44:三人で配信
時刻は午後八時。
その時間は配信の開始時刻で、すでに配信は始まっていた。
「どーも、リリスでーす」
アラギをカメラとして使い、リリスはいつものようにカメラの前で挨拶をした。
『今日は外だ!』
『箱庭の管理人って誰だ?』
『今日もエロいなー』
『うおー! 立っている姿もセクシー!』
『箱庭ってなに?』
配信が始まったことで始まる前よりもコメントが盛り上がる。
「今日も来てくれてありがとー」
リリスは配信のコメントをアラギに追加した機能の一つ、仮想ディスプレイにて画面をアラギの上に投影されて見てそう言っている。
配信中だからリリスは本音を隠して喋っている。
画面の向こうだから気にならないのは前に聞いた。ただ画面の向こうから精液が溜まる音が聞こえていたら嫌だろうなぁ……。
「いよいよですね……!」
「あぁ、そうだな」
アラギの画角の外に俺とエイルはおり、エイルは緊張した面持ちだがどこか楽しみな雰囲気を見せている。
俺はすでに姿を偽る眼鏡をかけていて、俺とエイルは準備万端だった。
呼ばれるまでコメントを見ているがあまり見たことがないリリスの立ち姿に盛り上がっている様子だ。
リリスはスタイルがかなりいいし、そのサキュバスコスからコメントを沸かせている。
「あらかじめ説明しておくと、ここは私が住んでいる箱庭。君たちが住んでいる場所とは別世界になってるよ」
リリスがそう簡単に説明するが、コメントはあまり信じていない様子だった。
『で、どこ?』
『バス王国じゃないんだ』
『箱庭ってことはどこかの庭?』
『時間的に日本じゃない?』
ここまでは想定内だな。
「君たちがそんなことを言うからさ、この箱庭の管理人が出演してくれることになったぞ。それから管理人のお嫁さんも。じゃ、来てー」
リリスに呼ばれて俺とエイルはアラギの画角に入って配信に映る。
『うお!?』
『え!?』
『すげぇ……』
『なんだこの美人!?』
『やば』
『うっ』
エイルが配信に映ったことでめちゃくちゃ配信が盛り上がっていた。
配信に映った俺はリリスを真ん中にしようとするが、それをリリスは阻止して俺が真ん中になってリリスとエイルが俺の隣に立った。
『だれ?』
『真ん中の男いらん』
『百合に入ってくんじゃねぇよ!』
『デブ出ていけ』
『サキュバスと一緒とかうらやましすぎだろ!』
『デブ?』
『真ん中の男が管理人だよな』
エイルのことで盛り上がったあとは俺のことでさらに盛り上がっている。
リリスに気にするなと言われているから俺は気にしないし、危ない奴はすぐにでんのうおうが消してくれる。
「こっちが謎の管理人、優斗。隣にいる子は優斗のお嫁さん、エイル」
結局、エイルとリリスが俺のことを名前で呼ぶ可能性が出てきたから名前を出すことになった。
「この箱庭の管理人をしている優斗だ。この箱庭のことを信じないから俺が出ることになったぞ」
「優斗の妻のエイルです。リリスと同じ世界出身と言うことで異世界についてもお話していくと思います。これからよろしくお願いします」
俺とエイルは自己紹介をする。
別に俺は管理人ってわけではないけどそっちの方が分かりやすいか。
『なんでこんなやつの女なんだよ!』
『美人二人を侍らせているだと……?』
『日本人じゃないよな……?』
『4ね』
『うらやましすぎだろ!』
『管理人ってなんだよ。美女管理人かよ』
『人妻か……』
『リリスもだけど日本語うま!』
『こんなやつが旦那ってかわいそ……』
『みんなさっきから何を言ってるんだ?』
妬み僻みがコメントで大量に流れ、俺への誹謗中傷も多く見られるくらいには荒れている。
……こんな感じなのか? 別にアイドルじゃないのにどうしてこんなことになってるんだ?
「コメントも盛り上がっていることだし、早速この箱庭のすごさを知ってもらおうか」
「分かった」
「きっとすぐにこの箱庭のすごさを分かると思います!」
俺とリリスはコメントを見ているが、エイルは見ていない。それどころかカメラの方ではなくずっと俺を見ている。
色々な闇を知っているからエイルは見ないようにしているし、そうした方がいいと俺とリリスは言った。
「この箱庭は俺のものだから何でもすることができる。例えば、こういうこともな」
分かりやすいように指パッチンをする。
指パッチンと同時に太陽が猛スピードで沈み、また太陽が出てくるという早送りの世界でしかありえない光景が起こっていた。
『うわ』
『めっちゃ動いてる!』
『CGだろ』
『それにしては影がちゃんと動いているな……』
これだけならまだどこかの空間にいるのだと思うだろうからな。
今俺たちがいる場所は周りに何もない場所だ。
俺たちが住んでいる家や畑からはすごく離れた場所になっているから実家を見られる心配もない。
それにここを指定したのは気兼ねなくやるためだ。
「エイルとリリスにこれから日本を案内しようか」
俺たちが立っている場所を全く違う場所に変えた。
「うわぁ……」
「お、ここって渋谷?」
「そうだ、ここは渋谷スクランブル交差点」
俺が作り出したのは渋谷、というか東京に似た場所だ。
俺たちが立っているのは渋谷で一番有名な渋谷スクランブル交差点の、真ん中だった。
時間はすでに昼にしてあるが、それでは都合がつかないところは残している。
「アラギマークⅡ。上から撮ってくれ」
母親との写真のために作り出したマークⅡもしっかりと使っており、渋谷スクランブル交差点を広く映し出した。
その映像はでんのうおうによって配信の左下に映し出されていた。
『渋谷だ』
『CG、だよな?』
『まじで渋谷じゃん!』
『ただの配信者ができるものなの?』
『画面一緒じゃん』
『CGにしては違和感がない……』
困惑している様子のコメント欄に笑いそうになる。
「ここはお前らの世界の渋谷スクランブル交差点をそのまま再現した。もちろん、あのテレビもな」
渋谷に映っている大きな画面の映像、それはあちらの世界と同期するようになっている。
それをマークⅡがバッチリと映しているから、WorldTubeにある定点カメラを見に行く人もいるだろう。
それを俺が説明していれば、エイルとリリスは興味津々に交差点を歩いていた。
「へー、テレビでしか見たことがなかったけど、こうなってるんだ」
「これが、道路ですか」
どちらも興味津々に周りを見ていた。こうなると予期していなかったものの、俺は広く作っておいた。
「どうせだからドライブ配信でもするか。広く作ったからな」
俺は普通車を作り出してエイルとリリスにそう言った。
「はい!」
「おー、アドリブでいいねー」
こんなことは考えていなかったから、やっぱり何でも好き放題やる方がいいな。考えてやったら何を考えていたか思い出さないといけない。
俺が運転席に乗れば、エイルは助手席に乗ってリリスは後部座席に乗るが運転席と助手席の間から見えるように座っている。
アラギは車の中を映し、マークⅡは外の景色を車の上から映していた。
「じゃ、行くか」
「優斗って運転免許持ってたんだ」
「あぁ、一応な」
運転免許を大学のときに取ったけど、あまり車に乗らなかったからペーパードライバーと言える。
たぶん箱庭の外だったら二人を車に乗せるなんてことはしなかった。
でもこの箱庭だから安心して運転することができる。
ただ渋谷スクランブル交差点を運転することがなかったから不思議な気持ちで車を発進させた。
「普段はここに人がいっぱいいるんだよね」
「そうらしいな。俺は行ったことがないから知らない」
「え、そうなのですね」
「あぁ。東京には修学旅行でしか行ったことがないし、ここには来ていない」
俺は運転、助手席にいるエイルは外の光景を見ているから、配信のコメントを拾うのはリリスしかいない。というかリリスがやるべきことだ。
これが録画じゃないことを知らせるには配信のコメントを読むのが一番だからな。
コメント読みの時間も必要かと思って目的の場所まで遠回りはしている。
「お、優斗のどこが好きになったのかって質問が来てるよ、エイル」
「……へ!?」
いきなりそんなことを聞かれたからエイルは驚いた声を上げた。
「き、気になる人がいるのですね……」
チラッとエイルを見れば少し言いずらそうにしていた。
俺の母親の前ではつらつらと言えていたが、赤の他人に言うのは違うのだろうな。
「それでどこ?」
「どこ、と言われましても……優斗のすべてですよ」
恥ずかしがって言わないわけではなく、俺への愛を伝えてくれるエイル。
「おー、言うね。それを受けて優斗はどう答えるのかな?」
「俺もエイルのすべてが好きだぞ」
「はい、知っています」
「それならよかった」
「これがこの夫婦。初々しいよねぇ。だから君たちが思うようなことはないね」
何を言われていたのかは分からないが少しは想像できるな。
「優斗、ドライブはまだまだやるよね?」
「リリスがそのつもりならできるぞ」
「それなら今から質問コーナー。何でも聞いていいよー」
質問コーナーなんてする予定はなかったが、リリスがやりたいと言うのなら止めはしない。
「テレビで見るよりも圧倒されますね……」
配信していることなどお構いなく、エイルは外の光景を見ていた。
「確かに今まで実物は家やら旅館しか見たことがないからな」
「はい。ここまで高い建物が並ぶのはアイテル聖王国でも見ません」
「高い建物はあるのか」
「はい。王城は大きな建物くらいあります」
あー、そう言えば結構大きな城だったな。
エイルがこっちに来てからの数か月はアイテル聖王国の落ちぶりを見ていたけど、それ以降は全く見ていない。
あれからどうなったのか気になったから明日にでもこっそり見よう。
「お、これいいかも。最初の質問するよ」
「どっちにだ?」
「優斗はどっちの世界の人?」
「俺はもちろん、お前たちの世界の住人だ。修学旅行とか言っているから隠せていないし」
「だってさ」
その情報と優斗という名前から行方不明の人物になるわけがないから開示している。
そもそも俺の容姿はバラバラに見えているのだからそこで判断が全くつかないしな。
「見てください! 信号が光ってます!」
「あぁ、見ているよ」
しっかりと機能している信号で止まれば、エイルは信号を見て喜んでいた。
これはあれかな、遊園地に来て観覧車とかジェットコースターとかを見てはしゃいでいる子供みたいなものなのかな?
エイルが喜んでいる姿を見れるのならそれで構わないけど。
「じゃ次だ。この箱庭は何でもできるのか、だって」
「できる。何なら今から出してほしいものを言えば、それをすぐに再現してやろう」
「それいいねー。みんなコメントしろー」
俺は青信号になったため車を発進させる。
「おー、言わなくても分かると思うけど、普通のものだぞ」
リリスがコメントを見ながらそんなことを言っているのだから変なものを言ってきたやつがいたのだろうな。
「まずはにゃーこからのリクエストで、バイオリン」
「はい」
俺の手に一瞬でバイオリンが出てきて、リリスに渡す。
「優斗引ける?」
「引けるわけないだろ」
「あとで触ってみてもいいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「どんどんと行こうか」
リリスはどんどんと名前とリクエストのものを言い、俺がそれを出し続けた。
どこかの部族衣装とか道具だとしても例外ではなく出すことができた。俺が知らなくても問題がないし。
「もう車の中いっぱいですよ……」
色々なリクエストを受けたから車の中はかなりかさばっていた。
「これで十分じゃないか? それに、もうそろそろで怒濤の景色が見えてくるぞ」
俺が車を走らせた先には、あり得ない光景が広がっていた。
「ピサの斜塔から見えてきたぞ」
「これがピサの斜塔ですか!」
「ホントに傾いてる」
東京を走っているが、東京にはないはずの世界遺産が見えてきた。
島であっても例外ではなく、空に浮かべていた。
「CGとかAIとか言うのは構わないが、その根拠をぜひ発見してほしいものだ」
本物であるからこそ、配信している視聴者に向けてそう挑戦状を叩きつけた。




