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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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12/29

深層影界

「器ごと、殺す」


 白煌レイナのその言葉で、世界から音が消えた気がした。


 レイナは理解できないまま立ち尽くす。


 目の前では、親友が黒い鎖に拘束されていた。全身へ食い込む影の杭。首筋を侵食する黒い紋様。赤黒く染まり始めた瞳。


 それでも彼女は、まだ泣いていた。


 まだ、人間だった。


『顕現率七十二』


『同期進行』


 空の巨大な目が脈打つ。


 街が崩壊していく。ビル群が黒へ侵食され、現実そのものが影へ塗り替えられていた。


 白煌レイナは静かに剣を握る。


「今ならまだ止められる」


「そんなの……!」


 レイナは叫ぶ。


「やっと思い出したんだよ!? また一緒に帰ろうって……!」


 親友が苦しそうに顔を上げた。


「……レイナ」


 その声だけで、胸が締め付けられる。


「ごめんね」


 泣きながら笑う。


「ずっと隠してて」


「謝らなくていい!」


 レイナは首を振った。


「帰ろう! また前みたいに――」


「無理だよ」


 静かな返答だった。


「もう、自分で分かるの」


 彼女は震える手を胸へ当てる。


「中にいる」


 黒いノイズが空間を軋ませる。


「ずっと頭の中で喋ってる」


 孤独だったんだ。


 ずっと。


 誰にも言えず、一人で耐えていた。


「怖いんだよね」


 涙が零れる。


「自分が消えてくの」


 レイナは何も言えなかった。


 親友は苦しそうに笑う。


「でも、最後に思い出してくれたから」


「そんなの嫌だ……!」


 レイナは叫ぶ。


「勝手に終わろうとしないでよ!!」


 その瞬間、世界が震えた。


 巨大な黒腕が空間を裂く。


 影界の王。


 完全顕現が近づいていた。


 白煌レイナが前へ出る。


『光界固定――多重展開』


 白い結界が幾重にも広がる。だが、次の瞬間には砕け散った。


 圧倒的。


 存在階層が違いすぎる。


 白煌レイナが血を吐く。


「っ……!」


 親友の身体が大きく跳ねた。


『顕現率八十』


『器安定化開始』


「ぁぁぁぁっ!!」


 絶叫。


 黒い影が爆発的に噴き出す。


「来るな……!!」


 彼女は自分の身体を押さえ込みながら叫ぶ。


「近づいたら、殺しちゃう……!」


 その声は本気だった。


 もう制御できない。


 だが、レイナは前へ出る。


「それでも行く」


「なんで……」


「親友だから」


 静寂。


 親友の瞳が揺れた。


 その瞬間だった。


 白煌レイナが、ゆっくり剣を下ろす。


「……本当に最後の方法がある」


 白い光が彼女の身体から溢れ出す。


「“殺さずに接続を断つ”方法」


 レイナが顔を上げる。


「本当に……?」


「成功する保証はない」


 白煌レイナは真っ直ぐレイナを見る。


「でも、あなたなら届くかもしれない」


 光陣が展開される。


『光界接続術式――魂鎖共鳴』


 白い粒子がレイナを包み込んだ。


「これからあなたの意識を、彼女の精神領域へ接続する」


 世界が白へ染まる。


「その中で、“影界の核”を探して」


「核……?」


「彼女を侵食してる中心点」


 白煌レイナは苦しそうに笑う。


「それを引き剥がして」


 次の瞬間、レイナの意識は闇へ落ちた。


 どこまでも。


 終わりなく。


 冷たい闇の中へ。


 孤独。


 絶望。


 誰かの感情が、深海みたいに沈んでいる。


 そこに、小さな光が見えた。


 夕焼けの教室。


 窓際で笑う黒髪の少女。


『レイナ、またボーっとしてる』


 親友だった。


 侵食される前の。


 普通だった頃の彼女。


 レイナが近づこうとすると、景色がノイズ混じりに崩れる。


『もしさ』


 少女が寂しそうに笑う。


『私が消えたら、覚えててくれる?』


 胸が痛んだ。


 忘れていた記憶。


 消されていた過去。


『私、最近ちょっと怖いんだよね』


 少女の足元から黒い影が伸びている。


『自分じゃなくなってく感じがする』


 その時だった。


 教室が崩壊した。


 窓が割れる。


 夕焼けが闇へ塗り潰される。


『――見ツケタ』


 低い声。


 振り返った先に、それはいた。


 巨大な黒い影。


 顔のない王。


 無数の赤い目だけが、こちらを見下ろしている。


 影界の王。


『異物確認』


『排除開始』


 無数の黒腕が襲いかかる。


 レイナは走った。


 崩壊する教室を。


 追いかけてくる闇を。


 その先に、少女が立っていた。


「……レイナ」


「迎えに来た」


 即答だった。


「帰ろう」


 手を伸ばす。


「もう一人でいなくていいから」


 少女は俯く。


「……無理だよ」


「壊れてない」


「壊れてるよ」


 彼女の輪郭がノイズに侵食されていく。


「怖いの」


 涙が零れた。


「気を抜くと、自分が消える」


 レイナは一歩前へ出る。


「私は諦めない」


「絶対連れて帰る」


 その瞬間、世界が激しく脈打った。


『自我反応増加』


『強制侵食開始』


 少女の身体から黒い翼が噴き出す。


 巨大な影翼。


 空間そのものを侵食しながら広がっていく。


『接続率九十六』


『器再構築開始』


 少女の瞳から、人間の光が消えていく。


 白煌レイナが精神世界へ介入した。


『光界固定――精神隔離』


 白い結界。


 だが、一瞬で砕ける。


 圧倒的だった。


 影界の王の存在が、精神世界そのものを書き換えていた。


「……まだ戦える」


 身体を粒子化させながら、白煌レイナは剣を構える。


 その姿は痛々しかった。


 少女が苦しそうに叫ぶ。


「来るな!!」


 大量の黒槍が生成される。


 空間を埋め尽くすほどの数。


 全部がレイナへ向いた。


 発射。


 黒い豪雨。


 だが。


「やめろぉぉぉっ!!」


 少女自身が軌道を逸らした。


 黒槍がレイナの横を通過し、闇の空間を破壊する。


 まだ残っている。


 彼女はまだ、戦っていた。


「早く……行って……!」


 その時だった。


 空間の奥で、赤い光が脈打つ。


 心臓みたいに鼓動する“核”。


 レイナがそれを見た瞬間。


 少女の顔色が変わった。


「駄目!!」


 絶叫。


「それ見ちゃ駄目ぇぇぇっ!!」


 赤い核が、“目”を開いた。


 瞬間。


 レイナの脳へ、大量の感情が流れ込む。


 孤独。


 絶望。


 捨てられた感情。


 誰にも救われなかった心。


 そこでレイナは理解する。


 影界は、ただの悪じゃない。


 これは、人間が捨て続けた痛みの墓場だ。


 誰にも届かなかった感情の集合体。


 だから影界の王は、空っぽになった心へ入り込む。


 そして。


 親友は、“最初にそれを理解してしまった人間”だった。


 赤い目が、レイナを見下ろす。


『理解確認』


『適性認定』


 その瞬間。


 レイナの足元から、黒い影が揺れ始めた。

 第12話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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