48:対価
テミスも寝た部屋ですぐに眠った様子のテレイア。
その部屋はすでに客人用になりつつあるなと思っていたところで、俺は戻ってきたエイルに俺の隣でスマホをいじっていたリリスに向けてある議題を話すことにした。
「テレイアがいる間、少しエッチは控えた方がいいかもしれないな」
「そんなことできるわけないだろ!」
俺に警戒しているテレイアがいるから、という理由でそう提案したのだが、間髪入れずにリリスがそう言ってきた。
「あたしはサキュバスだぞ!?」
「いや知ってるから」
サキュバスなのは知っているが、まさかリリスがここまで反応してくるとは思わなかった。
「リリス、テレイアさんが癒される間だけでも我慢できませんか?」
「エイルこそ、我慢できる? 愛を注がれないんだよ?」
「心は繋がっていますから」
「でも優斗と体で繋がっている時は好きでしょ」
「……そうですが」
おや、風向きが変わってきたな。
「それに、エッチは相手と愛を深めることも、確かめることもできる。普段は言えない愛の言葉もエッチの時は言ってくれる。おっぱいが好き、中が気持ちいい、エイルの唾液がおいしい、汗もおいしい。そんなこと、エッチの時しか言わないだろ?」
「……そうですね」
おい、それ全部昨日俺がエイルに言ったことだろ。素面の時に言われると恥ずかしくなるだろ。
「エッチは夫婦や恋人での一種のコミュニケーションなんだ。だからできる時に我慢していると寂しくなるよ?」
リリスの言葉に納得したためか少し考えている様子のエイル。
リリスの言っていることは分かるが、ここに来るまでエッチを忌避していた奴が言う言葉ではない。
「……リリスの言うことは分かりました。ですがテレイアさんのことを思えば優斗の意見は尤もです」
どちらも肯定していることを言い出すエイル。
いつの間にかエイルがどう思うかによって判決が下される形になってしまったが、どこの家でもお嫁さんが主導権を握りがちだろうなとこの状況を快く受け入れる。
「ですので、バレずにやりましょう」
「え」
「やっぱそれが一番だよねー」
……まさか、エイルの口からバレずにやるという言葉が聞けるとは思わなかった。
もうすでにリリスに影響されていると思ったが、聖女がサキュバスに影響を受けて性女にジョブチェンジしてしまった。
「優斗なら、どうにかしてくれますよね?」
「最初からできるって分かっているのに言ってきたよね」
確かにできるけど……もしかしたら少しのことでバレるかもしれないと思ってこう提案したんだが。
それもバレないようにはできるけど、そこまでしてエッチをやるのか? という疑問からこう話を出した。
ただ、どうやら性女とサキュバスは我慢できないらしい。
ここの男が俺一人でよかった。もし他にもいたらエイルが他の男のところに行ってしまうんではないかと微かな疑問を持つところだった。
「……あぁ、どうにかするよ」
「ありがとうございます!」
「優斗もやりたくて仕方がないんだよねー」
リリスの言い方は下品だが、俺も毎日するくらいには性に溺れている自覚はある。
「防音とかにするにしても、バレないように小声でしようか」
「防音なら必要ないんじゃないか?」
「これを言ってきたってことはそういうことじゃないの?」
「いやそういうわけじゃないけど……」
本当にテレイアのことを考えて俺はこれを提案したんだがな。
「ASMRの練習としてさ、またやったらいいよね」
「オノマトペとか耳舐めとかですよね。あれをやると優斗は嬉しそうで、私は好きです」
変な性癖でもエイルはすべて受け止めてくれる。だからエイルのことをより一層好きになる。
ただエイルはそういうところがまだないから見つけてほしい気持ちはある。
「いや今日は俺がASMR風に攻める」
「おー、優斗もASMRデビューする?」
「どこに需要があるんだよ」
「えー、少なくともあたしとエイルは聞きたいよね?」
「はい。私は優斗の声が好きですから」
「それはデビューするまでもなくやることだろ」
俺は自分の声があまり好きではないからな。ASMRをするとかは無理だ。
それにエイルとリリスにはこれからやるつもりだからわざわざASMRとしてやる意味がない。
「エイルも配信でASMRやる?」
「私もですか?」
リリスの問いかけにエイルは悩んだ様子を見せていた。いや、よく見れば嫌そうな顔に見えるな。
「おい、俺の嫁さんを男たちのおかずにするな」
だからリリスには俺から断っておいた。
「そういうエッチなものじゃなくて、囁きとか耳かきとか、エイルの綺麗な声の睡眠導入なら望んでいる人は多いと思うよ」
確かにエイルの声は聖女みたいに綺麗で美しい声だから、囁きやらをしたら受けそうではある。
それでもエイルがやるかどうかは分からないけどな。
「……優斗に対してやるのなら、やります」
「それは絶対にダメだ。優斗の名前を出すよね?」
「はい」
「今の話は忘れてくれ」
どうやらエイルはそういうのには抵抗があるようで、説得はできなかった。
となればリリスのみのASMRになるな。
BANされないか心配だが、そこら辺は電脳王が何とかしてくれるから大丈夫だな。
☆
エイルとリリスによるコソコソエッチはそそるものがあった。
前にやっていた耳や声を重視するものとは違い、静かにするというところがそそった。
完璧に防音で決してテレイアにバレることがないが、それでもバレないようにするというプレイをした。
それは今までやった激しい交わりではなく、じっくりと、ねっとりとお互いの体を貪りあう今までとは違う深い交わりだった。
軽いポリネシアンセックスのような感じだったが、性の体現者であるサキュバスのリリスも満足してくれていて安心した。
でもこのチートな箱庭の中であっても、セックスに関してはリリスに負けそうになるのは本当に何とかしなければいけない。
俺も満足している二人の真ん中で寝ようとした。だが、部屋の前でテレイアがいることに今になって気が付いた。
さっきまで二人とやっていたから気が付かなかった。もしかしたらだいぶいたのかもしれないがそれは分からない。
……中の事情はバレてはいないよな? ここは完全に防音だし、テレイアが何か加護を持っていたとしても気が付かれることはないはずだ。そういう風にこの部屋にルールを加えたのだから。
だけど、どうしてずっと部屋の前にいるんだ。何か用事があるのかもしれない。
「……行くか」
二人を起こさないようにベッドの上からベッドの前に瞬間移動した。
エイルとリリスを見ればちゃんと寝ているから安心しながらも体を綺麗にして服を着て、扉をゆっくりと開けた。
扉を開けた先にはびっくりした顔をしたテレイアがいた。
「何か用か?」
「……よく気づきましたね」
「ここは俺の世界だからな。すぐに分かる」
普通なら部屋の前にいるか分からないからそりゃ驚く。
「……このにおい」
あ、しまった。部屋の中を見せないようにしようかと思ったが、においを消すのを忘れていた。
「入ります」
「お、おい」
この箱庭では俺は死なないし攻撃されることもない。
だけど身体能力は特に上げていないから冒険者として生きていたテレイアに押しのけられてしまう。
そして俺の部屋に入ったことでさっきまでやっていたことでのにおいが部屋に充満していた。
さらにベッドの上では二人がぐっすりと寝ているが、その裸体には誰の体液か分からないくらいにベトベトになっていた。
それを見たテレイアは俺を睨みつけてきた。
「……やっぱり、男なんですね」
見せないようにしていたのに、すべてが台無しになってしまった。
テレイアの気分を害する可能性が出てきてしまったから、あまり使いたくなかった精神に干渉することも視野に入れないとな。
「あんなに優しくしてくれたエイルさんをこんな風にして……!」
しっかりとエイルの優しさを感じ取っているようだ。それはそれでエイルが喜びそうだ。
ただ、一つ言わなければならないことがあるんだけどね。
「いや、エイルは俺のお嫁さんだぞ」
エイルに聞いていたことを思い出したのか、押し黙ったテレイア。
だけど少しして再びキッと俺を睨みつけてきた。
「エイルさんの優しさに付け込んで、そこのサキュバスと一緒になってイジメていたんでしょ……!」
「俺たちは仲良しだぞ」
「どうだか」
本当にテレイアは俺に対して警戒心マシマシだ。
さっきの俺たちの雰囲気を見れば分かりそうではあるけど。
「来て」
テレイアに腕を引っ張られて部屋の外に出たと思えば、テレイアが寝ていた部屋に入った。
「なん――」
なんだと言おうとしたが、テレイアが上の服を脱いで上裸になったことで言葉を止めざるを得なかった。
エイルやリリスみたいに大きくはないが、それでもテレイアの胸は美乳と言える大きさと形をしていた。
「どうせ、男はこういうことしか考えていない生き物なんですよね」
「いや、何か勘違いしているぞ」
「勘違い? 私をここに招いたのもこうするためですよね? ご自由にどうぞ」
ズボンも脱ぎ、パンツだけになったテレイアはベッドに寝転がって目を閉じた。
……本当に、どういうことでこうなっているんだ。
トラウマがあると思ったら、どうやったらこんな状況になるんだ。
「俺は別にテレイアのためを思ってここに置いているだけだ。エロいことをするのが目的じゃないよ」
「言い訳は結構です。あぁ、それなら私が言ってあげます。ここで休ませてくれる間、対価として私の体を好きにしていいですよ。これでいいですか?」
こ、この女冒険者……拗らせている!
普通の言葉でさえも信用してくれない。
「あぁ、その代わりエイルさんに酷いことをしないでください。酷いことをするのなら私だけでお願いしますね」
「別に酷いことはしていないんだが……」
「それならどうしてあんな現場になるんですか?」
いやそれはエイルとリリスが全身全霊で俺と交わっているだけなんだが。
それが部屋中にオスとメスのにおいが充満して、ベッドすらもドロドロになる展開になったわけだが。
「ほら、さっさと来てください。それとも、まだ理由が必要ですか?」
テレイアは感情の起伏がない様子でそう言ってくる。
それが何とも痛ましくて、エイルがいいと言ったとしても勃たない。
もし勃ったとしても、エイルに何も言わずにテレイアとしたら何を言われるか分からないぞ。
俺が何を言っても無駄、この状況をどうにかするためにはこうするしかない。
「ちょっと待っていてくれ」
俺はすぐさま部屋から出て元居た部屋に戻った。
そして半ば気を失っているエイルの体力を少し回復させてから呼びかけてエイルを起こす。
完全に体力を回復させたらまた寝る時に寝れないかもしれないからな。
「エイル、起きてくれ」
「んぅ……ゆうとぉ……? まだ、したいのですかぁ……? いいですよぉ……」
エイルは俺に腕を伸ばしてウェルカムしてくれる。
飛び込みたい気持ちを抑えて、真面目な声色で話しかける。
「そうしたいのは山々なんだけど、今はマジな話。ちょっとついてきてくれ」
「まじ……分かりました」
俺の声色から理解してくれたようでベッドから起きてくれたエイル。
エイルと一緒にテレイアがいる部屋に戻った。
「何をしていたんで――」
ベッドの上でパンツ一丁で座っているテレイアが少し怒っている声色を見せたが、エイルを見た瞬間にピタリと黙った。
「――優斗、これはどういうことですか?」
それを引き継ぐように、今度はエイルから静かなる怒気が滲み出した。
……まあ、こういうことが結婚ということだよな。気にしていたら結婚生活は続かない。




