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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第三章

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放課後の捜索

 翌日の教室は、普段とは明らかに空気が違っていた。


 朝のホームルームが始まる前だというのに、あちこちで不安げな声が飛び交っている。


 昨日のニュース。


 同じ学校の生徒が失踪したという事実は、想像以上の衝撃を与えていた。


「マジでうちの学校だったんだ……」


「昨日まで普通にいたよな?」


「怖すぎるんだけど」


「警察来るって聞いたぞ」


 レイナは席に座りながら周囲を見渡した。


 空席が二つ。


 それだけで教室の景色が少し違って見える。


 普段は気にも留めない机と椅子。


 しかし誰も座っていないだけで、そこだけぽっかり穴が開いたようだった。


 隣ではクロエが窓の外を見ている。


 表情は落ち着いている。


 だが付き合いの長いレイナには分かった。


 かなり警戒している。


 昨夜からずっとだ。


 朝食を食べている時も。


 登校中も。


 何度も周囲へ視線を向けていた。


 まるで見えない何かを探しているように。


「クロエ」


「ん?」


「無理するなよ」


 クロエは少しだけ目を丸くした。


「何が?」


「顔に出てる」


「出てた?」


「結構」


 クロエは困ったように笑う。


「そんなつもりなかったんだけど」


「私には分かる」


 レイナがそう言うと、クロエは少しだけ視線を逸らした。


 そして小さく息を吐く。


「……実は」


「うん」


「昨日からずっと嫌な感じがしてる」


 その声はかなり真剣だった。


「前みたいな声じゃない」


「違うの?」


「誰かが助けを求めてるんじゃなくて……」


 クロエは言葉を探すように少し考えた。


「何かが探してる感じ」


 レイナの表情が曇る。


「探してる?」


「うん」


 クロエは静かに頷いた。


「まるで獲物を探すみたいに」


 その言葉に、レイナの背筋を冷たいものが走った。


     ◇


 放課後。


 二人は教室へ残っていた。


 他の生徒たちは既に帰り始めている。


 部活動へ向かう生徒たちの声も、徐々に遠ざかっていた。


 窓の外では夕陽が校舎を赤く染めている。


「本当にやるの?」


 クロエが聞く。


「やる」


 即答だった。


「夜じゃなくても調べられることはあるでしょ」


「確かに」


 昨日見つけた校舎裏の倉庫。


 あの場所が気になって仕方がない。


 もし失踪事件と関係があるなら見過ごせない。


「先生に見つかったら?」


「怒られる」


「正直だね」


「事実だから」


 二人は顔を見合わせる。


 そして小さく笑った。


 緊張をほぐすための笑いだった。


     ◇


 校舎裏。


 昼間に比べると人の気配はほとんどない。


 夕方の静けさが周囲を包んでいた。


 古い倉庫は相変わらずそこにある。


 色褪せた壁。


 錆びた扉。


 年季の入った建物。


 一見すると何の変哲もない。


 だが。


 近づくにつれ、クロエの表情が変わっていく。


「やっぱりある」


「何が?」


「影界の気配」


 レイナも周囲を見回した。


 彼女自身にははっきり分からない。


 しかし空気が重いのは感じる。


 まるで嵐の前みたいな圧迫感。


 倉庫の前まで来る。


 鍵は掛かっていた。


 普通ならここで終わりだ。


 しかし。


「レイナ」


「ん?」


「これ見て」


 クロエが指差した。


 地面だった。


 コンクリートの上。


 薄く黒い染みのようなものが伸びている。


 影。


 そう呼ぶには不自然な形。


 まるで何かを引きずった跡みたいだった。


 しかも。


 その痕跡は倉庫の壁で途切れている。


「……中?」


「多分」


 クロエは小さく呟いた。


 その時だった。


 風が吹く。


 カラン。


 どこかで金属音が鳴った。


 二人は同時に振り返る。


 誰もいない。


 ただ校庭の向こうで部活動をしている生徒たちの姿が見えるだけだった。


「気のせいか」


 レイナが言いかけた、その瞬間。


 クロエの顔色が変わる。


「下がって」


「え?」


「早く!」


 強い声だった。


 レイナは反射的に後退する。


 直後。


 倉庫の影が動いた。


 地面に落ちていた影が、まるで生き物のように盛り上がる。


 黒い液体のような何か。


 それが一瞬だけ形を作った。


 人だった。


 いや。


 人の形を真似た何か。


 輪郭が崩れている。


 顔もない。


 だが確かにこちらを見ていた。


「……っ!」


 レイナが息を呑む。


 次の瞬間。


 影は崩れた。


 何事もなかったかのように地面へ溶けていく。


 数秒。


 沈黙。


 風の音だけが聞こえていた。


「今の見た?」


 レイナが呟く。


「うん」


 クロエの表情は険しい。


「間違いない」


「影界?」


「影界の何か」


 それ以上は分からない。


 だが確信だけはあった。


 この事件は人間だけの問題じゃない。


 確実に影界が関わっている。


     ◇


 その日の帰り道。


 二人はいつも以上に警戒しながら歩いていた。


 夕暮れの住宅街。


 街灯が一つ、また一つと灯り始める。


 普段なら落ち着く景色。


 しかし今日は違った。


 どこか見られている気がする。


 レイナも感じていた。


 クロエだけではない。


 誰かの視線。


 いや。


 何かの視線。


「……いる」


 クロエが立ち止まる。


「どこ?」


 レイナが周囲を見る。


 だが見えない。


 クロエだけが前を見つめていた。


 道路の向こう。


 住宅街の細い路地。


 その奥。


 夕闇の中に立つ黒い人影。


 距離は遠い。


 顔も見えない。


 それでも分かった。


 昨日商店街で見た存在と同じだ。


 人影は動かない。


 ただこちらを見ている。


 不気味なほど静かに。


 そして。


 ゆっくりと右手を上げた。


 招くように。


 誘うように。


 レイナの背筋に寒気が走る。


 だが次の瞬間。


 通行人が横切った。


 その一瞬で。


 人影は消えていた。


「……いなくなった」


 クロエが呟く。


 レイナも息を吐く。


 嫌な予感がする。


 それも今までで一番。


 そしてその夜。


 二人は察していた。


 これから先さらに生徒が姿を消すことになることを。

 第26話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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