73:招待
「もう行けるか?」
「僕は大丈夫だよ。荷物も何もないからね」
「ないのか?」
「うん、魔神病だったから最低限の荷物しかなかったからね」
魔神病というのはつくづく厄介な病気なんだな。まあそれすら俺は消し去ることができるんだけどね。
エイルに女性二人を連れて一度帰るというメッセージを送れば、すぐにエイルは既読をつけた。
そしてすぐに『分かりました』と返してくれたことですぐに行くことにした。
「それなら行くぞ」
「どこに?」
天音が答えている間に俺と美琴と天音をチートな箱庭に移動させた。
「はい、ついたぞ」
チートな箱庭で住んでいる家の前にたどり着いた。
「……こ、ここは一体……?」
「あ、あたしたち屋敷にいたよね!?」
「ここは俺の能力である神をも超越する箱庭だ。ここでは何でも作ることができるから、あの剣やアストレアの神殿も簡単に作ることができた」
「それは……すごいね! とてもすごい! まさにこの世界はもう一つの世界ということか!」
チートな箱庭に入ってこんなに興奮しているのは美琴が初めてだ。
「……神室くんは、転移してからずっとここにいたのかな?」
「そうだ。さっきの転移してからどこに行っていたのかって質問の答えはそういうことだ。基本ここで引きこもっていた」
「ふ、ふーん……」
お、また天音はイラっとしているな。
「あ、もう帰ってきたのですね」
「少し話すことがあったから戻ってきた」
話していると玄関からエイルが出てきた。
「そちらは優斗と同じ世界の人だったのですか?」
「あぁ、そうだったよ」
そしてエイルは二人に向かって挨拶する。
「はじめまして。私はエイルと申します」
「……すごく、見惚れていたよ。まさかこんな美人が出てくるとは思っていなかったからビックリしたよ」
「うん……すごく綺麗な人だね」
「ふふっ、ありがとうございます」
「名乗り忘れていたね、僕は美琴だよ」
「あたしは天音っていうよ!」
「美琴さんに天音さんですね。よろしくお願いします」
確かにエイルはかなりの美人だ。
だから配信に映っても人気だし、うちの母親も気に入っている。うちの母親が気に入っているところは健気なところでもある。
「家族に今回のことを話さないといけないから中に入れ。それからお風呂にも入るだろ?」
忘れがちなことだが異世界の衛生面はよくはない。
ヨロズ帝国に転移した最初に見た光景が汚かったのはよく覚えている。
それに今の二人は体は回復していても汚れは取れていないからお風呂をすすめた。
「お風呂! あるのかい!?」
「あぁ、この家は元の世界の実家だから風呂もちゃんとある」
「それなら遠慮なく使わせてもらうよ。天音も一緒に入ろう」
「うん……そうだね」
少しだけ俺に視線を向けているのは俺のことを警戒してのことだろう。
まあこいつのことなんかどうでもいいから警戒は無駄なんだと思いながらも、家の中に入る。
「大丈夫だったんですね」
入ったところにテレイアがダンジョンで手に入れた装備を身に着けて立っていた。
「あぁ、大丈夫。それに俺が言っていた方法がちゃんとできたから危険もなかったよ」
「そうですか」
分かりづらいが安堵した様子のテレイア。
「おや、優斗はかなりいい暮らしをしているんだね。美女二人と暮らしているとは」
「成り行きでな。それよりも風呂はそっちに行けばある。使い方は分かるだろ?」
「あぁ、忘れないとも」
二人ではないけど今は修正しない。
美琴と天音がそちらに行ったことで俺たち三人はリビングに向かう。
「おかえりー、早かったねー」
リビングにはリリスがソファで寝転がっていたが、俺を見るなり座った。
「でもまたすぐに出ることにはなると思う」
「ん? 何か厄介ごとか?」
「たぶんな」
厄介ごとになるかならないかは分からないからな。
「アラギでちゃんと撮影してくれた?」
「バッチリ撮影しているぞ。主にカノナス領地の復興具合を撮影している」
「おー、それは動画にできるね。最初に行った時の撮影分があるから、それと合わせて使えるな」
「そうだな」
俺がリリスの隣に座ろうかと思ったが、その前にテレイアがリリスの隣に座ったことでテレイアの隣に座ることになった。
「エイル、一度こちらに来てくれ」
「はい」
エイルが来ている二人用に準備をしていたが、二人がお風呂に入っている間に今あったことを三人に話しておくことにした。
エイルは俺の空いている隣に座って横並びになっているところで俺は口を開いた。
「あの二人は俺がこちらに来る時に一緒に飛ばされた異世界人だ」
「へー、あの世界の住人なんだ」
「あの気持ち悪い人たちの仲間ですか?」
「それは俺も仲間と言うことになるぞ」
「いえ、優斗さんは全く違います。そこは優斗さんが認識しておいてください」
「そうか、今度から気を付ける」
その仲間は元の世界でもあまりいないだろうな。
ともかく、俺は美琴から説明を受けたことをかいつまんで説明した。
飛ばされた場所のヨロズ帝国で活動をしていた美琴と天音たちのグループ。
ヨロズ帝国で神から試練が与えられて、その試練にそのグループが挑んでいたが難しくて失敗するごとに人質として仲間を取られていた。
だけど美琴と天音は魔神病になったことで追い出されたことで、その試練を乗り越えれる人を探しつつ魔神病を治す方法を探していればカノナス領地にたどり着いた。
それを説明した。
「……そのようなことが」
こわばった顔をしているエイル。
「うわー、さすがヨロズ帝国って感じ」
「ヨロズ帝国は加護至上主義だと聞いていましたが、そのような神の犬になっているんですね。滑稽です」
リリスとテレイアはどちらかと言えば他人事だ。
むしろテレイアは加護を持っていないからこそ、その国の状況が面白く見えるのだろう。
今や加護がなくても強くなれるから加護に頼らなければ強くなれない国が面白く見えるのは分かる。
「それで、優斗はその人質になっている人たちを助けるのですか?」
「そのつもりだ。美琴にお願いされたからな」
こわばった顔のエイルに問われたからそう答えた。
「……やはり優斗は助けるのですね」
「反対か?」
「いいえ、ヨロズ帝国のやり方で異世界人が苦しめられていることは許せません。異世界人は野蛮な神の気まぐれで呼ばれた存在ですから、こちらの事情に巻き込むのはお門違いです」
エイルはパナケアを信仰しているが、他の神まで肯定しているわけではない。
パナケアは善神だから悪いことをしないというのもあるだろう。
だから神がそんなことをしていればハッキリと否定できるのがエイルだ。
「異世界人である優斗がヨロズ帝国を滅ぼすことになっても、仕方がないと思います」
「基本異世界人の人権はないからなー。世界のために動くっていうのが前提条件で、死んでも変わりはいるってスタンスだし」
「それ、普通にキレるでしょうね」
「でも帰り方が分からないから従っておかないとな」
俺の能力が本当に異質なんだだろうな。
呼び出した神すらも殺せ、簡単に元の世界に帰ることができる。これほど神の思惑通りに動かない人間はいないだろう。
そう話していれば美琴と天音はお風呂から出ていた。
脱衣所には二人のために新しいバスタオル、それから二人が着ていたボロボロの服の新しいものを用意していたからそれを使ってくれるだろう。
魔神病っていうのは服もボロボロにするから厄介だ。
そして美琴と天音は俺たちがいるリビングに入ってきた。
「サッパリした! 元居た世界のお風呂に入ったのは本当に久しぶりだったよ」
「そうだね。それに気を楽にして入ったのも久しぶりだよね?」
「あぁ、今までは警戒しておかないと野獣に襲われるからね」
そう会話しながら入ってきた二人は、こちらを見る。
俺とエイルとテレイアはさっき会っているし人間だから問題はないが、一人はそうではなかったから目を見開いた二人。
「魔族!?」
美琴がそう声を発しながらツイン・ドラゴンを出現させる。天音も驚きながら剣を取り出している。
やっぱりこういう反応になるんだな、魔族を見た人間って。
いや、リリスが入ってきた時にいた男の魔族みたいなイメージなのかな? 欲望のままに行動している的な。それはリリスも変わらないか。
「待て、ここにいる魔族は大丈夫な魔族だ」
「そうだよー、悪い魔族じゃないリリスだよー」
「そうなのかい? 全く、優斗には色々と驚かされるよ」
「え、だ、大丈夫なの……?」
「大丈夫さ、優斗が言っているのだから」
「……分かった」
美琴はかなり俺のことを信用してくれているのは分かるが、その美琴を信用しているから俺のことを信用していないが一応信用する天音という感じか。
「お茶をご用意しますね」
さっきまで準備中だったエイルは再びキッチンに向かった。
「優斗は美人な女性三人と暮らしているんだね」
「まぁな」
「うん? 優斗はこの空間にずっといたんだよね?」
「そうだな」
「それならどうやって彼女たちと出会ったんだい? もしかして異世界を探索していたのかな?」
「神がここに迷い込ませてくるんだよ」
「ほぉ、神が。こんな空間でも神には敵わないということか」
「確かにここに入られるのは仕方がないが、神を殺すことはいくらでもできる。実際、一柱の神を殺しているからな」
「そうなのかい!?」
「マジだぞ」
神を殺せる存在はやはり少ないんだろうな。
そもそも神は加護を与える絶対的な存在だから殺すこと自体が不可能だと思われていそうだ。
「は、ははは! 優斗は本当にすごいなぁ……」
美琴は驚きつつも俺の事を称賛してくれる。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとうエイルさん」
エイルは美琴と天音の分のお茶と和菓子を二人の前においた。
「こ、これはまんじゅうだ! 食べたいと何度も思っていたまんじゅうだ!」
美琴は出されたまんじゅうを見てすぐに手を伸ばそうとするが一旦止まった。
「ではいただくよ」
「はい、どうぞ」
エイルに一言かけてから美琴はまんじゅうを頬張る。
「あぁ……! この味だ……!」
一口食べて懐かしの味に感動している美琴は残っているまんじゅうを口に放り込んだ。
急いで食べたから喉につまりそうになるが温かいお茶を飲んで難を逃れる。
「まだありますから食べますか?」
「ほ、本当かい!? それならありがたくいただくよ!」
エイルの言葉に喜んでうなずく美琴。
一方の天音はお茶とまんじゅうに手をつけずにジッとそれを見ていた。
そして俺の方を見てきた。
「エイルさんやここにいる人たちは神室くんとどういう関係なのかな?」
「なんでそんなことを聞くんだ?」
「気になるじゃん。男女が一緒の家で暮らしているんだからどういう関係なのかなーって思うよね?」
天音は俺の事をそれなりに見下している。
だから魂胆が透けて見える。きっと三人とは何もない関係だと確認したいのだろう。
「私は同居人です」
「やっぱりそうなんだ!」
やっぱりと来ましたよ。
「いやいや、嘘はいけないでしょー。あたしとテレイアは愛人だろ」
「え」
「それはエイルさんに失礼なので同居人で大丈夫です」
「でももうやっちゃってるし関係ないんじゃない?」
「そうは思いませんが」
そう会話しているとエイルが戻ってきた。
「何を話しているのですか?」
追加で山盛りのまんじゅうを美琴の前に置いたエイルがリリスとテレイアが話している内容が気になったようだ。
「ここで住んでいるあたしたち三人が優斗とどういう関係かって知りたいんだって、そこの天音が」
「知りたいのですか?」
「やっぱり知りたいんじゃないのかな?」
そう言われたことでエイルは俺の隣に座って俺の腕を抱きしめる。
「申し遅れました、私は優斗の妻です」
「ご、ごほごほっ! ゆ、優斗とエイルは結婚しているのかい!?」
それを聞いて一番に驚いたのはまんじゅうを頬張っていた美琴だった。
「あぁ、結婚してる。ちなみに母親にだけだがエイルのことを紹介してる」
「もうそんなところまで行っているとは驚きだ……!」
美琴が純粋に驚いているところ、天音は勢いよく立ち上がったと思ったらその手にお茶をもって中身を俺にかけてきた。




