32:チートとそうではないところ。
この神殿の中央の空間には石像が置かれている想定だ。
その石像がある場所は今は空席になっている。
この空間はアストレアが了承することを前提に作られているからこの後ろにはアストレアの石像が作られる予定だ。
だが代替案があったらいけないから空席のままにしている。
「今からアストレアに連絡をかける」
「私は領民の様子を見てくるわ」
とりあえず適当な範囲まで領域を広げているが屋敷があるこの街からすでに魔神病は消え去っている。
だからテミスさんは領民の様子が気になったのだろう。
「私もけが人がいるかもしれませんのでテミスさんについて行きます」
「あぁ、俺もすぐに向かう」
「はい」
元とは言え聖女であるエイルもテミスさんに続いた。
リリスは俺から離れるつもりはないのは分かっているからアストレアに連絡をかける。
『上から見てたよ、優斗くん。ひとまずは領地を救ってくれてありがとう』
「まだ終わっていないですよ。今から対象をアストレアに設定します」
『うん、お願い!』
通話を繋げながら魔道具の設定を行う。
アストレアに設定すれば石像が勝手に出現した。
長い髪に幼さが残る顔つきの爆乳な女神像がそこにあった。
「……これがアストレアですか?」
『すごーい! ちゃんと僕がいる!』
マジか。僕っ子がこんな爆乳だとは思ってもみなかった。
「へー、これが正義の女神アストレアなんだ」
「リリスは他の神を見たことはあるのか?」
「神なんて見るものじゃないよ。石像があったとしても本人とは違うって言うのが常識でしょ」
それもそうだな。
「これで設定はしました。どうですか?」
『うーん……まだ信仰の力は来ていないけど、大丈夫だね!』
「それならこれで進めますね」
『うん! また何かあったら電話するから、テミスのことお願いね!』
「さすがにここまでくれば最後までしますよ」
そうしてアルテミスと通話を切った。
「さて、俺たちも二人を追うか」
「そうしたいんだけどさ、ちょっとここを撮影したい」
「あぁ、アラギならすぐに撮影できるだろうから待つぞ」
カノナス領地に出てからすでにリリスは撮影を開始させていた。
だから神殿についてもすでに撮影を開始させているからそれを待つことになった。
「この神殿って魔神病を治せる薬以外に何かあるのか?」
「ある。でもそれを使っていいものかは悩んでいる」
「言ってみ」
「まず体力を全快にさせる聖杯。それからあらゆる邪を祓う聖典。極めつけはあらうる邪を駆逐する聖槍。これらがある」
「おー、魔族にとっては厄介な道具じゃん」
「どうせだからってつけたんだが……」
「どうせならアストレアに管理を任せたらいいじゃん。使っていい人を選出させたら?」
「それはいいな。そうやって設定しておくか」
面倒なことを言ってきたんだからそれくらいのことはしてもらわないとな。
テミスさんの領地がこんなヤバい状況になってるなんて俺自身は分かっていなかったことをやれって言ってきたのは詐欺みたいな感じだからな。
設定をいじってアストレアに権利が行くようにした。
リリスとアラギを待っている間にふとエイルがどうしているのかが気になって意識を集中させるがチートな箱庭の中ではないから分からないことに気が付いた。
「……つかり過ぎていたか」
チートな箱庭が便利すぎて全能な感覚が抜けそうにない。
ただそういう便利魔道具を作り出して取り出すことは外にいても可能だから抜けなくても大丈夫そうだ。
問題があるとすればこの世界の住人なら誰でも身に着けるであろう魔力制御がおざなりになるということくらいか。
チートな箱庭でしか魔力を使っていないから普通の使い方なんて知らないからなー。
待つついでに試しに魔力を使ってみるか。
……え、魔力をどうするんだ? なんか纏ったらいいのか? それとも攻撃に転じることができるのか?
ダメだ、あとでエイルかリリスに教えてもらおう。
「お待たせー。できた」
「そうか。それなら二人のところに行くか」
俺たちができることは領域を作り出した時点でほぼ終わらせている。
ミッションというべきものはすでに終わった。
だから比較的ゆったりとしている。
ただ魔神病を消しただけでは怪我人がいるかもしれないからそこはサービスだな。
「さっき魔力を使ってた?」
「……分かるのか?」
「そりゃとんでもない魔力だから分からない方が無理だと思う」
……待てよ。俺が魔力を使っていたことに間違いはない。
でも魔力を操ろうとしていた瞬間と魔道具を作って取り出した瞬間があった。そのどちらも魔力を感じられるのか?
チートな箱庭を操作していても魔力を使っていることが伝わるのかが知りたい。
チートな箱庭は俺の世界であって俺の一部であるからその中を操作していても知られるのかが知りたいな。
「リリス、少し試したいことがあるから魔力の流れを見てくれ」
「いいよ」
必要かどうかは分からないが武器以外にも防具やアクセサリーを思い付く限り、チートな箱庭の中で量産する。
あまり使い続けるとこちらで何かあったときに魔力がないといけないから加減はしておくけど。
加減すると言っても、百個以上は作ろうとはしているが。
「どうだ?」
「それ、何かしてる?」
「あぁ、箱庭で道具を大量生産している」
「……あの場所がどこにあるのか分からないけど、優斗がどこかを操作している感じはしないな」
「そうなのか」
なるほど、これは感知されないみたいだな。
「それならこれはどうだ?」
どうせならついでにチートな箱庭から何かを出したら察知されるのか試してみる。
ただ視界にいれたらすぐに分かるから、リリスの背後に本を半分だけ出して待機状態にする。
「……何かしてる?」
「後ろ」
リリスが自身の背後を見て本があることに気がついた様子だった。
「へー、こんなこともできるんだ」
「あぁ、できるらしい」
「これならどこに行ってもお酒に困らないね」
「さすがにどこでもお酒はダメだろ」
「まあそれは少し冗談だとしても、道具には困らない。野宿もしなくていいじゃん」
「いや、それなら箱庭に帰ればいい。マーキングすればそこに出ることができるからな」
「え、すご。便利すぎじゃない?」
「チートだからな」
チートな箱庭の中にいた方がチートではあるが、外に出たとしてもそのチートがなくなるわけではない。
「これさ、こうやって出すのってどれくらいの範囲できる?」
リリスが言うのは半分だけ出ている本のことだ。
「どれくらいの範囲って、距離のことか?」
「そー」
「そうだな……」
どれくらいまでできるのかと俺も分からないから、俺の近くから始まりどんどんと出してどこまでの距離が出せるのか試していく。
「これくらいか」
そして最大距離までたどり着いたそこはかなり遠くだった。
「どれくらい?」
「かなり先だけど……ちょっと待ってくれ」
距離は分かる。その先にある出している道具も分かる。
だけどその正確な距離は理解できていない。ただ何となくこれくらいだなというのは分かるから……チートな箱庭で同じ距離を作り出して、そこで距離を正確に出すことができる。
「約三千キロ、くらいだな」
「向こうの世界の単位か。日本で言えばどれくらい?」
そうか、俺がいた世界とこちらでは長さの単位も違っていれば法則も、決められた基準も違う。
箱庭にあるスマホを使って元の世界だとどれくらいになるのか調べることにした。
「日本列島が三千キロくらいだな」
「へー、あれくらいなんだ」
分かっていないだろうに分かったような顔をしているな。
だって一回も日本に行ったことがないのに分かるわけがないだろ。
「ということは、優斗の魔力範囲は半径三千キロっていうわけか」
「魔力範囲、ってことになるのか……」
「もしかして分かってない?」
「言っただろ、俺は魔力の扱い方が分からないって」
「できてるだろ」
うん? ……あぁ、俺とリリスでは認識に違いが起きている。
俺はチートな箱庭を使うときはそれができるが、リリスの認識だとそれを使えているから魔力の扱いもできているだろ、だと思っているのか?
「箱庭関連だとな。でもそれ抜きだと俺は魔力が上手く使えなくなるんだよ」
「じゃあさ、やってみて」
……ミッションを達成しているとは言え、エイルとテミスさんは人助けしているんだよなー。
「分かった」
ただ魔力を見てもらいたいのは確かだから少しだけ魔力操作をリリスに見せることにした。
さっきやったように魔力を纏ってみたり腕に集中させたりするが全く定まらない。
「こ、こんな感じだ……」
魔力を感じてはいるが全く操作できないから辛い。
「え、わざと?」
「そんなわけがない。これでも一生懸命だ」
かなり集中しているからしんどいし、何ならチートな箱庭で十分だろうという気持ちしかない。
「へー、あんなすごい箱庭を持ってるのに魔力制御はできないんだ。……意味わかんなさすぎ」
「悪かったな、意味わかんなくて」
「あとで魔力の使い方を教えるよ。そうじゃないと外では不便だろうからな」
「助かる」
先にチートな箱庭を使えるようになったから、普通の魔力制御が難しくなっているのか? よく分からんがリリスが教えてくれるから改善すればいい話だな。




