75:姫
ひとまず天音からの申し出は断ってから、またエイルからまんじゅうを受け取って頬張っている美琴に話しかける。
「美琴、いいか?」
「ちょ、ちょっと……」
口いっぱいにもごもごとさせながらそう言うから少し待つことにした。
そしてエイルにおかわりのお茶を飲んで口をスッキリとさせてから俺に返答する。
「いいよ、何かな? もしかしてまんじゅうにお金を払わないといけない? それなら喜んで働いて払うよ」
「いや別にそれはいい。それくらいならいくらでも出せるからな」
「え、それならあたしパフェ食べたいなー」
「あとでな」
天音の一言をとりあえず後回しにして今やらないといけないことを話す。
「人質になっていない仲間があと一人いるんだろ? その試練というのはどれくらいの頻度でやるものなんだ?」
一応美琴の仲間を助けるためにヨロズ帝国を最悪滅ぼすかもしれないとなっているから、ここら辺を聞いておかないと意味が分からない。
「あぁ、そうだったね。それは重大なことだ。まんじゅうに夢中になっている場合ではなかったよ」
「そうだな」
本当にそのことを忘れてまんじゅうを食べていたんだなこのボーイッシュ女性。
「神の試練は月に一度だよ」
「次の試練はいつか分かるか?」
「たしか……七日後、かな?」
「え、そんなにすぐなのか?」
「カノナス領地に行っても、戻るまでに時間がかかると思って諦めていたんだ。でも、優斗がいてくれて助かったよ」
俺じゃなければできなかったな。よく呑気にまんじゅうを食べれていたものだ。
「試練内容は聞けるのか?」
「うん、大丈夫だよ。神の試練はシンプルで、一度の挑戦で順番に五体の神獣を倒すこと。今のところ僕たちは二体目を倒しただけで終わっているよ」
「神獣ねぇ」
本当にシンプルだけど、ダンジョンとは違って攻略法を見つけたとしても人数が減っているんだから後半になるにつれてムリゲーと化してきそうだ。
「優斗はその神の試練に挑むつもりなのか?」
「いや、挑まないぞ」
リリスにそう聞かれたから素直に答えた。
「ぶっちゃけ仲間を助けるだけならチートな箱庭の力ですぐに助け出すことができるからな」
「いや、だがそれだと仲間にかけられた拘束の魔法が解かれない。帝国は仲間を捕らえるだけではなく仲間に呪いをかけて逃げられないようにしているんだ」
「だから言っているだろ、このチートな箱庭は何でも作れるって。だからそんなものは関係がないぞ」
「……え、本当なのか? 神の力を使っていると聞くが……」
「そんなものは関係ない。神だろうが魔王だろうがその特攻の武器を作れば殺すことができる。だからそこは安心してくれ」
「それはよかった! それなら今すぐにでも助けてはくれないだろうか!」
そう言われたがまず探さないといけないから今すぐにとはいかない。
「分かった、少し準備するから待っていろ」
「本当かい!? ありがとう! 特に残っている仲間一人が心配だからね」
「そっちが心配なのか?」
普通は人質になっている方を心配するものではないのか?
「あの子は少し特別なんだ。だから前に狙われていることがあった。それに、僕たちを罠に嵌めたのもあの子をいち早く手に入れるためだと踏んでいるよ」
え、そんな特別な人なのか? それならその試練も上手く乗り越えてほしいところではあるけど、強さで特別ではないのだろうな。
とりあえずそのお仲間を探すために『全知の具』を取り出す。
そしてそのお仲間がどこにいるのか理解した。
さらにそのお仲間がどういう状況かも把握して、今なら一人だから会えることが分かった。
それにしてもこの全知の具は本当に強いな。俺は全知じゃないのにこうして知ることができる魔道具を作ることができる。
チートな箱庭だということは今更なことか。
「場所は分かったから、ちょっと行ってくる」
「あの子にすぐにでも無事な姿を見せたいからね、僕も行くよ」
「いや、ここにいてくれ。すぐに帰ってくる」
「そう、か。うん、分かったよ」
もしかしたら危険な状況になるかもしれないからな。
その場合、危険な目に合うことはない。ありとあらゆる武器を作って保有しているんだから簡単に制圧はできるし、すぐに帰ってくるのなら一緒に行く必要はないし。
「じゃあまた行ってくる」
「はい、お気をつけて」
エイルにそう伝えて俺はそのお仲間がいる場所へと出た。
出た場所は和室なような部屋だった。畳のような床もあって、障子のような壁もあるがどこか違う和室だった。
そして座布団に座っている目的の人物がいた。
鮮やかな黒髪を姫カットにして、その髪型がよく似合う高貴な雰囲気を見せる天音と同じくらいの年頃の女の子がいた。
その女の子は綺麗な着物を着ており、この和室擬きととてもよく似合っている。
どうして着物は完璧に俺が知っている着物なのに、和室は俺が知っている和室ではないのだろうと謎を抱きつつも目的の人物に目をやる。
「あなたは……?」
目的の人物と目があったが向こうは驚いた感じはしないのに驚いた。
……こんな女の子、俺が転移した時にいたか? この容姿なら忘れるはずがない。美琴や天音みたいに。いや今はいいか。
「俺は優斗。美琴と天音から君を助けてくれと言われてやってきたものだ」
「美琴と、天音が……? 二人は、無事……?」
少しマイペースな喋り方だと思いながらもしっかりと答える。
「あぁ、無事だ。魔神病も完治して今は絶対に安全な場所にいる」
「それは、よかった……!」
心底安心している顔を見せた。
「その二人から仲間を助けてほしいと言われている。だから今から君を二人と同じ場所に連れていく」
「……それは、できません……」
「え」
断られるとは思っていなかったから声をあげてしまった。
「どうしてだ? 他の仲間を気にしているのならそっちも俺が助ける。だから何も心配することはないはずだが?」
「そう、では……ありません。……私は、私の役割を……全うします」
よく分からないことを言う。
「役割ってなんだ。神の試練をクリアすることか?」
「はい……そのために、ここにいます……」
え、なにこいつ。
ここにいても神の試練をクリアできないと分かっているのに役割だからとここにいると?
「それでクリアできなくてヨロズ帝国の奴隷みたいな扱いになってもか?」
「……はい」
その覚悟はちゃんとあるということか。
でもヨロズ帝国はヤバい国ではあるんだからそこに義理立てする意味が分からない。何かやってもらっているわけでもないだろうに。
使徒はいいように使われているだけだろ。
「それとも、あなたが……王子様になって、くれるのですか……?」
その王子様というのは神の試練を突破する人ってことだろうな。
くそ、普通にすぐに終わると思っていたのにこんなことになるとは思っていなかったぞ。
まずは状況を確認するために戻らないといけないか。
ふぅ、こんな可愛い顔して頑固なことを言うなんて。美琴の頼みじゃなかったら見捨てていたぞ。
「分かった、お前の言う王子様になってやるよ。だから待ってろ」
「あぁ……幸せです……」
「そうかよ」
確かに美人ではあるが、エイルの方が美人だしどうしてこの女の子が狙われるのかが分からない。
そう思いながらチートな箱庭に戻ろうとしたところ、呼び止められた。
「お待ちを……」
「どうした?」
「手を……」
「手? こうか?」
言われるがままに手を出せば手首にミサンガをつけられた。
「申し、遅れました……。私は、輝夜と、申します……」
「さっきも言ったが優斗だ。じゃあ俺は行く」
「はい……いってらっしゃいませ……」
そして俺はチートな箱庭でさっきまでいた場所に戻った。
家の中ではまだ美琴はまんじゅうを頬張っており、エイルは美琴のためかお茶を持ってきている最中だった。
リリスとテレイアは天音に何かを聞かせているからおそらくはダンジョンのことだろう。
「んっ! んっ!?」
俺が戻ってきたことで美琴はまんじゅうを頬張っていたからのどに詰まった様子だった。
「大丈夫ですか!?」
エイルはすぐにお茶を差し出し、それを受け取った美琴はお茶を飲み干して難を逃れたようだ。
「ふぅ……まんじゅうにいかされるところだったよ……」
「頬張り過ぎだろ」
「ここのまんじゅうは格別だからね、仕方がないことだよ」
まあ確かにキッチンに置いているまんじゅうは老舗和菓子店が作っているものをチートな箱庭で作り出しておいている。
俺も食べるしテレイアも食後のデザートで食べるから時間停止した場所に置いていればいつでも俺がいなくても食べれると言うことだ。
ただ俺がいない時はあまりないが。
「それよりもあの子はどうだった!?」
「会ったし元気そうにしていた」
「そうか、それはよかった! ……でもいないようだけど、どうしてかな?」
「連れて行こうとしたら断られた。役割を全うするってさ」
「あぁ……あの子の悪いところが出たんだね……」
輝夜の性格は理解していたが、そこまでは想定していなかった感じか。
「神の試練をクリアしないと出ないって言っていたかい?」
「そんな感じなことを言っていたぞ」
「全く……わがままなお姫様だ。今までもそういうことがあったけど、まさかこの状況で言うとは思わなかったよ。すまないね」
いや本当にな。すぐに終わると思っていたら本当に試練をクリアしないといけなくなったぞ。
「それよりも、輝夜と出会って何もなかったのかな?」
「……何ともないが、何かあるのか?」
そもそもちゃんとチートな箱庭の領域を侵食させていたから俺に影響はない。
「魔神病に対処できるのなら平気だと思って伝え忘れていたことがあるんだ。輝夜は男を魅了する力を持っている。だから男は是が非でも彼女を狙おうとする厄介な体質なんだ」
なんか聞いたことがあるな。
「リリス、一緒なやつがいたな」
「ん? あぁ、そう言えばあたしはそうだったな。ここにいたから忘れてた」
普通は忘れねぇよ。
「も、もしかしてリリスもそうなのかい?」
「あたしは加護だけどね。そっちの子は体質? それとも異世界転移の時に持たされた能力?」
「前者だよ。彼女には他に能力が備わっている」
「へー、そりゃ生きづらそうだなぁ」
他人事なリリスだが監禁されていたのによくそう言える。たぶんここの生活が気に入り過ぎてどうでもよくなったんだろうな。そう思いたい。
「優斗はその神の試練に挑戦するのですか?」
「そうするしかないだろうな」
エイルに尋ねられたからそう答えた。
「美琴、その試練って言うのは使徒でしか挑戦できないのか?」
「ううん、誰でも挑戦できる。最大八人で挑戦することができる」
「あぁ、そうか。だから強い人を探していたのか」
「そうだね。……だけど、ヨロズ帝国が手を回してヨロズ帝国にいる人たちは全員僕たちに協力してくれないんだ。だから外で探すしかなかった」
「それは……」
それは、本当に試練をクリアさせる気がないってことか。あるのなら協力するだろうからな。
「そうか、分かった。俺が輝夜と一緒に神の試練に挑戦する」
「いや、さすがにそれには僕も行くよ。そうじゃなければ僕が後悔する」
そう言われてもぶっちゃけ俺だけの方が簡単に終わらせることができる。
「俺だけの方が気が楽だから気にしなくていいぞ」
「そういうわけにはいかないよ。あそこから一度逃げてしまったのだから、今回行かないと後悔してしまうよ。だから頼む」
まあ俺と一緒にいれば魔神病になることはないんだけど……。
「それに、ヨロズ帝国を知っている僕がいれば行動しやすいと思うよ。これでどうかな?」
「分かった、美琴も一緒に行こう」
「感謝するよ!」
美琴と一緒に行けば分からないことはないだろう。
全知の具がある時点で分からないことなんてないんだけど。
……この全知の具はすべてを知ることができる魔道具だ。それならどういう行動をすれば正解なのかもわかるのか? やってみないと分からないけど……できそうではあるか。




