少女が、小さく呟く。


「やっと……思い出してくれた」


 レイナの目が見開かれる。


「……嘘」


 白銀の少女が静かに目を伏せる。


「この子は、あなたの親友だった」


 静寂。


 世界が止まったみたいだった。


「昔、影界の裂け目に巻き込まれて」


「あなたを庇って」


「影を引き受けた」


 レイナの思考が真っ白になる。


 庇った?


 引き受けた?


「そのせいで、この子は侵食された」


「でも、あなたを守るために全部隠したの」


 影の少女は苦しそうに笑う。


「だって……親友だったし」


 その言葉が。


 胸へ刺さった。


 レイナの目から涙が零れる。


「なんで……」


 震える声。


「なんで、言わなかったの……!」


 影の少女は答えない。


 ただ。


 どこか安心したみたいに、少しだけ目を細めていた。


 だが。


 空の巨大な目が開く。


『接続安定』


影王顕現開始ダーク・コロネーション


 黒い光が降り注ぐ。


 世界が軋む。


 影の少女の身体が闇へ飲まれていく。


 レイナは叫んだ。


「待って!!」


 手を伸ばす。


 届かない。


 崩壊する黒。


 飲み込まれる少女。


 それでも。


 最後に。


 影の少女は、昔と同じ笑い方で笑った。


「……レイナは、泣きすぎ」


 その瞬間。


 闇が、少女を完全に飲み込んだ。

 第9話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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