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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第三章

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広がる異変

 翌朝。


 教室へ入った瞬間、レイナは思わず立ち止まった。


 昨日よりさらに空席が増えていたからだ。


 最初は気のせいかと思った。


 だが違う。


 確実に増えている。


 窓際の列。


 中央の列。


 後ろの列。


 昨日まで座っていたはずの生徒の席が、いくつも空いていた。


 教室全体が妙に広く見える。


 それが何より不気味だった。


「……増えてる」


 隣でクロエも呟く。


 レイナは席の数を数えた。


 十人。


 失踪が確認された生徒は、ついにクラスの四分の一近くに達していた。


 昨日の倍だ。


 たった一日で。


 教室の空気も重い。


 誰も大きな声で話さない。


 笑い声もほとんど聞こえない。


 皆が同じことを考えている。


 次は自分かもしれない。


 そんな不安が教室全体に広がっていた。


「おはよう……」


「お、おはよう」


 挨拶の声まで弱々しい。


 いつもの教室ではなかった。


     ◇


 ホームルーム。


 担任は教卓の前に立ったまましばらく黙っていた。


 出席簿を持つ手にも力が入っている。


 生徒たちも静かだった。


 やがて担任が口を開く。


「今日から当面の間、部活動を全面停止する」


 予想していた者も多かったのだろう。


 大きなざわめきは起きなかった。


 だが誰も納得しているわけではない。


「また、下校時は必ず複数人で行動すること」


 担任は続ける。


「保護者にも連絡している。不要な外出は控えろ」


 そこまで言うと、一度言葉を切った。


 そして。


「正直に言う」


 教室を見回す。


「先生たちも状況を把握しきれていない」


 誰も声を出さない。


「警察も捜査を続けている」


「学校も協力している」


「だから勝手な行動だけはするな」


 最後の言葉だけ妙に強かった。


 おそらく本心だろう。


 教師たちもかなり追い詰められている。


 レイナはそう感じた。


     ◇


 昼休み。


 クロエは窓際に立って校庭を見ていた。


 レイナが隣へ来る。


「また何か見える?」


 クロエは少しだけ考えてから頷いた。


「見えるというか……」


「感じる?」


「うん」


 校舎全体を眺める。


 普通の生徒には何も見えない。


 しかしクロエには違った。


 校舎を覆う巨大な影。


 それが昨日より明らかに大きくなっている。


 まるで建物そのものへ根を張るように。


「成長してる」


 クロエが呟く。


「成長?」


「うまく言えないけど」


 言葉を探す。


「何かが力を集めてる」


 レイナの顔が険しくなる。


「失踪者と関係ある?」


「多分」


 クロエは即答した。


「むしろ関係ない方がおかしい」


 その時だった。


 キーン。


 耳鳴り。


 クロエの身体が僅かに揺れる。


「クロエ!」


 レイナが慌てて肩を支える。


「大丈夫?」


「う、ん……」


 しかし顔色が悪い。


 頭を押さえている。


 数秒後。


 クロエは荒い呼吸を整えながら呟いた。


「また聞こえた」


「助けて?」


 クロエは首を横に振る。


「違う」


 その瞳には困惑が浮かんでいた。


「今度は複数」


「え?」


「たくさん聞こえた」


 その言葉にレイナの背筋が冷える。


 たくさん。


 それはつまり。


 失踪者が増えているということなのか。


     ◇


 放課後。


 学校からの指示通り、生徒たちはまとまって帰宅していた。


 普段なら部活動へ向かう時間帯。


 しかし今日は違う。


 校門から出ていく生徒ばかりだ。


 学校全体が早く閉まろうとしているようだった。


 レイナとクロエも帰路につく。


 夕暮れが近づいている。


 空は赤く染まり始めていた。


「なあ」


 レイナが歩きながら言う。


「もし学校の中に入口があるなら」


「うん」


「夜に行くしかないよね」


 クロエは苦笑する。


「先生に聞かれたら怒られるよ」


「今さらだろ」


「それは否定できない」


 二人は少しだけ笑った。


 だが。


 その笑顔はすぐ消える。


 クロエが突然立ち止まったからだ。


「……クロエ?」


 返事がない。


 視線は学校へ向いている。


 かなり離れている。


 もう数百メートルは歩いた。


 それなのに。


 クロエは学校を見つめていた。


「見える」


 小さく呟く。


「何が?」


 クロエは答えない。


 ただ学校の方角を指差した。


 レイナも振り返る。


 しかし何も見えない。


 夕焼けに染まる校舎が遠くに見えるだけだ。


 だが。


 クロエには違った。


 校舎の上空。


 巨大な黒い影。


 まるで蜘蛛のような異形が学校全体へ覆い被さっている。


 人間には見えない。


 だが確かに存在している。


 無数の足を広げ。


 校舎へ食らいつくように。


 そして。


 その中心部に。


 赤い目が開いていた。


 クロエを見ている。


 間違いなく。


 真っ直ぐ。


 こちらを。


「……見つかった」


 クロエの声が震える。


 次の瞬間。


 赤い目は閉じた。


 巨大な影も消える。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 しかし。


 クロエだけは理解していた。


 自分たちは調べているつもりだった。


 だが違う。


 もう既に。


 向こうもこちらを認識している。


 そして。


 その夜。


 学校では誰もいないはずの教室の中で、一つの影が静かに動いていた。


 まるで何かを数えるように。


 空席となった机を。


 一つ。


 また一つ。


 そして。


 まだ残っている席へ視線を向ける。


 その中には。


 レイナとクロエの席も含まれていた。

 第25話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります。


 それでは、また次話で。

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