65:配信途中終了
ストーンアントを倒して順調に一階層を進んでいけばようやく俺が見つけたかったものが見つかった。
「お、あったな」
「もしかして、あれですか?」
「あぁ、そうだよ」
俺の言葉にすぐにテレイアは何のことか気が付いた様子だ。
俺が探していたのは一階層にある橙赤色の鉱脈だ。
一階層には三か所と設定していたが俺はそれがどこにあるのか分からない。その設定は任せているからな。
「これ、とっていいんですか?」
「いいよ。簡単にとれるはずだ」
テレイアは鉱脈に近づいて一部に触れれば簡単にとることができた。
「こんな簡単に」
「道具とかを考えていたら面倒だからな」
「お、あたしもやっていい?」
「ご自由にどうぞ」
リリスもその鉱石を手に取って簡単に採掘した。
テレイアはアントロックの時に教えたアイテム詳細確認を早速鉱石にも使っていた。
『魔銅
レアリティ:1
魔力を秘めた銅。比較的容易に入手することができる魔鉱石。
加工しやすいが魔導率もよいためかなり使いやすい魔鉱石となっている』
「それは上層では一番使う鉱石だ」
「そうなんですか?」
「まあ使わなくなることはないから見つけたら回収して損はない。それに買取もされるからな」
ゲームで初期で使っていたアイテムが後半になって使わなくなるというのはよくあることだと思う。
いやゲームとしては後半になってアイテムレベルが高いものを使っていくから仕方がないことではある。
でも最初に持っていたアイテムがゴミになるのは悲しいことだ。
だからできるだけ使われるようにしたし、買取も高く売れるようにはしている。
「どこかで買取してくれる場所があるんですか?」
「セーフエリアがそうだな」
「あぁ、そういう役割だったんですね」
「そういうのは行ってみれば分かる」
すべてのセーフエリアが買取をしてくれるわけではないからそう言っておく。
「あれ、この袋ってもしかしてゲームみたいにかなり入る?」
いくつもの魔銅を支給された袋に入れたリリスがそのことに気が付いた。
「特別製の袋だ」
「おー、そういうものを作れるってさすが優斗の力だね」
「ちなみにダンジョンでしか使えないからな」
「えー、他のところで使えないのー?」
「そうしたらリリスが何でもかんでも入れるだろ」
こういうチートなものは制限しておかないとバランスが崩れるからな。まあリリス以外はダンジョンでしか使わないけど。
「あ、この鉱脈の場所は変化しないぞ。だからオーナーにマークしてもらえば時間が経てばまたここに出現する」
「鉱石なのに?」
「そんなことを言ったらモンスターもだろ」
「それもそうだった。ちなみに復活までの時間は?」
「秘密だ。でも調べれば分かることだ」
そこら辺は俺が操作しているから復活までの時間は知っている。
「ふーん、それは教えてくれないんだな」
「あぁ、それに階層によってその時間は変化するしそこまで周回したいわけではないだろ」
「それもそっか」
教えてもいいけど教えなくてもいいのなら教えない。
何でもかんでも教えたらつまらなくなる。
オーナーに魔銅の場所をマーキングさせてから俺たちは一階層を順調に進む。
テレイアは隅々までダンジョンを探索する派らしく、隅々までダンジョンを探索して地図を埋めていた。
途中、一階層最後の難所を俺たちは発見した。
「この扉は……?」
テレイアが見ている先には今までなかった大きな扉が存在していた。
「この扉の先には階層主がいる。階層主を倒さなければ二階層には進めないようになっているぞ」
「確かに、扉の先にはこれまでのストーンアント以上の存在がいますね」
エイルも扉の先に何がいるのか理解できている様子だ。
「倒すのは今でなくてもいいんですよね?」
「いつでもいいぞ。何ならセーフエリアに戻ってサブクエストをこなしても構わないし、魔銅を換金したり今日は終わらせてもいい」
この一階層はまだチュートリアルだ。だからダンジョンでは一番簡単だ。
このまま一階層を踏破することは今の俺たちなら簡単にできる。
ただそれを決めるのは俺ではない。このパーティのリーダー的ポジションにあるテレイアだ。
それをリリスも分かっているからテレイアの判断を待っていた。
「一度セーフエリアに戻ります。レベルも上がらなくなってきたので優斗さんとエイルさんのステータスも一度整理していいかと」
「そうだな。それなら戻らせてもらおうか、エイル」
「はい、私たちだけ動きが変わっていませんから少し心苦しく思っていたところです」
そんなことを言ったら俺はエイルの護衛というだけのほぼニートだったぞ。
「お二人がいるだけで心強いですからお気になさらず」
テレイアがそう言ってくれるが俺は本当にいるだけだからな。まだエイルは矢で支援していた。
俺たちはボス部屋から離れて一階層のセーフエリア『ワンダー村』まで戻ってきた。
「ダンジョンのモンスターはセーフエリアに出てこないのか? 例えば追いかけられている時とか」
「基本的にな」
「へぇ、そうなんだ」
俺の言葉の意図を理解した様子のリリス。
基本的にはない。それは本当だ。でもそういうことが起きるかもしれないから絶対に出てこないとは言い切れない。
だから基本的にと答えた。
「ここで一旦休憩するか」
ダンジョンに潜りっぱなしだったから休憩を提案した。
「そうですね。どうせでしたらここでお弁当を食べるのはいかがですか?」
「さんせーい、あたしお腹空いたー」
「私もそれで構いません」
今の俺たちは誰もお弁当を持っていないが、家にはちゃんと俺とエイルが作っておいたお弁当があるためそれをここに瞬間移動させた。
ついでにレジャーシートも敷いて準備万端な状態だ。
「このチートな袋があるのなら持ってきてもよかったね。入れれるし」
「そうだな。一応その袋は中が時間停止して傷つくこともないからな」
「え、時間停止もの?」
「どうしてものをつけたんだ。その袋に生物は入れることができないから時間停止ものにはならないぞ」
「でも時間停止するアイテムを作れるんだろ?」
「それを何に使うんだ」
「サキュバスが使うのならやることは決まってるじゃんかー」
「下品な生き物は黙っていてください」
「またまたー、テレイアだって時間停止されて快感が一気に襲い掛かってくる感覚を知りたいよねぇ?」
「あなたと同じにしないでください」
とは言いつつも気になっているのがテレイアだ。
☆
美味しいお弁当を配信で食べてからみんながゆったりとしている間に俺はステータスを割り振ることにした。
「あまり興味がないかもしれないが俺のステータスを割り振るぞー」
アラギに向けてそう宣言する。
それまでの配信のコメントはエイルをお嫁さんにしたいとかエイルのお弁当羨ましいとかそういうコメントが流れていた。
だが俺がそう宣言するとコメントは一変した。
『いらねぇよ』
『フリーダムステータスはエイルさんだけで十分だ』
『お前は元々いらない』
『ニート働け』
『どんな風にするの?』
『普通に考えてお前のステータスなんて知りたいわけがないだろ』
『追放されろw』
『お前以外が見たいのに誰がお前を見たいんだよ』
とあまり俺はお呼びではないらしい。
「なんですかこれは」
そのコメントを見たテレイアは険しい表情を見せた。
テレイアは嬉しいことにダンジョンに夢中で気が付いていなかったが、ダンジョン探索中には俺に強い当たりをしていたコメントはそれなりに来ていた。
俺はその通りだと思って気にしていなかったが一度目にしてしまっていたエイルは結構険しい表情をしていた。
リリスは俺と同じで気にしていない様子だったけど。
「俺はお呼びじゃないらしい」
「……はぁ、もういいです。もうこれ以上配信をしても気分が悪いだけですから終わらせてください」
テレイアはかなり怖い顔をしてそう言った。
何度か配信に出ているテレイアだが、こういう俺を馬鹿にするようなコメントは未だに嫌悪感を示している。
そしてそこで知ったのは言い返すのではなく配信を終わることが一番コメントを打ったやつらにダメージを与えれるということだ。
だからテレイアは配信を終わらせようとしている。
「あー、もう少しやらない? せめてサブクエストをやっているところとか」
「無理です。どうしてこんなに楽しくダンジョン攻略をしているのに気分を悪くしないといけないんですか?」
「そうだよねー……」
ここはテレイアのために作られたダンジョンであるからテレイアの気分を悪くするのは意味が分からない。
「さっさとその気持ち悪い配信を終わらせてください。不愉快で仕方がないです」
テレイアはアラギを感情のない目で見ていた。
それからこの配信をつけているのがリリスだからまたリリスへの好感度は下がっているという状況だ。
配信はリリスがやりたくてやっているから自業自得と言えば自業自得だ。因果応報。
『待ってくれー! 俺たちが悪かったー!』
『テレイアさんがいるのにいつもの調子でいるから』
『ごめんなさい!』
『許して! 配信をやめないでくれー!』
『やめろ、おもんないから』
『さすがに私でも好きな人が馬鹿にされたらこうなる』
『あーあ、悪口言ったやつ全員BANされろ』
『僕は最初から見たいって言ってたのに、こいつらがネットだからってアホなことを言うから……』
本気で配信を終わらせようとしているのが分かったからコメントはかなりの数謝罪の言葉が流れていた。
「視聴者もこう言ってるんだからもう少しやらないか?」
リリスはテレイアの説得に入る。
「は? 嫌に決まっています」
「うーん、これは無理そう。よし、配信は終わろう」
お、意外にも早く説得を終わらせたな。
『まじかよ!』
『一番厄介なテレイアの機嫌を損ねるから……』
『え……ボス見てみたかったんだけど』
コメントには動揺が走っている。
「配信は終わらせる。だからこの先を動画にしたいから撮影をしていてもいい?」
「……一緒のことではありませんか?」
「一緒じゃないよ。ほら、何回もコメントを書かれることもないから」
「……まあ、それなら」
リリスの見事な説得によりここから先の展開が分からないという状況はなくなったわけだ。
最悪、ダンジョン配信がこれまでという場合もあり得た。
だってテレイアが主役の場なんだからテレイア以外でダンジョン攻略をするのはないわけだからな。
もしかしたらリリスだけの状況が……いやないな。リリスもそれはしない。
「そういうわけだから、お前らのせいで配信はここまでだ。この続きは動画で投稿するかもしれないからー」
リリスは絶対に動画投稿するだろうがそう言い残して配信を終わらせた。
俺へ他責するようなコメントが見て取れて本当に終わってるなと思いながらも配信は終了した。
「さ、ここからは動画撮影だ。動画だからもう何も気にしなくていいよー」
「私は最初から何も気にしていませんが?」
「テレイアはそうだろうな。でもダンジョンでイチャイチャしても問題ないってことだよ」
「ダンジョンでイチャイチャするとか馬鹿なんですか?」
「危険を伴ってやるのは色々とドキドキするだろ?」
「……本当にサキュバスですね。すごく感心します」
「おー、褒められたー」
「そうですか、それはよかったですね」
リリスとテレイアがいつものやり取りをしているとエイルがピッタリと俺の近くに来た。
「ふふっ、これを見せつけていればよかったと思っています」
俺の近くに来て俺の腕に抱き着いてから俺の肩に頭をのせてくるエイル。
こういうことは荒れ気味になるからやらないようにしていたエイルだが、荒れているのなら関係ないということなのだろうな。むしろもっと荒れろと。
「そうだな、荒れたらこれをやるか」
「私が誰のものか見せつけないと分からないみたいですから」
文字列でエイルが自分のものと主張しているやつらが一定数いるわけだが、冗談だとしてもエイルはそれがあまり好きではない。
だからそういうやつらに反撃する機会をうかがっている節がある。
「はいはい、そこイチャつかない」
「夫婦なんですから当たり前のことですけど?」
「TPОをわきまえろってこと。いつでもいちゃついていいわけないじゃんか」
俺とエイルがイチャついていることをずっと肯定しているテレイアはリリスの普通のことすら否定する。
俺から見ればヤバさはどちらも一緒くらいだ。
「ここから撮影を開始させるよ」
「あぁ、分かった」




