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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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君を救うためなら

「……助けて」


 その声は小さかった。


 消えそうなくらい弱くて。


 けれど。


 確かに親友自身の声だった。


 レイナの胸が強く締め付けられる。


 まだいる。


 闇の中に飲まれながらも、彼女はまだ消えていない。


「待ってて……!」


 レイナは一歩前へ出る。


 だが。


 空間が軋んだ。


 黒い腕が無数に蠢き、親友の身体を拘束していく。


 まるで逃がさないように。


『器ノ自我抵抗率増加』


『再侵食開始』


 低い声。


 世界全体へ響くノイズ。


 親友が苦しそうに身体を震わせる。


「っ……ぁ……!」


 黒い紋様がさらに広がる。


 首筋。


 腕。


 顔。


 人間だった輪郭が少しずつ崩れていく。


 レイナは歯を食いしばった。


「やめろ!!」


 叫ぶ。


 だが届かない。


 圧倒的な闇。


 人間一人の声なんて、簡単に飲み込まれてしまう。


 その時。


 隣へ白煌レイナが並ぶ。


 白い粒子を纏いながら、静かに親友を見つめていた。


「……まだ間に合うかもしれない」


 レイナが顔を上げる。


「本当に?」


「ただし危険」


 白煌レイナはゆっくり息を吐く。


 その横顔はどこか覚悟を決めていた。


「影界の接続を切るには、“本来の存在情報”を再接続する必要がある」


「……なにそれ」


「簡単に言えば」


 白煌レイナは親友を見る。


「“自分が誰だったか”を思い出させる」


 静寂。


 レイナは親友を見る。


 苦しそうに俯く黒髪。


 崩れかけた輪郭。


 でも。


 確かに、あの子だ。


 一緒に笑った。


 一緒に泣いた。


 大切な親友。


 白煌レイナが続ける。


「影界は空っぽの心へ入り込む」


「だから逆に、自我を強く固定できれば侵食を押し返せる」


「でも、そんなの……」


 どうやって。


 レイナが言葉を失った瞬間。


 親友が苦しそうに顔を上げる。


 赤黒い瞳。


 だが、その奥に涙が浮かんでいた。


「……レイナ」


 呼ばれる。


 昔と同じ声で。


「帰りたいよ……」


 胸が痛い。


 レイナは駆け出していた。


「待ってて!!」


「レイナ!」


 白煌レイナの制止。


 だが止まれない。


 親友が苦しんでる。


 それだけで十分だった。


 黒い空間を走る。


 足元が崩れる。


 影が絡みつく。


 それでも。


 手を伸ばす。


 親友の目が見開かれる。


「来ちゃ……駄目……!」


 黒い腕が襲いかかる。


 だがレイナは止まらない。


 怖い。


 足が震える。


 それでも。


 昔、彼女は自分を守ってくれた。


 なら今度は、自分の番だ。


「っ……!!」


 レイナは親友へ抱きついた。


 瞬間。


 世界が止まる。


 黒いノイズ。


 大量の感情。


 孤独。


 絶望。


 苦痛。


 全部が頭へ流れ込んでくる。


「ぁ……っ……!」


 苦しい。


 泣きたくなる。


 心が壊れそうになる。


 でも。


 その奥に。


 確かに、親友の感情があった。


『怖い』


『消えたくない』


『一人は嫌だ』


 レイナは涙を零す。


「一人じゃない……!」


 抱き締める力を強めた。


「忘れてごめん……!」


「思い出せなくて、ごめん……!」


 親友の瞳が揺れる。


 黒いノイズが少しずつ崩れ始めた。


 白煌レイナが目を見開く。


「侵食率が……下がってる」


 レイナは叫ぶ。


「帰ろう!」


「また一緒に帰ろうよ!!」


 その瞬間。


 親友の頬を涙が伝った。


 黒い粒子になりながら。


「……っ」


 彼女の唇が震える。


 だが。


 世界が激しく脈打った。


『危険』


『器ノ分離反応確認』


『強制接続実行』


 巨大な黒い目が開く。


 轟音。


 親友の身体へ黒い杭のようなものが突き刺さった。


「がぁぁぁぁっ!!」


 絶叫。


 レイナの身体ごと吹き飛ばされる。


「きゃっ……!!」


 地面を転がる。


 痛み。


 耳鳴り。


 それでも顔を上げた。


 そして凍りつく。


 親友の背後。


 影界の王が、完全に姿を現し始めていた。


 巨大な黒い王冠。


 無数の赤い目。


 空間を侵食する闇。


 その中心で。


 親友が、苦しそうに涙を流している。


「……最悪の形で、間に合っちゃったね」


 白煌レイナの声は静かだった。


 静かすぎて。


 逆に、その絶望が伝わってくる。


 レイナは震える手で身体を起こした。


 視界の先。


 親友が宙へ拘束されている。


 黒い杭。


 影でできた鎖。


 全身へ食い込むように突き刺さり、彼女の身体を無理やり空間へ固定していた。


「ぁ……ぁ……っ……」


 苦しそうな呼吸。


 涙。


 それでも彼女はまだ完全に飲まれていない。


 赤黒い瞳の奥。


 そこに、確かに“人間”が残っていた。


 だが。


 その背後。


 影界の王が、ゆっくり形を持ち始める。


 巨大な王冠。


 幾重にも重なる黒い腕。


 空間を侵食する闇。


 顔のない王。


 なのに、無数の赤い目だけがこちらを見ていた。


 レイナは呼吸を忘れる。


 見ているだけで恐怖が流れ込んでくる。


 孤独。


 絶望。


 死。


 負の感情そのものが形になった存在。


 白煌レイナが前へ出た。


 白い光が揺れる。


 闇へ押し潰されそうになりながらも、彼女は剣を構える。


『恒星剣アステリア――』


 光が集束する。


 星みたいな粒子が剣へ集まり、夜を切り裂くほどの白光へ変わっていく。


 だが。


 影界の王は動かない。


 ただ静かに、こちらを見下ろしている。


『顕現率六十八』


『現実侵食開始』


 世界が軋んだ。


 街が崩れる。


 ビル群が黒く染まり、影へ変換されていく。


 空間そのものが飲まれていた。


 レイナは叫ぶ。


「止めないと……!」


「分かってる!」


 白煌レイナが地面を蹴る。


 白い閃光。


 一瞬で影界の王へ接近する。


『光界固定――極光断界』


 剣が振り下ろされる。


 巨大な白い斬撃。


 世界を固定し、侵食そのものを断ち切る光。


 直撃。


 轟音。


 白光が爆発した。


 だが。


 次の瞬間。


 レイナの顔色が変わる。


「……え」


 斬れていない。


 影界の王の身体。


 いや、“空間”そのものが歪んでいる。


 光が届く前に飲み込まれていた。


 白煌レイナが目を見開く。


「存在階層が違う……!」


 その瞬間。


 黒い腕が振られる。


「っ!!」


 白煌レイナが咄嗟に防御する。


 だが重すぎた。


 白い障壁が砕ける。


 彼女の身体が吹き飛ばされ、遠くの黒いビルへ叩きつけられた。


 轟音。


 崩落。


 レイナは息を呑む。


「レイナ!!」


 返事がない。


 瓦礫の中。


 白い光だけが微かに漏れている。


 その時。


 親友が苦しそうに顔を上げた。


「……逃げて」


 掠れた声。


 レイナは首を振る。


「嫌だ!」


「お願い……」


 涙が零れる。


 黒い粒子になりながら。


「もう……抑えられない……」


 次の瞬間。


 影界の王の目が光った。


 轟ッ――!!


 黒い波動。


 世界が悲鳴を上げる。


 レイナの身体が吹き飛び、地面を転がった。


「ぁっ……!」


 呼吸ができない。


 立てない。


 視界が霞む。


 だが。


 その中で。


 親友だけが必死に耐えていた。


 黒い鎖へ拘束されながら。


 侵食されながら。


 それでも。


 レイナを守ろうとしている。


 その姿が、痛いほど分かった。


 レイナは涙を拭う。


 怖い。


 本当に怖い。


 でも。


 親友はずっと一人で戦っていた。


 なら。


 今、逃げるわけにはいかない。


 レイナは震える足で立ち上がる。


 すると。


 瓦礫の中から、白煌レイナがゆっくり現れた。


 口元から血を流しながら。


 それでも、まだ剣を握っている。


「……一つだけ方法がある」


 レイナが顔を上げる。


「本当に最後の手段」


 白煌レイナは親友を見る。


 悲しそうに。


「影界の王と、“器”の接続を断ち切る」


「どうやって……」


 白煌レイナは静かに答えた。


「器ごと、殺す」

 第11話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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