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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第一章 忘却と影界

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影装冥滅具現陣

 雨はまだ降り続いていた。


 細い雨粒が、夜の街を静かに滲ませている。


 レイナはその場から動けなかった。


 目の前で起きた光景を、脳がうまく理解できない。


 人ではない化け物。


 影から剣を作り出した少女。


 そして。


 空間ごと切断されたように消滅した異形。


 全部が現実感を失っていた。


 まるで映画でも見せられているみたいだった。


 だが。


 頬を打つ雨の冷たさだけが、これが現実なのだと突きつけてくる。


 少女は黒い剣をゆっくり見下ろしていた。


 刀身は不安定に揺らぎ、液体のように輪郭を変えている。


 それは“武器”というより、“影そのもの”だった。


 数秒後。


 刃が崩れる。


 黒い粒子となって空気へ溶け、音もなく消滅した。


 その瞬間だった。


 少女の身体がふらつく。


「……っ」


 小さく呻き、壁へ手をついた。


 レイナは思わず息を呑む。


 少女の右腕。


 また透けていた。


 さっきよりも酷い。


 輪郭そのものがノイズみたいに崩れている。


 皮膚の向こうが“空白”になっていた。


 人間の身体じゃない。


 そう思った瞬間、胸の奥がざわつく。


 それなのに、目を逸らせなかった。


「……大丈夫?」


 気づけば声を掛けていた。


 少女は少し驚いたようにレイナを見る。


 灰色の瞳。


 感情が薄い。


 なのに、どこか壊れそうな危うさがあった。


「なんで近づくの」


「え……?」


「怖くないの」


 レイナは答えに詰まる。


 怖い。


 正直、かなり怖い。


 目の前の少女は普通じゃない。


 けれど。


 もっと別の感情があった。


 放っておけない。


 そんな感覚だった。


「……怖い、けど」


 レイナは小さく言う。


「でも、助けてくれたから」


 少女は少しだけ目を細めた。


 雨音が二人の間を埋める。


「変なの」


 そう呟く声は、少しだけ柔らかかった。


 レイナは意を決して聞く。


「あの化け物、何なの」


「……影喰い」


「影喰い?」


「人の“存在”が壊れた残骸」


 意味が分からない。


 だが少女は気にした様子もなく続ける。


「心の歪みが積もると生まれる」


「そんなの……」


「信じられない?」


 レイナは黙る。


 つい数分前までなら笑い飛ばしていた。


 だが今は無理だ。


 現実として見てしまった。


 少女は壁から身体を離す。


 その動きに合わせて、足元の影がゆっくり揺れた。


 まるで別の生き物みたいに。


 レイナはそこで気づく。


 少女の影だけ、動きがズレている。


 本体よりわずかに遅い。


 理解不能な違和感。


 見ているだけで不安になる。


「……あなたは?」


 レイナの問いに、少女は少し黙った。


 雨が黒髪を濡らしていく。


 やがて、小さく息を吐いた。


「名前、ない」


「え?」


「正確には、忘れた」


 レイナは言葉を失う。


 忘れた?


 自分の名前を?


 そんなこと、あるはずが――


「最近、色々抜けるんだよね」


 少女は軽い調子で言った。


 だが、その声には微かな疲労が滲んでいる。


「記憶とか」


「感情とか」


「……自分とか」


 最後の言葉だけ、やけに静かだった。


 レイナの胸が締め付けられる。


 この子は少しずつ”消えている”。


 人としての輪郭を静かに、確実に失っている。


「なんで……?」


「力の使いすぎ」


 少女は自分の影を見る。


 そこに映る黒は、普通の影よりずっと深い色をしていた。


「これは、“存在”を削る力だから」


 その瞬間。


 空気が震えた。


 ビリ、と耳鳴りみたいな音。


 少女の目が細められる。


「……来る」


「え?」


 次の瞬間。


 路地裏の奥から、複数の気配が現れた。


 黒い影。


 一つじゃない。


 二つ、三つ、四つ。


 暗闇の中から、異形が這い出してくる。


 レイナの背筋が凍る。


 さっきの怪物が、こんなに。


「下がって」


 少女が前へ出る。


 その瞬間。


 影が広がった。


 アスファルトを黒が侵食していく。


 街灯の光が飲み込まれ、周囲が急速に暗くなる。


 まるで夜そのものが濃くなったみたいだった。


 少女は静かに右手を掲げる。


 足元の影が蠢く。


 液体のような黒が集まり、形を変え、圧縮されていく。


 剣。


 槍。


 鎌。


 無数の武器。


 それらが少女の周囲へ浮かび上がった。


 黒い武装群。


 影で作られた兵器。


 空気が重い。


 息が詰まりそうになる。


 レイナは無意識に後ずさった。


 少女の瞳が暗く染まる。


 その奥に、底の見えない闇が広がっていた。


『――影装冥滅具現陣シャドウ・グレイブ・レギオン


 低い詠唱。


 瞬間。


 無数の影武器が、一斉に解き放たれた。


その瞬間、夜の雨音が消えた。


世界から、“音”だけが切り取られたみたいに。

 第2話を読んでいただきありがとうございました。


 今回も導入回ということで、レイナと“影の少女”の出会いを中心に描きました。


 この作品は、ただ強くなるだけではなく、「強くなるほど失っていくもの」をテーマにしています。


 戦闘演出や雰囲気づくりにもかなり力を入れているので、そこも楽しんでもらえたら嬉しいです。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 次回は、少女の能力『影装冥滅具現陣』について、もう少し踏み込んでいく予定です。


 それでは、また次話で。

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