34:帰宅
我が家の前に一瞬で移動したことで俺はさっきよりも落ち着くことができた。
この箱庭が俺のテリトリーだし、ここでは俺はチートであるから落ち着くことは当然ではあるか。
結局あちらで使わなかった戦艦と無限変形魔道具は道具が保管されている場所に転移と同時に飛ばした。
エイルは俺と接着するのかと思うくらいにぎゅっと抱きしめてきているから、俺もエイルを抱きしめる。
もしかするとあの男のような強引なアプローチがこちらの世界では正しいのかもしれないが、そんなことは関係ない。俺たちとは別の常識だ。
「……変な感じで終わったね」
そんな雰囲気でもいつも通りに言えるのがリリスのすごいところだ。
「あぁ、そうだな。でも当初の目的は達成できたから気にすることはない」
「でもさ、絶対に治らない魔神病を治しても何もなしって、損してるな」
「感謝を受けてもよかったが、それ以外なら俺が出せるからいらないだろ。そもそも特に見返りなんて求めていないからな」
「それもそうだね」
今はそんなことよりもエイルの心のケアをしないといけない。
「エイル、家に入ろう」
「……ごめんなさい」
エイルは小さく謝ってくる。
「どうして謝るんだ? エイルは何も悪いことはしていないだろ?」
「ですが……あれくらいのことで、取り乱しました」
「程度は人それぞれだ。エイルが嫌なことと俺が嫌なことは違う。だからエイルは何も悪くない」
「そうそう。エイルは何も悪くないんだからさ、今回のことは忘れればいいよ」
リリスも一緒にフォローしてくれるからありがたい。
「……はい、そうします」
納得してくれたようだが、どうやらまだ気分は下がったままの様子だ。
ただエイルはずっと俺にピッタリとくっついている。これで大丈夫になるなら俺はいくらでもオッケーだし、こうしている時間も好きだからな。
「あ、こうして早く帰ってこれたんだから最高の酒の肴を用意してくれない? それからご馳走が食べたい」
「そう言えばそうだな。それならご馳走を作ろうか、エイル」
「はい、リリスさんは頑張っていましたからね。腕によりをかけます!」
本当にリリスがいてくれて助かった。
俺だけだったらこの空気を長引かせるところだったが、リリスのおかげで薄まっている。
俺がエイルから離れようとするが、エイルは俺から離れようとしなかった。
「え、エイル?」
「どうしましたか? 優斗」
「いや……離れないのか?」
「あ、こうした方がいいですよね!」
前にいたエイルだが今度は俺の背後に回って抱き着いてきた。
「今日のエイルは引っ付き虫だね」
「そ、そうだな……」
思った以上の甘えにビックリしているところだ。
「だ、ダメですか……?」
面と向かっていればエイルは上目遣いをしているのだろうと思うくらいにはエイルの声色はそれだった。
「ダメなわけがないよ」
「はい!」
これでエイルが元気になってくれればいいし、後ろに回ってくれて助かった。
エイルに突き立てるところだった。
エイルはいい体つきをしているから抱き着かれただけでも興奮するんだよな。飽きることがないくらいにはヤバいと言える。
「優斗――」
「それ以上は言うな」
リリスが言うことを分かってしまっているから口止めをする。
「よくない? 言った方がやりやすくなるじゃん」
「少なくとも今ではないだろ」
「でもシチュはアリだ」
傷心中のエイルを慰めるという形は確かにアリだ。でも今はご馳走を作ると言っているんだから違うだろう。
それを言うなら何コマか前だろ。
「何の話をしているのですか?」
「いや、何でもないよ。ほら、家に入ろう」
エイルに抱き着かれている状態で家に入る。
ただ靴を脱ぐとき、エイルは俺から離れて、ちゃんと靴を並べてから再び俺に抱き着いてきた。
「優斗、何を作りますか?」
「リリスが好きなもの、肉料理にするか。ハンバーグ、ステーキ。ステーキにするか」
「はい、そうしましょう」
「それならお高い肉のステーキをご所望ー」
「そうだな」
普段は高い肉を食べたりしない。
俺の舌は庶民的な肉に慣れてしまっているから、わざわざ高い肉を食べないしエイルとリリスもこういうとき以外は庶民的な肉で満足している様子だ。
「エイル、少し優斗を借りるね」
「……離れないといけないのですか?」
「配信とか動画の話だからな。ちょっとだけだから」
「……分かりました」
エイルは渋々俺から離れ、俺はリリスにエイルから離される。
「どうした?」
エイルを離したということはさっき関連の話だろうなとは予想はついている。
「これさ、撮影したのはいいけどアラギをどうしたらいいの?」
「それはアラギが教えてくれる。アラギ」
『はい。リリス様がお望みになれば即座にリリス様のパソコンに撮影データを送ります』
すぐそこにいたアラギがそう答える。
「そうなんだ。それで編集とかって誰かやってくれる?」
「……自分でやらないのか?」
「えー、めんどー」
まさかの人頼りとは。リリスらしいと言えばリリスらしいか。
でもそこも頑張るのかと思ったがリリスはリリスみたいだ。
「ねー、おねがーい」
リリスはそのエロイ体を惜しげもなく使って俺にお願いをしてくる。
俺に体を寄せてその大きな胸を押し付けてグニグニとしてくる。
さっきからエイルのおかげで溜まっているんだからそんなことをされたら爆発してしまうぞ。
「分かった分かった、システムをパソコンに入れておく」
「さっすが優斗! ……今日の夜は三人で一緒にやろうな」
「……あぁ」
耳元でそう呟かれたらゾクゾクするに決まっている。
「……何を話しているのですか?」
コソコソと話していた俺とリリスのもとに、我慢できなくなったエイルが来た。
「ちょっとな」
さすがに今のエイルにそのままを言えるわけがないからな。
「そうですか……」
話してくれないことに少し落ち込んでいる様子のエイルに胸を締め付けられる感覚に襲われる。
「実はさ、エイルを助けたときの優斗がカッコ良かったよって言ってたんだ」
すかさずリリスがそう言ってくれる。
「エイルもそうでしょ?」
「……あのとき、男の人に手を触れられて怖かったです。でも、優斗が守ってくれて、ドキドキしました。リリスさんの言う通り、本当にカッコ良かったです」
「そ、そうか? 俺はただエイルを守らないといけないと思っただけなんだが」
「無意識にやったってことだ。愛されてるね、エイル」
「は、はい……」
嫌な雰囲気ではなくなったことには感謝している。
でも今度はエッチな雰囲気になりつつあるぞ。でもサキュバスだから当たり前か。
「エイル、子宮がキュンキュンした?」
「……はい、キュンキュンしました」
「あたしもした。だからさ、すべてを忘れ去ろうよ」
リリスは黙って顔を真っ赤にしているエイルを抱き寄せる。
「ほら、旦那様? すべてを忘れさせてあげて?」
「優斗……」
赤く染まった頬に潤んだ瞳で俺のことを見てくるエイル。
色々と考えたがリリスにここまでお膳立てされてはいかないはずがない。
「あぁ、全部忘れさせてやる」
異世界に行くまではこんなことを言うとは思わなかったが悪い気はしない。
「それからリリス、覚悟しろよ」
「おぉ、サキュバスが挑まれた。受けて立つに決まってるじゃん」
今まではリリスの思うままにされてきたが、今回は違う。今回はこのチートな箱庭を十全に使って勝ってやる。
そんなことを思っているんだから俺はかなり滾っているのだろうな。
☆
「ふぅ……」
ベッドの上にいる俺は、エイルとリリスが股を開いて気を失っている光景を満足して見ていた。
二人の全身についている液体はもはや誰のものかも分からないほど今日は一段と激しかった。
いつもならエイルが初めにダウンして、俺、最後に満足したリリスが寝るという形で終わっていた。
だが今回はチートな箱庭を十全に使ってサキュバスに打ち勝つという偉業を成し遂げた。
リリスは魅了がなくても、リリスの技は男を骨抜きにすることしか考えられていないレベルだからそれをチートで何とか耐えながら勝つことができた。
そんなリリスは気を失っているが満足して寝ている。
一方のエイルは元とは言え聖女らしからぬ顔、白目をひん剥いて気を失っている。
それはそれでそそるものがあるのだが、さすがに眠たいから寝ることにする。
ベッドのシーツを新しくしてからぐっすり寝ようとしたそのとき、また俺のスマホに着信が入っていた。
3Pしている最中にもスマホに着信が入っていたが最初は電源を落とした。
でもスマホの電源を切っても鳴り続けていたから無視していた。
だがまたスマホが鳴っている。
新手の神だと思うが、いちゃらぶセックス中に電話をかけてくるのが悪いし、応える気はない。
アストレアであんなことになったんだからもうしばらくは神のお願いは聞かない。
鳴り続けているスマホを一階に転移させて眠りにつく。
お腹は空いているけどそれは二人が起きてから食べよう。寝てたらお腹が空いていることは忘れるだろうし。
すぐに心地いいまどろみに浸っていたが、チートな箱庭にどこかの神がチューニングしていたことでバッチリと目が覚めた。
……チートな箱庭でチューニングをされたら変な感覚に陥るんだよなぁ。
チートな箱庭は俺のだからその世界の異常は俺の異常でもある。だから目がバッチリと覚めてしまう。さらに言えば腹が立つ。
せっかく気持ちのいい時間を過ごそうとしたのに最悪だ。
おそらくさっきの電話の主がこんなことをしてきたのだろう。
「ふぅ……」
本当に最悪だ。
今すぐにこれを吐き出したいくらいには最悪だ。
でも二人がいるからとりあえず部屋から出て一階に降りる。
リビングのテーブルにある今もまだ鳴り続けているスマホを手に取れば、着信の主を見て思わず声が出てしまう。
「は?」
アストレアからだった。
どうしてアストレアが連絡してきているのかが分からない。
こちらから文句を言うことはあれど、向こうからはもう連絡は来ないだろうと思っていた。
だってこちらはアストレアの願いを叶え、さらにカノナス領地が安泰になる神殿まで作ったんだ。
これ以上のないものだっただろう。
それなのにアストレアから連絡が来たことが意味不明だった。
……正直に言えば電話に出るのが嫌だ。今エイルがいないことだけが幸いなだけで名前も見たくない。
イラついたから着信を拒否ってやれば一秒も経たずに着信がかかってきた。
それを何度も繰り返してもあちらはかけ続けている。
五分くらいその攻防をして俺が諦めて着信に応答する。
「は――」
『もー、ようやく出たー』
開口一番のアストレアの声は特に怒っていなかった。
……俺ならあんなことをされたら怒る。いやそもそもあんなことをされたら電話はかけないし。
「何度も何度も何の御用ですか?」
とっとと要件を断って寝よう。
『実はね、テミスにもう一度会ってほしいんだ』
「断る」
それを聞いて即座に電話を切った。
ふざけんなと怒らなかっただけ偉いだろ。




