57:接触
武器が戻ってきたいきさつは分かった。だけどそれからどうなったのかも気になるから続けて見ることにした。
武器にエネルギーを吸収されて死に絶えた男と消えた武器を前に、その場にいる全員が呆然としていた。
だけどそのうちの一人が声をあげた。
『こ、この武器は呪いの武器だ! 使っていたら寿命を吸いとられるに違いない!』
そんなことを口にしてその恐怖は伝播するのかと思った。
『安心して!』
偽りの王に異議を申し立てた女性が全員に向けてそう言った。
その声色はどこか安心できるものだったから不安や恐怖は落ち着いた様子だった。
『この宝具をくれた方がどんな方なのかは分からない。でも、私たちを助けてくれて私たちに生きる術を与えてくれたのは確かだよ!』
そう言えば全員が確かに……みたいな顔をしている。
だけど最初に声を発した男はまだ納得していない様子で口を開いた。
『それならどうして殺されないといけないんだ! 他の魔族がやっているに違いない!』
『最初の紙に書いてあったよね、悪用すれば消滅するって。あの人は武力によって私たちを支配しようとしたから悪だと判断された。だから呪いの武器ではなくて、宝具だよ』
よく理解しているな、この女性。理解してくれていて気持ちがいい。
『そうよ。そんなに呪いだと言うなら宝具を手放せばいいじゃない』
他の女性が不安を煽っているように見える男に向けてそう言った。
『それは……』
『あなた、もしかしてあの男と同じようにしようとしたわけ? 他の人が武器を持っていないから上に立とうとした?』
図星だったようにその男は黙り込んだ。
『……本当だったの? はぁ!? ホント信じられない!』
『ち、ちが……!』
『今すぐに宝具を手放しなさい! そんな思考だとあの男と一緒よ!』
まあそんなことが知られたらそう言われるのは当然だよな。
『落ち着いて。今は私たちで争っている場合ではないよ』
『でも、後ろから刺されでもしたら……』
『そうならないようになっているのが宝具だよ。だから大丈夫』
『そう、よね。分かったわ……』
男の糾弾はそこで終わった。
こんな状況になっても、いやこんな状況になったからこそ自分の有利にしようとするのだろうな。ホントに救えない。
『今は殺された人たちの弔いをしよう。このままだと、寂しいだろうから』
女性の言葉に全員が頷いた。
そこからは早送りにしながら人間の遺体を丁寧に集めている光景を見ていく。
あまり見ていて気持ちがいい光景ではないが臭いまでは来ないから何とか耐えることができた。遺体を集めている人たちは、おそらく地獄を体験したからもうそこら辺の感覚が鈍くなっているんだろうかと思うくらいに淡々としている。
でも表情が暗いから気分はよくはないのだろうな。
そうして遺体を集め終わり、魔族の遺体もある場所に集めて終わった。
だけど遺体の安置場所でもめている光景が見てとれたから早送りはやめてそこの場面を見る。
『教会に安置するなど正気か!?』
男性が声をあらげていた。
『教会なら、神が守ってくださります』
『その結果がこれなんだぞ!? 神は我らのことを見捨てたのだぞ!?』
あぁ、なるほど。彼らは神のことで言い争っているのか。
『ですがそれは私たちが聖女を信用せず、ないがしろにしたからです! 今からでも遅くはないはずです!』
『こっちはそんなことは知らん! お前らが勝手に聖女を追放したのだろうが!』
教会反対派はおそらく平民なのだろう。エイルの追放にはあまり関わっていない様子だ。
『我らを助けたのは今まで信仰していた神ではない名も知らぬものだ! それなのにまだ信仰するというのか!?』
男性の悲痛な叫びに誰も口を開かなかった。
神が愚かな人間を見捨てたのなら、神を信仰する理由なんてどこにもない。結局守らなければ神という存在に価値なんてないだろう。この異世界ではな。
『……今までに信仰してきたものを、忘れられるわけがありません』
ただ信仰というものは心の拠り所であるから助けられなくても救いを求めるものだ。
ここは古くから神に加護を与えられていたアイテル聖王国なのだからそれが根強いのは当然のことだろう。
『それなら我らが助けたものを信仰するべきだ。我らを捨てた神などよりも、よっぽど救いを求める存在として相応しい』
『名も知らぬのにですか?』
『それは重要か? 相手が我らを助けてくれただけで十分だろう』
……何だか俺が神格化されているが、俺はそんな存在ではないからやめてほしいところではある。
『それなら多数決をしようか。これまでのアイテル聖王国の信仰で続けるか、それとも新しい信仰にするか』
それを言ったのは偽りの王に異議を申し立てた女性だった。
『前者ならこの国を元通りにしよう。後者なら……全部壊そっか。ゼロからこの国を始めようよ』
『……正気ですか?』
『はは! それはいいな! ……どうせこの国は終わっているんだから全部なくした方がいいのかもしれない』
俺でもぶっ飛んでいるとは思う。
教会とか城を壊すのは分かるけど、すべて壊そうとするのは正直言ってブッ飛んでいる。
『私は新しい信仰派だよ。今から元の信仰で生きていても、辛いだけだから』
その言葉のあと、多数決をしたところ圧倒的な後者によってこの国は新生することになった。
という経緯があって、今の元アイテル聖王国は更地になりゼロから始めているわけか。
経緯は分かった。
でもあまり生活が上手くいっていない様子だった。
農業も時間がかかるし、食料もほぼ残っていなかったアイテル聖王国。
巻き戻して見たが、魔族がどこかに食料を持っていっていた。ただ侵攻していたわけではなく、何かしらの思惑があるのは確かだが、今は気にすることはない。
それよりも食料だよな……しかも衛生面でもよくない状況だし……仕方がない。
ここまで来たらある程度まで助けるか。
紙には生きる術を見つけるまで貸し出すと書いたけど、そのルールも消そう。悪用すれば消滅するルールは残しておくけど。
新生するアイテル聖王国がゼロからどうなるのかが気になるし。動画にもしたら面白いとは思うけど、エイルに秘密にしているからお蔵入りだ。
でもどうやって助けようか。
ポンと家やら食料とかを出すのは簡単だがそれでは新生とは言えない。それは前回のアイテル聖王国と同じことだ。
……そうだ。テレイアのために考えていたことがあったが、それなら自分達が頑張って新生したと言えるか。
俺が考えていたダンジョンのシステム。それはただテレイアが冒険するだけではない。
弱さがコンプレックスだったテレイアにポンポンとスキルオーブを渡していくのも簡単だが、それだとすぐに飽きが来るかもしれないと考えた。もしかしたらテレイアならそうではないかもしれないが、それは本人に聞いてみないことには分からない。
だからこそ、ある目的をクリアすれば報酬やスキルオーブを手に入るというステータスを付与しようと考えている。
そのためには神殺し一つを作るくらいの可能性を秘めているものを作らないといけない。
何せ報酬は自動で出されないと誰がするんだって話だ。
それをテレイアのために作るのは全然いい。神殺し一つくらいでとやかく言わないが、元アイテル聖王国にいる人たちはそういうレベルではない。
作れなくもないが作るのもなぁって感じだ。
簡単に作れるし余裕もある。でもそれで他人を全力で助けるほど狂っていない。
しかもそれを十全に使いこなせるわけではない。人にはそれぞれキャパがあるからすべて解放したところで神殺し並みの力がつくわけではない。
だからもう少し何とかならないかと考えることにした。
別に彼らをないがしろにしたいわけではないからな……あ、報酬をポイント制にすればいいのか。
そのポイントはステータスから開けるショップで買い物ができ、スキルオーブや食料を買うことができる。
そうすれば一人ずつに使う力は少なくて済む。ショップもこちらの仮想上で作ってあちらから接続できる形にしよう。
あとは、買えるものを個人によって変えるとかする必要があるか。
善人とかリーダー、あの偽りの王に異議を申し立てた女性はいいものを買えるようにすればみんなもそういうことを頑張り出すだろう。
モチベーション維持も大切なことだからな。
そういう数値を『貢献度』としておこうか。でもあからさまに表示しておくのはつまらないから隠しステータスにしておく。
それ以外に考えることはまあ今のところはないから、あとは箱庭にお任せでいいか。
レベルという概念もつけておくか。
段階的に体の強度あげる目的もあるけど、異世界の人たちがどう思うのか気になるところでもあるからな。
よし、チートな箱庭でスキルオーブみたいな玉を作ったしショップも作った。渡すものは準備万端だ。
あとは、これをどうやって渡すかという話だな。
また紙と一緒にポンと出せばいいかと思ったけど今回は切羽詰まっていないから俺の思い通りに動いてくれないかもしれない。
だから天の声として呼び掛けてもいいかと思った。
それはそれで神みたいで嫌だなと思った。もう説明書と一緒に目の前に出しておくか。
あまり真剣ではないからもう適当にしよう。どうせ信仰される対象にされたくはないのだからこれくらい適当で十分だろ。
元アイテル聖王国の生き残りの全員に説明書とステータスオーブを目の前に浮かして出した。
あの呪いの武器だと言った男にも渡してはいる。でもその時のことも貢献度の評価に入っているからマイナスにはなっている。
とにもかくにも、渡したからこれで俺のやることはなくなった。ショップの状況はすぐに分かるけど、これからは定期的に見てあげようかなとは思っている。
一応ステータスオーブを渡したことでどんな反応をするのかと思って、一番人が集まっている壁の中の集合地を見る。
見たらまた驚きの声を上げそうになったが今度はそれほど衝撃はなかったからちゃんと声を上げなかったのは分かった。
でも驚いているのは確かだ。だってほとんどの人が祈りの姿勢を取っていたのだから。
そして偽りの王と対峙した女性が喋っているのが分かったから、もうあっちの音が聞こえないようにしていたから再び聞こえるようにした。
『どうか、私たちの話を聞いてください! そしてお話しさせてください!』
……え、どうしよう。
これって完全に神様みたいなノリになっているよな。だからこれに応じたくない。
でも……俺が応じるまでずっと祈っておくような気概を感じてしまう。
……やるしかないか。




