64:ダンジョン探索
「一度戻りますか? 私とリリスさんはステータスがすでにアップしていますけど、優斗さんとエイルさんはそうではないですよね?」
テレイアが気を遣ってそう言ってくれる。
「俺はこのまま進んでいいよ。エイルはどうしたい?」
「はい、私も優斗と同じです」
「そういうわけだから進んでいいぞ」
「分かりました。戻りたいときは遠慮なく」
テレイアの気遣いをテレイアのために断って俺たちは進むことにした。
さすがにここでイチイチ戻って気分をリセットするのは可哀想だし、視聴者も気分が切れるよりかはいいだろう。
「テレイアは剣の才能がなかったんだよね?」
「はい、ついさっきそう言いました」
「それなのにかなり使いこなしていたな。これもジョブのおかげ?」
リリスは俺に問いかけていたから素直に答えることにした。
「そうだよ。ジョブステータスのメリットは使う武器、戦い方、センスが備わっていること。だから剣の才能がなかったとしても剣士として剣を使いこなすことができるわけだ」
「へぇ、それなら才能がないのならジョブステータスを選んだ方がいいってこと?」
「そういうわけではない。ジョブステータスはその戦い方しかできない。戦っていけばある程度応用は利くが、限界がある。例えば剣士なら魔法を使えないとかな」
「ランダムステータスとかフリーダムステータスは違うのか?」
「例えばエイルが使っている弓。弓を使ったことがなかったとしても武器補正が付いているから当てることはすぐにできる。だから初めて使うとしてもジョブステータスほどではないけど武器は使うことができる。それにこの武器補正は弓なら攻撃と器用の数値が高ければその分上手になる。ジョブステータスとは違うところはステータス値が他でも応用することができる点だ。攻撃と器用を要する短剣を使おうとすればジョブステータスではジョブを変えないといけないが、他二つのステータスは武器を変えるだけで使うことができるわけだ」
「あー、そういうことか。ジョブステータスにいい点もあるけど、別に他二つでも問題ないってことか」
「そういうことだ。それにジョブステータスならスキルや魔法をレベルアップで覚えることができる」
「お、マジ? ランダムステータスとフリーダムステータスはない?」
「ま、そこはお楽しみだな」
「なるほどねー、ダンジョンに何か隠されているのかー」
さすがゲームが上手いだけあるな。そこの意図を察している。
「ということは、逆にジョブステータスはダンジョンの何かが使えないってことなのか」
「それもお楽しみだ。ここで考えていても仕方がないだろ?」
「それもそうだね」
「そうです。そういうことは別の時間にしてくれませんか?」
相変わらずリリスへの態度は刺々しいテレイアだがちゃんと話は聞いていたようだ。
「あ、そうだ。みんなマップを開いているか?」
俺は忘れていたマップのことを言う。
「いえ、やっていません。やった方がいいですか?」
「やった方がいいぞ。何せ、マップは開いておかないとマッピングされないからな」
「勝手にやってくれるんじゃないんだ」
「そういうことだ。ちなみにマップへの書き込みは自分でもできるけどオーナーに頼んだ方が速いぞ」
「あぁ、オーナーの仕事ってそういうことだったのか」
俺たち全員マップを開いたことで入り口から少ししたところからマップが埋まり始めた。
「マップを全部埋めれば報酬も出る要素はある」
「それならやらないとね」
さっきから口を開いていないエイルに声をかける。
「エイル、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。優斗の説明はあまり理解できませんでしたが、優斗と一緒にすればいいですから」
「まあ、その時にまた説明するから大丈夫だな」
「お願いします、優斗」
やっぱりこの手の話になるとエイルは口数が減るからなぁ。
テレイアもテレイアで理解できているのかが分からないからあとで確認しておこう。
「ん? あぁ、あたしとテレイアのステータスが気になる? それなら表示してもらおうか。オーナー」
アラギでコメントを見たリリスがステータスを表示するためにオーナーを呼ぶ。
ちなみにテレイアはステータスを見せることに対してかなり渋っていた。
ステータスがどういうものかその時は見ていなかったが、それでもステータスは個人情報だからそういうプライバシーを公開することに嫌悪感があったのだろう。
俺もテレイアが嫌なら無理強いをするつもりはなかったものの、俺とエイルが見せると言えばテレイアも見せると言ってくれた。
どれだけエイルが好きなんだよと思ってしまうんだがそれはまあいい。
『かしこまりました。リリス様とテレイア様のステータスを表示します』
オーナーによってリリスとテレイアのステータスがそれぞれ配信上に映し出されえた
『リリス
Lv:3
攻撃:119
防御:45
速度:53
器用:13
魔力:1
魔攻:39
魔防:1』
『テレイア
ジョブ:剣士
Lv:3
攻撃:31
防御:36
速度:30
器用:34
魔力:6
魔攻:8
魔防:26』
映し出された二人のステータスは明らかに差があった。
「二人とも魔法使いタイプのステータスではありませんが、リリスのステータスは異常に高いですね」
「それがランダムステータスのメリットだな。ただ、順調に上がり過ぎているのがすごいところだ」
リリスは前衛の大剣使いであるからこのステータスの上がり方はジョブステータスの上がり方に近い。
それをランダムステータスでできているのだからリリスの運がすごいということだ。
「ランダムステータスの醍醐味だなぁ」
「……どうせどこかで変に伸びますよ。これから全部魔力に伸びろ」
どうやらテレイアはステータスの差が悔しいようでそういう呪詛を吐いた。
「はは、それは無理な話だねぇ。決められたレールしか走れないステータスは大変だなぁ」
「そのレールに乗って轢き飛ばしてあげます」
まあリリスがこのままいけばリリスが勝ってしまう。普通はな。
でもジョブステータスは決められている分、優遇されているからステータスが勝てる可能性は全然残っている。
それを知っているがまだ言わないようにしておく。
リリスに勝つべく再び歩き始めるテレイアに俺たちは続く。
途中で襲い掛かってくるストーンアントやこちらに気付いていないストーンアントの集団を片付けながら進む。
「あのストーンアントは擬態しているのですか?」
エイルが歩く先にいる天井に視線を向けてそう言った。
しっかりと見れば確かにストーンアントのネームが出ているのが見えた。
「おぉ、そうだな」
「確かに……擬態していますね」
「おー、ストーンだから壁に擬態することもできるんだ」
こんなことを設定しているとは思わなかった。
「こんな初見殺しを設定していたのか」
「ん? 優斗が考えたんじゃないの?」
「ここは違うな。俺も楽しみたいからこういう知らない部分も結構ある。ちなみにメインクエストとかサブクエストのコンセプトは俺が作ったけど、そのクエストの内容は知らないぞ。だから概念を説明し終えたら俺も初心者と変わらない」
だからこういう初見殺しに一番かかりそうなのが俺なんだよな……。
この場は全員平等にLv1から始まる空間、というわけではない。
この場は不平等に全員それぞれ力を持っている状態でLv1から始まる。
エイルとリリスの加護やその力はこのダンジョンで使えるから、前に聞いたエイルの加護があればダンジョンで攻撃を受けることはないだろう。
それにテレイアは今までダンジョンに入っていたからその心得もあるだろう。
対して俺はその心得はないから俺とテレイアで比較すればダンジョンではテレイアが勝っている。
だからこそ俺が一番初見殺しにかかりやすいというわけだ。
俺はしょせんチートな箱庭を持っている異世界人だからな。最初は危険が満載な状態なわけだ。
それに俺だけはチートな箱庭という使ったら白けるという力が制限されている。
制限されていなかったら一撃でダンジョン内のモンスターをふっ飛ばす武器を作ることができるからな。
そういう意味では俺が一番不平等を強いられているが、そこはテレイアのために頑張るしかない。
「それなら優斗も一緒に楽しめるのですね!」
「あぁ、だから楽しめないとかを考えなくてもいいぞ」
「はい!」
やっぱりそこら辺をエイルは考えてくれていたようだな。さすがは優しい俺のお嫁さんだ。
「そういうところを考えると、やっぱり優斗の力はすごいね」
「そうだろそうだろ」
「……確かに。優斗さんが作ったものを優斗さんが初見で楽しめるのは改めて考えるとすごいですね。記憶喪失にならなければできない芸当です」
「まあな」
「そうです、優斗はすごいです!」
「ありがとう」
ここにいる女性は全員もれなく俺のことを持ち上げてくれるからすごく気持ちがよくなるけど、それが配信の中で言われると少しだけ恥ずかしくなる。
「そ、それよりも、早く進もう。あの初見殺しストーンアントを倒してな」
「そうですね」
「落とすのは私に任せてください」
「はい、お願いしますエイルさん」
テレイアが前に出て、天井に擬態しているストーンアントをエイルの矢で当てる。
すると擬態していたのは一体だけではなく六体だった。その六体が同時に地面に落ち、さらにそこから同時に襲い掛かってきた。
……あんなにいっぱい擬態しているとは思わなかった。擬態が解かれる瞬間とか気持ち悪く見えた。
そんなことよりストーンアントだ。
さすがに一斉に来たらテレイアでも対処できないだろう。
そう思ったが俺よりも強い女性たちがすでに対処していた。
テレイアがメインであることは変わらずにエイルが矢で動きを止め、テレイアが対処できないストーンアントをリリスが片づけるという完璧な構図が出来上がっていた。
「これは……追放されるね」
追放系のジャンルでこのパーティがあったら確実に俺は追放待ったなしだ。
だってこれだけでレベルが上がっているんだから追放されても文句は言えない。経験値泥棒だからな。
突っ立っているだけでレベルが上がっていく。
「何か落ちました」
ストーンアントを倒したことでドロップアイテムが出現したようだ。
「これは、岩?」
テレイアがそのドロップアイテムを拾う。
遠くから詳細を見ればストーンアントのドロップアイテム『アントロック』だと分かった。
普通の岩のようだが魔力を帯びているドロップアイテムも見て分かった。
「出たか、ドロップアイテム」
「出るんですね、ドロップアイテム」
「出るぞ。それから詳細を確認しようとすればアイテムの詳細を見ることができる」
俺の言葉に素直に従ったテレイアの前には文字が出現した。
それは誰にでも見えるようになっているから俺にも見えたし、エイルとリリスも見に来た。
『アントロック
レアリティ:3
ストーンアントから稀に入手できる岩。
加工すればストーンアントの擬態を再現することができる』
「擬態……」
へぇ、アントロックは擬態をすることもできるのか。
「擬態ってなんか地味だな」
「ふん、あなたの意見なんて聞いていません。何なら擬態してだまし討ちをしましょうか。背中には気を付けてください」
最初にゲットしたドロップアイテムに対して文句を言ったらそりゃ怒る。
「ごめんごめん。でももっと攻撃力が上がるとかそういう能力が欲しくない?」
「頭の悪そうな考えですね」
おぉ、トゲトゲしてる。
「擬態は使いやすそうですからいいですね」
「そうだな。擬態で弱くなることはないからいいと思うぞ」
「はい、大事に使います」
「この温度感は風邪ひきそー」
まあテレイアはリリスのことを本気で嫌っているわけではないからな。
そういうコミュニケーションとしてリリスも受け取っているし俺から何か言うことはない。




