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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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消えぬ影

「待って――!!」


 レイナの叫びが響く。


 だが。


 伸ばした手は届かない。


 黒い光。


 崩壊する空間。


 親友の身体は、影の奔流へ完全に飲み込まれていく。


 最後に見えた笑顔だけが、やけに鮮明だった。


 ――レイナは、泣きすぎ。


 昔と同じ声。


 昔と同じ笑い方。


 それが余計につらかった。


「ぁ……っ……」


 レイナは膝をつく。


 頭の奥がぐちゃぐちゃだった。


 忘れていた記憶。


 消えていた日々。


 全部が一気に戻ってくる。


 黒髪の少女。


 いつも隣にいた親友。


 くだらないことで笑って。


 帰り道を一緒に歩いて。


 “ずっと一緒だよ”って笑った。


 なのに。


 自分は忘れていた。


 全部。


 白銀の少女――白煌レイナが前へ出る。


 その表情は痛々しいほど青ざめていた。


「……侵食が始まった」


 黒い空が脈打つ。


 巨大な目。


 その奥から、圧倒的な闇が流れ込んできている。


 都市そのものが飲まれ始めていた。


 ビルが黒く染まる。


 道路が崩れる。


 空間の輪郭が溶けていく。


 現実が、影界へ侵食されている。


 レイナは震える声で呟く。


「助けないと……」


 白煌レイナは目を閉じた。


 苦しそうに。


「……分かってる」


 だが、その声には迷いが混ざっていた。


 レイナは顔を上げる。


「なんでそんな顔するの」


 白煌レイナは答えない。


 代わりに。


 黒い空を見上げながら、小さく呟いた。


「もし完全接続されたら……もう戻せない」


 レイナの心臓が止まりそうになる。


「え……」


「影界の王は、“器”を通して現実へ降りる」


「そして器は、自我を失う」


 静かな説明。


 あまりにも残酷だった。


「じゃあ……」


 レイナの唇が震える。


「親友は……」


 白煌レイナは目を伏せた。


 否定しない。


 それだけで十分だった。


「そんなの……」


 嫌だ。


 やっと思い出したのに。


 やっとまた会えたのに。


 なのに、また失うの?


 その時だった。


 黒い空間へ亀裂が走る。


 轟音。


 巨大な黒柱が天へ伸びた。


 その中心。


 闇の中に、人影が立っている。


 レイナは目を見開く。


「……っ」


 親友だった。


 だが。


 違う。


 黒いドレスみたいな影が身体を覆っている。


 長い黒髪は宙へ溶けるように揺れ、瞳は赤黒く染まっていた。


 周囲には無数の黒い輪が浮かんでいる。


 影で構成された異形の王冠。


 空気が重い。


 息をするだけで苦しい。


 それでも。


 その顔だけは、確かに親友だった。


 彼女はゆっくりこちらを見る。


 そして。


 少し困ったみたいに笑った。


「……ごめんね」


 その声に、レイナは駆け出していた。


「待って!!」


 白煌レイナが叫ぶ。


「行っちゃ駄目!!」


 だが止まらない。


 怖い。


 それでも。


 今行かなかったら、本当に届かなくなる気がした。


 黒い空間を走る。


 足元が崩れる。


 影が絡みつく。


 それでも前へ。


 親友が静かに目を細めた。


「なんで来たの」


「助ける!!」


 即答だった。


 親友は少しだけ驚いた顔をする。


 そして。


 苦しそうに笑った。


「無理だよ」


 黒い粒子が舞う。


 彼女の背後で、巨大な影が揺れていた。


 影界の王。


 完全には重なっていない。


 だが、もうかなり深く侵食されている。


 親友は自分の胸へ手を当てた。


「もう、ここにいる」


 黒い亀裂。


 その奥で、赤い光が脈打っていた。


 レイナは涙を拭う。


「それでも!」


「助けるから!」


 親友の瞳が揺れる。


 一瞬だけ。


 昔の彼女が戻ったみたいに。


 だが。


 次の瞬間。


 世界が震えた。


『――拒絶反応確認』


 低い声。


 影界の王。


 親友の身体から、黒い腕が大量に伸びる。


 レイナへ向かって。


「っ……!」


 動けない。


 恐怖で身体が凍る。


 だが。


 白い光が割り込んだ。


『光界固定――連結封鎖』


 白煌レイナだった。


 白光が黒腕を固定し、動きを止める。


 彼女は苦しそうに叫ぶ。


「早く離れて!!」


 しかし。


 親友は震えていた。


 頭を押さえ、苦しそうに息を荒げる。


「やめ……ろ……」


 声が二重になる。


 彼女自身の声と。


 別の何かの声。


『器ノ抵抗ヲ確認』


『抑制開始』


 黒い紋様が親友の身体へ広がっていく。


 レイナは叫んだ。


「頑張って!!」


「負けないで!!」


 その瞬間。


 親友の瞳が見開かれる。


 黒いノイズ。


 崩れそうな輪郭。


 それでも。


 彼女は、確かにレイナを見ていた。


「……助けて」


 小さな声。


 消えそうなくらい弱い声。


 だけど。


 確かに。


 親友自身の言葉だった。

 第10話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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