91:絶対なる者
「それで、貴様はまた試練に挑むつもりか」
「当り前ですよ。人質になっている仲間を救うためですから」
「そうか、そうであったな」
ふん、よく言うよ。
人質を好き放題しているくせによぉ。
まあでも数日経てば気が付くだろうな、五人全員がもうこの世界のどこにもいないことを。
二人は尊厳のためにこちらで殺したが、三人は今もチートな箱庭で眠っている。
さて、これが異世界転移者を狙ったことだと気が付くまでどれくらいかかるかな。
「僕は神の試練をクリアするためにこの世界で一番強い人を連れてきました。次の試練は彼と受けます」
俺は美琴に顔を向けられたことで一歩前に出る。
「神室優斗です。美琴と同じ異世界人です」
敬語を使うのは嫌だがまあ何か言われるのは嫌だから丁寧に話しておく。
「貴様が?」
皇帝は俺を見てかなり見下している。
その視線にイラっとするが今は我慢する。
「試練は誰でも受けてもいいんですよね? それなら俺が受けてもいいはずです」
「貴様みたいな雑魚が試練に挑んだところで結果は知れているな」
「試練を受けさせないつもりですか? おかしいですね、誰でも試練を受けれると聞いたんですけど」
「貴様が受けたところで何になる。そっちの使えない使徒が連れてきたのだ、強いと言うのは出任せなのだろう?」
「出任せだとしても、試練を受けるのに何ら問題はないはずでは?」
なんだか雲行きが怪しくなってきたな……マジで確認しに来てよかったとは思うが、面倒ごとになりそうでイラっとしている。
「いいや、問題はある。試練は誰でも受けれなくなった。次の一回がラストの試練になると御神より受けた。だから元から参加している者たちは参加することができるが、新たに参加することは貴族の承諾がなければできないようにした」
「なっ……」
皇帝の言葉に美琴は驚いた声をあげた。
やっぱり聞いておいてよかった。
「まあ? こっちの騎士団長を倒すことができれば、その強さに免じて参加を許してやろう」
そう言って皇帝の前に立ったのは剣を腰に携えた男だった。
騎士としての立ち振舞いは良さそうだし、イケメンだからかなり人気がありそうな男だ。
若そうだしこれで騎士団長なんだな。
「殺しても問題はないな? 今引くのなら命はあるぞ?」
その騎士も俺のことを見下しながらそう言ってきた。
「それなら俺も殺しても問題ないんだな?」
俺がそう言えば一瞬の静寂が場を支配したが、次の瞬間にはドッと笑い声が一斉に起こった。
「ははははっ! 騎士団長を殺す? とんだ冗談を言うものだ!」
「どうやら訳も分からないバカだから自分を最強だと思い込んでいるらしいな!」
「くはははっ! 今は非常事態だがこれほど笑ったのは久しぶりだ!」
「皇帝もピエロとしてあやつをおけばよい!」
めっちゃバカにされている。
「ふっ、お前が俺を殺せるのなら好きにすればいい。ま、その前に俺がお前を殺すがな」
目の前の騎士も哀れなものを見るような目でこちらを見ている。
「ここでするのか?」
「あぁ、すぐに終わるからな。最後に言い残すことはないのか? 同じ異世界人としてその女に話しておくことがあれば今話しておいた方がいいぞ」
どうやら俺を雑魚認定しているらしい。いや確実にしている。だからそういう言葉が一周回ってどうでもよくなった。
「美琴、下がって」
「大丈夫かい? 彼はスサノオの加護を持つ騎士の中でもっとも優秀で、英雄だ」
「大丈夫だ、美琴」
「……うん、そうだね。そうだった」
美琴は俺の言葉に納得して俺から離れた。
俺の近くの方が絶対領域で一緒にいられるから安全だが、それだと怪しまれる可能性があるからな。
「こっちに来ておけ」
「はい」
少し離れたところにいるナキリさんに呼ばれた美琴がナキリさんの横に立った。
「なんだ、やる気なのか。弱いものイジメはあまり好きじゃないからすぐに終わらせる。今なら鼻水をたらしながら泣きわめけば許してやる」
「なんだよ、さっきから許してやるとか言って。もしかして勝つ自信がなくてそう言っているのか?」
配信でのコメントで何を言われても気にならないが、こういうやつらが嫌なことを言ってくるとそれなりに腹が立ってくるな。
面と向かっているからか? それともあの惨状をしていた国の人間だからか? どっちもあり得るって話か。
だから仕返しとしてそう返してやる。
「……哀れだな、自身の実力も分からずにそう言うとは」
怒ってくるかと思ったがむしろなお憐みの目を向けてきた。
まあこちらもどうせ相手は死ぬのだからと憐みを向けておこう。
「いつでも来ていいぞ。初手は譲ってやろう」
「ん? いいのか?」
「あぁ、どうせ最後だからな。その異能を見せるのが」
「いやそうじゃなくて。お前の剣を最後に見せる機会がなくてってことだ」
「……どうやら本当に馬鹿のようだな。いいだろう、死んでいることに気が付かないほどの速い剣を最後に受けさせてやる」
こういう煽りは効くんだな。
「そうか、まあ期待しておく」
俺のその一言で目の前にいた騎士団長はいなくなった。
そして攻撃が来ているのは分かった。
全く動きは見えないけど全身に覆っている絶対領域に入ってくるのは分かる。
まあこの状態なら見ようと思えば見ることができる。
あとでそういう設定にオートでできるようにしておこうかな。こういう攻撃が見えた方が面白そうだし。
「ふっ、本当に大したことがなかったな」
俺に背中を向けた騎士が抜剣した動作と納剣した動作が全く見えなかった。
絶対領域に攻撃を仕掛けていたから本当に剣はすごいのだろう。
ま、俺以外だったら強いのだろう。
「おぉ……!」
「まるで斬られていないかのような状態だ! さすがは英雄殿だな!」
「今にも動き出しそうで、傷跡も全くない。すばらしい作品だ……!」
うん、周りの声を聴いてこいつらもやっぱりヨロズ帝国の人間だと分かった。
ていうか斬られていないんだから傷跡がないのは当然だろ。
「あー、これで終わりなのか?」
「まだ死んだことに気が付いていないだけだ。もう死んでいるよ」
うわ、なんか聞いたことがあるセリフを言ってきた!
「死んでる。へぇ、こうやって動いても死んでいるのか?」
俺はゆっくりと歩いていき、騎士団長の前に立った。
「これでも死んでいるとは、中々面白い芸当だな」
「馬鹿な……ッ!」
どうやら俺は死んでいなかったらしく、騎士団長は驚いた顔をした。
そしてさらに俺に斬りかかってきた。
それを見えるように絶対領域のルールを定めたことで騎士団長の動きがよく見えた。
それにしてもものすごい速度で俺を切り刻もうとしているのが分かる。
唯一頭部を斬っていないのは何か理由があるのかもしれないが、悪趣味な理由以外ないだろうな。
二度目が終わって今度はしっかりとこちらを見ている騎士団長。
「終わりか?」
俺は煽るように反復横跳びをしてみる。
「ッ!」
その煽りはよく効くようでさっきまでの見下している表情から一転、憤怒の表情を浮かべている騎士団長。
「なぜだ! なぜ死なない!?」
「なぜって、分かり切ったことを聞くなよ。お前が弱くて、俺が強い。ただそれだけの話だ」
こいつが強いのかもしれない。いや実際速かったからな。でも、俺にとってはその強さは取るに足らないものに過ぎない。
「最初どころかその次も譲ったんだ。今度は俺の番だ」
俺は左手を銃の形にして指先を騎士団長に向ける。
その指先から剣の切っ先が少しだけ出ている。だがそれが見えないようにしているからただ俺が指先を向けているだけに見える。
「ヴァン」
その言葉と同時に剣の力を放つ。
切っ先からこの謁見の間だけではなく外まで照らすほど強い雷が放たれた。
それは騎士団長に向けて一直線に向かい、神すらも殺す威力の雷が騎士団長に落雷したことで轟音が鳴り響いた。
壁や床にひびが入り、謁見の間が壊れるほどの衝撃が響く。
雷を受けた瞬間に騎士団長は灰になっているのが見えた。
だがそれだけでは終わらないのがこの武器だ。
騎士団長の元に落雷した直後、雷は一直線に城を貫いて上空に向かっていく。
ただ上空に放たれたわけではない。騎士団長の力の源が避雷針となり、そこに向かっていった。
上空ではないどこかで炸裂した雷は激しい轟音と雷光を上空で放ち一撃の攻撃は終わった。
……あぁ、しっかりと消えているな。上手くいってよかったが、上手くいかないわけがないか。
それにこのことを理解することができるのはほぼいないだろうから、今は騎士団長を一撃で屠った事実だけを突きつけることにしよう。
「これでいいですね?」
俺は皇帝に向けて少し馬鹿にしたような感じを出しつつもそう言った。
「な、な……」
皇帝は開いた口が閉じず、すべてが灰になった騎士団長がいたところを見ていた。
周りもついさっき起きた光景に脳を処理できない様子で、固まっていた。
かなりシュール過ぎて笑ってしまいそうになるけど我慢して周りが反応するのを待つ。
「う、うそだろ!?」
「な、何かの冗談だ! 英雄があのような弱者に負けるわけがない!」
「幻影に決まっておる! 早く解除しろ!」
「そうだ! このようなくだらないことをして不敬であるぞ!」
自分たちが見た光景を信じられない様子でありもしない事実で俺を責めてくる。
「おや、神の加護をお持ちなのにこのような簡単な事実も分からないのですか? 俺が、英雄と呼ばれていた男を殺した。ただそれだけの事実を受け止められないとは、過労ですか?」
「ふざけたことを抜かすな! 早くこのくだらないことをやめろと言っているんだ!」
「何もしていませんよ。あなたたちが見ているこの光景が事実ですよ」
「お前が英雄を殺したとでも言うのか!」
「先ほどからそう言っていますよ。どれだけ調べようが、どれだけ加護を使おうが、英雄はもう死んでいますよ? ほら、そこにある灰を確認してみてはいかがですか?」
人はあまりにも現実離れしたことは本当に信じないんだなー。
でもそれで時間を食うのは少し考え物だ。
「し、調べろ! 今すぐに調べろ! 幻影を使っていれば即刻こやつを処刑しろ!」
大臣らしきジジイがそう言って騎士たちに命じた。
騎士たちはすぐに灰とかを調べるが目の前にある事実しかなかった。
調べている間、こちらに視線が向けられていることに気が付きそちらをむけば、皇后と視線が合った。
謁見の間に入った時は冷たい瞳に能面な表情をしていた皇后だが、俺と視線が合った瞬間にひどく動揺して、さらにさっきの無の表情が嘘のように真っ赤にして視線をそらした。
……え、なに? どういうこと? なんで英雄と呼ばれた騎士を殺して顔を赤くさせるのかが全く分からないんだが。
ていうかあの感情は確実に……いやもう何も考えないでおこう。
「ほ、本当に英雄が死んだのか……?」
「あのような異世界人が……」
全く、こんなことで時間をかけさせて何がしたかったんだか。
「皇帝様、これで俺は試練に参加してもいいんですよね?」
俺が今一度皇帝に聞いた。
「いいわけがないだろ! 貴様は騎士団長を殺したのだぞ!」
「おや、おかしいですね。俺は確かに殺してもいいのかと確認したはずですよ。しかも、俺は殺されていいのに騎士団長は殺されてはいけないと。何ともぬるい環境で過ごしているご様子で。だから死ぬんですよ」
「黙れ! そんなことは知らん!」
おいおい、子供みたいに言うんじゃねぇよ。
「俺は確かに聞いたぞ」
「はい、私も聞きました。それに対してあなたは何も言わなかったではありませんか」
ナキリさんが俺の加勢に入り、さらにさっきまで顔を赤くさせていた皇后が元の表情になりながらそう皇帝に言った。
「お前らはどっちの味方だ!」
「は? 約束も守れねぇやつの味方なわけないだろ。早くこいつに試練を受けさせる許可を出せ」
「そうですね。あなたは確かに倒せたら試練を受けさせると言いました。だから約束を守るべきです」
この場で他の誰も皇帝の擁護に入らないところを見るに、ナキリさんは結構な地位があるな。
皇后は言うまでもない。
「ぐぅ……! お前らの聞き間違いだ! 規則として貴族から許可をもらわねば参加は許されん! だから異世界人は去れ!」
はぁ、戦っておいて損した気分だ。
まあ一人と一柱を殺せたからいいとしようか。でもこれからどうするかは困るところではある。
よければブックマーク、評価をよろしくお願いします。
シルバーウィークも仕事なのですがポイントが増えていたらやる気がめっちゃ出ます。




