39:次元を超えるナイフ
そうだ、そうだよ! どうしてそれを思いつかなかったんだ!
このチートな箱庭は神すらも超越する箱庭だ。だから神ができる異世界転移くらいできて当たり前だ。
それこそ、異世界を渡る道具を作り出すことも絶対にできる。
今までは俺の思い込みでそれを思いつかなかったが、エイルは俺が何でもできると信じているからそう言ってくれたんだ。
そうだよ、電波が送れる家電ができるんだからそれくらいできて当然だ。
「ありがとう、エイル、リリス。異世界を渡る道具を作れそうだ」
リリスも分かっていそうだったな。でもそれを口にしなかったのは、俺とエイルを色々と考えさせるためか?
「それなら……!」
「あぁ、直接俺の母親と会えるよ」
え、こんなことを口にしてしまったけど……三者面談みたいなことをしないといけないのか!?
うわ、ヤバいことを言ってしまったかもしれない。
「お、それならあたしも会おうかな」
「……なんて説明するんだよ」
「正直にセフレって言えばいいんじゃない?」
「俺がいた世界では奥さんがいるのにそれがいるのはヤバい人なんだよ」
母親になんて言われるか。
とりあえず、母親から分からないでやりとりが止まっているメッセージを再開する。
『俺の能力でそっちに行けるようになった。だから電話の件は忘れて』
母親が理解しているのかは分からないが、数度の電話の中で俺が何でもできる箱庭を持っていることは伝えてある。理解しているかは分からないけど。
そして一番大切なこと、魔道具作成を始める。
始めるって大層なことではない。だって俺が念じればできるようになるんだから。
手に収まったのはナイフだった。ただし、刀身が三叉になっているナイフだ。
「これが思った通りの次元に道を切り裂くナイフだ」
今更の話だが、俺が神殺しをしたときに加護を渡していたインキュバスを辿ってから場所を見つけた。
だけどそうしなくても俺が殺そうと思う対象に飛んでいく神殺しの武器を作っておけば、面倒なことをしなくてもよかった。
……本当に俺は頭が悪いせいで無駄なことばかりしているな。
このチートな箱庭は何でもできるのだから、できないことを探す方が難しいだろう。
「へー、何だか変な形をしてるね」
リリスがナイフをまじまじと見ていた。
「適当に作っただけだから気にするな」
「このナイフで、優斗がいた世界に行けるのですね」
エイルもナイフを見てそう言った。
「そうだ。ただ別に俺がいた世界だけの話じゃない。行きたいところを思い浮かべればどこでも道を繋げることができる」
どうせならすごいナイフを作ろうと思ってすごいナイフにした。
「どこでもって、全く違う世界でも行ける?」
「行けるぞ。何ならどこかにある望んだ世界にも行ける、かもしれない。その世界があればの話だけどな」
「へー、それなら生物が全くいない世界でもいけるってこと?」
「その世界があればな。なければできないとは思う」
リリスへの答え、俺は少し嘘をついた。
このナイフはどこにでも道を繋ぐことができる。それは時間すらも超越することができる。
だから現在で望む世界がないとしても、人類や生物が滅んだ世界が未来にある可能性が高い。だからその時間の世界につなげることも可能ということだ。
さすがにその能力は言わないでおくけど。
返信待ちをしていた母親から返事が来た。
『能力ってどういうこと?』
あぁ、やっぱり能力のことを分かっていない様子だ。
だから俺は簡単に能力の説明をする。もう電話した方が早くないか? と思ってしまうがそうしたらエイルのことを伝えるまでしてしまう。
『俺が異世界に連れていかれたときに能力を得た。その能力は何でもできる箱庭。その箱庭のおかげで母さんと連絡を取ることができるスマホを作り出すことができた。その箱庭を使って、今度はそっちの世界に移動する道具を作り出した。だからそっちに行く』
一応分かりやすくは書いたつもりではある。
母親の了承を得てからあっちに移動することにしよう。何かしている最中だったら嫌だし。
「優斗のお母様とお会いするのでしたら、正装を着ておかなければなりませんね!」
エイルはやる気満々で着替えようとする。
「え、いや、そんなことする必要はないだろ。普通の恰好で大丈夫だと思うぞ」
「何を言っているのですか! 優斗に相応しくないと思われてはいけません!」
「いや、どちらかと言えば逆だよ」
エイルは絶世の美女だから、俺の方が相応しくない。
「エイル、聖女の服を着るつもり?」
「はい。私にとっての正装は聖女服ですから」
「いやいや、あっちの文化を考えたら聖女服はまずいでしょー」
「そ、そうですか……?」
リリスに言われて確認するように俺を見てくるエイル。
「……そうだな。あまり馴染みのない服だから母親がビックリするかもしれない」
「そ、そうですか……」
「あたしが服を選んであげる」
「ありがとうございます!」
「ついでにあたしも服を選ぼーっと」
俺の世界に理解を示したリリスになら、エイルの服装を任せてもいいだろう。
……いいのか? いや、大丈夫だと信じたい。
さすがに大丈夫だろ。そこら辺の分別はついているはずだ。
心配になりながらもスマホを見れば母親から返信が来ていた。
『そんなこと言ってたような気がする』
『それなら、私がそっちに行ける?』
「な……」
な、なんということを言い出すんだ、この母親は……!?
母親がこっちに来たらとんでもないことを言い出すに決まっているだろ……!
どうしよう。どう断ろうか。
別にめっちゃ嫌というわけではないが……面倒なことを言われそうだから嫌だと思っている。
ただ……これをエイルとリリスに知られたら、OKをすぐに出すんだろうな。
……覚悟を決めるしかないか。
『分かった。でもちゃんとした服装でいてくれ』
エイルとリリスがいることを教えていないから変な服装で来られたら、母親に怒られそうだからそう言っておく。
『なに、ちゃんとした服装って。誰かいる?』
うっ、やっぱりそういうことになるよな。
『とにかく、ちょっとしたら連絡入れるからそれまで待っててくれ』
俺はそうメッセージを送って、緊張する心を落ち着かせる。
これから母親とお嫁さんが会うんだろ? そんなこと起きるなんて数時間前まで思ってもみなかった。
マジで落ち着ける時間が欲しかった。
というか一週間後くらいにしてほしかった。それくらいしないと心の準備ができない。
もう後戻りはできない状況だから、それはそれで逆に緊張する時間が少なくていいのかもしれない。
「お待たせー」
エイルとリリスは結構早くリビングに戻ってきた。
てっきりショッピングモールに行くのかと思ったが、部屋に向かっただけだった。
「ど、どうですか……?」
清楚なエイルによく似合う清楚なワンピースを着たエイルが、少し恥ずかしそうに俺の前に出てきた。
「……あぁ、よく似合っているよ。もっと好きになりそうだ」
「そ、そうですか……」
エイルとリリスと3Pするときに、リリスからエイルにはどこが可愛いかとかを素直に言った方がいいと言われたから、こうして実践している。
「あたしはどう?」
オーバーサイズのシャツにデニムというボーイッシュな服装をしたリリスが、リリスの隣に立って服装を見せてきた。
「めっちゃ似合ってるぞ。リリスはセンスがあるんだな」
「今気づいた?」
でもなんというか、普通の服装をしてきたから拍子抜けはした。
でも普通に似合っている服装だから安心した。
「その服、持っていたのか」
「そー。あたしがデート用に持ってたんだ。エイルの分も持ってきておいてよかったよ」
「ありがとうございます、リリスさん」
「お互い様だから気にしなくていい」
……リリスはこういうときのギャップがすごい。いつものすねをかじっているサキュバスとは思えないくらいだ。
「それで、優斗の実家にいつ行くのですか?」
「あー、そのことなんだけど。母親がこっちに来たいって言ってきたから、こっちに呼ぶことになった」
「それはいいと思います! ぜひ私たちがどういう生活をしているのか知ってもらいましょう!」
やっぱ乗り気になった。覚悟を決めておいてよかったー。
「ならこうしてお洒落する必要なかった?」
「何を言っているのですか、リリスさん。優斗のお母様に挨拶するのですからちゃんとした服装でいないと」
「それもそっか」
俺を見ろよ。俺はいつものよそ行きの服装だぞ。そんなお洒落なんてしていない。
こんなの普通の服装でも浮く顔面偏差値をしているのに、服装のレベルも違うとかなり浮くな。
まあそんなことはどうでもいいか。相手は俺の母親だし。
「じゃあこっちは準備万端ってことで」
「はい、いつでも大丈夫です」
「あたしもいつでもいいよー」
スマホを見れば母親からメッセージが入っていた。
『分かった。こっちはいつでもいい』
よし、母親がそう言っているんだから、文句を言われることはないな。
『それならすぐにそっちに行くから』
『り』
そう返ってきたことで、少し憂鬱な気分になりながらも実家に戻ることにした。
「ちょっと行ってくる。二人はここで待っていてくれ」
「はい、いってらっしゃい」
「りょーかい」
俺はさっき作ったナイフを手に、何でもない空間を切った。
空間の先にはここと同じつくりの家で、リビングに入るための扉の前の光景があった。
俺が空間を渡れば、切られた空間は閉じた。
俺が生まれた世界に足を踏み入れた瞬間、すぐにこの世界がどこにあるのかハッキリと理解できた。
エイルとリリスがいる世界とめっちゃ遠かった。
でも……ん? よく分からない情報が入り込んでいる。チートな箱庭はどこにあるんだ?
エイルとリリスがいる世界とチートな箱庭の距離。
俺が生まれた世界とチートな箱庭の距離。
これが同じだと俺の感覚は認識してしまっている。
……いや、今はどうでもいい話か。今は母親を迎えに行くことが最優先事項だ。
この実家に帰ってくるのは久しぶりだが、箱庭ではこの家をそのまま作り出しているから久しぶりという感じはしない。
毎日開けているリビングの扉を開き、中に入る。
「よっ」
リビングにはソファに座ってスマホを見下ろしていた母親がいた。
ちゃんとよそ行きの服装をしているようで何よりだ。
母親はリビングに入ってきた俺を見て驚いた顔を見せるが、すぐにどこか安堵した様子を見せた。
「……優斗、久しぶりね」
「電話していたから久しぶりって感じはしないけどね」
五年も十年も経っているわけではないから、それほど母親の変化はないような気がする。
少し白髪が目立っているなってくらいだ。
「それより、どうやって入ってきたのよ」
「このナイフで空間を切って入ってきたんだよ」
「なにそのナイフ。どこで切るのよ」
「全部で、だよ」
もうこのナイフがなくてもこの世界に行き来することができる。
でも母親を連れていくにはこっちの方が演出的にはいいかと思っている。
「とりあえず、俺がどこで何していたかは今から連れていくところで分かる。もう準備はいい?」
「できてる」
そう聞いて俺は実家のリビングで、何もない空間を切った。
そうすることであちらのリビングが見えた。角度的には二人のことは見えていないが。
「え……うち?」
「あっちの家。行こう」
俺はビビっている母親を連れて空間を渡った。




