82:二階層「ワイルドバットの屋敷」
美琴と天音がそれぞれ異能ツリーのSPを割り振ったことで俺たちは進む。
美琴は特殊に割り振ったことで双龍のオーラの量が上がった。
一方の天音は攻撃と速度に割り振ったようで異能を使わなくてもステータス値が上昇する形になった。
ちなみに美琴の方がSPを多く獲得していた。そこもランダムステータスが適応されているため美琴もリリスと同じように順調な滑り出しだ。
少し、いやかなり美琴に対して嫉妬を持っている天音に触れずにダンジョンがある方向に進んでいく。
町の中で誰も寄り付かない場所に進んでいけば、ある建物が見えてきた。
「ここ、ですか?」
テレイアはダンジョンを前にそう声を出した。
「あぁ、ここだ」
目の前には幽霊屋敷のような大きな屋敷があった。
ここは『ワイルドバットの屋敷』となっている。
「へー、全部洞穴とかじゃないんだな」
「そうだぞ。ダンジョンは階層によって種類が違うようになっている。まあたぶん洞穴型が一番多いとは思うが」
エイルたちがいた世界のダンジョンを参考にしているからな。全部が洞穴型なわけじゃない。
「……一階層の巣よりも狭そうですね」
テレイアはボソッとそう言ったが、特に不満とかではなくただの感想みたいだ。
「ま、行ってみないことには分からないぞ」
この二階層は俺が考えたギミックがあるからすべてが初見ではないが、テレイアたちの反応を見て楽しむことにしよう。
屋敷に入ろうとすれば門番として立っている鎧を纏ったネズミの人形がいた。
「おや、あんたたちここに挑むつもりか?」
ネズミの人形はこちらに話しかけてきた。
「あぁ、そうだ。入っても大丈夫か?」
ネズミの人形の問いかけに俺が答えた。
俺たち六人をジーっと見たネズミは頷いた。
「あぁ、あんたたちならいいぞ。ここは前に住んでいたイカれた家主が禁断の魔術をやってモンスターだらけにした屋敷だ。ワイルドバットっていうモンスターが住み着いているから気をつけな」
そしてネズミは門を開け、屋敷に入れるようにした。
「ここってもしかして入るために条件がある?」
ゲームをしているからすぐにネズミの動作にピンときた様子のリリス。
「あぁ、あるぞ。ソロならLv9、パーティなら平均レベルが7でなければ入ることができないようになっている」
「へー、そういう制限があるのか」
「必要ないとは思ったしどうせレベルは満たしているとは思ったが、雰囲気作りだな」
「あぁ、それなら納得だ」
「雰囲気作りは大切だからね。ゲームでも、男女の関係でも」
おぉ、美琴はそういう男女の関係が得意なようだ。でもあまり突くとこちらに来そうだから言わないでおく。
でもこういう感じに限って何も知らなかったりするからな。そうであったら萌えだ。
「行きます」
テレイアを先頭に屋敷の庭を進む。
ここはまだセーフエリアの中だからモンスターが来ることはない。
屋敷の扉に俺たちが近づけば、まるで迎え入れるように自動で扉は開いた。
外から見れば中は薄気味悪く、それでいて人間の手が入っていないボロボロの状態なのが分かった。
テレイアは剣を抜いたのをきっかけに屋敷の様子を見てそれぞれが戦闘態勢に入る。
それくらいに屋敷の中はどこにモンスターがいてもおかしくはない雰囲気だった。
テレイアが最初に屋敷の中に入ればどこに隠れていたのか分からないモンスターが一斉に襲い掛かってきた。
全長は大型犬並みの大きさだが、普通の蝙蝠を大きくしたわけではない。
本来なら一対の翼だがワイルドバットは二対あり、コンドルのような鋭い爪を備えた足があるモンスターだった。
そのワイルドバットがその規模で集団で襲い掛かってくるからそれはもうすごい迫力だ。
ストーンアントの時はほぼ地面からだったが、今回は空から来るのが基本になるから毎度迫力がすごそうだ。
そう思いながらも全員が武器を構えていたからすぐさまワイルドバットに対応することができた。
「はは、上だから狙いやすいね!」
美琴は二丁のリボルバーを使い空にいるワイルドバットを的確に当てていく。
「ピル!」
最初から覚えている火の魔法である『ピル』を使ってワイルドバットを燃やす天音。
「はいはい、こっちにおいでー」
リリスはアビリティで『黒騎士』があるためワイルドバットは全員ではなくリリスに向かっていた。
「はあっ!」
一番前にいるテレイアはリリスに襲い掛かるワイルドバットを切り伏せていく。
エイルは少し外れた場所にいるワイルドバットを撃ち抜いている。
そして俺は、何もしていない。本当に何もしていない。
刀は抜いている。そして飛竜というスキルを持っているけど、狙おうとしたモンスターは美琴と天音に狙われて少し違う場所にいるモンスターはエイルが狙うから俺が倒すモンスターはどこにもいなかった。
……絶対にコメントでニートとか言われていそうだけど、そこは否定できないし事実だから覚悟を決めておいた方がいい。
というか人数が増えたから俺がやることが本当になくなったんだよ。
本来前衛にいる刀使いが後衛にいたらそりゃそうなるか。うん、俺は最終兵器だから後衛にいるのだとまた納得しておこう。
……俺、ダンジョン教えおっさんって呼ばれそうで怖いな。
「いきなりでビックリした―」
「そうだね、あんなに来るとは思わなかったよ」
「これだけ人数がいればさすがに平気ですよ」
一名何もしていない人が現れるくらいには余裕だしな。
チラッとコメントを見れば俺のことを好きなのかと思うくらいに俺のことを見ていたようだった。
『おい、一人何もしてないぞ』
『サボるなw』
『本当に自宅警備員なのか? しかも自宅は嫁さんの穴ってか』
『ニート仕事しろ』
こんなに女の子がいるのに俺に注目してくるとは。
アンチって本当に嫌いと言っていても俺のこと好きなんだな。そうじゃないと見ないだろうに。
コメントを見れるくらいに無事に最初のワイルドバットの集団強襲が終わり、俺たちは屋敷の中を進む。
「……どこに行くんだ?」
ふとした疑問をリリスが口にする。
「何を言っているんですか? 探索するに決まっていますよ」
「いやでもさ、こういう建物だとすぐにボス部屋を見つけられるんじゃない? それだとダンジョンって言わなさそうだけどなー」
「それを確かめるのがダンジョンですよ。冒険者舐めてますか?」
「はいはい、黙ってまーす」
少しどころかかなりトゲを出したテレイアにそう言われたことでリリスは口を閉じることにしたようだ。
俺的にもテレイアが楽しんでくれているのならそれだけでいいからな。
まあ今回は美琴と天音がいるから強くなることが次点で目的としてあるけど、テレイアよりかは重要ではない。
「本当に大きな屋敷だね……!」
「うん、探索するのが大変そうだね」
異世界で暮らしていた美琴と天音もこの屋敷は大きいと思うのか。
そんなみんなの反応を見つつ、テレイアは一階の探索を始めた。
一階の長い廊下には多くの扉があり、一つずつ探索を始めた。
「うお」
しまっている扉を開けて部屋に入ればすぐにワイルドバットが襲い掛かってきた。
さっきと同じように問題なく俺以外の全員が自身の役割を全うしてワイルドバットを倒した。
「え、もしかしてこの屋敷って全部行ける?」
リリスは唐突に疑問を口にした。
「もちろん行けるぞ。何ならセーフエリアの家だって全部入ることができる。ここはゲームの世界みたいに無駄なところは作っていない、というわけではないからな。全部現実としてあるぞ」
「おー、さすがはチートな箱庭だね」
「そうだろ」
「それだけで優斗は偉いからなー。えらいえらいー」
俺の頭をなでてくるリリス。おそらくはコメントのことで慰めてくれるんだろうな。
要らないお世話だけど。
とにもかくにも、部屋に入ると客間だった。ソファに机、それから本棚がある部屋だ。
「ここの本は……」
テレイアが本棚にある一冊の本を手に取る。
「……ちゃんと書かれていますね。これってどこかの本なんですか? もしかして日本のですか?」
ちゃんとした本の中身を見たテレイアがそう聞いてきた。
「あー……」
その答えを俺は知っている。だがそれを言ってもいいものかと悩んでしまう。
「優斗さんが知らないことですか?」
「いや、知ってる。素直に教えていいのか悩んでいたところだ。別に少しすれば知ることだから言ってもいいんだが、って感じだな」
「それなら言わなくて大丈夫です」
「分かった。それならその本のことも言わないでおく」
テレイアならそう言うと思っていたから悩んでいたところはある。
「その本って読める?」
リリスはテレイアが開いていた本を覗き見る。
「読めますね。でも植物について書かれた普通の本です」
「へー」
美琴は上の方にある本を一冊手に取って開いた。
「誰でも読めるようになっているのかい? 僕たち異世界人は転移させられる時にすべての言語を理解できるようになっているから、誰でも読めるかは分からないんだ。そこはどうなのかな?」
あぁ、そう言えばそうだな。俺もその能力は備え付けられているが、このチートな箱庭があるからぶっちゃけ無駄なものをつけられていることは否めない。
「ダンジョン内の情報は誰でも読めるようになっているぞ」
そもそも配信もどの言語だろうと理解できるようになっている。
だからたまに英語圏の人や中国語でコメントをしてくる人がいる。そして配信の内容をすべて理解できると驚いていた。そりゃ驚くか。
そのことでこのチートな箱庭が現実味を帯びたのをリリスからの情報で知った。
「それもチートな箱庭の力なのかな?」
「そうだな」
「それじゃあ転移させた神の力なんて使っていないんだね、優斗くんは」
「そうなるな」
「無駄なものを押し付けられたんだー」
この言葉を聞いて天音が神を怨んでいることも分かった。
まああれを怨まない奴なんていないだろうな。あんなこっちのことも考えないクソなんて。
「こういうところはすべて調べてもいいものですか?」
エイルは本棚を興味深そうに見ていた。
本が好きで勉強が好きだからこういうのも興味があるのだろうな。
「まあ、時間があればな。それに持ち出さなければダンジョンで読書タイムとはいかない」
「お、ダンジョンで手に入った本を解読、みたいな配信ができるー」
「そうだな」
「そうですね、どのような知識が得られるのか楽しみです!」
「え、こういうのって持ち出していいの?」
天音は驚きながら聞いてくる。
「大丈夫だ。ちなみに本は二度と同じものは出現しないからそこは注意だ」
「かなり現実に即したものだなー。でもそれはそれで面白いからいいか」
これから先の展開を知っているから何も言えない。
この本棚の本がただの情報源ではないということを。でも今は言えないから存分に楽しんでもらうことにしよう。




