79:異能ツリー
「早速、新メンバーを呼んじゃおうか」
リリスが二人に向けて視線を向ければ美琴は力強く頷いていたが、天音はうっすらと頷いている。
「天音さん、大丈夫ですかね……?」
エイルもその様子に気が付いたようでそう問いかけてくる。
「どうだろうな。大丈夫じゃなくても誰かが何とかするだろ」
「そうですね」
主にリリスの方を見るエイル。
エイルとテレイアは絶対に助けない。意地悪とかではなく、助ける手段がないからだ。
そして助けることができるのはリリスと美琴、そして何となく俺。
失敗しそうならリリスと美琴が何とかするだろ。知らんけど。
「一人目の美琴、来てー」
最後が天音か。
でも最初のテンションを見てやる二番目とも言える。捉え方は人それぞれだ。
リリスに呼ばれた美琴はカメラの前に立つ。
「やぁ、リリスの配信を見ている子猫ちゃん。初めましてだね。僕は美琴、双龍の力ををその身に宿す戦士だよ。みんなに会えることを楽しみにしていた」
美琴は気持ちがいいくらいにカッコをつけながらそう言った。
『うお、めっちゃ美人な王子様だ!』
『きゃー! 王子様ー!』
『キラキラしてる……!』
『私も会えるのを楽しみにしていました!』
みんなの反応も良かった。まあ美琴は美人だしいい人だからな。
「ふふっ、ありがとう」
コメントを見て気分をよさそうにさせている美琴はエイルの空いている隣に並んだ。
「さ、二人目を呼ぼうか。天音ー」
リリスに呼ばれた天音はいつもの様子、と見せかけて腕と脚を同時に出しながらカメラの前に立った。
「あ、あはは、自己紹介しようと思ったけど何も思い浮かばないなー。あたしは天音! 剣を使って戦うよ。えっと、よろしくね!」
美琴よりかはちゃんとしていなかったが、視聴者に対してはインパクトは与えている様子だ。
『かわいー!』
『え、美人が揃いすぎてね?』
『五人全員美人過ぎだろ!』
『そこの男、明日4にます』
『今ファンになりました』
天音の正解はこれだったのかもしれないな。さすがは腹黒を隠しているだけはある。これも計算の内だったのだろうな。たぶん。
「この二人を追加してダンジョン攻略をするぞー」
この二人とも話したが一応行方不明者ということは言わないで進める方針だ。
気が付いた人がいればそれはそれでいいけど、異世界転移してとか言っても信じないからな。
ヨロズ帝国での出来事の配信を見たら信じる人が出てくるかもしれないが、とりあえず今はしない。
「一応意気込みを聞いておこうか。美琴、どー?」
「昨日の配信を見て楽しそうだと思っていたんだ。だからとてもワクワクしているよ」
「それじゃあ天音はー?」
「強くなるために頑張ります!」
「どちらも気合は十分だな。早速行こうか」
昨日と同じようにビルの狭いエレベーターに六人で入る。
四人で余裕が少しないなーくらいだったから六人になれば密着しないと入らない。
俺が一番最初に入れば、エイルとリリスとテレイアの三人に密着した状態になった。
しかもリリスはわざとこちらに巨乳を向けているから巨乳が俺の体でむにゅんとなっている。
それをアラギが天井から撮影しているからその光景も配信で映っている。
それに負けじとエイルが抱き着いてくるからこのエレベーターは天国のような状態になっているのは言うまでもない。
上を見たら視聴者にドヤ顔しているように思われるかもしれないからそのまま過ごし、すぐに二階にたどり着いて、目的の部屋の前に俺たちは立った。
「ん? これってあたしたちは美琴と天音とは違ってすぐにダンジョンに入る? セーフエリアに入るんだったよね?」
入ろうとする前にリリスが昨日のことを思い出したのかそう聞いてきた。
「そうだな、俺たちは二階層のセーフエリアに転移する。でも俺たちがついて行かなくてもオーナーが説明してくれるし、アラギマークⅡをつけておけば配信的にも問題ないだろ」
「おや、僕たちに説明してくれるんじゃなかったのかな? 僕と天音のために作ってくれたシステムを。優斗じゃないのなら、少し寂しいな……」
本当に寂しそうにする美琴。
「全員で入ればいいじゃん」
「分かった分かった。エイルとテレイアもそれでいいか?」
「はい、私は優斗について行きますから」
「私も別にどっちでもいいです」
別に入る必要はない俺たちまで二人と一緒に最初の設定を行う空間に入ることになった。
もし同じようなダンジョンが作られたとしても、これはできないようにしておこうと思いながら俺たち六人で初期設定空間に入る。
『ようこそ、ファーストダンジョンへ』
『ここに初めてお越しのお二人は初めまして、そして昨日お越しになった方々と配信をご覧のみなさんはこんにちは。私はこのダンジョンを管理しているオーナーです。お気軽にオーナーとお呼びください』
昨日とは違う文字を出すオーナー。
「二人はここの配信は見たのか?」
美琴は分からないが天音は見ていそうだ。
「あたしは見たよ」
「僕も見たね。どのステータスを選ぶのか楽しみにしていたところだ!」
そうなのか。でも二人には専用のシステムがあるから説明しないわけにはいかない。
「ワクワクしているところ悪いが、配信で見たステータスとは別の物を選んでもらう」
「え、そうなのかい?」
「とは言っても全く違うわけではないけどね。俺は美琴と天音に専用のシステムを用意した。専用というよりも、二人みたいに異能を持っている人に対しての特別ステータスだ」
「あぁ、僕の円環の双龍や天音の光輝なる天剣のことだね?」
美琴は視聴者に分かるように二体のドラゴンを出現させた。
「そうだ。それを持っているのなら、それを強化できるシステムがあればいいと思ったんだ」
これは美琴のためではなく、天音のためだ。
天音の名前だけの剣というのが可哀想だからこうして強化できるシステムを作った。
まあ思いついて面白そうという考えがすぐに浮かんでしまったのは否めないし、二人が三種の中から選んだステータスになっても視聴者的にも退屈になるだろうから、誰もが得をしているというわけだ。たぶん。
「たださっきも言った通り全く別のステータスになるわけではない。ジョブステータス、ランダムステータス、フリーダムステータスの基本三種は変わらない」
「それならどういう風に変わるのかな?」
「異能持ちは異能ツリーを得るかどうかを選択できるようになる。名前の通り異能ツリーは持っている異能を強化できるようになっている」
「そんなことできるの!?」
俺の話に驚いて声を上げたのは天音だった。
「異能ツリー付きを選べばな。もちろん選ばなくても問題がないようになっている。でも異能ツリー付きを選べば、レベルアップで得られるステータス値は減るようにはなっている。だから異能が強ければ異能ツリーを選ばずにステータス値を上げていく方が強くなるかもしれないな」
異能という純粋な強みを伸ばすことはワクワクするだろう。
「それは……楽しそうだね! 戦いの幅も広がる!」
だから美琴は乗ってくると思っていたし、もう一人も乗るだろう。
「思ったんだけど、ホントにそんなことができるの? それにステータスだってこのダンジョンの中での話なんじゃ……?」
乗ると思っていた天音だが、どうやらここに来て根本的な話をしてきた。
「このダンジョンだけの話だったら、少し意味が違うような気がするんだよねー」
まあ最初ならそう思っても不思議ではない。
エイルたちはテレイアの神業騎乗のオーブを手にしていたからそこに疑問は抱かなかったし、そもそも俺の力を受け取るということを伝えたし。
それに天音はヨロズ帝国に復讐するためにダンジョンに潜っているのだからこの言葉は尤もだ。
「このダンジョンの中の話ではないぞ。ダンジョンから出たとしても、その力は天音の力として残っている」
「へー、どういう仕組みなのかな?」
おー、たぶん視聴者を思ってこうやって聞いてくれているんだろうな。さすがは腹は黒い人気者だ。
「俺のチートな箱庭は何でも作ることができる。配信でもやった通り、建物はもちろんのことこのダンジョンですら俺が作ったものだ。それからエイルたちが持っている装備も俺の魔力を使ってこのダンジョンが作り出したものだ」
テレイアは澄ました顔でさりげなくだがその装備を見せびらかすようにしている。
「そしてその何では物に限らない。『攻撃力を上げる』とか『防御力を上げる』というものも作り出せるわけだ。まあこう説明してあれだが、そういうものだと理解した方がいいだろうな」
「よく分からないから……そういうものだと覚えておくね」
「僕たちが強くなった力は、すべて優斗から生み出されたものというわけか。優斗が僕の中に入っているんだね」
「おいその言い方はやめろ」
理解してもらおうとは思っていないからそこら辺はどうでもいい。
ちなみにダンジョンに行かなくても一気に強くなることもできる。それに天音が今すぐにヨロズ帝国を滅ぼしたいと言うのなら武器を貸し出した方が一番早い。
だけどそれは言わないでおく。言ったら元も子もないからな。
神の試練とは違って天音の強化は急ぎでもないから、じっくりと強くなっていけばいいだろう。
「それよりもだ、美琴と天音はどのステータススタイルにするんだ?」
二人の目の前にはちゃんと選択する画面があり、今は二人がどれを選ぶのか待つ時間となっている。
「そうだね……僕はランダムステータスにするよ。もちろん異能ツリー付きのね」
意外にも美琴がランダムステータスを選んだ。
「おー、分かってるなー。やっぱりランダムだよね」
「ランダムで勝負を狙うことにするよ」
本当に意外だ。
そもそもランダムステータスを選ぶのはリリスみたいな性格だけかと思っていた。
美琴は考えていそうな性格だからランダムに頼ることはないと思ったんだけど、人は分からないものだな。
「天音はどうする?」
「うーん……」
「別にランダムを選んでもいいぞ?」
「あ、それはないかな」
美琴がそうだったからあるいはと思ったが、まあそうよな。
ランダムで得られる最大値は魅力的ではあるものの、その最大値がずっと続くとは限らないわけだ。
むしろレベルが上がりにくい後半で最小値を引き当てて、そこで無駄なステータスに割り振られたら最悪だからな。
まあそれでも最大値を引き当て続ければ最強になるという夢はある。それをリリスは分かってやっている。
美琴もさっきの言葉でそう言っているように聞こえるな。
「うん、あたしは異能ツリー付きのジョブステータスにするよ! そっちの方がシステムが色々とやってくれるんだよね?」
「そうだな。そこを考えなくていいのはジョブかランダムだからな」
お、これでジョブ、ランダム、フリーダムが二人ずつになったな。二人は異能ツリー付きだが、そこはどうでもいいことだ。
「それならどのジョブにするんだ?」
あの名前だけの剣があるのなら剣士か?
「剣士以外の選択肢はないよね……だって異能ツリー付きだし」
「そっちの方が自身の能力を十全に発揮できるだろうな」
この言い方と表情を察するに、たぶんあの異能が好きではないのだろうな。
今まで役に立っていないのなら好きになれないのは当然と言えば当然か。
「無理に異能に合わせる必要はないと思いますよ」
ただそこにエイルが天音に言葉をかけた。
「私には聖女の加護があります。ですがそれに囚われず弓使いを選びました。ご自身の可能性を、やりたいと思う気持ちをご自身の才能で塞ぐ必要はないと思います」
「……そうかな?」
俺に視線を向けてくるから頷いておく。
「あぁ、そうだな。別に異能ツリーはただ異能を強化するだけではない。あまりネタバレをする気はないが、攻撃力アップとかのステータスがアップするものもある。だから好きなようにやればいいよ」
本当は異能の剣を使った方がいいんだけど、ジョブステータスなら回りまわって剣のジョブになることがあるからな。
ここで絶対にこれだとは言わないし、その可能性も言わないでおく。
「それなら魔法を使いたい!」
「魔法使いか。いいと思うぞ」
「前から使ってみたかったんだよねー」
天音は使えないのか。美琴はどうなんだろう。
俺は使えないが覚えることもしない。そもそも魔力を使うなら魔法が放てる武器を作った方が簡単だし強いからな。
「美琴は初期装備どうするんだ?」
「銃はないんだろうか?」
銃? それをダンジョンで言ってくるとは思わなかった。
「ないな。使いたいのか?」
「使いたいとは思っているけれど、なければいいんだ」
銃か……まあいいか。跳弾とかしないように設定すればいいし、銃を使う人もいていいだろう。
それにそういう弓使いとは違って器用だけを必要とする武器があってもいいだろう。
「初期武器にはできないが、宝箱から出るようにはした。だから運がよければ使えるかもしれないな」
「本当かい!? それなら楽しみにしておくよ!」
かなり期待している美琴は初期装備を槍にしたようだった。
『お二人のステータス設定が完了しました』
『これよりみなさんをダンジョン一階層のセーフエリアに転送します』
『何かあればお気軽にお呼びください』
『では、ご武運を』
二人の設定が完了したことでオーナーによる定型文が出現した。
ただ今回は美琴と天音以外の俺たち四人は二階層からではなく一階層のセーフエリアに転送されるようにした。
さすがに戻っていくのは面倒だからな。




