62:ダンジョン配信
リリスはSNSで告知を行った。
重大告知として内容を伏せるのではなく、しっかりと内容を公開してだ。
『チートな箱庭にダンジョンが!?』
『物語の世界でしかなかったダンジョンが見られる!?』
『チートな箱庭を存分に使ったダンジョンは配信で!』
という告知を出したところ、ゲームか何かだと思われている様子だった。
「これ、別の世界から入れるようにはできないの?」
準備している時にリリスがそんなことを聞いてきた。
「できるぞ」
「へー、そうなんだ」
「でもやらないぞ。このチートな箱庭はそんな安くはないからな」
入ったとしてもこの世界は俺中心にある世界だから神であろうとも何もすることはできない。
でも入らせて楽しませるなんてことをしても、俺は別に面白くないからな。
金持ちが貧乏人に対してわざわざ自身の豪邸に招いて自慢話をするわけがない。するとしても承認欲求が強いものだけだろう。
「それなら高く売ったらやる?」
「やるわけがない。それをして何の得があるんだ」
「んー、みんなも楽しめる?」
「俺はクリエイターではないからな。そういう思考はしていない」
そもそもリリスがこれで働こうとするまで、配信とは無縁だと思っていたからな。このチートな箱庭を持っていたとしても配信しようとは思わない。
「そうなのかー。まああたしたちと一緒のダンジョンっていうわけではないけど、視聴者も体験できたらなと思っただけなんだよね」
「そう思うのか」
「まあね。物語みたいに地球では手に入らない物質だったり不足しているものをダンジョンから手に入れれたら面白くない?」
面白いかもしれないし、現実がそんなファンタジーな世界になれば異世界のことも伝えれるかもしれない。
でもそれを俺がしたいとは思わないからなー。
「面白いかもしれないが、興味ないな」
「それは残念だ」
本当に何かきっかけがなければ俺はやるつもりはない。それをやったところで何も思わないし、文句を言われたらやめたくなるくらいだ。
そんなことはともかく、ダンジョンに入る準備は整った。
準備と言うのはリリスの配信の準備だ。ダンジョン配信をするために見やすいようにした。
「準備はいかがですか?」
「もうできたよ」
エイルとテレイアがこちらに来て二人も準備万端の様子だ。
とはいっても、配信の準備以外で準備することはない。
ダンジョンに行くとは言っても俺の作ったダンジョンではゲームみたいな感じだから何も準備しなくても入れる。
「移動するよ」
今回はドライブではなく、一瞬で東京まで転移した。
転移した先は東京のとあるビルの前。テナント募集しているような三階建ての大きくないビルだ。
この部分はちゃんと東京にあり、外装も変えることはしていない。
ただもしかしたら同じ世界にいるかも、みたいな視聴者の妄想を膨らませたいからとリリスから言われたからそうしているだけだ。
「よし、三人とも準備はいい?」
「俺は大丈夫だ」
「はい、私も大丈夫です」
「始めるなら早く始めてください」
一名だけダンジョンに早く入りたくて早く始めたい冒険者がいる。
「じゃ、始めるぞー」
そう言ってリリスはアラギを脳波で操作して遠隔で配信を開始させた。
いつものように俺をはさむようにエイルとリリスが並んでおり、エイルの隣にテレイアがいた。
「どーも、みんな見えてるかな?」
アラギの上にはコメントが映し出されており、コメントは早く流れている。
『待ってましたー!』
『楽しみにしてたー!』
『もしかしてフルダイブ的なのかな?』
『新種のゲームか?』
『ダンジョン! ダンジョン!』
『なんか見覚えのあるような……』
『ダンジョンってどんなのだろ……?』
『早く見せろー!』
突発配信、というかこの日にやると告知はしていたがいつ始まるかは指定していなかった。
だけど最初から順調な同接だから告知は上手くいっているようだな。
「おー、集まってるねー」
「それだけ皆さんが楽しみにしていたということですね」
「見て楽しくなるんですかね?」
テレイアは配信そっちのけで入りたいという気持ちがあるようで視聴者にトゲトゲとしているのが分かる。
「リリス、今日は導入を軽めにやった方がいいな」
「うん、そうだね」
俺たち三人はテレイアの状況をすでに察しているからリリスはそう答えた。
「告知にもあった通り、あたしたちは今からダンジョンに入る。このチートな箱庭は何でも作ることができるからダンジョンも作ることができる! で、ダンジョンはどんな感じ?」
「楽しめるようには作った。ただのダンジョンではなくて、ゲーム要素を加えたからな」
ただ洞穴型のダンジョンにモンスターがいて、宝箱があってとかだと視聴者もつまらないからな。
そこら辺はエイルたちの世界のダンジョンを参考にしたり、ステータス以外にもゲーム要素を入れたりとかはした。
「おー、これは期待してもよさそうだー」
俺も楽しみたいからチートな箱庭に任せてはいるから、期待してもいいだろう。
俺が作ったわけではないからつまらなくはないと思う。
「楽しみだね、テレイア?」
「はい、そうですね」
リリスに対してもトゲがある感じを出しているテレイア。
早く行きたいのだろうな。
「エイルにも聞いておこうか。意気込みはどー?」
「優斗と一緒にお出かけするのは楽しみです!」
「相変わらず優斗大好きだねー。ま、とりあえず行こうか」
導入は短く、俺たちはビルに向かう。
ビルに入り少し狭いエレベーターに四人で乗り込む。
その光景もアラギによって配信に映っている。
分かる人にはこのビルがどこにあるビルとか分かるんだろうか。
でもそれで俺がいた世界のここに人がいっぱい来たら普通に迷惑だよな。
リリスも結構な登録者がいるしそういう変なことをしてくる奴はいそうだからなー……まあ、ここはチートな箱庭って言っているから迷惑をかけた奴が悪いか。
そもそもチートな箱庭が本物だと思っている奴が少ないし大丈夫か。
もしもの時用に細かいところは変えているから保険はかけた。
でもそこを気にしていたら他の配信者とか外での配信なんてできないだろう。ということで気にしないでおこう。
「ここか」
「ここだ」
俺たちは二階にある扉の前に立った。
「テレイア、先に入る?」
「お好きにどうぞ」
「ここは譲ってあげる。ほらほら、入りな」
「ちょ、押さないでください……!」
扉の前に押したリリスをキッとにらんだテレイアだがすぐに扉に視線をやった。
そして誰にも確認せずにその扉を開けた。
「これは……?」
扉を開ければ光の壁があった。
その先に何があるのか分からない壁だ。
「そこを通れば設定を決めるための空間に出るぞ」
「分かりました。入ります」
俺の言葉を聞いたテレイアは頷いてから光の壁を触ろうとすれば手は飲み込まれ、そのまま進んでいった。
「じゃ、あたしたちも行こうか」
「あぁ。一応個別じゃなくて一緒に設定ができるようにしてある」
「それなら安心ですね」
テレイアに続いて俺とエイルが手を繋いで入った。
リリスはカメラマンとして最後に入る様子だった。
中に入れば電脳世界のような周りに数字や記号が広がっている青い世界だった。
そこにはすでにテレイアがおり少し不安そうな顔をしていたが俺とエイルが来れば安心したようにすぐに駆け寄ってきた。
「おー、ゲーム世界みたいな空間だ」
そして最後にリリスが入ってきて視聴者にこの空間を見せたところで俺はプログラムを起動した。
『ようこそ、ファーストダンジョンへ』
俺たち個々の前にはそう書かれたスクリーンが出現した。
「文字が現れました!」
スクリーンが出たことにエイルは驚いた声をあげた。
「ステータスはこれで見れるようになっている。ちなみにこれは基本的には自分にしか見えないが、設定で見える人が決めれたりする。まあこの場では全員のスクリーンは見えるようになっている」
配信で準備していたのはこの設定を作るためだ。
配信で分かりやすくするために口頭で説明するのではなく電脳王が補佐をして、配信にそのステータスを載せる設定をした。
「それは分かりやすくてありがたいね」
「そうだろ。ま、とりあえず進めようか」
そう言うと話は進む。
『ここにいる方々も、配信をご覧のみなさんもこんにちは。私はこのダンジョンを管理しているオーナーです。お気軽にオーナーとお呼びください』
『ここではダンジョンに入る前のステータスの設定を行う場になっています』
『ステータスの設定を行いますか?』
「あぁ、頼む」
『かしこまりました』
「……これって、もしかして会話できる?」
リリスがそう聞いてきたから素直に答える。
「そうだぞ。そもそもNPCだとは言っていない」
『お気軽にオーナーとお呼びください』
「え、それなら分からないことがあれば聞けるってこと?」
「さすがにネタバレはしないようにはしているけどシステムのことを教えてくれたりマップ作成とかのダンジョン探索でサポートしてくれるようにはしてある」
『私はみなさんのサポートをするためにいます』
「へー、それなら迷うことはないんだ」
「そうなるな。でもサポートだから使わなくても大丈夫だ」
テレイアにとってこういうことが迷惑かもしれないと思って常時表示されるものではない。
「それよりも早速ステータス設定にするか。まずは説明からだな」
『お任せください』
俺たちは知っているけど視聴者が知らないからステータスシステムの話をオーナーにやってもらう。
『ダンジョンに入るにあたり、冒険者様にはステータススタイルを設定していただきます。ジョブステータス、ランダムステータス、フリーダムステータスの三つから選択していただきます』
それぞれ三つのステータスの特徴が書かれた説明文が出現した。
『ジョブステータス:選択したジョブによってレベルアップで上がるステータスが決まっている代わりに、ジョブによる補正がかかる。
剣士の場合、バランスよくステータスが上がり剣を装備すればジョブ補正により通常時の剣装備よりも攻撃力が高くなる。
魔法使いの場合、魔法系統のステータスが伸び、杖を装備すれば通常時の杖装備よりも魔力や魔攻が高くなる。
なおジョブ変更はいつでもすることが可能だが、初めてなるジョブはLv1からになる』
『ランダムステータス:レベルアップで上がるステータスが完全ランダムに決まる代わりに最低値を出しても他ステータスタイプよりも総ステータス値は高くなる』
『フリーダムステータス:レベルアップにより上がるステータス値を自由に割り振ることができる』
それぞれのステータスの説明は配信にも載っているのがアラギの上を見て分かる。
「どれにする?」
この話はしているからどれにするかそれぞれ決まっているはずだ。決まっていなくても待つつもりではあるけど。
「あたしはランダムステータスって決めてる」
「リリスはランダムか」
リリスは目の前に現れた最終確認のパネルに書かれたYESにタッチすることでランダムステータスになった。
「フリーダムステータスで割り振るのは面倒だし、やっぱランダムって魅力的だね」
リリスらしい。
「私はフリーダムステータスにします」
「お、それなら俺と一緒だな」
「ふふっ、一緒です」
俺とエイルはフリーダムステータスを選択した。
ちなみに事前にエイルからどのステータスにするのか聞かれてフリーダムステータスと答えたら、エイルは俺と一緒のフリーダムステータスにした。
普通のダンジョンなら一緒にするのはどうかと思うだろうがこれはゲームに近いからいいかと思った。
最後のテレイアは迷う素振りなどなく口を開いた。
「私はジョブステータスで」
「お、それならあたしたちで三つのステータスが分かるようになったか。いいね」
決めていたステータススタイルはジョブステータスだったのか。
テレイアがジョブステータスに選択したことで、俺たちにもう一つの画面が出現した。
『最後にどの武器を使うのか選択してください。
剣・大剣・短剣・刀・槍・斧・弓・杖』
俺、エイル、リリスにはこの画面が表示された。
ただテレイアにはどのジョブにするか、という少し違った文字が出現している。
「うーん……あたしは大剣にするかー」
「使ったことがあるのか?」
「ないよ。でも他の武器よりも叩きつければ攻撃力が出そうだから」
「そういう視点なのか」
ロマンとかではなくそういうことで選ぶのはリリスらしい。
「優斗はどれにしますか?」
「俺は刀だ。やっぱり刀を使ってみたいし」
「ふふっ、そうですか」
「エイルは?」
「私は弓です」
「へぇ、杖じゃないのか?」
「はい、弓を使ってみたいと思っていましたから」
へぇ、そうなのか。
でもゲームでやりたいことをやるのは大事だよな。
「テレイアは決めたか?」
「はい、剣士にします」
「やりたかったのか?」
てっきり魔法使いとかそっちにするのかと思った。
「はい。ですが剣の才能がなかったので諦めていたところです」
「それなら存分に切ってやればいいよ」
「そうするつもりです」
俺たち全員がステータスと武器かジョブを決めたことで全員同じ文字が出現した。
『みなさんのステータス設定が完了しました』
『これよりみなさんをダンジョン一階層のセーフエリアに転送します』
『なお、これ以降ダンジョンに入ってこられてもダンジョン一階層のセーフエリアに入ります』
『何かあればお気軽にお呼びください』
『では、ご武運を』
最後の文字が出て数秒後に俺たちの目の前に光が覆われた。




