85:ギミック
とにもかくにも、特殊ワイルドバットを倒したあとの部屋を見れば、中央に宝箱が出現していた。
「あれ、やっぱりボスだった?」
「ボスはボスでも中ボスだな。ダンジョンの中には中ボスが出現するダンジョンもある。そしてボスを倒せば宝箱が出てくるのは共通だ」
「しかも経験値が他モンスターよりも多い。結構おいしいね」
「ボスは基本強い分、報酬は多くないとな」
「そんなことよりも、宝箱があるよ?」
ボスのことをそんなことと言って宝箱のことを強調してくるのはもちろん天音だ。
今度は俺が開ける番だ。
「優斗くんがどんなものを出すのか楽しみだなー」
「あれ、次はエイルじゃなかったか? 俺は開けたぞ?」
「ふふっ、ダメですよ優斗」
にこやかな表情でエイルからそう返されたから俺は大人しく開けることにした。
「まさかあたしみたいに運がないわけじゃないよねー。みんながレアリティが高いアイテムをゲットしているところで、一人だけロック何とかって装備を出すわけがないよねー」
こいつ……コメントで知りやがったな……!
分かっているのなら俺を見逃せばいいのに、こいつは決して逃がそうとしない。
むしろ今までの恨みと言わんばかりに人気者の顔が剥がれ落ちているのにそう言ってくるからな。
「そうだな、そんなやついるわけがない」
もう俺の力で出してしまおうかと思ったが、さすがにそれは白けるからな。
それに、俺が運で引き当てればいいだけの話だ!
部屋の中央の宝箱に近づけば近くに本が落ちていることに気が付いた。
「おや、この本は――」
「それは私が見ておきますよ。優斗さんは開けてください」
俺よりも素早く拾ったテレイアによってそれすらも封じられたからもう開けるしかない。
宝箱を前にして嫌な予感がしながらも俺は宝箱を開けた。
「うわぁ……」
宝箱の中身を見て小さな声でそれが出てしまう。
よりにもよって一番確率が高いところを引いてしまった。
「何が出たのかな?」
「まあ、大したことがないものだ。気にするな」
俺はそう言いながら素早く袋の中にそれを入れようとするがその前にリリスと天音が宝箱の横に来た。
「そうはいかないなー」
「何が出たのか見せてくれないと不公平だよねー」
二人は宝箱の中身を見た。
「ん? これって魔銅?」
「さっき見たやつだよね?」
二人が手にしたのは一番確率が高い魔銅だった。魔銅は全部で五個出た。
「……一番確率が高い奴を引き当てたわけだ」
俺は大人しくそう自供することにした。
「気にすることはないよ! だってこれ売れるし加工もできるんだから無駄じゃないよ!」
そうフォローをしている天音だが、確実に俺を下だと確定させて見下しているのが分かる。
ここまで生き生きとしているのは出会ってから初めてだ。
まあ、天音がこんなことで満足できるのなら甘んじてその見下しを受けてやろう。そもそも気にしていないし、全部俺が作ったものだからそんなことで気にするわけがない。
「そうですよ。ただのランクが低い武器よりもよほど価値がありますね」
そこに天音に反撃する俺の肯定派であるテレイアが口を開いた。
「優斗さん、魔銅はこれからどれくらい使うんですか?」
「あー、かなり使うはずだ。強い装備でも使われることが結構ある鉱物だからな」
「それならこの魔銅はハズレじゃないですね。むしろ中途半端な装備よりもいいんじゃないですか?」
天音の言動が気に入らなかったテレイアはそう天音に反撃している。
あのままだったら天音は気分がよかったはずだが、それはテレイアが許さないようだ。
「そうかもね。でも魔銅って一階層でいっぱい取れるからそうでもないんじゃないかな?」
だが天音もそれでは済まさない。
「いっぱい取れるから価値が低くなるわけではないと思います。いっぱい使うのならいっぱい取れなければ作れなくなりますから」
「あー、そうだね」
これ以上の攻防は腹黒というか必死さが垣間見えると思ったのか、天音はそこでその口論を終わらせた。
まあそれで天音のストレスがたまったのは言うまでもないだろうな。
俺はその魔銅を袋に入れて、早々に宝箱の近くにあった本に話題を移す。
「テレイア、本は読んだか?」
「いえ、まだです。今読んだ方がいいですか?」
「そこは任せる」
「さすがにそれは今読んだ方がいいんじゃない? 中ボスから落ちたんだからこの屋敷に関係のある本だろうね」
「……まあ、分かりました」
リリスがそう言えばテレイアは渋々といった感じで本を開く。
そしてパラパラとテレイアが読み進めて口を開いた。
「……日記ですね。執事の日記みたいなので、おそらくワイルドバットに変化した人のものかと」
「そうだろうね。それで何が書いてる?」
「少し待ってください」
テレイアが結構速く読み進め、あらかたの内容を教えてくれる。
この屋敷の主は優しい主人だったそうだ。
お似合いの優しい奥さんがいて、子供二人に恵まれ、貴族としての生活も上手くいって誰が見ても順風満帆な家だったそうだ。
だが、そんな中で奥さんが病に倒れた。
その病は感染症だったようで、奥さんに続いて子供、それから屋敷の面々も次々に倒れたようだ。
無事な者たちはすぐに屋敷から逃げ、無事だった主人とこの日記を書いた執事は残った。
優しい主人はどうにか助ける術を探し、たどり着いたのは禁断の魔法だった。
その魔法はワイルドバットに変化させる魔法だったが、主人はそれを知っていた。
優しい主人はどんな姿になろうともよかった。ただ生き続ければ。もうその時点で主人は狂っていた。
そして屋敷全員に禁断の魔法をかけ病を克服させた、モンスターの姿に変えて。
この日記を書いた執事は部屋を魔法で封印して、自身の魔法の進行を進ませないようにした。
誰か、この屋敷の惨状をどうにかしてくれる人を待つために。
「――という感じです」
テレイアは説明を終えて本を閉じた。
「……優しいままで、おかしくなったのですね」
その話を聞いてエイルがそうつぶやいた。
「ホントに屋敷の者たちを愛していたんだろうね。だからモンスターに変えてまで屋敷の者たちを助けたかった。その愛を否定することは、あまりにも可哀想だ」
続いて美琴も口を開いた。
「実際、モンスターに変化させる魔法ってあるよな?」
「はい、話に出た通り禁術に指定されていますが」
そこら辺は異世界の魔法も考えて作ったからな。
まあただ、この屋敷の主の話を聞いて深く考えているのはいい人であるエイルと美琴だけだ。
他は俺含めて特に考えない。
いや、リリスだけはどこかにヒントがないのか本をテレイアから渡してもらって読んでいる。それだけで考えてはいないだろうな。
「あ、ここに魔法について書かれてる」
そしてリリスは日記のヒントを見つけたようだった。
「何が書かれていたんだ?」
「『この魔法は一切の光のない場所でなければ効果を発揮しない。光はこの魔法にとって天敵なのです』だってさ」
「光……」
その話を聞いて美琴を含めた全員が天音の方を向いた。
「え、で、でもそんなに効果があるのかな……?」
「さすがに光らせて倒せるわけはないから、動きを止めておくことはできるんじゃない?」
「それなら使ってみようかな!」
そう言いつつもその使用用途に満足していないのが丸わかりだ。
「あとは……お、やっぱりあった。地下に続く道は隠されており、そこに主人がいる。地下に続く道を開放するためには正しい法則を導き出さなければならない。だって」
「……そこは教えてくれないんですね。別に教えなくてもいいですけど」
「ま、ゲーム性が加わっているから仕方がない」
普通なら教えてくれていそうだよな。
ただ少し整合性を持たせるのなら、そこは主人という支配者によって書けないようになっていた、とすればいい。
まあそれを言わない方が考えの幅が広がるからそこは言わない。
「中ボスを倒したしヒントを集めつつ地下に続く道を探そうか」
リリスの言葉で俺たちは屋敷の探索を再開する。
それ以降は中ボスや宝箱が出ることはなく、二階の探索を終えてヒントらしきものをいくつか獲得した。
「地下ってどこにあるんだ?」
探索を終えたことで分かったことは地下へと続く道が分からなかったということだった。
「全部の部屋は探したはずだよね。それなのにないとは、もっとよく探さなければいけないのかな?」
「探すって言ってもどこを探すの?」
「うーん……探していないところがあるのは確かだけど……」
俺は答えを知っているからこの場では何も言わない。
「思ったんですけど、ここには主人の部屋ってありましたか?」
だが三人よれば文殊の知恵ではないが、テレイアがそこに気がついた。
「あぁ、そう言えばなかったな。もしかしてそこが隠されている?」
「そうかもしれませんね」
テレイアはマップを開いて一階と二階のマップを並べた。
「一階のここがないですね」
それに最初に気づいたのはエイルだった。
一階と二階のマップを重ねたとき、二階にはあるのに一階にはない部分があった。
「お、ということはここに秘密の部屋があるんだね」
「でもここって奥まで行ったけど何もなかったよね?」
「そのずるい眼鏡があっても気がつかなかったんですか?」
「たぶんそこに気づかないと分からないようになってるんじゃない?」
半分正解だ。もう半分は時間経過によってヒントが出てくるようになっている。
俺たちは一階の本来あるであろう場所に向かった。
そこは何もない行き止まりとなっている場所だった。
「ん、あったな。テレイア、あそこの壁」
先見の眼鏡をかけているリリスが何かを見つけたようだ。
「ここですか?」
「そー」
リリスに言われてテレイアが壁に触れれば壁の一部が動き、テレイアの前に何かの装置が出てきた。
「これは……」
「これがギミックみたいだな」
全員がテレイアの前にある装置を見る。
手前には五つのボタンが付いた石製のパネル、奥には円だけがあるパネルがあった。
「ここでヒントを使うわけか」
「……総当たりで行けないんですかね?」
「やってみればいいんじゃない?」
「……でもそれで当たったら申し訳ないのでやめておきます」
テレイアは制作陣というか、俺のことを気遣ってくれた。
「優斗、これはハズレてペナルティはあるのかな?」
「やってみれば分かる。詰むことはないからそこは安心していいぞ」
「それなら安心だ。一度くらいハズレたパターンを見ておきたい気持ちはあるね」
「そうですか? 失敗せずにクリアした方が気持ちよくないですか?」
「あぁ、そういう意見もあるだろうさ。これは単純に好みの問題だから気にしないでおくれ」
美琴とテレイアではぶつかることはない。というか美琴が誰かとぶつかることはほぼないだろうな。
「とりあえず、今まで手に入れたヒントを言うよー」
今までオーナーにメモをさせていたリリスによって手に入れたヒントが公開される。
『人から』
『人が太陽に近づけば焼かれるだろう』
『神は人に寄り添う』
『大地は神と離れている』
『太陽が過ぎ去れば星空が現れる』
『母なる大地があれば、人は再び立ち上がる』
「この六つだ」
視聴者にも分かるように電脳王が配信にのせてくれる。
「パネルには五つ。人、太陽、神、大地、星空だねー」
簡単な人の絵が描かれているのが『人』。
丸に輝いている描写があるのが『太陽』。
人の絵と同じように見えて後ろに光輪がついているのが『神』。
真ん中に少し上に盛り上がった線が描かれているのが『大地』。
そして五角形の星がいくつも描かれているのが『星空』。
それが並んでいた。
「ヒントから察するに――」
「待ってください、ここは私が考えます」
リリスが答えようとしたがテレイアが待ったをかけた。
「分かった、それならテレイアがやればいい」
まあこれはテレイアのためのダンジョンだから誰もそれに文句はないし、言わせるつもりはない。




