52:挑戦
お弁当の準備が終わるくらいにリリスとテレイアが二階から降りてきた。
「どうよ? 可愛いよね?」
「……こんな服を着るなんて」
リリスは自信満々で、テレイアは少し恥ずかしそうにしながらリビングに入ってきた。
リリスは元々ボーイッシュな服を持っているのは知っていたからボーイッシュな服を着ているのはいつも通りだ。
そのリリスが持っているボーイッシュな服をテレイアが着ていた。
胸囲の差がある分は服を結んでサイズを合わせていた。
「あぁ、テレイアもリリスも似合っているぞ」
「ふふっ、ありがと」
「……そうですか」
「エイルもそう思うよな?」
「はい、とてもお似合いです。素材がいいですからテレイアさんにはまだ他の服も着せてあげたいですね」
エイルにそう言われて嬉しそうにしているテレイア。
「じゃあ俺たちも着替えてくるか」
「はい」
俺とエイルも二階で着替えてリビングに降りる。
「エイルさん、似合っています」
「ふふっ、ありがとうございます」
エイルは清楚な感じの服が多い。
ていうかエイルはそっちの方が似合うし、それを好んでいるからほぼそれしか着ない。
清楚系以外だと、リリスが着ているような布面積が少ない服がある。それは本当に着ないし、俺とのプレイの時くらいしか着ない。
たまにエイルとリリスが性格を入れ換えてやるセックスの時に使うわけだが、それが本当にエイルの感じがすごくいいから月一くらいでやってもらっている。
「三人とも準備ができたな。それじゃあ行こうか」
「はい」
「うん」
「……はい」
全員の準備ができたことでお弁当箱を持ち、家から出る。
カースペースに置いてある車のロックをスマートキーで解除する。
「……これはなんですか?」
「これが車だよ。長距離の移動に便利な乗り物だ」
「これが……」
かなり興味津々に車を見ているテレイア。
そんなテレイアを放置して、とりあえず乗りやすいように車を家の前に出した。
カッコつけるようにして車に置いてあったサングラスをかけて運転席の窓を開けて三人に声をかける。
「へい、そこの可愛い三人、俺と一緒にドライブでもどうだ?」
「えー、どうするエイル?」
「私は既婚者なのでそのお誘いには乗れません。私の旦那様になってから誘ってください」
「ぷぷっ、振られてるー。あたしも全能な箱庭を持ってるエイルの旦那さんしか受け付けれないから、どっか行って」
二人から振られた俺は顔を背けてサングラスを外してから顔を向けた。
「そこの俺の可愛い奥さんと愛人と客人。俺と一緒にドライブでもどうだ?」
「はい、喜んで!」
「んふ、たのしみー」
「……なんですか、これは」
このノリについていけない様子のテレイア。
「こういうことは苦手か?」
「いえ、そういうわけではないです。ただ、リリスさん以外がこうするのだと思ってビックリしただけです」
「あたしはすると思っているのか」
「当然ですね。存在からふざけていると思いますけど?」
「ひどー。優斗慰めてー」
開いている運転席の窓から俺に抱きついてくるリリス。
それを見たテレイアは無表情でこちらを見ているが、怒っているのが分かった。
リリスはひどいことを言われても気にはしないがそれを無視しているわけではない。むしろテレイアがピキる行動をするという、バトルが繰り広げられている。
「早く東京に行きますよ」
エイルがそう言ってくれることでリリスは俺から抱きつくのをやめた。
「座席はどうする? あたしは助手席でもいいよ」
それはテレイアを考えているのか考えていないのかが分からない。
「どういう席なんですか?」
「こういう感じだぞ」
テレイアの疑問に俺は車から降りて後部座席の扉を開ける。
「前二人、後ろ三人の計五人が乗ることができる」
「……こうなっているんですね。まあ優斗さんの隣はエイルさん以外考えられませんけど」
「それならあたしとテレイアが後ろだ」
「はい」
席順は決まり、運転席が俺、助手席がエイル、運転席の後ろにテレイアで助手席の後ろがリリスという座り方になった。
「テレイア、酔うことがあればすぐに言えよ」
「こんなことで酔うほど軟弱ではありませんが、分かりました」
このチートな箱庭での運転は緊張なんて一つもなく車を発進させた。
東京に行くためには転移しなければいけないが、何度も不自然に光景が変わるのは変だと思ったからそこを自然になるようにした。
距離自体は短くしていないがドライブを楽しめるようにはしたし、短すぎず長すぎないように東京に行けれるようにはした。
ドライブだから時には信号があったりと作り込みはしてある。そういうところで自然な感じを出している。
「どうやって動いているんですか?」
後ろにいたテレイアが案の定興味津々に聞いてきた。
「足元にあるペダルを踏んで加速したり減速したりしているんだよ」
「それなら横の棒はなんですか?」
「これはシフトレバー。今は前にしか進まないけどこれを使うことで後ろに進んだり止まったりできる」
「へー……」
「それに車は不思議なことがあります。なにもしなくても前に進みます!」
「へぇ……?」
興味津々だが疑問な様子のテレイア。
「興味があるのなら乗ればいいんじゃない?」
リリスがテレイアに向けてそう提案した。
「……そう簡単に乗れるものですか?」
「乗れるよ。俺がいた世界ではかなりの人が車に乗っているからな」
その代わり免許証が必要なわけだが、この世界では不要なものだ。
ちなみにエイルとリリスは運転よりも乗っていることがいいらしいから二人が運転することはない。
「それなら……乗りたいです」
テレイアは何にでも興味を持つし、挑戦しようとするからエイルタイプだな。
「分かった、それなら今からちょっとだけやってみるか」
ドライブ道中にはコンビニも作っていたからコンビニの駐車場に車を停め、テレイア用に教習所の車を作り出した。
「これは運転を練習する時に使われる教習車だ。これには助手席にブレーキがついているから危険なことになりそうなら止めることができるわけだ」
「それなら安全というわけですか。ですがそんなものは不要です」
「自信ありか。それは大いに結構だ」
テレイアに運転の仕方を教える。
座席の位置やアクセルペダルを踏む時の足の置き方、もろもろ教えた。
教えている間、エイルはこちらを見ていてリリスはコンビニに入っていた。
「事前に教えるのはこれくらいだな。何となく分かったか?」
「まあ、何となくは」
「よし、それならやってみようか」
「はい」
淡々としているから意外にできるか?
「お、もうやる感じ?」
コンビニから出てきたリリスはレジ袋を引っ提げてアイスを食べていた。
「あぁ、もうやるぞ」
「あたしとエイルはここで見ていればいいのか?」
「一応な」
この箱庭では危険はないからエイルとリリスが同乗していても問題はないが、念のためということもあり外で待ってもらうことにした。
「テレイアさん、頑張ってください!」
「はい、それなりに頑張ります」
エイルの声援を受けてテレイアが運転席、俺が助手席に座る。
「いつでも始めてくれ」
「はい、やります」
こうして教習所の先生役をやるのは初めてだけどこの箱庭の中だから何も不安になることはない。
テレイアは俺が教えた通りにブレーキを踏みながらドライブに入れ、アクセルペダルを踏んだ。
「え」
ものすごい勢いで車が発進した。
俺は確かにゆっくりとアクセルペダルを踏めと言った。それなのにテレイアはアクセルペダルを踏み込みやがった。
俺はすぐにブレーキを踏んで停めた。
「テレイア?」
「なんですか?」
「なんですか? ではなくて、ゆっくりとアクセルを踏めと言ったよね?」
「はい、聞いてました。そうやったつもりでしたが……」
え、冗談で言っているのか? さっきの車に乗り込む時の件があったからそういうことを言っているのか?
いや違う。テレイアは本気でやっているんだ! その目と表情をしている!
「あー……よし、もっとゆっくりアクセルを踏もうか」
「はい、やってみます」
俺、このチートな箱庭じゃなければ怖くて震えていたぞ。
教習所でもすぐにやめさせられていたレベルだが次は大丈夫だろう。うん、きっと。
と、思っていた時期が俺にもありました。
「……すみません」
「あー、うん……そうだなぁ……」
テレイアは俺が何度言ってもアクセルの踏み方がうまくいかなかった。
それがうまくいったとしても、ハンドル捌きが壊滅的に下手だった。
何度も何度も建物や電柱にぶつかりそうになる度に俺が減速させたり止めたりした。
ハッキリと言えばテレイアに運転の才能がない。それも事故をするやつらと同じでこれ以上運転してほしくないと思うレベルだ。
かれこれ一時間はやっているんだが……どう伝えたらいいのか分からずにエイルとリリスがいるコンビニの駐車場に転移した。
俺とテレイアが車から降りればエイルが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「俺もテレイアも平気だよ。このチートな箱庭では万が一もないからね」
「それならよかったです……」
「ヤバイ運転だったなー」
エイルは心配してきたがリリスはド直球にそう言った。
「最初はこんなものだ。練習していけば上手になるよ」
最初のことができていないから本当にどうしたものかと悩んでいるんだけど、テレイアのためを思えばそう言うしかない。
「慰めは要りません。……私は、才能がないので」
その言葉は今までにテレイアが経験してきた挫折の数々の重みがあった。
何でもできるみたいなすかした顔をしているのにできないのがギャップがある。
「そのようなことはありません! きっと何度もやれば上手になりますよ!」
エイルがその言葉を否定するように声をあげた。
「励ましてくれてありがとうございます。でもいいんです、絶対にできないことは分かってますから」
ここから練習をすればマシな形にはなるとは思うけど、それを今のテレイアができるか分からない。
でもまあ世の中には本当に運転してはいけないやつらがいるわけで……その人種にテレイアが入りそう、というのは言わないでおく。
「優斗、どうにかなりませんか……?」
「どうにか……」
エイルがすがるような目で俺にお願いしてきたから何がなんでも叶えたいと思ってしまう。
ただこのチートな箱庭の中だけで言えばテレイアに運転の技術をプラスすることはルールを敷いてできるが、そういうことではないのは分かっている。
運転を補助する車を作るとか? いやそれだと意味が違うからダメか。
うーん……こうなればラノベ作品みたいにそのスキルを手に入れるアイテムを作り出すか。




