89:ヨロズ帝国へ
ダンジョンから帰宅して、俺はヨロズ帝国に向かうために準備をしていた。
「おぉ、ダンジョンの装備もよかったがこれもいいね!」
俺の同行者というか案内者である美琴は、ダンジョンとは少し違った装備をしていた。
左右のガンホルダーに収納した魔弾のリボルバーは変わらず、さらに家だから身に着けていないが神速のブーツは玄関に置いて出る時に着けれるようにしていた。
そしてヨロズ帝国に向かうにあたってヨロズ帝国専用の装備を美琴は身に着けている。
すべての魔法を無効化する『反魔の籠手』。
遠距離攻撃をすべて無効化する『ゼロレンジジャケット』。
さらに周囲で無効化および無になったものを自身の力にする『ヴォイドブレスレット』。
この三つを新たに美琴が身に着けていた。
どうせだからと宝箱で美琴に引かせたら見事に激レアを引き当てた。どれもアイテムレベルで言えば1000以上ある装備だ。
異世界でしか身に着けることができないもので、ダンジョンではつけないという約束はした。まあそれは美琴なら分かっているから言わなくてもよかっただろう。
装備を身に着けて楽しんでいる美琴をよそに、俺はヨロズ帝国に行くにあたっての武器を創造していた。
今日編み出したチートな箱庭を纏う状態は無敵だ。誰からの攻撃も通すことができない絶対の守りだ。
それにその領域を広げれば敵を一瞬で無力化することができる。
神ですらこの領域には勝つことができない。
神はこの領域の外側に干渉し、導くことはできるだけでこの領域に何かしようとすることはできないのは分かっている。
だから神ですら相手にならない。
ただ、それを俺の能力として言わないでおく。
美琴と天音の話ではヨロズ帝国では持っている異能を言わなければいけないらしい。
それをチートな箱庭とか絶対領域とか言うのは戯言だと思われる可能性があるし、必要以上に目を付けられる可能性があるかもしれない。
だからそのために代わりの異能となるものを作り出そうとしているわけだ。
このチートな箱庭には数多の武器が作ってあるし、俺の膨大な魔力が貯蔵されている聖杯まであるから無用と思うだろう。
だが相手は神の加護を持ち、その神が相手になるかもしれないんだ。
そういうやつら専用の武器を作ることにした。
まあそれに異世界に戦いに行くからただ殺したり壊したりすることに特化した武器ではなく、かっこいいものを作りたいなーと思った。
別にダンジョンで他のメンバーを見てそう思ったわけではない。
そうだな、『七つ奥義』としておこうか。
新しく七つの武器を生み出した。それはランクで言えばS。
一本だけでも俺ツエーな武器が七つも存在している異能を異世界での俺の異能としよう。
そもそもこのチートな箱庭が俺ツエー状態なのだが、今さらな話だな。
「よし、こっちも準備ができたぞ」
「それなら行こうか、ヨロズ帝国へ」
さっきまでの装備に喜んでいた表情は一転して、真面目な顔で俺に返事をする美琴。
というか……今日は本当に忙しい一日だな。何回異世界に行かないといけないんだよ。
朝にはカノナス領地に行って、美琴と天音をこっちに連れてきたと思ったらまた異世界に行ってあの姫に会って、帰ってから六人でダンジョン配信して、また異世界に行くと。
せめてダンジョン配信からは別日にしてほしかったところだが、時間は待ってくれないからな。
まあこちらの時間を早めることはできるがそれはやらない。
美琴と天音なら気にしないだろうし、何なら天音ならそうした方が復讐したい相手を殺せる実力になれると喜ぶだろう。
だがそれを考えてしまうとそれに頼ってしまうからやらないようにはしている。
俺と美琴が玄関に向かえば、エイルたちも一緒になってついてきてくれる。
玄関で神速のブーツを身に着けた美琴。
「それじゃあ行ってくる。ヨロズ帝国が常識ある国だったらすぐに帰ってくるとは思うけど」
「それはすぐに帰れないってことでしょ」
リリスが俺の言葉につっこんでくれる。
そもそも端から簡単に帰れるとは思っていないからな。
「優斗」
ずいっとエイルが誰よりも一歩前に出てきたと思ったら、俺の目の前に文字が出てきた。
『エイルよりエンゲージステータスの申請が届きました』
『エンゲージしますか? YES/NO』
ダンジョン内でなくてもステータスやその操作をすることができるからその文字に何ら驚くことはない。
それにさっきはヨロズ帝国の話が出てエンゲージの話を後回しにしたのだろう。
「これもダンジョンでなくても効果を発揮するのですよね?」
「あぁ、するよ」
「それにダンジョン内のステータスだけではなく、私の本来の力も掛け合わされるのですよね?」
「あぁ」
「それならぜひ私の力を使ってください。そして、無事に帰ってきてください」
このエンゲージステータスをすればエイルにもダメージが入ることになる。
だからその意味も込めて、エイルはこうしてエンゲージしようとしているのだろうな。
「――あぁ、必ず無事に帰ってくる」
俺はそう言ってエンゲージに承諾した。
するとエイルの力が俺と掛け合わされ、俺とエイルは魔力が異常なほどに膨れ上がった。
「これが、優斗と私の力……!」
俺の魔力は遥かに多く、エイルもエイルで魔力が多いから異常なほどの掛け合わせになった。
だが俺はともかくエイルは今までよりも何百倍、いや何千倍でも足りないくらいの魔力になっている。
それでもエイルは異常がなかったのは加護のおかげだろうか。
そしてエイルが一歩迫ってきて俺に触れる程度の口づけをした。
「いってらっしゃい、優斗」
「あぁ、行ってくる」
エイルたちに見送られ、俺と美琴はヨロズ帝国に出た。
「本当にヨロズ帝国に出たね。ユウト公国に出て移動するのかと思ったよ」
「チートな箱庭はこの世界よりも高次元にあるからな。出ようと思えばどこにでも出ることができる」
「あの世界を見せられたんだ、今なら何も疑わないよ」
チートな箱庭を持っているとそこら辺の疑問はないのだが、美琴的にはそこに疑問を抱くのだろう。
たぶん世界の見方で思考が固まってしまうんだろうな。
とにもかくにも、俺と美琴はヨロズ帝国に足を踏み入れた。
最初に異世界にたどり着いた場所がこの国で、その時と同様に文明レベルは低く見える。
汚いし。汚いのがやっぱり無理だな。元居た世界の清潔感が本当に素晴らしく思えてくるレベルで汚い。
でも俺にはチートな箱庭の絶対領域があるから臭さがこちらに来ないようになっている。
それに美琴には装備以外にも加護をつけている。
本人は気が付いていないが俺のチートな箱庭に入った者には『箱庭の加護』が付いている。
まあそれはダンジョン作成以降にエイルとリリスの加護を参考にして作ったものだから、母親にはついていないが。
本当の危険が迫った時や勝てない相手と対峙した時にチートな箱庭から支援が入るというものだ。
過保護すぎるだろうか? いやでも縁を繋いだ相手とはこんなものだろ。
「……なんだか、少し騒がしいね」
美琴が周りを見てそう言った。
「そうなのか?」
俺はヨロズ帝国の日常を知らないからこれが非日常かどうかは分からない。
でも、何となく兵士たちがせわしなく移動しているのは分かる。
「神の試練が近いからか?」
「いや、それはないよ。さすがに前日なら忙しくなるけれど、今は忙しくなることはないかな」
「それなら何かが起きたのか?」
「そうじゃなければこれほど忙しなく動かないだろうね」
兵士たちの表情を見ればかなり動揺しているのが分かる。
しかもその騒ぎが帝都中に広がっているのが一般人の顔を見ても分かる。
全く、こんな時に誰が面倒ごとを起こしたんだ。厄介だな。
せめて神の試練を終わらせてからやってほしいものだ。空気読めよ。
「まあ、そんなことよりも神の試練のために城に向かうぞ。こっちはそんなこと知ったことではないからな」
「……そうだね。分かってる」
何が起こったのか気になる様子の美琴だが、俺がそう言ったことで俺と並んでこの帝都の中央にある城に向けて並んで歩き始める。
「おい! 貧民街ではどうなっている!?」
「ダメだ! 貧民街にいる奴らはほぼぐちゃぐちゃになっている! しかもこっちに無理やり上ってきた奴らも何かに捻り潰されて死んでいる!」
ん?
「駐屯所の様子はどうだ!?」
「完全に陥没している! しかも奥深くに落ちたから無事なものは……」
……貧民街と駐屯所か。
ふーむ。……どうやらKYは俺のようだな。
「どうやらかなりの異常事態が起きているみたいだね。しかもこの神の加護を持つ者がたくさんいる、この帝都で」
美琴もその話を聞いていてそう反応した。
「まあこの焦り様はかなりのことだろうな」
それをやったのは俺なんですけどね。
ただ弁明を心の中でしておこう。事件を起こしたのは俺だ、でもそうさせたのはこのヨロズ帝国だ。
俺は悪くない。ヨロズ帝国が真っ当だったらこんなことにはなっていなかったから天罰みたいなものだな。
神の怒りと思って悔い改めてくれ。
それにこのことは後々美琴にも言うことになるから、それまでは知らんぷりをしておかないと。
そのとき、美琴はどう思うのだろうか。
人質が人権もなく生殺与奪の権を握られて好き勝手されていることに怒りを覚えるのだろうか。
人質が二人死んでいることに悲しむのだろうか。
まあ、いい人がそう思うのは見たくないところではあるが、俺のせいではないしいつかは知らないといけないことだ。
「一度はここに来たことはあるが、こうして歩くのは初めてだ」
「一度目は転移された時だね」
「そうだ」
特に思うところはないし、チートな箱庭で何でも作れるからこういう構造物も特に気にならない。
ただアラギで撮影しているから視聴者たちなら食いつくかもしれない。
プロを通り越して神の設定にしているからアラギが勝手に素晴らしい撮影をしてくれる。
やっぱり俺のチートな箱庭はチートだ。便利だし強いし。
「実際、この国で加護を受けた人間は優遇されているのか?」
「されているよ。かなりね。しかも家族や親戚の内の誰かが加護を受ければ、加護を受けた本人ほどではないけど優遇されるようになっているね」
「え、加護はその本人に与えられるんじゃないのか? どうして血縁に優遇されるんだ?」
「知らないのかい? 加護は生まれてくる子供もしくは血縁の子供にも与えられることが多いんだよ。だから優遇を受けているんだ」
え、そうだったのか。
エイルが与えられた加護は聖女の加護。それはたぶん血縁関係なく与えられているはずだ。親元から離されたと言っていたからな。
リリスが与えられた加護は詳しくは知らない。でも、リリスは王女だった。フレイヤから与えられた加護がもしかしたら代々与えられていたのかもしれないが、リリスからはそういう話を聞いたことがない。
いや、もしかしたらヨロズ帝国の神だけかもしれない。そこはパナケアに聞けば答えてくれそう。
「この国のことだ、神の加護を受ければかなりの優遇を受けるんだろうな」
「ご想像の通りだよ。この国では加護至上主義だから加護を受けなければ人権がないというくらいだからね」
それにしては使徒をいいように使っているな。
何かあるのか? ただそんなこと知ろうともしないし知りたくもないけど。どんな理由であろうともあれは許されない。
「僕の聞いた話だと、貧民街にいた人が加護を受けたら貴族になれたらしいよ」
「へぇ、そんな夢のようなことがあるのか。宝くじみたいだな」
「そうだね。だから貧民街にいる人たちはその神のお恵みのためにそこにいてもなお、神に祈り続けているわけだ」
あのゴミみたいな連中がねー。
でもたくさん殺したから貧民街も閉鎖されるんじゃないか? あんな胸糞な光景を見たからもはや同情なんて一ミリたりともない。
あるのは死んでくれて清々するという感情だけだ。
生き残っている人たちは彼とは関係がなかったから許した。もしかしたらいい人なのかもしれないが、そこを判断するつもりはない。




