53:スキルオーブ
「はい、できたぞ」
スキルをゲットできる手のひらサイズのオーブを作り出して、テレイアに差し出した。
「これはなんですか?」
「運転技能がゲットできるオーブだ」
「へー、マジでできるんだ」
「ふふっ、私の旦那様はすごいんですよ?」
「知ってる」
エイルとリリスも興味津々にオーブを見てくる。
いつもなら作り出す時に漠然としていても作り出すことができる。
だが今回はエイルたちの世界にいる人たちが分かりやすいようにした。
エイルたちの世界に存在している加護を参考にして作ったのがこのオーブだ。
ただこのオーブは加護ではない。加護は上位存在から受けとるもので加護を剥奪される可能性もあるが、このオーブは俺がルールを作らない限りはそうはならない。
だから権能と言った方が正しいかもしれない。
「……加護みたいなものですか?」
「そんなものだ。これを使えば運転できるようになるが、どうする?」
「……もちろん、もらいます」
テレイアは迷うことなくオーブを手にする。
「どう使うんですか?」
「まず、オーブを見ればどういうスキルか分かるはずだ」
「……神業騎乗」
「よし、見れたな」
「え、騎乗ってことは騎乗位でも役に立つってこと?」
「乗るという概念でいけばそうなるぞ」
「おー、すごい」
どこにすごいと思っているんだとリリスの反応を一旦スルーして、話を続ける。
「そのスキルがほしいと思えば、スキルを獲得できるはずだ」
「はい」
俺の説明にテレイアはオーブをじっと見る。
するとオーブは綺麗に砕け散ったことで、テレイアはスキルを獲得した。はずだ。
テレイアを見ればちゃんとそのオーブの力が入り込んでいるのが分かったから成功だ。
「これで……?」
「あぁ、できたぞ。試しに今から運転してみるか?」
「できたのなら、やります」
あまり自覚がないテレイアと一緒にまた教習車に乗り込む。
「一緒に乗っても大丈夫ですか?」
「安心して乗ればいいよ」
「そういうことなら……」
「カーナビに記されている目的地まで行こうか」
「はい」
少しだけ不安を見せてくるテレイアは再びエンジンをかけて車を発進させた。
「え……?」
テレイアが驚きの声をあげながら車の運転をしていた。
さっきまで人を轢き殺しそうな運転だったのに、今のテレイアの運転は手慣れた運転だった。
しかも車の走る位置も完璧だし、さっきまでハンドルを無茶苦茶に切っていたのにそれがない。
つまりは神業騎乗が完璧に作用しているわけだ。
「できているな」
俺の言葉に答えないテレイアは完璧な運転で目的地までたどり着くことができた。その間俺は一切ブレーキを踏んでいないからこれ以上にない上達ぶりだ。
それに神業騎乗は乗っているものの性能も極限にあげる。車の状態を確認すれば、エネルギーが少ししか本の少ししか減っていない。だから最高のパフォーマンスを発揮できたわけだ。
正直に言ってかなり強いスキルをあげた自覚はある。でもランクで見ればせいぜいがAランクだからな。
「……信じられない」
ようやく口を開いたと思ったらそんなことを口にしたテレイア。
「私は、何もできない愚図のはずなのに……」
テレイアの顔を見れば、テレイアは放心状態だった。
テレイアは今まであまりできることがなく、それでも冒険者になるためにクソパーティに荷物持ちをしていた。それが尊厳を踏みにじられていたとしても。
だが今は急に運転ができるようになって呆然としているのだろうな。
「気分はどうだ?」
「……さいこー」
一見すればテレイアの表情はすかした顔だった。
だが俺からすればかなり高揚としているのが分かる。
「……できる人の気分って、こんな感じだったんだ」
「そうかもな」
俺もこのチートな箱庭を持つ前はあまり特技がない人だったから、このチートな箱庭を持ってからは全能感が半端なかったことはよく覚えている。
ただ、テレイアに渡したオーブは俺に新たな可能性を見出ださせてくれた。
今まではこのチートな箱庭を出ればただの一般人で、道具を準備しなければ意識の外から狙われたらすぐに死ぬと思っていた。
だがこのオーブは俺にも恩恵を与えてくれる。
今までの道具は道具として完結してそれを使うことで力を発揮する感じになっていた。
だけどこのオーブは俺が力を蓄えることでとてつもない個人が誕生することに他ならない。
今まではこのチートな箱庭にルールを敷くことでこのチートな箱庭の中で無敵状態になっていた。
何でも作り出せてしまうチートな箱庭があるだけでかなり強いが、やっぱりそういう敵が現れた場合は俺という本体が狙われてしまう。
今までの外付け強化ではなく、俺自身を強くする。
異世界にまた行くのかはテミス次第だから分からないが、俺が強くなっておいても問題はないだろうな。
自身と装備。それぞれを強くするというイメージは俺にワクワクを与えてくれるからテレイアには感謝だな。
「優斗さん」
「ん? どうした?」
少しだけ考えていたがテレイアの言葉でテレイアを見る。
「ありがとうございます。ここに来てよかったと、生きていてよかったと、本気で思っています」
テレイアは少しぎこちない笑顔を俺に向けてきた。
……いつもは見せない表情を見るというのは来るものがあるな。ギャップ萌えはよき文化だ。
「それならよかったよ。人間、何だかんだ生きていればよかったと思うことなんてたくさんあるんだ。だからこれからたくさん、そう思っていけるようにしてやる」
「……そういうことはエイルさんに言ってください」
「言ってるよ。思ったことは何でも伝えるようにしているからな」
「それは……エイルさんは幸せですね」
こうして出会って、関係を持ってしまったから、テレイアのために何かしてやりたいと思ってしまう。
一番がエイルなのは変わらないけど。
☆
テレイアの運転でエイルとリリスがいるコンビのの駐車場に戻ってきた。
「おかえりなさい。どうでしたか? テレイアさん」
「オーブのおかげで上手に運転ができました」
「それはよかったです!」
自分のことのようにテレイアに笑顔を向けるエイル。
「すごいね、あのオーブの力」
エイルとテレイアが話している隙に、リリスが俺に話しかけてきた。
「あぁ、すごいぞ」
「武器といい魔道具といいオーブといい、優斗はとんでもないものを作る」
「この箱庭はチートだからな」
「でも、オーブは神の加護とよく似ているからな。神によってはいちゃもんをつけてくるかもね」
「そうなったら突っぱねるだけだ。戦いを仕掛けてくるなら殺しきるだけだ」
「おー、心強いねー」
異世界の神どもが仕掛けてくるとしても、神を殺したあの時にやってきているだろ。まあ神と接している時間は少ないからまだ詳しくは分からないけど。
誰か送り込んでくるとしても見せしめにはしているから迂闊には来ないだろうが、少し対応策を考えておく必要があるか。
例えば、神一柱ずつに首輪をつけて生殺与奪の権を握っておく、とかな。
このチートな箱庭であれば全然やれる。天界という場所をすでに補足しているし、見つけていなくても神一柱ずつの専用の首輪を作っておけばいいだけの話だ。それで猟犬のように首に噛みついていく。
別に加護を与えていることは問題ではないがこちらに手を出して来たらどうにかしよう。
人は誰しも生まれた時から平等ではないのだから、神に好かれる才能もあって然るべきだ。
「リリスは何か欲しいスキルとかあるのか?」
「ないよ?」
「そうなのか」
「前だったら加護を抑えるスキルとかを望んでいたかもしれないけど、あたしは今幸せだから何もいらないね」
「そうだろうな」
「おー、幸せにしている自覚があるのかな?」
「むしろ今のリリスを見てどう幸せじゃないのか知りたいくらいだ」
配信して稼いで、酒飲んでダラダラしてセックスしている状況が幸せじゃないわけがない。
「んー? 幸せにしたくないのかなー?」
「……幸せにするぞ」
「むふふ、ありがとー」
テレイアがすごくこちらを見ているからやめてほしい。エイルは苦笑いしているからいいけど。
「気を取り直して、東京に行こう」
東京に行くまでにテレイアの事情を解決できるとは思わなかったがいいことだから時間の無駄ではなかった。
テレイアに運転するか聞こうかと思ったが、景色をじっくりと見たいのなら俺が運転した方がいいかと考えて聞かずに俺が運転することにした。
さっきと同じ座席に座った俺たち四人は東京に向けて出発する。
「さっきのコンビニにあったグミ、食べる?」
リリスはレジ袋に入ったグミを取り出して俺たち三人に向けてそう言ってきた。
「……なんですか、その奇妙な食べ物は」
昨日来たばかりのテレイアからすればグミは不思議なものなのだろうな。
「弾力があるお菓子だよ」
「お菓子? それがですか?」
「そ。優斗がいる世界では売れているお菓子」
「俺は一つもらおうか。どんなグミだ?」
テレイアは声色からどんなものか興味があるがリリスが持っている分、警戒しているのが分かったから俺が先に食べることにした。
「ちょー弾力があるグミ。これネットに書いてあったけど今売れすぎて売り切れ続出なんだって」
「へー、そんなコンビニを出していたのか」
特に気にしていなかったけどもしかしたらリリスが気に入る商品が置かれているコンビニを俺が無意識下で作り出したのかもしれないな。
「運転中だからあたしが食べさせてあげる」
「あぁ、頼む」
止まれるけどこういうのは雰囲気だからな。
俺は口を開けてリリスがグミをくれるのを待つ。片手で受け取ればよかったと口を開けながら思った。
だけど視界の端で来たのは手ではなくリリスの顔だった。
リリスのプルンプルンの唇にはグミが挟まっているのが見えたが、次の瞬間にはリリスは途中で動きを止めていた。
「なにを、しているんですか……!」
バックミラーを見れば辛うじてテレイアがリリスの服をつかんで止めているのが分かった。
「なにって、食べさせようとしているんだけど?」
グミを唇で挟みながら器用にしゃべるリリス。こういう口テクがすごいことは俺が身をもって知っている。
「手で食べさせればいいじゃないですか……!」
テレイアの声からかなりの力でリリスを引き留めているのが分かる。
「んー? それって面白い?」
「食べるのに面白いは必要ないですよ……!」
あー、これはテレイアが負けそうになっているなー。段々と俺に近づいてくるリリスが見える。
リリスは加護持ちだからテレイアは力では勝てない。権能にはそういう効果はないからな。
そういう力をつけてもいいけど、そこは考えてからやろう。決して今すぐにやることではないとテレイア以外の誰もが思うことだ。
「ダメですよ、リリス。テレイアさんをからかっては」
「あ」
横目で見ればエイルがリリスの唇のグミを取っていた。
「はい、優斗」
「あー」
そしてエイルが代わりに俺にグミを食べさせてくれた。
「こういうところではあたしにさせてくれないとー」
「ふふっ、油断大敵ですよ」
さすがはエイルだ。あのカオスな状況を制することができるのは君だけだよ。




