58:テレパシー
スマホで電話しながら話すのが一番手っ取り早い。
でも俺が電話をすることはこの場では珍しいことだ。だからエイルがいち早く反応して母親かどうかを聞いてくる。
しかも別の場所に移動しようとしてもエイルはついてくる。
ただエイルを誤魔化すことはできるけど、わずかな違和感があればエイルに洗いざらい話さないといけないから、ここはテレパシー的な感じで元アイテル聖王国の奴らに言葉を送ろう。
ノーパソを強化させてテレパシーができるようにする。
さすがに魔道具を作って指輪やら腕輪をつけるとエイルにバレるかもしれないからな。
定期的にこちらをジッと見てくる時があるからな。ちなみに見返せば笑みを返してくれるから最高だ。
エイルに気が付かれないように深呼吸をして、あれからずっと祈っている人たちの中で偽りの王と対峙した女性だけにテレパシーを送った。
セミロングくらいの緑がかった青の髪が内巻きになっている、根の強さを感じる優しそうな女性だ。
エイルと似たような感じだが、こっちの女性は目的のためなら何もかも敵に回す強さを持っていそうに感じる。
『聞こえていますか?』
俺がそう女性にテレパシーを送れば、すぐに女性は口を開いた。
『はい、聞こえています!』
すぐに目的の女性が答えてくれた。対して周りの人たちは聞こえていないから驚いて女性を見ていた。
『申し訳ないですが、今はあなただけに声を送っています』
他の人たちと喋って時間を使うくらいなら一人にした方がいいと考えた。
ていうかその方がこの女性に特別感が出せるからな。
『いいえ! お応えになられるだけで嬉しいです!』
『ちょ、ちょっと、大丈夫?』
女性を心配するように声をかけてくる人がいたから、女性は全員に俺が話しかけていることを説明した。
『そういうことね。でもどうしてあなただけなの?』
『そこはどうでもいいよ。今は反応してくれたんだから』
『まあ、そうね』
他の人たちは納得してくれた様子だったため、女性は俺に話しかけてくる。
『申し遅れました。私はジュノーと申します。あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?』
名前……どうしたものか。いや別に会うことはないし本名を名乗ったところで不都合はないか。
『優斗です』
『優斗様ですか』
『最初に言っておきますけど、俺は神ではありません。別次元に存在している人間です。なので神として崇拝してもらう必要はありません』
話すからには神ではないとキッパリと言っておく必要があると思った。
『……ですが、私たちを助けてくれた方を尊敬するのはおかしいことですか?』
『おかしくはないですけど……』
『ですから、私たちは優斗様を崇拝します。今まで崇拝していた神様よりも、よっぽど血が通っていますから』
あー……俺も神と接して分かったが奴らはとにかく人間を下に見ているというか、自分勝手な言動をとる。
だから人間の俺が凄まじい力を行使して人間らしい思いやりを見せれば、神よりも神らしく見えるのだろうな。人間目線では。
『分かりました。それならそこは納得します』
『よかったー……! ありがとうございます!』
それくらいでお礼を言われるとは思わなかったが、彼女らにとっては大切なのかもしれない。
『それで、俺に何か話したいことがあるんですか?』
あまり長くするわけにはいかないからジュノーさんにそれを聞く。
『優斗様には、救ってくださった感謝と、困っている時に手を差し伸べてくださった感謝をお伝えしたいと思っています』
『そのことなら気にしなくて大丈夫ですよ。俺が好きでやったことなので』
『いいえ、それでも感謝を伝えさせてください。魔王が侵攻してきてもうダメかと思っていた時に助けてくださったのですから、感謝しない方がおかしいです』
『それなら……その感謝を受け取ります』
惨劇を繰り広げた魔王に支配されていたのだから感謝したいと思うのだろう。
『それから、私たちに与えてくださったステータスオーブは私たちが使ってもいいのですか?』
『はい。そのために与えました。説明書にもある通り、それを使いクエストをクリアして報酬のポイントを獲得してください。そうすれば今の現状を打破できるものを買うことができます』
テミスのところで作った、アストレアに信仰を集め制御するシステムの原型である架空の神を作ってもいいと思ったが、それはそれで面倒くさそうだからやめた。
それにこっちの方が誰かの顔色を窺いながら生きなくても済む。
『あまり分かっていないけど、やってみます!』
分かっていないのか。詳しく書いたつもりだったけど、それは俺のゲーム的な知識があったからかもしれない。
『はい、頑張ってください。それでは俺はこれで――』
『ま、待って!』
会話を終わらせようとしたがジュノーさんに呼び止められた。
『どうしましたか?』
『あの、その……また、お話しできますか……?』
ジュノーさんがそんなこと可愛らしいことを聞いてきた。
何が目的とか、何が欲しいとか、そういう邪推はしなくていいのはジュノーさんを見て分かる。
たぶん本当に話したくてそう聞いたのだろう。
だけど……どう答えるのか悩んでしまう。
これからは元アイテル聖王国を気にかけていくつもりではあるものの、深くまで関わろうとは思っていない。
だからジュノーさんが思うお話しする頻度によってはお断りしたいけど、「週何回でお話ししようと思っていますか?」って聞けるわけがない。
でもジュノーさんがそれで頑張れるのなら断るのはどうかと思ってしまう。
どうしたものかと少しだけ考えて、細工もして答える。
『ジュノーさんが望むのならその時間は設けます』
『本当!?』
『ただし、条件を達成しなければその時間は獲得できません』
『どんな条件ですか?』
『それはステータスオーブを手に入れれば分かります。例えば生活の基盤を整えるとか、建物を建てることができたとか、そういうクエストをクリアすれば獲得できます』
これで面倒だとなってくれればいいなと少しだけ思った。
『分かりました! それならすぐに達成して優斗様とお話ししますね!』
『あー、うん。頑張ってください』
『はい!』
まあ、ジュノーさんが頑張れるのならいいのか……?
これでかなり電話してくるようならエイルに土下座することを視野に入れないといけないが、そんなことはないだろ!
思った以上に元アイテル聖王国の件が長く続いたけど、本来の目的は異世界のダンジョンを見ることだ。
気を取り直して異世界にあるダンジョンを見ていく。
テレイアが来るまで、俺の想像しているダンジョンは深層まで続いている階層のダンジョンだったが、今は魔族やモンスターの住居であることは理解している。
だから「盗撮! お宅を内見!」みたいな感じになってしまうが相手が気づかないのだから俺が気にすることはない。
こうして見ていると魔族やモンスターの色々な習性が見て取れる。
例えばゴブリンなら元々あった洞穴や蟻のように掘った穴を巣にしてある。
大抵の知性が低く本能で行動するモンスターは元々ある地形を利用したり、人間がいなくなった建物を利用している。
ただその中でモンスターの影響で変形している場所があるから、それがダンジョンとして呼ばれているのだろう。
それから知性があるモンスターなら人間が作ったものを真似して建物を築いたり、人間が作れないような建物を作って、それが魔王城となっているダンジョンもある。
こうして見るとかなり興味深いものではある。
俺が作ろうとしているダンジョンは階層ダンジョンであるから、階層ごとにテーマを変えて洞穴の中なのに砂浜とか、山とか、そういうのを想定している。
だからこの見ているダンジョンもかなり参考になる。
全部チートな箱庭に丸投げでもいいんだが、これはこれで俺が作っても楽しめそうだから俺も考えている。
ある程度ダンジョンの構想はできたし、ステータスの構想もできたから、あとは作るだけだな。作ればあとはチートな箱庭が補完してくれるというチート能力が備わっているのが強みだ。
どうせだからダンジョンで手に入れた素材を換金してポイントにして、装備を買えるとかすれば面白いか?
それならジュノーさんたちがいる元アイテル聖王国にもダンジョンを作れば生活しやすいか?
作るとしても入り口だけを作ってから、このチートな箱庭で作ったダンジョンにつなげるというやり方になるか。チートな箱庭に招き入れてしまうが、ここの方が俺は何でもできるからむしろやりやすいと言える。
あぁ、色んなアイデアが浮かんできて楽しいな。
「優斗、楽しそうですね」
「あぁ、結構楽しんでいるよ」
目の前にいるエイルにその顔を見られたらしい。
「何を見ているのですか?」
俺が何で楽しんでいるのか気になったエイルが俺の隣に来てノーパソの画面を見てきたが、ノーパソの画面ではダンジョンの光景が広がっているだけだった。
「これは……?」
「ダンジョンだよ。でも俺が楽しんでいるのはこれを見ていたからじゃなくて、テレイアのために作っているダンジョンを設計していて楽しんでいたんだ」
「そうなのですね! 実は私も楽しみにしています」
「そうなのか?」
「はい!」
意外だ。エイルがダンジョンに興味があるとは思わなかった。
「テレイアさんとは違いますけど、優斗とお出かけができるのなら楽しみです」
「俺もエイルとお出かけできるのが楽しみだよ」
そういう理由か。それならそれでダンジョンを作るためにそういう場所を作っておいた方がいいかもしれないな。
雰囲気があったり、景色が素敵だったり、そういうダンジョンっぽさがありつつも素敵な場所を作ればエイルは喜んでくれそうだ。
「ふー、ちょっときゅうけーい」
リリスが休憩するらしくリビングに降りてきた。
「ん? 何か話してた?」
「優斗が作っているダンジョンについて話していました」
「おー、早速作ってるんだ。ノーパソで作ってるの?」
「いや、これはエイルたちがいた世界のダンジョンを映しているだけだ」
「それならノーパソで映せないのか?」
「映せはするけど、知らない方が楽しみじゃないか?」
エイルとリリスも楽しみなら知らない方がいいと思った。
それに今はどうやって作ろうかと考えているだけだからまだ作ってはいない。
「初見の反応ってことだね。それなら見ないでおこうか」
「そうですね。私たちもテレイアさんと同じ気持ちでダンジョンに行きましょう!」
期待が高まっているがその期待に応えるようにしようと思った。
失敗したとしても最初だし、みたいに思われるだろうし気にすることはない。
「リリスは練習どうだったんだ?」
「んー……優斗の反応を見ないと分からないかなー。あたし的にはいいとは思うんだけど、その道の聞くプロがいないと」
「それならあとで聞かせてもらおうか」
「自信はあるから期待してもいいよ」
サキュバスのリリスがこう言っているからな。かなりヤバそうなASMRができてそうだ。
「エイルもやってみる?」
「いえ、私は結構です」
「だよねー」
何度目かのお誘いをキッパリと断るエイル。
リリスは視聴者の要望がありそうだから誘っているのだろうがエイルはそんなことどうでもいいからな。
「あ、それなら優斗にやっている耳かきとか囁きをASMR動画にするのはどう?」
「……どうやるのですか?」
「そこは優斗がやってくれる。そうだよね?」
「人任せすぎだろ」
できはするけど、エイルが断っているんだからそれをやるのはな。
「大丈夫、ちゃんと優斗って言ってもいいから。それを承知で動画にするから」
つまり俺相手にやっているのを、視聴者がお情けで聞くってことか?
ASMRはシチュエーションとかが重要な時もあるが……そういうのもある意味脳破壊的な感じでいいのかもしれないな。
まあでも脳破壊と言っても、最初からエイルは俺の妻だから破壊もくそもないんだけどね。
「エイル、どう?」
「……そういうことでしたら。画面の前のみなさんに私と優斗のラブラブを聞かせることができるということですよね?」
「そうだよ。全然優斗を連呼してもいいよ」
……リリスのやりたいことがよく分からないが、せいぜい視聴者諸君が破壊されないことを祈っているよ。俺にとってはどうでもいい話だけど。




