56:元アイテル聖王国、続報
テレイアが俺とエイルが出演している時に出演するようになってから二週間が経った。
リリスの配信に俺とエイルが出るのは週に二回くらいだから四回ほどテレイアは出ている。
四人でできるゲームをしたり、異世界の雑談をしたりしていた。
テレイアにとって異世界の話は最初よくないと思っていたのだが、テレイアは思ったほど気にしていない様子だったからその話題もすることになった。
その異世界の雑談があったことで、思わぬ収穫があった。
ダンジョンのことについては話すことは避けていたがダンジョンについてのコメントをテレイアが拾ったことで気にすることなくダンジョンのことを話していた。
もちろん荷物持ちだったとかそのために尊厳を踏みにじっていたとかは言っていない。ダンジョンの光景を話していた。
だけどその時のテレイアの顔は、とても楽しそうに見えた。
本当にダンジョンは好きだったのだろうなと思ってしまう。尊厳を引き換えにしてまでダンジョンに行きたかったのだろう。
だからこそ、テレイアに楽しんでもらうためにはこの世界でダンジョンを作った方がいいのではないかと思っているところだった。
いや……テレイアがここではなく元の世界に戻ってダンジョンに行きたいと言うかもしれない。
「どうしたものか……」
「んー? どした?」
今のリビングにはテレイア以外が揃っていた。
俺の左隣のエイルはテレビで録画のドラマを見ており、俺の右隣のリリスはスマホをいじっていた。
エイルと一緒にドラマを見ていたのだが、テレイアのことが頭によぎってそう呟いたことでリリスに反応された。
「テレイアのことでちょっと悩んでいたんだ」
隠すことではないから素直に話す。
「テレイアさんですか?」
テレイアと聞いてエイルはドラマを一時停止させて顔をこちらに向けた。
「あぁ、ちょっとな」
「もしかして次のドライブコースで悩んでた?」
「いや、それは違う。そもそもそれは悩まなくても勝手に箱庭が作ってくれるからな」
「抽象的でも作ってくれるってホントにチートだねー」
今、テレイアはバイクでツーリングに行っていた。
バイクの存在を知ったテレイアはすぐにバイクに食いつき、エイルに相談してから俺にバイクをおねだりしてきた。
俺はすぐにそれを了承してテレイアが望むバイクを出してあげた。
これがリリスだったらそう簡単にはいかないが、テレイアは家のことを手伝ってくれるから基本叶えるようにしてある。
さらにツーリングができるように山道やらコースも用意して今まさにテレイアはバイクを楽しんでいる。
すべて思い通りに、それ以上のことをされたその時のテレイアはどうお礼を言っていいのか分からなかった様子だったが、ひとまずはぎこちないが心がこもったお礼を言ってきた。
「それで、テレイアさんのことで何を悩んでいるのですか?」
エイルにも聞かれたから俺は素直に答えることにした。
「前の配信の時にテレイアがダンジョンのことについて話していたことがあっただろ?」
「はい、楽しそうに話していましたね」
「あたしとエイルはダンジョンに行ったことがないから貴重な体験談だったな」
「それで、テレイアのためにダンジョンも作った方がいいものかと考えていたんだ」
俺の悩んでいることを聞いた二人は一瞬の間があってから口を開いた。
「やらないのですか?」
「やるものだと思ってネタとして考えていたのに」
どうやら二人にとっては確定事項だったようだ。俺は悩んでいるのに。
「いや、テレイアが外に出てダンジョンに行きたいという意思があるのなら、ここでダンジョンを作るのは違うと思ったんだ」
俺はテレイアを引き留めたいわけではない。
縁を結んだからにはテレイアの意思を尊重したい。外のダンジョンがいいのなら、テレイアには十分な力をつけてもらってから送り出したいと思っている。
引き留めるために異世界のダンジョンと同じように作るのは違うだろう。
テレイアはまだあの異世界に未練があるのだと俺自身は思っている。
「変なことを考えるな。気にせずに作ったらいいじゃん」
「いやでもこの箱庭に釘付けにしたいわけではないんだが……」
「ん? 十分に釘付けだし、テレイアはここから出たいとはもう思ってないと思うよ」
「……まじ?」
「大マジ。エイルもそう思うよね?」
「はい。テレイアさんはここが居心地がいいと思い、ここにずっといようと思っているのは私たちが一番よく分かっていますから」
「そうなのか……」
分かるのはエイルとリリスがそうだからだろうな。それはそれで嬉しい限りだ。
それならダンジョンを作ろうかと思っていると、エイルが手を握ってきた。
「優斗のその考えはとても優しいものです。テレイアさんのことをよく考えています。ですが、居場所や好きなものも作ってくれることはさらに安心できます。そこは優斗が考えるままに行ってください」
「……あぁ、それなら思う存分やるぞ。後悔するなよ?」
「ふふっ、後悔なんてここに来てから一度もしていませんよ」
「あぁ、俺もだ」
本当に最初に来たのがエイルでよかった。
「仲間外れはよくないと思うなー」
最初がリリスだったら成り立っていなさそうだ。
☆
テレイアのために、そしてリリスのためにダンジョンを作ることになったから、どういうダンジョンにするか考えることにした。
俺が抽象的に考えればこのチートな箱庭が勝手に作ってくれる。
だけどそうではなくて俺がキチンと設定を考えたいと思ったから考えることにしたわけだ。
ぶっちゃけダンジョンを作るのは面白そうだし、俺も入ってみたいと思うし。
ただテレイアが思っているダンジョンがどういうものかテレイアの説明でしか知らないから、異世界を見てどういうダンジョンがあるのか見ることにした。
あ、そう言えばアイテル聖王国。
異世界を見るということで滅んだアイテル聖王国がどうなっているのかが気になった。
武器が一つ戻ってきた以外、情報はなく本当に思い出さなかったくらいには興味がなかった。
でも完全に無関心というわけではないから思い出したからには元アイテル聖王国の現状を見ることにした。
今のリビングには俺とエイルしかいないし、正面のエイルは熱心に勉強しているからノーパソで見ていても気づかれないだろう。
ちなみにリリスは二階の自室に行ってASMRの練習をしている。あとでその動画を俺に聞かせると言ってきているから期待はかなりしている。
今、俺が知っている範囲はアイテル聖王国が偽物の聖女の仕業で滅び魔族の巣窟になったが、俺が介入したことで捕まっている人たちが魔族たちを滅ぼした。
さらに悪いことをしたやつの武器が一本返ってきたことまで分かっているが、それ以外のことは本当に知らない。
だからどうなっているのか少しだけ気になっている部分がある。
そう思いながらノーパソで元アイテル聖王国の光景を映し出した。
その光景を見て、一瞬どうなっているのか分からなかったが理解して驚きの声を上げそうになったが何とか抑える。
チラッとエイルを見ても反応している素振りがなかったから大丈夫だったのだとホッとする。
前回もそうだったが、本当にアイテル聖王国には何度も驚かされる。
ホントに、壁以外がすべてなくなっているとは思わなかった。
元アイテル聖王国にあった壁は残っているが壁の中は今まであった城、教会、家などがすべてなくなっていた。
魔族に侵略されて壊されている感じだったがここまで全部がなくなってはいなかった。
……でもなくなった方が建てやすくはあるか? それに嫌な記憶があるのならすべて壊した方がいい気もする。
これ、エイルには見せられないな。エイルのせいでは絶対にないが、エイルが何かしら思うだろうから絶対に秘密にはしておこう。
ただ、建物がすべてなくなったからと言っても誰も住んでいないわけではない。
中央には俺が武器を与えた人たちが歪に家を建てて生活をしていた。
ある人は材料をもって家を建てていたり、ある人は壁の外に出て食料を調達したり、ある人は農業をしようとしたり。
おそらくここを生活の拠点として暮らしているのだろう。
それにしては建物をすべて壊すのはまだ早すぎだとは思う。彼らの中には家を建てることができる人はいない様子だ。
……戻ってきた武器のこともあるから、過去を見てみるか。
まずは武器が戻ってきた時まで巻き戻した。
俺が武器を与え、それによって一部を除く魔族たちを殺しつくした後だ。その一部は俺が難なく倒したのも覚えている。
生き残った者たちは全員が玉座の間へと集まっていた。全員俺が与えた武器を持っており、もれはない。全員が武器を取ったのだから。
そして一人が俺が殺した魔族を玉座からどかして座った。
何かを喋っている様子だったから一時停止してからイヤホンをしなくても俺だけに聞こえるようにする。
『今より、俺がこの国の王だ。俺は神に選ばれし存在だからな』
騎士のような装備をしている男が玉座に集まった人たちに向けてそう言った。
こいつが言う神は助けた俺のことなのだろうが、俺は神になるつもりはない。そんな崇拝されるほどの存在ではない。
『何を根拠にそんなことを言っているの? 全員に武器は与えられているよ』
その玉座に座る男に向けて女性が前に出て至極当然のことを聞いた。
俺は別に玉座に座っているこいつのことを選んだ覚えはないのだから完全にこいつは嘘をついている。
『いいや選ばれている。何せ、ここにいる十二凶星を倒したのは俺だからな』
玉座からどけた魔族に向けて十二凶星と言った。
それを聞いた全員が驚きの声をあげていた。
『あなたが、魔王を倒したって言うの……!?』
『そう言っている』
え、十二凶星というのは魔王だったのか……そんなやつを簡単に捻り潰してしまったのか。まあ神を屠れるのだから当然な話か。
いや問題はそこではない。こいつは自分で倒していないのに誰も知らないからという理由で自分で倒したと言いやがった。
……こういうタイプは嫌いというか、誰も好きにはならないだろう。全員を安心させるために言ったのならともかく、こいつは王になるために虚言を吐いた。
『だから選ばれた俺に従え。従わなければここで死ね』
しかも王ではなく暴君となっている。
『そんなことが許されるわけがないよ!』
ただ女性はそれが許されないとキッパリと言い放った。
『それなら、死ね』
こいつは別に魔王を倒していない。だが、どうやらこの中でもかなりの力を持っているようだから、その虚言が成立しているのだろうと分かった。
しかも魔王を倒したのだから敵わないと思わせることもできると、かなり悪だと理解した。こいつが騎士をしていたかもしれないと思うと、さすが終わっている国だと思える。
偽りの王が女性に剣を振り上げた。
その女性は咄嗟に後ろにいる人たちを守るように剣を解放する。
だが、偽りの王が剣を振り下ろすことはなかった。いや、振り上げた時点で命運は決まっていた。
『あ、あ、あ……』
『なに……?』
偽りの王は武器を振り上げながら動かなくなった。そして俺の想定していた通りのことが起こった。
武器が偽りの王のエネルギーをすべて吸いとった。魔力、気力、寿命などのありとあらゆるエネルギーを吸い取ったことで偽りの王は息絶えた。
そして武器は虚空の彼方に消え、俺の箱庭に戻ってきたわけか。
ホント、安全機能をつけておいてよかった。俺が作った武器が人を支配することになったら後悔していたからな。




