70:三度目の異世界
テミスとの通話を終え、もう少しで起きるであろうエイルが起きるまで天井を見てボーっとすることにした。
さっきのテミスとの通話ではカノナス領地に俺と同じであろう異世界人が訪ねてきているらしく、俺に会いたいと言っているらしい。
どうして俺個人なのかは本人から聞いてくれとテミスから言われて通話は終わった。
一応今日中には行くつもりではあると伝えたから行かなければいけないわけだが。
……ぶっちゃけあの場で一緒に転移したやつらのことを全く覚えていないんだよなー。
誰一人として顔が思い浮かばないくらいに俺にとってはどうでもいいやつらだ。
でももしかしたら俺と同時に来た異世界人ではない可能性だってある。この世界には異世界人という概念があるのだからあの場にいた誰かと決めつけるのは早計だ。
同じような世界から来ている人間である可能性は全然あるからな。たぶん。
そもそもどれくらい勇者として異世界召喚? 異世界転移しているのかは分からない。
それなりに来ているのなら現代技術の一つや二つ伝わっていてもおかしくないところだ。
まあ俺は世界を見て回っていないからそういうところは全く知らないんだけどね。
異世界はカノナス家や元アイテル聖王国、それからダンジョンしか見ていないから異世界がどうなっているのかは全く分からない。
興味もないし興味が出てもチートな箱庭からすぐに見ることができるからそこら辺はどうでもいいことか。
「ん?」
天井を見ていたがチラッとエイルの方を見ればエイルは起きていて、俺をジッと見ていた。
「ふふっ、おはようございます。優斗」
「おはよう、エイル」
俺と目が合ったら微笑んできたエイル。
思えば俺と目が合ったら絶対に顔を緩ませているな、エイル。まあたぶん俺もだけど。
「何か考え事ですか?」
天井をボーっと見ていたらそう思われても仕方がないか。
「少しな。それよりも起きるか」
「はい。……テレイアさんは優斗のおちんちんが好きですね」
「あぁ、たぶん俺よりも好きだろ」
エイルが可愛い言い方で息子を言ったから息子が反応してしまう。
「ぁ……」
さっきの朝勃ちでは反応しなかったテレイアだが、今回のピクで目が覚めたみたいだ。
どっちにしろテレイアは起こさないとガッチリと俺をつかんでくる。
「おはよう、ございます……」
「おはようテレイア」
「んぅ……」
俺の顔を見た後、すぐに俺の股間に顔をうずめるテレイア。
「これ……さいこーですよ……」
「そ、そうなのですか……? 確かに優斗のにおいは好きですけど……」
「エイルも嗅いでみるか?」
「……いえ、今日はやめておきます。また始まりそうなので」
あぁ、それは思った。絶対に始まるだろうなと思って誘ったのだがエイルの自制心は強かった。
だから朝のコーヒーの香りを感じるみたいなルーティーンをテレイアがしてからリリス以外は起きた。
リリスは相変わらずその魅力的な裸体をはだけさせて寝ているから、ずっと見ていたらおったちそうだからあまり見ないようにしながら服を着て三人でリビングに降りた。
いつものように朝食を作ってからリリスを起こして四人で朝食を食べたあと、四人が揃っている段階で話を切り出す。
「エイルとリリスはテミスのことを覚えているか?」
「あぁ、あのマゾね」
「はい、覚えていますよ」
テレイアはまだいなかった時だから分からない。話題にも上げていなかったから知る由もない。
「実は朝にテミスから電話があって、テミスに会いに行くことになった」
やっぱり早めに終わらせるべきだと思ってさっさと三人に説明して行くことにした。
チートな箱庭に引きこもってばかりだから外に出るのは少し億劫ではあるが。
「……いつテミスさんの処女をいただくのかと思っていましたが、ようやくなのですね」
「え」
「それならあたしも行かないといけないなー。処女のセックスはいつ見ても楽しいんだから」
「いや」
「は? どういうことですか?」
「あたしらみたいにここに迷い込んだ女の子が、領民のために体を差し出して優斗から食料を与えてもらったわけ。処女もその一つだ」
「そういうことですか。私みたいに押し売りをしたわけですね」
「あれは押し売りだったけど……優斗もノリノリだったからなー」
「まあそういうこともあります」
下手したらテレイアがここに来るまでに行われていた下衆みたいなやつらと一緒にされたかもしれない。
だけどここでのテレイアはリリス以外には基本肯定するから俺が悪い扱いにはされない。
というか誤解を解いておかないと。
「今回はそう言うわけではない。別件でテミスから呼ばれたんだ」
「別件ですか?」
「あぁ、俺と同じように転移してきた異世界人が俺と会いたいって言ってきたみたいなんだ。だからそいつらに会いに行く」
別に隠すことではないから答える。
「もしかして優斗と一緒に来た人たちなのか?」
「それは分からない。会ってみないと分からないな」
「ふーん、そうか」
「俺一人で行くから三人はここにいてくれ。すぐに終わるだろうし」
さすがにそんなことでエイルたちをカノナス領地に一緒に行かせることはしない。
「分かりました。では私はここで私の仕事をしています」
「悪いな」
「いえ、お気になさらないでください!」
「一人ならアラギで撮影しててー」
「分かった、どうせ回しておくだけだしな」
相手に分からないようにアラギを回しておけばいいだけだし、世界が違えば俺がいた世界で動画を公開しても迷惑はかけないだろう。
「でもさ、あたしたちがいなくて大丈夫?」
「大丈夫だろ、たぶん」
「優斗さんを心配する要素があるんですか?」
チートな箱庭の中だけの強さしか見ていないテレイアがそんな疑問を口にした。
「俺はこの箱庭の外に出たら普通な人だからな。チートな箱庭から武器や防具を取り出せるから全く弱くはないけど、それでも体は一般人だ」
「魔力は多いけどね」
「そういうことですか。それなら私が護衛でついて行きましょうか?」
「気持ちは嬉しいけど大丈夫だ。一応外に出てのチートな箱庭の応用は考えてある」
「へー、どんなの?」
リリスが興味津々に聞いてきたから考えていることを説明する。
というか二ヶ月の間でふと思いついたことだからできるかどうかまだ分からない。
「この箱庭から武器を取り出したり外に出るとき、外と箱庭を繋げている。その繋げている行為を拡大解釈して、重ねるということにすれば俺の箱庭がその世界に侵食していることになる。その間はその空間は俺のチートな箱庭のルールが適応されるようになる。だからあちらでも俺は無敵になる、ということを考えている」
「そのようなこと……いえ、優斗ならできそうですね」
「ま、できなかったらあたしやテレイアが一緒に行けばいいってことだ」
「私だけで十分、と言いたいところですがまだ過信するほどの強さは持っていませんから弁えます」
「失敗したらお願いするよ。でも武器や防具も揃えているから不足はないと思っている」
俺は一般人だからな。油断は絶対にしない。
☆
朝の身支度を済ませ、俺は家を出る。
エイル、リリス、テレイアが俺の見送りをしてくれる。
「じゃ、行ってくる。すぐに帰ってくるから」
「はい、なるべく早く帰ってきてくださいね。遅かったら、何を考えるか分かりませんよ……?」
エイルの闇なる圧を受けるけど俺はそういう重さも受け入れるから気にならない。
「はいはい、このエイルを抑えておくから早く行きな。あ、それから本当に処女を奪う流れだったらちゃんと撮影しておいてねー」
「いえ、やはりテミスさんの処女を奪うとしても私の前でしてくださいね……?」
「あぁ、そうならないとは思うけどそうする」
「私はいつでも優斗さんの護衛ができるように準備しておきますから、安心してください」
「あぁ、すぐに呼ぶ」
三人の見送りを受けながら、俺は『拒絶の腕輪』を装着してからアラギの撮影を開始させ前回出たカノナス領地に座標を定めてそこに出た。
二ヶ月前は真っ黒な場所だった。
だけど今俺の目の前にある光景は全く違った場所に変わっていた。
黒に染まってボロボロになっていた建物は一新され、まだ建築途中の建物もあるがそれでもかなり建物は建てられていた。
しかも人々が生き生きとして行きかっている。俺が見た時は沈黙が支配していたが今では賑やかでしかない。
ボコボコになっていた地面が綺麗に整備されているから馬車も通れるようになっている。
極めつけは俺が設置したあの神殿には、多くの人が神殿に入るために並んでいた。
……なんだ、あの長蛇の列は。観光地にでもなっているのか? それで収益を得ているとか?
あれはすでにテミスのものだからどう使おうが気にならないし、ここまで上手く使いこなすのなら上手と言わざるを得ない。
昨日テミスから聞いたからどうなっているのかと少し心配したが、カノナス領地は大丈夫なようだ。
ということで俺は早速チートな箱庭の応用ができるかどうか試さなければいけない。
現実世界を侵食する、というアニメとか漫画を見ていて思いついたことだからできない可能性の方が高い。
でもやれたらできることが増える。まあ外に出ることはほぼないけどできたらできることが増えるのは変わらない。
いつものようにチートな箱庭からものを取り出そうと空間を繋げる。
それを拡大解釈をする。空間を繋げるのではなく、チートな箱庭の一部をこの空間に重ねる。
「お」
重ねることができた。
今俺が立っている場所はチートな箱庭と異世界が同時に存在している場所だが、チートな箱庭の方が存在が強いからしっかりとルールがこの中に存在している。
「おぉ……!」
拍子抜けするくらいに簡単にできてしまった。
だけどこれができたということは、この世界を丸ごとチートな箱庭で包み込むことも可能ということだ。
重ねる大きさは自在に変えることができるから、視線の先の建築中の建物も完成させることもできる。
まあチートな箱庭にはどこの誰かも分からないやつらを入れるつもりはないから大きく重ねることはしない。
でもこれで俺が異世界で死ぬことはなくなったわけだ。かなり安心しているしチートな箱庭にいる時みたいに落ち着くことができた。
エイルにできたことをメッセージで送っておく。
さて、心配も何もなくなったからここからテミスのところに行かないといけないわけか。
ここからでも見える一新された屋敷にいるだろうな。
確かに前に見た屋敷もボロボロだった。庭も建物も。だけど今ではピカピカになって前よりも大きくなっているのが分かる。
あれがユウト公国の城なのかな? つまりは俺の城というわけか。いや違うか。そもそも城なんか持ったところで嬉しくない。
あの屋敷に行けば会えるのだろうか。でも普通に考えたら城に入る時って気軽に入れるものじゃないよな。
……連絡するか。
屋敷に向けて歩きながらテミスの連絡先をタッチして耳元にスマホを当てる。
三コール目で通話がつながった。
『は、はい』
「こちら優斗だ。今テミスの屋敷の前にいるんだが、どうすればいい?」
『も、もう来ているの?』
「あぁ、さっさと終わらせたかったからな」
『それならメイドのカリストを向かわせるから、屋敷に入って待っておいて』
「勝手に入っていいのか?」
『えぇ、いいわよ。何せここはあなたの神器で敵意がある者は戦えないようになっているのだから警戒する必要はないわ』
「あぁ、そういうことか」
それにしては神器を信用しすぎだろと思いながらもテミスとの通話を切ってから大きな屋敷の敷地内に入る。
敷地内では使用人やら屋敷の外から出てくる商人らしき恰好の人とすれ違うが俺が屋敷に向かっていても気にする素振りはない。
だからいつでも屋敷を自由に出入りしているのだろうな。
神器がこういうところで活躍しているのはたるみに繋がりそうだけどそこは俺が気にするところではないか。
堂々と屋敷に入れば、前回来た時とは明らかに豪華になっている内装だった。
ここまで豪華にする必要があったのか疑問が残るところだ。
「お待ちしておりました、優斗様」
屋敷に入ってすぐに俺に話しかけてくるメイドさんがいた。
前回、扉の先にいたメイドさんと同一人物で、セミショートの黒髪に表情を出さなさそうなメイドさんだ。
前回と違う点は服がちゃんとしていて体も綺麗になっているところだ。
「前に来た時に会ったメイドさんですよね?」
「はい、その時は本当にありがとうございます。前回はお礼もろくにできなかった上、うちの者が優斗様の奥様に失礼をなさったこと、私からも深くお詫び申し上げます」
深々と頭を下げてくるメイドさん。
「そのことは大丈夫ですよ。もう終わったことなので」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「えっと、あなたがカリストさん?」
「はい、私がカリストです。お嬢様より優斗様の案内の任を承りました」
「それなら案内をお願いします」
「はい、こちらです」
カリストさんを先頭に屋敷の中を歩く。
てか主人にはため口で話してメイドには敬語で話しているな。ふとおかしなことだと思ってしまったが、あれはテミスが悪いだけだ。
屋敷の中ではかなりの人が行き来しているのが分かる。
「忙しいですか?」
「はい、かなり忙しいです」
行き来している人を見ながらカリストさんに問いかければそう返ってきた。
「どういう感じで忙しいんですか?」
「ユウト公国に移民してくるものが多いことが特に忙しい要因になっています」
「そんなに多いんですか?」
「はい。このユウト公国は魔神病から唯一安全な場所として広まっています。それにアストレア様の神殿があるということで多く訪れて移民してきます」
へー、そんなことになっているのか。
でも魔神病って基本不治の病だからその危険性がない土地ってなれば誰でも来たくはなるか。
「こちらのお部屋にテミス様とお客人がいらっしゃいます」
「ありがとうございます」
カリストさんが扉をノックしてから開けてくれた。
「また会えてうれしいわ、優斗」
まず見えたのは俺が作ったドレスと同じ? 黒のドレスを身に纏った長い銀髪を持つテミスがソファに座っていた。
そしてテミスが座る対面のソファに座っている二人の女性がいた。
「ん?」
「お」
「あ!」
俺から始まり二人の女性がそれぞれ反応した。
俺もだが、おそらくあちらも見たことがある顔だったのだろうな。




