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SHADOW:REWRITE  作者: 終凪
第二章 日常編(仮題)

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19/29

おかえり

 放課後の教室は、少しだけ騒がしかった。


「じゃあねー」


「また明日!」


 椅子を引く音。


 笑い声。


 部活へ向かう生徒たちの足音。


 夕陽が窓から差し込み、教室の床を赤く染めている。


 レイナは鞄へ教科書を突っ込みながら、大きく伸びをした。


「疲れた……」


「まだ一日目だよ?」


 後ろの席でクロエが苦笑する。


「人と喋るのって体力使う」


「それはちょっと分かる」


 クロエも鞄を抱えながら立ち上がった。


 朝より自然な表情をしている。


 完全に馴染んだわけじゃない。


 でも、少しだけ肩の力が抜けていた。


「クロエちゃーん!」


 女子グループの一人が手を振る。


「また明日ね!」


「……あ、うん。また明日」


 少し戸惑いながらも、クロエはちゃんと手を振り返した。


 その様子を見て、レイナはなんとなく笑ってしまう。


「なに」


「いや、ちゃんと学校してるなって」


「どういう意味?」


「転校初日で“また明日”言われてる」


 クロエは少しだけ目を丸くした。


 それから。


 本当に小さく笑う。


「……そっか」


 その声は、少し嬉しそうだった。


     ◇


 帰り道。


 夕焼けの空が街をオレンジ色に染めていた。


 コンビニの前を通り過ぎた時、レイナがふと思い出したように立ち止まる。


「晩ご飯どうする?」


「……あ」


 クロエも止まる。


「考えてなかった」


「うち何かあったかな……」


「冷蔵庫ちょっと不安だったよね」


「言わないで」


 昨日見られている。


 レイナは少し考えてから言った。


「買って帰る?」


「作るのは?」


「え」


「昨日言ったじゃん。練習って」


 クロエが少し得意げに言う。


 レイナは数秒黙った。


「……やる気だ」


「なんか悔しいその反応」


「いや、助かるなって」


 結局、二人はスーパーへ寄ることになった。


 夕方の店内は思ったより混んでいる。


 仕事帰りの人。


 主婦。


 学生。


 カゴを持った人たちが行き交う中、クロエは少しだけ周囲を見回していた。


「……なんか新鮮」


「スーパーが?」


「うん」


「そんなことある?」


「だって、こういう“普通”のことあんまり覚えてなくて」


 クロエはゆっくり棚を眺める。


「何作ろっか」


「レイナって好き嫌いある?」


「ピーマン」


「子供」


「うるさい」


 クロエは少し笑う。


 そのまま野菜コーナーへ向かい、真剣な顔で食材を選び始めた。


 レイナはその後ろ姿をぼんやり眺める。


 不思議だった。


 数日前まで。


 もう会えないかもしれないと思っていたのに。


 今はこうして、一緒にスーパーで夕飯の材料を選んでいる。


 普通すぎて。


 でも、だからこそ現実感があった。


「レイナ」


「ん?」


「人参食べれる?」


「子供じゃないので」


「ピーマン嫌いなのに?」


「そこはいいの」


 クロエがくすっと笑う。


 その笑顔を見るたび、レイナは少し安心する。


     ◇


「……意外とできた」


 食卓へ並んだ料理を見て、レイナが呟く。


「失礼じゃない?」


「いやもっと壊滅的かと」


「レイナ私のことなんだと思ってるの」


「ちょっと危なっかしい人」


「否定できないの悔しい」


 二人で向かい合って座る。


 いただきます、と声を合わせる。


 静かな食卓。


 でも昨日までとは違う。


 誰かと食べるだけで、こんなに空気が変わるんだとレイナは思った。


「……おいしい」


「ほんと?」


「うん」


 クロエが少し安心したように笑う。


「よかった」


 その表情を見て、レイナはふと気づく。


 クロエは今、  “誰かのために作った料理”を食べてもらっている。


 それが少し嬉しそうだった。


「クロエってさ」


「ん?」


「案外ちゃんとしてるよね」


「案外って何」


「もっと危なっかしいかと」


「レイナにだけは言われたくない」


 少し笑い声が混ざる。


 その時だった。


 レイナがふと口を開く。


「……おかえり、って感じする」


 クロエがきょとんとする。


「え?」


「いやなんか」


 レイナは少し照れくさそうに視線を逸らした。


「家帰って、誰かいるの」


「……」


「変な感じだけど、悪くない」


 クロエはしばらく黙っていた。


 それから。


 本当に小さな声で言った。


「……ただいま」


 その瞬間。


 レイナの胸の奥が、少しだけ温かくなった。


 空っぽだった家に。


 ようやく“帰る音”が生まれた気がした。

 第19話を読んでいただきありがとうございました。


 もし少しでも続きが気になったり、世界観が好きだと思っていただけたら、ブックマークや感想など頂けるととても励みになります 


それでは、また次話で。

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