83:運
「こういうのってさ、重要な本がある場合って本を調べるところがあるよねー。まあダミーは存在しているから探さないといけないけど。……もしかしてだけど、そういうのってない?」
リリスがゲーム的な疑問を口にしたから、俺は内心拍手をしながら頷く。
「ゲームみたいなここを調べれば、みたいなものは出ないぞ」
「うわー……それって時間かかるなー」
「さすがにそこで時間を使わせるつもりはないから、ヒントはあるようにしてある。それに普通に考えたらここにあるよな、みたいな思考があれば時間はかからない」
「それならよかった」
ダンジョン攻略は時間をかければいいというわけではないからな。
そういうところに時間をかけたらこっち側も視聴者側も飽きが来てしまう。
下層に行けば行くほどモンスターが強くなるが、そこで時間をかけるのは問題ない。
そこはレベル上げとかモンスターの攻略とか、そういうことを含めたのダンジョン配信だから醍醐味と言える。
でもギミック的な部分は違うというのが俺の答えだ。
本の背表紙を一通り見て、特に重要なものはないということでこの部屋の探索は終わった。
そして次々と扉に入っては住み着いているという設定のワイルドバットを倒し、部屋を探索する。
さすがにすべての部屋に本があるわけではなく、めぼしいものがなければ次の部屋に行くということをしていた。
「あ、宝箱」
部屋の隅にこのボロボロの屋敷では浮いている綺麗な宝箱があり、それをテレイアが見つけて声を上げた。
「次は誰が開ける?」
「もう見つけたテレイアでいいんじゃないか?」
「いえ、私は結構です」
「ふーん……」
「……何ですかその目は」
「べつにー?」
テレイアは開けたい感じがしていることを俺やリリスは分かっているが、本人が大人な対応を取ったことでリリスはからかうような表情をしている。
「次は天音さんでよろしいのではないでしょうか。美琴さんが先ほど開けましたから」
エイルの意見に俺は特に異論はなかった。
「そうだな。リリスもそれでいいか?」
「いいよー」
この場で開けているのがテレイアと美琴だけだから、昨日開けたそうにしていたリリスに確認すれば承諾してくれた。
「あたしでいいのかな?」
「あぁ、いいぞ。さ、天音。運試しだ」
「あはは、そうだねー」
少し嫌な言い方に笑顔でそう返して天音が宝箱の前に立つ。
「開けるね」
そう宣言して天音は宝箱を開けた。
俺たちは天音の後ろから何が出たのかを一緒に確認する。
「杖だ」
天音が必要とする杖が手に入ったわけだが……あー、これは……。
「え、な、なにこれ……?」
天音は手にした杖の詳細を見てかなり動揺しているのが分かる。
『パーゴスの杖
アイテムレベル:21
魔力+31 魔攻+29』
うん、やっぱりそうだな。
「こ、これは……な、何かの間違いなのだろうか……? い、いや間違いだろう!?」
美琴はすぐさま二丁のリボルバーを背中に隠して俺にそう訴えかけてきた。
「いや、これは間違いではないよ。これは単純に確率が高い武器が出ただけだ」
「そ、それなら僕のリボルバーは……」
「それは美琴が超低確率を引き当てただけだ。テレイアと一緒でな」
「そ、そうなんだね……」
何とも言えない空気が流れる。
でも俺は天音が持っていないことが分かって笑ってしまいそうになっているし、リリスにいたってはニヤニヤしている。
ちなみにテレイアは特に何とも思っておらず、エイルは可哀想だなと思っている。
「そう落ち込むことはない。初期武器よりも強くなっているし、氷の魔法を使うことができるようになっているんだ」
「……何のことかな? あたしは別に全然気にしてないよ? だから変な空気にならなくて大丈夫だよー」
大丈夫そうな顔と雰囲気を出している天音。
だけどマジでキレているのがヒシヒシと伝わってくる。何なら杖を握りしめる力が強いのがよく分かる。
たぶん美琴に負けていることに腹が立っているんだろうな。
「あ、そうだ。次、宝箱を開ける時は開けたことがない人に開けてもらおうよ!」
どうにかして仲間、というか下を見つけたい様子の天音。
「いやそんなことせずに開けたい人が開けたらいいんじゃないか?」
天音の真意を理解したからそう言ってみる。
「なぁ、エイル。別に俺たちは開けなくていいよね?」
「はい、私たちは大丈夫ですよ。開けたい人が開けて大丈夫ですから」
ここで本当にそう思っているエイルに振れば、ちゃんと俺の思った通りに答えてくれる。
天音が一瞬だけこちらを睨んできたのが分かったが特に気にしない。
「全員の運試しってことでやればいいんじゃない?」
上手くこちら側の意見になりかけたところで、思わぬ刺客であるリリスが天音側についた。
「毎回ってわけじゃなくて、開けていない優斗とエイルとあたしの三人が一回ずつ開けて誰が運がいいのかっておみくじをやる感覚だね」
リリス的には面白くなりそうな方についたんだろうな。
というか俺の運が悪いのは昨日確かめただろ。まあこの流れで拒否るのはさすがにないか。
「分かった。それなら俺たちも宝箱を開けるか。それでいいか、エイル」
「はい、そういうことでしたら私も参加します。おみくじはしたことがありませんので、少し楽しみです!」
「あぁ、そう言えばそうだな。正月になったらパナケア様の神社でも作って初詣をしようか」
「いいのですか!? それは楽しみです!」
パナケアが来るわけではないけど、まあ雰囲気作りに名前を使うくらいはいいだろう。
「話は決まったね! 次の宝箱を見つけるために行こう!」
天音は意気揚々と、というわけではないな。
意気揚々はそう言う意味では使わないか。下を見つけようとしている時点で禍々しいものであることに違いない。
さっきまで隅々まで調べていた俺たちだが、さすがにそれだと時間がかかるから隅々まで探すのをひとまず諦めてボスがいるであろう探索を先に行うことにした。
基本部屋に入ってワイルドバットを倒すことは変わらないが、本以外のめぼしいものがなければ次のところに即座に行く、という探索方法に変更した。
それでも部屋が多く、さらには行こうと思えばすべての部屋には行くことができるからそれでもなお時間がかかるということだ。
「オーナー、この部屋に目印をつけておいてください」
『かしこまりました』
テレイアは本がある部屋をオーナーに目印をつけさせる。
上手いオーナーの使い方をしていて少し感心してしまった。テレイアは結構賢いからな。
だから視聴者を馬鹿にするような言葉を遠回しに投げかけることがある。そこも視聴者的にもいいという声は多くて「キモ……」というテレイアの言葉を即座に引き出した視聴者諸君には敬礼をしてあげたい。
「お、またあった。二階層は二個もあるんだ」
最初にリリスが目ざとく見つけたのは二つ目の宝箱だった。
「そういう階層もある。その代わりここは鉱物が一切出ないようになっている」
「あぁ、だから宝箱が二個もあるんだ」
そういうバランスをチートな箱庭にやらせたから上手く調整されているはずだ。
上手く調整されていないとしてもダンジョンだからそこの整合性を求めるのはナンセンスというものではある。
「誰からやる?」
リリスが俺とエイルに向かってそう言ってきた。
「リリスからやればいい。開けたかったんだろ?」
「そうですね。私は最後で大丈夫ですから、優斗は二番目でいいですか?」
「あぁ、そうしようか」
「よし、それならあたしが開けるぞー」
誰も異論はなく、リリスは宝箱を開ける。
「ん? こんなものも出るんだ」
「お」
リリスが宝箱から取り出したものは武器や防具ではなかった。
かなり驚いてしまったが誰も気にしていないのでよかった。
「眼鏡が出た」
リリスが手に取ったものは何の変哲もない眼鏡だった。
「変なものが出ちゃったね。でもきっと使えるものだよ!」
そう言いつつも嬉しさを滲み出している天音。だが皮肉にも天音の言っている通りなんだ。
「ま、詳細を見れば分かることだね」
リリスはアイテム詳細を開き、それを他の五人が見る。配信上ではすでに分かりやすいように電脳王が配信にのせてくれている。
『先見の眼鏡
アイテムレベル:不明
身に着けることで隠されているものを見抜くことができる眼鏡』
「へー、これってかなりすごいものじゃない?」
リリスがそう俺に聞いてくるから俺は大人しく頷いて答えることにした。
「あぁ、すごいぞ。ボスの宝箱じゃなくてダンジョンの宝箱からしか出ないアイテムだが、一番確率が低い枠に入っているくらいレアだ」
「説明を見る限り、かなりダンジョン攻略で役に立つってことだよね?」
「さっきリリスが言っていたな、全部調べるのは大変だと。そういう時にこの眼鏡があれば全部を調べずにゲームみたいに重要なところだけを示してくれるようになる、超便利眼鏡だ」
天音には向けていないが一応最後を強調しておく。
「おー、それはマジで便利じゃーん。早速使お」
そう言ってリリスは眼鏡をかけて周りを見る。
「やめてください、迷惑です」
だけどそんなリリスの前に立ってそれを阻止する者がいた。
ダンジョンを余すとこなく楽しむ派閥筆頭、テレイアだった。
「えー、これくらいよくない?」
「よくないです。そういうのは多くの中から自分の手で見つけて楽しむものです」
たぶんテレイアは推理系のゲームが好きだろうな。
「でもこのアイテムがあるってことは、優斗は使ってほしいんじゃない?」
リリスは一対一ではなく俺を巻き込んでリリス側につける作戦を実行してきた。
「……そうなんですか?」
恐る恐るそう聞いてくるテレイア。
「使ってほしい、というのは語弊がある。このダンジョンでは普通に攻略していても、見落としている場所があって進めなくなる状況が出てくる可能性があるんだ。そんな時にこの眼鏡があれば見落としを解決してくれる、という意図がある。だからどこかの階層ではこの眼鏡があるという匂わせをして、それがどこにあるのか探そうという展開も期待していた。まあ、そこのサキュバスが一発で引き当ててしまったからすべてが無駄になったが」
「むふんっ」
リリスが得意げな顔をしていてもその超低確率を引き当てたのだから何も言えない。
「そういうことだったんですか……」
「使ってもいいとは思うぞ。ダンジョンにあるものについては後から見て行けばいい。集中するなら帰ってからの方がいいだろ?」
俺としてはどちらでもいいし、このダンジョンではテレイアが最優先だ。
配信とかダンジョンの進み具合とか、テレイアが楽しんでいることに比べたらどうでもいいことだ。
でもダンジョンだから、という理由でテレイアにそう言った。
「……そうですね。分かりました」
俺が言ったからか分からないが、テレイアは納得した表情をしていた。
「リリスさん、どうぞ好きにそれを使ってください。私は期待していませんけど」
「期待はしていないけど興味はあるってこと? ツンデレだなー」
「は?」
本当にキレているテレイアの一文字だ。
リリスはキレると分かっていてもこういうことをするからトゲトゲされるって理解はしているだろうな。




