50:起床
いつも通りの時間に、いつも通りの体調で目が覚める。
それが一時間だろうが一分だろうが、寝るという行為をしたら全回復するようにルールを敷いてある。
隣で呑気に寝ているリリスのせいで睡眠時間が二時間しか取れなかったという状況でも、万全というわけだ。
何なら睡眠を必要としなくなってできるが、それはそれで人間として終わっている感じがしているからそんなことはしない。
「……こいつ、言っていることが違ってるだろ」
リリスは自身で欲情した精液は好きではないと言っていた。
だがさっきまでずっとリリスでしか精液を溜めていなかったはずなのにそれを嬉々として飲んだり受け止めたり咀嚼したりしていた。
しかも美味しそうな顔で。
リリスが目の前にいるのに、エイルのことを考えていたというエイル大好きな状態だった可能性はあるかもしれないが、それでも普通ならリリスで精液を溜めているとしか考えれない。
何せ、リリスはサキュバスの力を最大限に使ってきた。
リリスの愛液を飲めば、とてつもなく甘い液体でいくらでも飲んでいたり、一時的に母乳を出せるようにして、それも甘かったりした。
それを飲めばギンギンになって、今までの気持ちなんてどうでもいいくらいにエロに思考を持っていかれていた。
だから絶対にリリスに対して欲情していたのは分かる。
それなのに美味しそうに精液を搾り取っていた。本当に意味が分からない。
そのおかげでさっきまでやり続ける羽目になったものの、自分で敷いていたルールに感謝して部屋から出る。
エイルは起きているのかと思えば、起きて一階にいるのが分かった。しかもテレイアも一緒に。
一階に降りてリビングに入れば、二人がこちらを見てきた。
「おはようございます、優斗」
「おはよう、エイル」
エイルはテーブル席の椅子に座っていた。
いつもはおはようもおやすみもベッドの上だからこうしてリビングでこう言いあうのは久しぶりだ。
「おはようございます、優斗さん」
「あぁ、おはよう」
エイルの正面の席に座っているのはテレイアで、昨日よりか遥かにいい表情をしている。
いい表情とは言っても、笑顔というわけではなく顔色がいい。表情は澄ました感じだからな。
「よく寝れたか?」
「えぇ、まあ。ほどほどには」
俺の問いかけに絶妙な返しをしてくるが、昨日と比べたら遥かにいいものになったから気にしない。
テーブルの上を見ればエイルが図書館から持ってきた本が並んでいた。
「本を見ていたのか」
「はい。テレイアさんも興味があった様子なので一緒に見ていました!」
「へぇ、そうなのか」
「……別に。ただ未知の文明に驚いていただけです」
テレイアがどういうことに興味があるのかは分からないが、少なくともエイルが知ろうとしていることには興味があるみたいだ。
そう思っていれば、テレイアから大きなお腹の虫が鳴った。
テレイアを見ればすました顔から一変して、少し屈辱的な顔をしながら顔を赤くして俺をキッと見てきた。
そう言えば昨日は全く食べていなかったからお腹が空いて当然か。
「さぁ、朝ごはんの準備をしましょう」
「そうだな。いっぱい作ろうか」
「はい、腕によりをかけますね!」
俺とエイルはいつものようにキッチンに向かう。
まだ食材は十分にあるからそれを豪勢に使って朝ご飯を作るつもりだ。
「……何か手伝います」
俺とエイルに続いてテレイアもキッチンに来てそう言ってくれる。
「テレイアさんは座っていてください。歓迎パーティではありませんが、主役はテレイアさんですから」
「ですが……」
「今回は座っておけばいい。次から手伝ってくれればいいぞ」
「……そういうことなら」
大人しく引き下がってくれたテレイアだが、キッチンの様子が気になっているようで邪魔にならない位置に立っていた。
俺とエイルは役割分担をして料理を始める。
エイルとは何をするにも一緒にしているから、料理を役割分担していてもお互いに相手がどう動くかさすがに分かるようになった。
だからこそ今日起きた時の違和感が半端なかったが、今日寝る時はどうするのだろうか。
野菜を炒めていればテレイアがこちらを見ていた。その視線はすぐにどんな視線なのかが分かった。
「これが気になるか?」
「……まあ、はい。火を使っていないのにどうやって焼いているのだろうかと」
なぜその視線が分かったのか。
さすがに三人目ともなればすぐに分かるようになった。変な特技を身に着けてしまった。
料理をしていても完全に集中しているわけではないから、テレイアの疑問に答えていく。
……俺に聞いてくるんだな。俺よりもエイルの方が好感度が高そうだからエイルに聞くものだと答えながら思った。
でも迷惑をかけないようにと考えれば俺に聞くか。
とにもかくにも、いつもよりも多いが特に時間がかかることもなく料理が完成した。
「じゃあリリスを起こしてくるよ」
「はい。では私は運びますね」
「手伝います」
「それならお願いします!」
この場はエイルとテレイアに任せ、リリスが寝ている俺の部屋に入る。
俺が起きた時に起こせばいいと思うだろう。だが、このサキュバスはあろうことか料理をしている間に部屋に戻って寝るのだ。
だからこのタイミングで起こすことにした。
「おい、起きろ」
「んー……むりー……」
「無理じゃない。よく寝ただろ」
「そうだっけ……?」
リリスはよくは寝ていない。だが俺とは違って加護があるから万全の体調にはなるのがリリスだ。
サキュバスだから、というのもあるだろう。
「起こしてー」
両手を伸ばしてそう言ってくるリリスだが俺は油断しない。
しっかりと両手をつかみ、リリスの体を起こして立ち上がらせる。
その際にかなりの力をリリスから受けたものの、俺は自身を強化していたから難なく起こすことができた。
「ちぇー、今回はうまくいかなかった」
「二度も同じ手は喰らわないぞ」
一度目にベッドに引きづりこまれたことがあったからな。今回は油断しない。
「ほら、エイルとテレイアが待っているぞ」
「お、テレイアもいるんだ」
「あぁ、しっかりと寝て顔色はいいぞ」
「やっぱ母性って大事だね」
リリスが言っている母性はきっとおっぱいのことを言っている。
……エイルの包み込むようなおっぱいに、リリスの発情させるおっぱい。どちらもいいものだ。
服を着たリリスと一緒にリビングに降りる。
服を着たと言っても布面積が少ない服を着ているから四捨五入したら着ていないことになるが、そこはサキュバスだから気にしたら負けだ。
「おはよー、エイル」
「おはようございます、リリス」
「それからテレイアもおはよー」
「……おはようございます」
ん? なんだかテレイアの様子がおかしいな。
俺とエイルに対しては普通な感じなのに、リリスに対してはかなり距離があるように感じる。
それをリリスも分かっているが、リリスは気にしない方向に行くようだ。
すでにテーブルには料理がほぼ並んでいた。
どういう風に座るんだと思えば、専用のお箸やお皿を見てすでに席割りはされていた。
俺の隣にはエイルで、俺の正面にはテレイアになっていた。つまりテレイアの隣かつエイルの正面がリリスということになる。
さっきのテレイアの反応を見たあとだからリリスの隣で大丈夫なのだろうかと思った。
「エイル。この席順はエイルが決めたのか?」
「いえ、テレイアさんです」
テレイアが決めたのか? それなら、この席順に文句はつけなくてもいいか。
てっきりエイルの隣がいいのだと思っていたが、よく分からないな。
「おー、今日の朝は豪勢だ」
リリスは指定されている自分の席に座って弾んだ声でそう言った。
「もしかして軽いテレイアの歓迎パーティ?」
「そんなものだ」
さすがはリリス。そこはちゃんと分かっているな。
残りの料理やお皿をテーブルに運ぶ作業をリリスを除く三人でやったが、その間にリリスを見ていたテレイアの目が鋭かった。
……しばらく様子を見ない限りはテレイアが何を思ってリリスを見ているのかが分からないな。
嫌っている感じじゃないし、リリスが何かをしたわけではないからな。どちらかと言えば、気にくわないという感じかな?
「さぁ、食べましょう」
「あー、お酒飲みたくなる料理だなー」
「ダメだぞ」
「分かってるよ」
分かってると言いつつもここで許可を出せば遠慮なく飲もうとするのがリリスだ。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
テレイア以外の三人がいつも通り手を合わせてそう言えば、テレイアはぎこちなくそれを真似した。
「……いただきます」
「はい、召し上がれ」
エイルがテレイアのいただきますに答え、俺たちは食べ始める。
俺も俺で精液を出しまくったからお腹が減っている。ていうか毎日出しまくっているから朝は絶対にお腹が減っている。
人は夜に寝るから晩御飯は少ない方がいいと言われていたような気がするが、俺の場合はそれだと体力がもたなさそうだが。いや俺はこのチートな箱庭があるから問題はないけど、サキュバスを相手にする人がいたらそうなるよな。
俺とエイルはバランスよく揚げ物や野菜を食べているが、リリスは好物な唐揚げばかりを食べている。
一方、俺たちを見てからおずおずと唐揚げを食べるテレイア。
「……おいしい」
「それならよかった」
「そうですね。作った甲斐がありました!」
食欲が増進されたのか、テレイアは次々と食べ始める。
ダンジョンで置き去りにされて必死になっていただろうから、お腹が空いているのは当然だ。
黙々と食べているテレイアは俺とエイルが食べ終えてもなお食べていた。
残したとしても昼食に食べれると思って多く作っているからテレイアも満足できるだろう。
「……ごちそうさまでした」
俺たち三人が食後に言っていた言葉をテレイアは言った。
こういうところを見ればテレイアはツンケンしているだけでいい子なのは分かる。エイルを逃がしたパナケアがつれてきたんだ、いい子じゃないわけがないか。
「お腹いっぱいか?」
「……さすがにこれだけ食べればお腹いっぱいになります」
別に嫌味で言ったわけではないが、テレイアは少し顔を赤くしてそう答えた。
「それはよかった。ここでは好きなだけ食べたらいいよ」
「……まるで無限にあるみたいな傲慢な言い方ですね。神か何かですか?」
「この空間に関して言えば、俺は神に近いぞ。ほぼ何でもできるからな」
「……冗談にしては笑えないですね」
「昨日、テレイアが入ってきた場所があっただろ? あそこは俺が作り出した場所だ」
「あれをですか?」
「そうだ。あれくらいのことなら簡単にできるくらいには、俺は何でもできる」
信じられないみたいな顔をしているテレイアだが信じてはくれているみたいだ。
テレイアが望むのであれば、この世界にダンジョンを作り出すことだって可能だ。今のところは作るつもりはない。
残っているご飯を皿にまとめたり使い終わった皿をそれぞれが片付けていく。
さすがにリリスもこれくらいは手伝ってくれるし、テレイアもキッチンに持ってきてくれる。
俺とエイルが皿洗いをしているとテレイアが声をかけてくる。
「私がします」
「今回はいいよ」
「私たちが手伝ってほしければ言いますから、気にしなくて大丈夫ですよ」
「……それなら」
「それに見てみろ、あそこにいるもう一人は気にせずソファで寝転がっているんだぞ」
ソファに寝転がっているリリスは服がめくれてでかいおっぱいがこぼれているのが見える。
「んー? あたしの話をしてるー?」
「……あれは論外なのでは?」
ここに来てから遠慮がないのがリリスだからな。
ただそれがリリスの良さであり、助かっている部分でもあるからな。




