27:お願い
リリスの一時間ほどの自己紹介配信は大成功に終わった。
俺が裏技を仕掛けたが、それ以上に話題になり俺の裏技はきっかけに過ぎなかった。
リリスの同接は五千人と最初で個人としては最高の出だしになった。
ただまあその分BANに警戒をしておかないといけないわけだが……BANされてから動くよりも早めに動いておいた方がいいか。
俺の裏技はここで作った<ぼくのかんがえたさいきょうのでんのうおう>を使い、こちらから向こうのネットワークをアクセス。
そしてリリスに興味がありそうな人をピックアップしておすすめにリリスの配信を上げるというものをした。
この電脳王を使ってリリスのアカウントをBANさせないようにする。まあクラッキングだな。
それをしていた方が後手に回らなくていいから……やっておくか。
「すごかったですね。五千人にリリスさんを見ていたのですね!」
配信の内容はともかくとしてもリリスが見られていることに安堵しているエイル。
この裏技については話すつもりはないからエイルに合わせておく。
「あぁ、これだけ見られているのなら十分だな」
「あまりたくさんお酒を飲んでほしくはありませんが、仕方がありませんね」
「その辺はまだ大丈夫だ。収益化も通っていないからまだお金は稼げていないぞ」
「そうなのですか? あんなにも見られていたのにそうなのですね……」
まあすぐに通ると思うが最初だからな。
収益化が通るまではなにもしないが収益化が停止にならないように電脳王を監視させておこう。
「あー、つかれたー」
二階からリリスが降りてきた。てっきりそのまま寝るのかと思った。
「お疲れリリス」
「配信を見ていましたけどすごかったです。複数の人とお話ができるのですから」
「あんなの気持ち悪い豚だらけじゃん」
「ぶ、豚ですか……?」
「そー。どうせ会ったら気持ち悪い視線を向けてくるでしょ」
まあリリスの言うことは間違いではないし俺もそう思っている。
俺は可愛い系の配信者を見ていたわけではないからそういう偏見が強い。しかもそいつらが変な主張をするから気持ち悪さに拍車をかけているような気がする。
「それなら配信をして大丈夫なのか?」
「大丈夫。だって画面を見てシコるだけしかできないなんて滑稽だよね」
「それもそうだな」
「せっかく見てくれた人たちにそのようなことを思っていいのでしょうか……?」
「じゃあさ、エイルに優斗という素敵な夫がいるにもかかわらずエイルが配信している時に求婚してくるやつをどう思う?」
「そ、そんなことをする人がいるのですか?」
「普通にいるよ。それがネット」
「……ふ、不思議な世界ですね……」
ネットという魔境に足を踏み入れるというのはそれだけの覚悟がいるからな。
魔境の民を相手にするにはリリスのスタンスがちょうどいいだろ。
「さーて、頑張ったしいっぱいお酒のむー」
「いっぱいは飲めないぞ。一つだけだ」
「え」
「まだ収益化していないだろ。稼いだお金で飲むって言っていたんだからまだだな」
「……え」
俺の言っていることを聞いて絶望する顔を見せるリリス。
「じ、じゃああたしはあのキモオタたちと会話してお酒一つで済ませるってこと!?」
「最初はそうだろ。まあ収益化が通ったりスパチャも解禁されたら飲める量もたくさんになるだろうな」
「……もう一つの条件だったらどうなってた?」
リリスの『異世界サキュバス リリス』のチャンネル登録者数はすでに三千人を越えていた。
「チャンネル登録者数百人ごとに一本だから、三十本は飲めたな」
「さ、三十本……そんなの天国じゃん……」
魔族が天国と言っていることに面白さを感じるな。
「い、今から変えることはできますか……?」
「無理だな。収益化が通るまで我慢することだな」
「あー……どうして稼いだお金にしたんだ……!」
めっちゃ後悔しているリリスにエイルが話しかける。
「落ち込まないでください。きっとここを乗り切ればいっぱい飲めるようになりますよ。一本でも満足できるように最高のお酒の肴を用意しますね」
「……うん」
エイルの言う通りここを通りすぎればいっぱい飲めるようになるんだ。それまで頑張れば仕事を頑張っていると堂々と言えるな。
エイルに続いてリリスもキッチンに向かったところで俺のスマホに着信が入った。
「……またか」
パナケアとフレイヤから連絡が来たとしても分かるようにしてある。
だが今回の着信は不明になっているから二人とは違う神だと分かる。
でもここには誰も来ていないのに着信が先に来たことに違和感を覚えつつも俺は応答する。
「はい」
『あっ、繋がってよかったー。優斗くんでいいよね?』
「はい、そうです。そっちは誰ですか?」
『僕は正義の女神、アストレア。君にお願いがあって連絡したよ』
女神が僕っ子とは少し癖に刺さりそう。ただ面倒ごとなのは間違いないけど。
「お願いですか。話にもよります」
『そうだよね。でも話を聞いてほしいんだ』
「……聞きます」
『ありがとう!』
前の二柱、特にフレイヤがひどかったからこうして話してくれるだけでも神としては好感が持てる。
『今からそっちに送ろうと思う子がいるんだ』
「ここに住ませろってことですか?」
まあそんな話だとは思っていた。
『ううん、そうじゃないよ』
「違うんですか」
それならお願いってなんだ。ここに来るのは追放された人以外にいないだろ。
『そっちに送ろうと思う子は、病気なんだ。しかもこの世界で治すことができない不治の病』
「えっ、病気ですか」
『そう。しかも感染症でその領地全体に広がっていて大変なんだ!』
感染症か。それまた新しいな。
「それを俺のところで治せってことですか?」
『欲を言えば薬もほしい。その領地の子たちは正義のために動いていたのにこの仕打ちは許せないんだ』
アストレアの声色は静かに怒っているように聞こえる。
『だからお願い! あの子たちを助けてほしい!』
正義の女神がこんな怒るほどか。……まあ住まわせるわけじゃないのなら、お願いを聞くのもありだな。
「……わかりました。そのお願いを聞きます」
『っ! ありがとう! お礼になんでもするから今はその子を送るね!』
「分かりました」
通話が切れ、とりあえずはエイルとリリスに今のことを伝える。
「エイル、リリス。今からアストレアから送られてくる人がいるけど、気にしないでくれ」
「アストレア様ですか!? 私も準備します!」
「いや、その人は病気らしいから俺一人でいくよ」
「なおさら私も行きます! リリスさん、少し待っていてください」
「まーそれなら仕方ないかー。あたしも行こっと」
このチートな箱庭ならエイルとリリスが来ても問題はないか。
ていうか薬か。いっぱい作らないといけないのか。それは問題ないからいいけど。
エイルが準備している間に俺の箱庭が調律されているのを感じた。
これで四度目だから大体の出てくる場所がつかめてきた。
「できました!」
「よし、行くか」
エイルが聖女完全装備になったことで大体出てくる場所に俺たち三人が転移した。
そこはエイルが入ってきた場所に近い多くの神秘果実が実っている木のエリアだった。
こうしてお願いされていれば簡単に入らせるようにすればいいかと思ったが、まあ調律をして入ってこれるのなら問題ないか。
むしろ無断で調律をする輩に対しては迎撃武器を備えた方がいいだろう。
このチートな箱庭自体にはどうすることもできないがそれを行う輩に対しては対処できるからその方向で考えるべきか。
「懐かしいですね。この場所で優斗と出会いました」
「そうだな。いきなり人が来たんだから驚いたぞ」
「へー、ここなんだ」
そう会話した瞬間、調律が完了してここに入ってくるのを感じた。
すーっともやから人が出てくるような感じで歩いてくる人がいた。
「ハァ、ハァ……」
おぼつかない足取りで入ってきたのはボサボサになった長い銀髪や肌が漆黒に侵食されているが真っすぐと強い瞳を持った女性だった。
「まさか……魔神病!?」
その姿を見たエイルが知っているような口ぶりでそう言った。
「魔神病ってまじか」
リリスも魔神病とやらを知っているようでかなり焦った様子だった。
「こんなとんでもないものを引き込んだんだ」
「優斗、あの方の病気はとんでもないものです」
「それはアストレアから聞いているよ。大丈夫、ここは俺の空間でルールは俺が決める」
かなり焦っている二人にそう言って魔神病とやらに侵された女性の中にいる病気をすべて女性の外に出した。
そして漆黒の塊を結界の中に封じ込めた。
「これで魔神病は被害が及ばなくなったぞ」
何ならここでは病気は広まらないようにルールが設定されているから魔神病がそのままでも全く問題はない。
「あれ……?」
病気をすべて取り除かれた女性は不思議そうにしていた。
「ようこそ、俺の箱庭に」
「ち、近づいたら……!」
さっきまでは周りの様子がよく分かっていなかったようだが今は分かり、すぐに俺から距離をとろうとする。
「大丈夫、魔神病の元はこの結界に入っている。だからもう完治しているよ」
結界の中にある漆黒の塊を見て、さらに自身の体を見て、ふっと意識を失った女性。
倒れそうになるところを俺が受け止めた。
「確認します」
俺が受け止めた女性に近づいて女性の状態を確認するエイル。
「おー、これが魔神病か」
そーっとこちらに来たリリスは俺の持っている魔神病をまじまじと見ている。
「……大丈夫ですね。今は体力が消耗して寝ているだけです。完全に魔神病は消えています」
「とりあえず家で休ませるか」
不治の病と感染症とだけ聞いたが、さすがに大それたものだとは思っていなかったぞ。女神アストレア。




