92:ナキリ領へ
皇帝が約束を破ったというのに俺と美琴は有無を言わさず騎士たちに謁見の間から押し出された。
だが俺がさっき騎士団長を一撃で灰にしたのを見たせいか、体で押し出すだけで無理やり引きづりだすことはしなかった。
まあ俺もここで全員殺してもよかったのだが、まだその段階ではない。
謁見の間から押し出される直前、ナキリさんがこちらを見ているのが分かった。
そして口パクでこう言っていたのが分かった。
『城の外で待ってろ』
どうして分かったのかは分からないが、思い当たる節はある。
俺たち異世界人が持っているどんな言語でも分かる能力だ。それで口パクでも作用したのかもしれないが、正確なことはまあどうでもいいところではある。
でも便利過ぎない? とは思うがメリットデメリットがあって便利過ぎることもないと立ち止まってみる。
「ふぅ、本当に優斗の言う通りになったね……」
「この国を信じてはいけないぞ」
美琴は少ししんどそうな顔をしていた。
「これからどうしようか。貴族の伝手はあるにはあるけど、おそらく皇帝派だから期待はできない」
これからのことを色々と考えているようだが、真面目だから考えすぎているような気がするな。
「そう深く考え込むな」
「考えるさ。考えないと仲間の命が危険にさらされるんだから」
美琴にとっての仲間は人質にされている五人と輝夜の六人だろう。
だが俺にとっては助けるのは輝夜しかいない。助けると言っても輝夜を納得させるというはた迷惑なものだが。
「今は美琴だけじゃない、俺がいる。だからいざとなれば何とかするから、そう深く考え込むな。体に毒だぞ」
悩めば悩むほど体はストレスを感じるからな。
それで調子を崩すかもしれない。いやまあチートな箱庭で治せるけど、それが元の世界に帰ってからも癖になるかもしれない。いやよく分からんけど。
「……ははっ、そうだね。僕には優斗がいる。だから抱え込まないようにするよ」
俺の言葉を聞いてさっきよりかはマシな顔をする美琴。
「策がないわけではない。俺が参加できなくても、美琴と天音は参加できると言っていたな」
「そうだね、それは確かに言っていた。もしかして七日後に向けてダンジョンで強くなる、とかかな?」
「それは無理だ。いくらダンジョンがハイパー強化装置だとしても、七日程度で神と渡り合えるくらい強くなるのは無理だろう。まあどれくらいの強さが必要なのかは知らないけど」
「さすがに神を相手にするわけではないけど、ヨロズ帝国の最強の騎士でも無理だと言っているほどだ。あの騎士団長ほど強くなるのも無理かな?」
「まあ、無理だろうな」
あれくらいでもまだ時間がかかる。
時間をかければあの騎士団長を超えることなんて容易いが、七日が短すぎる。
「それならどんな策なんだい?」
「俺が天音として参加すればいい」
「……あぁ、姿を偽る武器を使って天音のフリをするということだね」
「他に何があるって言うんだ」
「優斗が女装するのかと思ったんだよ」
「俺が女装しても無理があるだろ」
ボケなのか天然なのか。
「他にも最悪、輝夜に試練をクリアする光景を見せて納得させる。そうすれば本来の試練に参加することなく輝夜を納得させることができる」
「……優斗の作り出す道具なら可能か。本当にどうしようもなくなったらそうしよう」
「他にも皇帝を洗脳して試練を受けさせるようにするとかあるな」
「そんなこともできるのかい?」
「できるぞ」
ただそんなことをするくらいなら滅ぼしてから輝夜を納得させるために幻覚を出す、という方法をするな。
「と、色々な方法があるんだ。だからこんなことで悩む必要はないぞ」
「うん、分かった。優斗に甘えて気楽に行くよ」
何でもすることができるこの俺がいるのだから本当にそれくらいの気持ちで行けばいい。
「それで、一度あの世界に帰るのかな?」
「いや、少し城の外で待つ」
「待つ? 誰か待つ人がいるのかい?」
「あっちは俺に用事があるらしいからな」
俺と美琴は城から出て少しのところで待つことにした。
今もなお忙しそうにしている騎士たちが行き交っている中で俺はスマホを取り出した。
「ん? こっちでは電波もないから何も使えないんじゃないのかい?」
「普通のスマホならな。俺が作り出したスマホはそんなこと関係なしに使うことができるぞ」
「おぉ……! 本当になんでも作れるんだね!」
「そうだぞ。俺の能力はチートな箱庭だからな。なんなら美琴のも作ろうか?」
「いいのかい?」
「どうせ簡単に作れるからな。どうする?」
「それなら作ってもらおうか」
「あぁ、分かった」
俺は美琴の分のスマホを作り出した。
「ありがとう。まさか異世界でスマホを持てるとは思わなかったよ」
「ちなみにもとの世界にも連絡をすることができるから、好きに連絡していいぞ」
「ほ、本当?」
「本当だ。まあ世界を跨ぐ分エネルギーを使うからそこは気を付けておけ」
「それだけで連絡できるとは、さすがは優斗だね」
美琴的にはたぶん緊急時の連絡手段として持っていたいということなのだろう。
とりあえずスマホを見てエイルたちから連絡は来ていないからあっちは何もない。
いや俺の中にいるのだからなにもないのは分かっている。ただ確認しただけだ。癖という感じだな。
「おっ、ちゃんといたな」
二人して話しながら待っていれば、こちらに声をかけてくるものがいた。
「待たせたな」
さっき俺と美琴に力を貸してくれて俺に待つように言ってきたナキリさんだ。
「ナキリさんを待っていたんだね」
「あぁ、さっき出るときにそう言われたからな」
「ちゃんと伝わっていてよかったぞ。異世界人の翻訳機能は本当に便利だなぁ」
口パクでも聞こえるのなら確かに便利だ。
むしろ視線だけでも翻訳できそうではあるが、そこは分からない。
「ん? 出る時に言われていた?」
「口パクでな」
「……それでも通じるんだね。初めて知ったよ」
「俺もできて驚いているところだよ」
まあそんなことはどうでもいいんだ。いいよな? いやいいに決まっている。
「それで、俺に何か用ですか?」
一応あの場で皇帝に意見してくれたナキリさんは味方よりとしては見ている。
ただ完全に味方としてはまだ見ていない。ナキリさんが善意で助けているとは思っていないからな。
「まどろっこしいことは抜きだ。条件によっては、神の試練を受けるための条件を俺がどうにかしてやる」
俺たちが困っていると思っていることを盾にナキリさんは俺たちに何かさせたい様子だ。
「条件によりますね」
「即答しなくていいのか? お前らは神の試練を受けたいんじゃないのか、お仲間のためにな」
「それはそうですが、条件が無理難題なら受けませんよ。そもそもナキリさんに頼らなくても手は考えています」
「へぇ、それを俺が邪魔をするって言ったらどうするつもりだ?」
「まあ、敵になるだけだ。俺は別に善人じゃないんだ、やりようはいくらでもある」
面倒だし邪魔をしてきたら殺すか。
俺にとってこの世界は近くはなく、むしろはるか遠くにあるような感覚だ。
だから百億円をやるから全人類滅亡させるスイッチを押せと言われても俺は押す自信があるくらいには他人事だ。
このヨロズ帝国に限った話だがな。元アイテル聖王国とかカノナス領地とかは助けたから他人事ではなくなっている。
「くっくっくっ、いいねぇ。そういう敵意、いやどうでもいいようなものを見る目は強い奴の証拠だ。よし、お前らをナキリ領に連れて行く。俺とお前らはきっと共闘できる関係だからな」
その強制ともとれる言葉に俺と美琴は目を合わせる。
うん、どうやら視線では伝えられないらしいな。というかそれなら便利を通り越して不便になりそうなレベルだからよかった。
「行ってみるか」
「うん、そうだね。ナキリさんの事情も知りたいところだし、助けてもらったからね」
だがふとした疑問が浮かんだからナキリさんに問いかける。
「ここからナキリ領はどれくらいかかるんですか?」
「辺境だからな。飛ばしても丸一日以上はかかるぞ」
え、普通に嫌なんだが。
早めに帰るってエイルに言っているから、あと二時間以内で帰りたいんだが。
だから……仕方がないか。
「それなら俺の乗り物を使いましょう。それならすぐにたどり着けますから」
「早くたどり着くのに越したことはないが、俺の配下や馬車があるから置いてはいけないぞ」
「それなら大丈夫です。全員乗せれますから」
「へぇ、それは楽しみだな」
普通ならそんな乗り物があるか最初に疑いそうなところではあるが、むしろナキリさんはどこか期待している感じがしている。
「あの場所に連れて行くのかい?」
ナキリさんを先頭にナキリさんの同行者がいる場所へと向かう途中で美琴がそう聞いてきた。
「いや、あそこはそう簡単に人はいれないよ」
あそこ以上に俺が自由にできる空間はない。俺が触れれる場所よりも自由にできるからな。
だけどチートな箱庭は俺の一部だし、自分よりも大切なエイルたちがいるから自由にできるからと言っても入らせるつもりはない。
だからまあ、神の手引きでリリスを追ってきた男がいたが、次に同じようなことがあれば前回以上の神殺しが起こると思う。
気分によっては全滅させるかもしれない。
それで加護が消えたりしてカノナス領地が困るかもしれないから、その時はその時で俺がアストレアを作り出そう。
そう固い決意をしながらもナキリさんは帝都にある高級そうな宿に向かっているのが分かった。
「あそこに泊まっているんですか?」
「あぁ、俺は金持ちだからな」
あれだけ皇帝に口を出せるのだからそりゃ金持ちではあるだろうな。
そうじゃなければ処刑されているぞ。このヨロズ帝国の残忍さを知っていれば身内だろうとそうなるだろう。
……あぁ、でも違う可能性があるのか。ナキリ家が珍しい加護を受けているからとか? それなら加護がないナキリさんが偉そうにできるのも納得できそう。
実際のところは分からないな。
「おい! 領地に戻るぞ!」
ナキリさんは宿の敷地内に入るなりそう声を上げた。
「えー!? さっきついたばかりじゃないですかー!」
そんな泣き言を言っている女性がこちらに走ってきた。
メイド服を着た弱弱しい雰囲気の小柄な女性だった。
「だから最初に言っただろ、今回はすぐに帰ることになるってよぉ」
「それでも早すぎですよ! せめて一日は滞在しましょうよ! ここにいくら払ってると思っているんですか!? それにみんな疲れてるんです!」
「それは大変だな。じゃ、全員集めろ」
「もー!」
使用人のことなどお構いなしに事を進めるナキリさん。
話があるのならここでもいいとは思うが、たぶんそれだけではないのだろうな。そうじゃなければ使用人さんたちが可哀想だ。
そして想像していたよりも少ない人たちがナキリさんの元に集まり、馬車も数台あった。
「全員揃っているな」
「揃ってますよ! だってみんな荷下ろししていたところなんですから!」
さっきの小柄なメイドさんがそうキレながらナキリさんの問いかけに答えた。
「何を怒ってるんだよ」
「怒りますよ! 帝都で買い物ができると思っていたのに……!」
「それなら安心しろ、こいつが便利な乗り物を持っているそうだからな」
ナキリさんがこちらに視線を向けてきたことで使用人たちも一気にこちらに視線を向けてきた。
「……この二人は一体……?」
「もしやそちらの女性は……」
「え、魔神病にかかった女性では……?」
俺よりも美琴に視線が行ってざわつき始める。
「静かにしろ。見ての通り美琴はもう魔神病じゃない。あの噂は本当だったらしいからな」
そのことにも少しだけざわつくがすぐに落ち着くところを見るに貴族の使用人って感じがする。
「男の方は美琴と同じ異世界人で優斗だ。それで、乗り物はどこにあるんだ?」
「もうこの場のすべてを乗せていいんですか?」
「あぁ、構わない」
「徒歩で帝都から出なくてもいいですか?」
「しつこいぞ、いいと言っている」
「分かりました」
俺は頷いてからこの場にいる全員を転送した。
俺が異世界に向かう時は念のために毎回上空にステルスモードで待機させていた超巨大戦艦に。




