45:アイテル聖王国だった場所
俺たち三人によるドライブ配信は大成功に終わった。
同接数もさることながら、視聴者を混乱させることができて満足していた。
元々、信じない視聴者に証明するというのは配信のネタに過ぎない。
信じないやつに寄り添うつもりは俺にもリリスにもないが、ネタとしては使えるからそうしている。
ネタと言っても信じれるようにマジでやったから、作り物ではないという情報をSNSで話題になればまたリリスは注目される。
だから大成功だと言った。
「んー! 楽しかったです!」
配信はスタート地点である渋谷スクランブル交差点に戻って終わったが、エイルがもっとドライブをしたいとワガママを言ってくれたから車で家まで戻ってきた。
さすがに距離的に言えばかなり離れていたから要所要所で空間を端折って家まで戻った。
「配信も成功。今日はありがとね、優斗、エイル」
「これくらいならお安い御用だ」
「はい! 楽しかったですからまたしたいくらいです!」
「それならまた疑似東京観光でもやろうかなー」
ただまあ、リリスは配信活動を楽しいからやる、ではなくお酒を飲みたいからやっている。
だから自分が何をやりたいかを定まっていない様子だ。
いやでも配信活動を仕事と捉えているのならそれは間違いではないか。
「リリス」
「なにー?」
「もっとコンスタントにできる企画を考えないとな」
「んー……ASMRとかどう?」
……ビックリしたぁ。いきなり攻撃してきたのかと思った。
違うよな? 違うと思いたい。
「リリスはそっち関連は得意だからな」
「誰かさんの性癖がそうだからな、得意を伸ばしているよ」
……やっぱり攻撃だった。
俺はASMRが好きだからエイルとリリスが来てからもちょくちょく聞いたりしていた。
ただ、それをリリスに知られてしまってエイルと一緒に実際にやってもらうという展開になってしまった。
やっぱり気持ちいいが絡むとサキュバスに気が付かれないはずがない。
「サキュバスってさ、こんなに舌が長いから」
俺に見せつけるようにんべぇと舌を見せてくる。かなり長いのもサキュバスの特徴なのだろうか。
確かにそれのおかげで色々なところが気持ちよくなっている。
一物とか、耳とか、口とか。
そういうのを考えれば、サキュバスという種族の強みを生かすならASMRはアリかもしれない。
「ま、ASMRも含めてそこら辺はおいおい考えておくー」
「そうしておけ」
リリスはお酒を飲みたくてやっているわけだが、別にお酒を飲まなくても生きてはいける。そういう環境にはいる。
でも好きに飲みたいわけで、配信をしているのが現状だ。
極限状態にいればまた必死さは違うだろうが、今のリリスからはそういうのは感じられないから今の状況で満足しているのだろうな。
「さて、車の中にあるものを家に入れるか」
配信で見せた関連性のない様々なものを家の中に運ぶ。
俺としては消してもよかったのだがエイルが使ったり飾ったりしたいと言ったから家の中に運ぶことにした。
ドライブやらも相まって三時間ほど配信をやっていたから今の時間は午後十一時。
……よく配信者たちはこんな夜遅くにのどが開くな。本当に尊敬する。
家の中に荷物を運び、今まで何もなかった車庫に車を収納した。
「これはここですね」
エイルは壁によく分からない部族の仮面を飾っている。
暗いときに見たら不気味に見えるだろうな。
俺の家、というか日本でこういう風習がないからそう思うのだろうか。いや俺が知らないだけで日本でもあるのかもしれない。
そんなエイルを見ながらリリスはソファに寝転がってだらけているから、俺も一緒にソファでくつろごうかと思ったら、スマホが震動した。
「ん?」
スマホを見れば母親からメッセージが届いていた。
もしかしてと思ってみれば、それ関連の話が来ていた。
『リリスが動画投稿しているなら言いなさいよ』
配信のことではないが、このタイミングだから配信のことを知ったのか?
『今日の配信を見たのか?』
俺はそう返信すればすぐに母親からメッセージが返ってきた。
『見たわよ。私もエイルと一緒にあそこを観光したい』
あぁ……母親が見たらこういう反応をしてくるのかぁ。また母親が来るってことだよな。別にいいけど。
というかそれよりも母親に配信を見られていたことに少しの恥ずかしさが出てくるんだよなぁ。
続けて母親からメッセージが入ってきた。
『最近、リリスがネットで話題になっているのを知った』
『お父さんの職場の若い子がその話題を振ってきたらしくて、知った』
え、俺の父親にサキュバスの話題をふる若い人がいるのか? とんでもない猛者だな。
俺の父親はもう五十くらいなのによく話題にするな、その猛者は。
『どうせだから海外も観光したい』
あーあー、色々と言われてしまっているー。
別に地球一個分の領土を増やしたところで、このチートな箱庭にはまだまだ余裕があるからいいんだけど。
『分かった。時間があるときなら』
断る理由も特に見つからなかったからそうメッセージを送った。
「どうしたのですか?」
荷物を飾り終えて満足したエイルがこちらに話しかけてきた。
「配信を見た母親から俺が作り出した東京を観光したいって来た」
「それはいいですね! ぜひお母様と観光したいです!」
「エイルからメッセージを送れば、母さんも喜ぶと思うぞ」
「はい!」
俺から伝えるよりもエイルから伝えた方がいいだろう。
「へー、配信見てたんだ」
「そうらしい」
「少しエッチな配信をしようとしたら、見られるってことか……気にしないからいいけど」
そこを気にしないとは、さすがはリリスだ。俺なら無理だ。
☆
俺とエイルが初めてリリスの配信に出演してから、数度ほどまたエイルと配信に出た。
予定通りにエイルの異世界常識とかアイテル聖王国のことを説明する、という配信をした。
俺の妻と紹介していたが、エイルの清楚感が人気になって求婚してくるやつが現れる始末だ。
本当にあり得ないからそのコメントが出てくるたびにエイルとイチャついてやった。
それに俺は基本聞き手に回っていて、なんで出演しているのか分からない感じになっているが俺的には背徳感が押し寄せている配信になっている。
雑談みたいな配信のときは三人ソファに並んで、テーブル越しにカメラを回している。
どの回でも、俺は真ん中に陣取っている。というかエイルとリリスが俺を真ん中にしてくるから俺は絶対に真ん中になっている。
それをコメントで指摘されるが俺のせいではないからどうしようもない。
そんな配信でリリスは何をとち狂ったのか、俺の下半身に手を這わせ、しごいてくる。本当にすごいよね。
話をしているエイルを見ているかと思いきや、俺の方を見て反応を面白がっているというドSなことを配信でしてくる。
もちろんエイルも気づいているが配信中だから何を言えず、たまに俺の下半身に視線を向けている。
それをだ、母親も見ている可能性もあるのだからバレてはいけないんだ。俺は。
だから違う意味でドキドキしながら配信をしている。
今まで閉じ込められていたからこそ、こういうことを思いついているのだと思ったら……しかたないかぁと思ってしまう。
昨日もそんな配信をやったから三人ともダラダラとしている。配信の次の日は大体そんな感じで緩やかな時間を過ごしている。
ただダラダラとしているのは俺とリリスだけで、エイルは勉強という知的好奇心を満たしている。
「エイル、勉強は楽しいか?」
「はい! 色々なことが知れてとても楽しいです!」
エイルのためにこの箱庭で科学実験をするのもアリだなと思いながら、俺はノーパソでアイテル聖王国がどうなっているのか見ることにした。
エイルが追放したあとのアイテル聖王国は、加護が打ち切られ始めたことで魔族との争いが徐々に劣勢になっていき、偽物の聖女の立場がヤバくなっていった、ということまで見た。
それ以降の話は全く知らない。
だから今のアイテル聖王国がどうなっているのか確認する。
「ぉ……!?」
驚きすぎて声を上げそうになったが何とか抑えた。
正面で勉強しているエイルには気が付かれていない様子だからよかった。
俺がかつて見たアイテル聖王国は、すでに変わり果てていたのだから。
前までは偽物の聖女のせいで人々に陰りはあったものの、美しい街並みとお城があったアイテル聖王国。
だが今のアイテル聖王国は美しい街並みは嘘のように禍々しい街になっていた。
建物は崩れ去り、雰囲気もどこか魔神病のような黒さを見せていた。
さらに言えば、人が住んでいるはずのその王都は人ではなく魔族が住み着いている状況になっていた。
まだ一年も経っていないのにどうしてこんな状況になっているのかと思って、逆再生をしてこの国に何が起こったのか確認することにした。
逆再生していけば、一ヶ月前でアイテル聖王国が襲撃されている状態になった。
偽物の聖女の加護が脆弱であることや、加護持ちがすでにいないようで魔族側の加護持ち集団にに圧倒される事態になっている。
一般市民は殺され、騎士たちも無惨に殺されていく様が見てとれる。
ただ、一部の騎士が一般市民を逃がしているから全滅というわけではなさそうだ。
意外なことに一般市民を逃がすために偽物の聖女は死力を尽くして戦っていた。
本物の聖女であるエイルを陥れたのだからすぐに逃げるものだと思っていたが、やっぱり完全に悪いやつではないような気がするな。
エイルを追放して、神に見捨てられた時点で失敗の選択をしているのは間違いないが、そこに悪意があったかどうかは定かではない。
そして魔族がいよいよ王都を侵攻し尽くそうとしたとき、偽物の聖女は老練な騎士に逃がされた。
老練な騎士は偽物の聖女に何かを言って、魔族たちに突っ込んでいく。それを見た偽物の聖女はどこか迷ったような顔をしたが、国から命からがら逃げ出した。
どうやら無事に逃げることはできた様子だ。
そういうことがあって、今のアイテル聖王国が変わり果てたらしい。
……加護ありきな国だからこそ、そういうことになるのは何となく想像がついた。だがこんな有り様になるとはな。
改めて今のアイテル聖王国の現状を見れば、魔族が住み着いている国になっていた。
気分が悪いことに、王都で生きたまま捕らえられた騎士やら人たちが魔族にいたぶられていた。
苦痛に悲鳴をあげる様を面白がっている魔族。
凌辱に泣き叫ぶさまを嗤う魔族。
子供の手足をもぎ、それを大人の口に無理矢理押し込む魔族。
どれもこれもがR18のグロ映画の光景であった。
……リリスがおかしいだけで、もしかしたら魔族がどいつもこいつもがこんな化け物のような思考なのかもしれない。いや、今これをしているやつらは悪魔なのだろう。
捕まって尊厳を踏みにじられている彼らを見てしまった以上、見過ごすことはできない。
このチートな箱庭のすごいところは認識した空間ならどこへでも空間を繋げることができる。
空間を繋げるだけだが、それができればチートは外に出すことができる。
いたぶっている魔族たちにもれなく、作り出した魔族殺しの剣を腹に突き刺す。
楽しんでいた魔族は急に出てきた剣に突き刺されたことでとてつもない悲鳴をあげた。
それは当然のことだ、魔族殺しの剣は魔族にとてつもないダメージを与える効果がある。
だから立つことさえままならず、倒れてもがいている。
いたぶられていた人たちはそれを訳の分からない様子で見ていたが、その人たちにも空間を繋げる。
空間から出したのは聖杯の一滴。それだけですべての傷は癒され、精神的にも健康になった。記憶までは改竄するつもりはないが、それでも立ち直った感じがするだろう。
さらにそこから生きていくために、Cランク程度の武器を授ける。
Cランクと聞けばランクが低そうに聞こえるが、あの世界ならかなり強い武器だ。
Sランクが神殺しができる威力。
Aランクが空間に及ぶ威力。
Bランクが国を崩壊させる威力。
Cランクが集団を殺せる威力。
威力で話したがテミスに渡した宝杖なんかは威力ではなく範囲に言い換えれば分かりやすいだろうな。
ただテミスには貸し出しただけなのに、エイルを追放したやつらにあげることはしない。
紙にこう添えて貸し出すことにした。
『この宝具は汝らが生きる術を見つけ出すまでに貸し出すものなり。
悪意を持てば消滅し、善意を行使すれば力は応える』
Cランクの武器にはそういう効果も付与されている。
だから俺が貸した武器が悪いことに使われることはない。
捕らえられた人たちは迷わずその武器を手に取った。
そして地上に出た彼ら彼女らは、我が物顔で住み着いている魔族を憎しみを込めて殺し始める。
それをできるだけの力がその武器にはある。武器が強いだけではなく、彼ら彼女らにそれを使いこなせるだけのスキルが武器を持っている間に付与されるようになっている。
そんなCランクの武器を持っているだけでは勝つのが難しい魔族が一体いたから、そいつだけは全身に剣を突き刺して殺しておいた。
これで彼らは大丈夫だろうと一息つけば、不意にスマホが鳴った。




