71:邂逅
「もしかしなくてもコンビニから一緒に転移してきた?」
まず口を開いたのが二十代後半くらいの女性だった。
長い黒髪を後ろでまとめて団子にして、王子様みたいなボーイッシュな雰囲気を見せている。
「そうだよね、最初にあの空間から出てた人だよね?」
ボーイッシュな女性に続いて口を開いたのは成人して間もないくらいの女性だった。
黒髪を長く伸ばし、人当たりがよさそうなクラスの人気者みたいな雰囲気だ。
だけど黒髪だからこそうなじ付近の若白髪が少し目立っている。
「よく覚えているな」
俺は周りをよく見ていたから記憶があった。
いや、今の今まで本当に忘れていたけど見た瞬間に思い出した。人の記憶ってすごいよな。
「俺たちはコンビニから転移してきて、俺はあの空間から最初に出た。思い違いはないらしいから同時に呼ばれた組みたいだな」
「そういうことになるね」
「この二人は優斗の知り合いだったの?」
「いや、顔なじみ程度だ。別に知り合いというほどではない」
別に同じ世界から来たと言っても関係はないのだからな。
「そんな悲しいことを言わないでよ……。あたしたち一緒の世界から来たから助け合わないと」
うわ、こんなことを言うのは雰囲気通りだな。
でも俺が助けることはあってもこいつらが助けてくれることはないだろ。俺の能力的に。
「私はここから出ておいた方がいいかしら?」
「どちらでもいいぞ。どうせ話を聞かれて困ることなんてないんだから」
異世界人だと知られている時点で困ることなんてない。
それは向こう二人もそうだろうからそう答えた。
「それなら優斗はここに座ればいいわ」
「あぁ、そうする」
テミスに誘導されてテミスの隣に座る。
そしてちょうどいいタイミングでカリストさんから紅茶が出されてカリストさんは部屋から出て行った。
「それで? 俺に用事があるんだろ?」
同郷だとしてもあまり俺には関係がないからな。
元居た世界で繋がりがあるわけでもないし、神に送られているわけでもないからとっとと用事を終わらせたい。
「そんな言い方ないと思う……あたしたちは一緒に飛ばされたんだよ……?」
「俺は一緒じゃないけどな」
俺の屁理屈に若白髪の女性がイラっとしたのが分かった。
「まずは何事も自己紹介からだ。僕は龍崎美琴、元の世界では会社員をしていたよ。ほら、次は天音の番だ」
「うん。あたしは照海天音! 気軽に天音って呼んでね!」
「神室優斗だ」
神室という苗字を久しぶりに自己紹介で使った気がする。今までは優斗だけだったからな。
「とりあえずはここに来た経緯を話すことにするよ。ここに来たのは残念ながら優斗がいると分かっていたから来たのではないんだ。ここに来たのは魔神病に患っていたからだ」
「ん? 患っていたのか?」
「警戒はしていたんだけど、罠にかかってしまってね。魔神病の物に触れてしまったことで魔神病にかかってしまったんだ」
「罠? そんな罠があるのか」
「カノナス領地も誰かの仕業で魔神病が蔓延してしまったわ」
「あぁ、そう言えばそうだったな」
魔神病をそういうやり方で使うから広まってしまうんではないかと思ってしまう。
ただ、そうやって使う方法があるのなら、もしかしたら魔神病を広めずに移動させる方法が魔神病を使っている奴らにあるのかもしれないな。
まあカノナス領地では一切関係ない話になっているけど。どれだけ強い魔神病を持ってきてもこのエリアでは無になる。
「少し前からこの領地では魔神病が蔓延している死の土地だから近づくなと言われていたんだけど、なんということだ! 最近になって魔神病の噂は綺麗さっぱり消えていたんだ。あろうことか魔神病を消すことができると真逆の噂が広まっていた。魔神病を治す術を調べていた僕と天音はすがる思いでここに来たわけだね」
「へー、そうなのか」
この二人だけではなく、魔神病にかかっている人たちもその噂を頼りにここに来ているんだろうな。
魔神病が治ったからまたかからないわけではない。少しの耐性がつくだけでまた魔神病にはかかる可能性の方が高い。
そのことを知らない人たちでもまた魔神病になるかもしれないとここに留まるのだろうなと勝手な想像をする。
「この領地に入ってから驚きの連続だったよ……。まずはすぐに魔神病が治った! これが一番大きかった。そうだよね、天音?」
「ほんっっっとうに、本当につらかった……!」
「へー、つらかったのかー」
もはや俺に魔神病になる心配はないから他人事だ。
美琴と天音がどれだけつらかろうが寄り添うつもりはない。だから天音がまたイラっとしているのは分かる。
「優斗は魔神病についてはどれくらい知っているのかな?」
「かなり知っているぞ。だから説明しなくて大丈夫だ」
何なら現地人から説明されているからな。異世界人に説明されるまでもない。
「それならいいんだ。それで魔神病が治ったことで、この状況がどういうことか知るために調べていたらお腹が空いてしまってね。優しい領民に食料を恵んでもらったんだけど、なんとその食料が僕たちがよく知る避難食だったんだ! これにも驚かされた!」
どうやら避難食はちゃんと行き渡っていたみたいだな。それに領民の一年分の食料だからかなりの量があって分け与えることができたんだろう。
それに今のカノナス領地は豊かになっているわけだから、食料に余裕があることで心の余裕ができて分け与えてくれたのかな? いや普通に優しかっただけかもしれないが余裕はあるだろう。
「その領民に聞けば、これは領主であるテミスさんが救世主に与えられた食料でそれを領民に十分なほどに行き渡らせたと言っていた。この避難食は間違いなく僕たちが知るものだったから、その救世主とやらに会いたくてテミスさんに会いに来たわけだよ」
「救世主なのか。そこはアストレアでよかったんじゃないか?」
「それは私も考えたわ。でもさすがにアストレア様に嘘をつかせるわけにもいかないと思ったから、救世主にしたのよ」
そういうものか。神には適当に押し付けていればいいのにな。
いや、こういう考え方は俺だからか。アストレアに救ってもらったテミスはそう考えない。俺はアストレアに迷惑をかけられているからな。
「それから僕と天音はこのアストレアの神殿がある都市にたどり着いた。そこでもまた驚かされたよ。並んでいたから何の列か分からずに並べば、体力を全回復する聖杯があったんだから!」
あぁ、そう言えば聖杯も置いていたな。
「そういや聖杯ってカリストさんも持っていたよな?」
「えぇ、それは屋敷持ちとして置かれているわ。それにしてもあの聖杯はとてつもないわね」
「そうか?」
「優斗が考えている以上に異常よ」
傷を回復させて体力を全快させるあの聖杯が。
「どれだけ徹夜をしても、どれだけ死にそうでもあの聖杯の雫一滴で何事もなかったかのように動けるのよ? それがどれだけすごいか分かっていないの?」
「あー、言われてみればそうか」
「あの聖杯を使った時の爽快感は異常だったよ! それは本当にすごかった! とてつもない快感だった! まず魔神病によって失われていた体力が瞬く間に戻っただけではなくて、今までについていた傷も全部治ったんだ! 一生ついて回ると思っていた傷も、全部だ! 産まれたままの状態がこれだと認識したね!」
え、そういう感じだったか? 適当に聖杯っぽくすごい感じで作ったから正確には分からない。
でも受けた本人が言っているんだからそうなんだろうな。
「だから今忙しい時期でも回っているのよ」
「聖杯を乱用しているのか」
「そうしないと回らないもの」
聖杯をたくさん使ったところで悪影響は一切ない。だから責めることもしない。
それがないと生きていけない、仕事ができないと思うこともない。すべて治るのだから。
「そして昨日テミスさんに会った。その時に使っていたスマホにも驚かされたよ。僕たちが持っていたスマホは使えないと思って売り払ったか、ボロボロになって捨てたからね。新品の状態のスマホを目にして確信したんだ、僕たちと同じ世界かそれに近しい世界の異世界転移者がとてつもない力を持っているってね」
美琴が言っていることは全く間違っていない。
でも美琴や天音たちもチート能力を持っているものだと思っているんだが、違うのだろうか。
「優斗、君はどんな能力を持っているんだい? もしかしてここの神殿も、その神殿にあった聖杯も君が作り出したものなのかな?」
さっきの会話を聞けば聖杯に俺が関係しているのは分かることか。
まあこいつらがどうなろうがどうでもいい話だが、同郷のよしみというものもある。
この二人が俺が作ったと言いふらしたとしても俺はそこにはいないから別に問題はないか。
「あぁ、俺が作った」
「……そう言われても、にわかには信じられないね」
「聞いて来たのに疑うってどういうことだ」
「いや、そうだよね。そうなんだけど……その、僕たちの能力とは違って明らかに強すぎるんだよ」
「へー、それなら二人の能力は何なんだ?」
気になっている話題になったから聞いてみる。
「僕は二体の龍を使役することができる『円環の双龍』よ」
美琴の周りに二体の龍が現れた。
一匹は赤く、王冠をつけていた。
一匹は黄色く、一対の翼を持っていた。
「それで天音の能力は――」
「あたしの能力を教えてもいいんだけど、まず神室くんが本当にそんな強い能力なのか知りたいかな?」
おぉ、完全に疑っている感じを出しているな。
しかも天音の言っている感じが完全に見下している感じなんだよな。俺が陰キャとかそう思っていそうな感じだ。
別にこいつらに信じてもらう必要はないんだが、むしろこいつらの度肝を抜いた方が面白いか。
だから身の毛もよだち、本能で理解するほどの武器を取り出してやることにした。
俺がチートな箱庭から取り出したのは漆黒の刀身に白いオーラを纏った剣だ。
剣を取り出した瞬間、存在感が周りに伝わり空気が重くなるのが分かる。
俺は何となく分かっているだけで、他の三人は直で理解しているようにこの剣に目が釘付けで冷や汗をかいているのが分かる。
「そ、それは何かしら? できれば抑えてくれると助かるのだけれど……」
「これは万物の理を切り裂く剣だ。例えば火でやけどをするという事象を切り裂いてやけどしないようにできる」
「それは……すごいわね」
「そうだろ」
俺はその剣をチートな箱庭に収納して剣による圧は消えた。
「これで信じることができたか? 俺はあの剣や聖杯みたいに何でも作り出すことができる」
「ふぅ……すごいな優斗! あんな存在感は初めてだったよ!」
そんな風に作ったからそう思われて当たり前だ。
「これでそっちの能力を教えてくれるのか?」
今度は俺が見下す感じで言えば天音がまたイラっとしているのが分かるが、そんな表情を天音は出さずに答えてくれる。
「神室くんがちゃんと教えてくれたからね、教えてあげるね! あたしはこの『光輝なる天剣』だよ」
天音が何もないところから取り出したのは光り輝く剣だった。
ミカエルと名前がついているから強そうではあるが……まあさっき出した俺の武器よりかは存在感はないな。
「ふーん、洞穴を照らすにはちょうどいいな。でも悪いな、俺よりも先に出していればその剣がかすむこともなかったのに」
「ううん、そんなことは全然気にしていないから平気だよ」
嘘だ、この女めっちゃキレているのが分かる。それも俺に言われて相当腹が立っているのが顔の色々な部位から読み取れるから笑いそうになる。
ぶっちゃけこいつらみたいな元の世界ではトップカーストに入る女たちに、こうして能力や異世界に来てからの生活の差があるだけで十分に気持ちがいい。
あぁ、俺はこいつらに勝っているんだと自覚できるのはいいことだ。




