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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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侵食領域

 私はもう、人間じゃない。


 その言葉が、静かに夜へ落ちる。


 レイナの背筋に冷たいものが走った。


 影の少女の周囲。


 空気そのものが歪み始めている。


 黒い粒子。


 揺らぐ輪郭。


 そして、彼女の影だけが異常な速度で脈打っていた。


 まるで心臓みたいに。


「……やめて」


 白銀の少女が小さく呟く。


 だが。


 影の少女は止まらない。


 黒が広がる。


 アスファルトを侵食し、周囲の光を飲み込み、街全体を“夜より深い闇”へ変えていく。


 レイナは息苦しさを覚えた。


 肺が重い。


 頭痛がする。


 存在そのものを圧迫されているみたいだった。


 白銀の少女が前へ出る。


「戻って」


「無理」


「まだ間に合う」


「間に合わない」


 即答。


 感情の抜け落ちた声。


 だがその奥に、押し潰されそうな苦痛が混ざっていた。


 影の少女は自分の右手を見る。


 指先が崩れている。


 黒いノイズになって、少しずつ空気へ溶けていた。


「……もう境界が曖昧なんだよね」


 小さく笑う。


「どこまでが“私”だったのか、分からなくなってきた」


 レイナの胸が痛む。


 その言葉はあまりにも静かで。


 だからこそ、余計につらかった。


 白銀の少女は唇を噛む。


「だから止めるの」


 光が溢れる。


 白い粒子が周囲へ舞い、侵食する闇を押し返していく。


 夜の中に、朝日が差し込んだみたいだった。


 黒と白。


 二つの力がぶつかり合う。


 空間が軋む。


 ビルの窓ガラスが震え、街灯が明滅した。


 レイナは思わず耳を塞ぐ。


 頭の奥へ直接ノイズが流れ込んでくる。


『侵食領域――展開』


 低い声。


 影の少女の足元から、巨大な黒い陣が広がった。


 幾何学模様。


 無数の文字列。


 見ているだけで不安になる異形の紋様。


 それが都市全体へ浸食していく。


 瞬間。


 景色が変わった。


「……え?」


 レイナは息を呑む。


 街が消えていた。


 正確には、塗り潰されていた。


 空は真っ黒。


 地面も黒。


 遠くのビル群すら影の輪郭しか存在していない。


 世界そのものが“影”へ侵食されている。


 静かだった。


 雨音すらない。


 音が死んでいる。


 レイナは震える。


「ここ……何……」


「影界との境界」


 白銀の少女が答える。


 その表情には明確な焦りが浮かんでいた。


「まずい……侵食率が高すぎる」


 影の少女は黒い空を見上げる。


 どこかぼんやりした目。


「……落ち着く」


 その声は安堵に近かった。


「ここ、静かだから」


 レイナは理解してしまう。


 この子は。


 闇へ飲まれることを、少しずつ受け入れている。


 孤独。


 絶望。


 痛み。


 全部を抱え続けた結果。


 もう“普通の世界”の方が苦しくなってしまったんだ。


 白銀の少女が叫ぶ。


「そんな場所にいたら、本当に戻れなくなる!」


「戻る場所なんてないよ」


 静かな返答。


 レイナの胸が締め付けられる。


 影の少女は続ける。


「私は影喰いを止めるための器」


「壊れた感情を押し込める檻」


「それ以外、残ってない」


「違う!」


 白銀の少女の光が爆発する。


 世界へ亀裂が走った。


 黒い空間へ、白い線が刻まれる。


「あなたは私と同じで、泣いたり笑ったりできる人間でしょ!」


 その瞬間。


 影の少女の表情が揺れた。


 ほんの一瞬だけ。


 苦しそうに。


 悲しそうに。


 だが。


 次の瞬間には、また黒いノイズが走る。


 瞳の奥に別の何かが滲み始める。


「……うるさい」


 低い声。


 空間が震えた。


 黒い腕が無数に出現する。


 影の海から生えた異形の腕。


 その全てが白銀の少女へ向けられていた。


 レイナは息を呑む。


「待って!」


 だが遅い。


 黒い腕が、一斉に放たれた。


 白銀の少女は剣を構える。


『恒星剣アステリア――』


 白光が閃く。


 衝突。


 轟音。


 黒と白が激突した瞬間、世界そのものが悲鳴を上げた。

 第7話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 次回は、


ぜひお楽しみに!


 それでは、また次話で。

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