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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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影の残響

 黒が走る。


 雨の夜空を裂くように、無数の影武器が解き放たれた。


 槍が空気を貫き、剣が影を断つ。


 鎌が軌跡だけを夜に刻み、そのまま静かに消えた。


 その全てが、人間の動きじゃなかった。


 速すぎ、静かすぎた。


 そして、正確すぎた。


 影喰いたちは抵抗する間もなく切り裂かれていく。


 黒い粒子が雨の中へ溶けた。


 だが。


 一体。


 また一体。


 倒しても、暗闇の奥から新しい異形が現れる。


 まるで夜そのものが怪物を吐き出しているみたいだった。


 レイナは息を呑む。


 数が多すぎる。


「後ろ」


 声。


 振り向くより先に、身体が引かれた。


「っ!?」


 レイナのいた場所を、巨大な影腕が貫く。


 コンクリートが砕け、黒く侵食されていく。


 少女はレイナを抱き寄せたまま後方へ跳んだ。


 重力が薄いみたいな動きだった。


 着地と同時に影が広がる。


 少女の足元から滲み出た黒が、地面を覆っていく。


 異形たちが止まった。


 いや。


 怯えている。


 影に。


 レイナは少女を見上げる。


 近い。


 雨に濡れた黒髪。


 白い肌。


 感情の薄い横顔。


 その瞳だけが、異様なほど冷たかった。


「危ないから離れないで」


 淡々とした声。


 レイナは慌てて頷く。


「う、うん……」


 少女は再び前を見る。


 異形たちが唸っていた。


 ノイズみたいな鳴き声。


 聞いているだけで頭痛がする。


「……面倒」


 小さく呟き、少女は右手を掲げる。


 その瞬間だった。


 周囲の影が、一斉に浮き上がる。


 ビルの隙間。


 街灯の下。


 レイナの足元。


 あらゆる“影”が少女へ集まっていく。


 黒い粒子。


 黒い霧。


 それらは少女の背後で渦を巻き、巨大な陣を形成した。


 空間に浮かぶ黒い紋様。


 幾何学的でありながら、どこか生物的な不気味さを持っている。


 レイナは思わず息を止めた。


 綺麗だった。


 恐ろしいほどに。


『影装冥滅具現陣――第二解放』


 低い声。


 黒い陣が回転する。


 次の瞬間。


 無数の剣が生まれた。


 いや、“現れた”。


 最初からそこに存在していたみたいに、自然に。


 黒い刀身。


 輪郭が揺らぐ異形の剣。


 それらが空中へ浮かび、切っ先を影喰いたちへ向ける。


 異形たちが咆哮した。


 だが。


 少女は表情一つ変えない。


「消えて」


 静かな声。


 それだけで。


 世界が黒に染まった。


 剣群が放たれる。


 空気が裂ける音すらない。


 一瞬遅れて、異形たちの身体が崩れ落ちた。


 斬られた。


 そう理解した時には、もう終わっている。


 反撃は、一度も届かなかった。


異形たちは近づくことすら許されず、ただ黒に呑まれて消えていく。


 最後の一体が黒い粒子となって消える。


 異形の気配が消えた途端、雨音だけがやけに鮮明になった。


 レイナは呆然と立ち尽くす。


 少女はゆっくりと手を下ろした。


 同時に、空中の剣群が崩壊する。


 黒い粒子となり、夜へ溶けていく。


 その時。


 少女の身体が大きく揺れた。


「っ……」


 膝をつく。


 影が乱れる。


 輪郭がノイズみたいに崩れていた。


「大丈夫!?」


 レイナは駆け寄る。


 少女は荒く息を吐きながら、無理やり笑った。


「平気……」


 全然平気じゃない。


 右腕だけじゃない。


 首元まで透け始めていた。


 存在が欠けている。


 そんな表現が、一番近かった。


 レイナは少女の肩を支える。


 細い。


 驚くほど軽かった。


「なんでそこまでして戦うの」


 少女は少し黙った。


 雨音だけが響く。


 やがて、ぽつりと呟く。


「……止めないと増えるから」


「影喰いが?」


「うん」


 少女は空を見上げる。


 黒い雲。


 その奥に広がる夜。


「世界の“ズレ”が大きくなると、ああいうのが生まれる」


「ズレ……」


「孤独とか、絶望とか……そういう澱みが続くと、世界が耐えきれなくなる」


「その綻びから、あれは生まれる」


 レイナには半分も理解できなかった。


 でも。


 少女の声だけは、妙にリアルだった。


 まるで実際に見てきたみたいに。


「あなたは何者なの」


 その問いに、少女は静かに目を伏せる。


 長い沈黙。


 そして。


「……分からない」


 雨が強くなる。


「昔は、ちゃんとあった気がするんだけど」


「もう、思い出せない」


 少女は自分の手を見る。


 透けかけた指先。


「名前も」


「家族も」


「どこにいたかも」


 静かな声だった。


 泣いてもいない。


 苦しそうでもない。


 なのに。


 その空っぽさが、逆に痛かった。


 レイナはなぜだか少女から目が離せなくなる。


 どうしてだろう。


 会ったばかりなのに。


 この子を放っておきたくないと思ってしまう。


 少女はふとレイナを見る。


「……でも、一つだけ覚えてる」


「え?」


「雨の日、嫌いじゃなかった気がする」


 少女は口元をほんの僅かに緩ませる。


 一瞬だけ、普通の女の子みたいに。


 その笑顔を見た瞬間。


 レイナの胸が妙にざわついた。


 だが次の瞬間。


 少女の影が大きく揺らぐ。


 ビリ、と空気が震えた。


 少女の表情が変わる。


「……まずい」


「どうしたの?」


 少女は空を見上げる。


 レイナもつられて視線を上げた。


 そして。


 言葉を失う。


 空の一部が。


 黒く“割れていた”。


その裂け目の向こうには、夜より深い“何か”が蠢いていた。

 第3話を読んでいただきありがとうございました。


 今回も導入回です。


ちなみにあと2話後くらいで一段落する予定です。

今回はいわば繋ぎなので面白いかと言われれば自信はないですが···


こんな感じで同じような場面を長くつらつらと書いていく作品なのでご容赦ください。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 次回も、戦闘が続きます。また、次回·次次回で少女の能力の詳細を書く予定です。

ぜひお楽しみに!


 それでは、また次話で。

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