第4話 光の園の支配人
扉の奥から、落ち着いた男性の低い声がした。
「クラブ・ジェムノットへようこそ。
支配人の伏見と申します。
……今しばらくそのままお待ちください」
不思議と胸の奥の痛みを乱さない、
深い響きのある声だった。
佐伯は静かに息を吸った。
扉はまだ開かない。でも、声は届く。
「申し訳ございません、
ご紹介なしでいらっしゃる方は珍しいんです。
……少し苦しそうですね。ご体調がすぐれませんか?
審査中用の椅子なんかもあった方がいいな…
やはり審査中のスペースを作るか…
言い訳でしかないのですが
開店したばかりで足りていないものがなかなか多くて…」
その言葉は、胸の奥に静かに触れた。
伏見の声が続く。
「AIが“要審査”と判定しておりますので、
ご来店いただくのに十分なご紳士だと
お見受けしているのですが。
……なかなか大変そうですね。」
この男性――伏見氏は、一体、
何をどうやって”審査”しているんだろうか?
伏見は、まるで佐伯の“沈黙”を見ているようだった。
「ご安心ください。
紹介がなくても、クラブ・ジェムノットは
“当店にご来店いただくべき方”を歓迎しております。
貴方は……歓迎されるべき御方だと判断しております。」
その言葉は、胸の奥に静かに落ちた。
伏見は続ける。
「ただ──
貴方のお心は、どうやら今とても
脆い状態のようにお見受けしております。
最初に誰が受け止めるべきか、慎重に判断しております。」
少しだけ間があった。
「……うん、やはり霧島がいいでしょうね。」
霧島――その名前を聞いた瞬間、
佐伯の鼓動が跳ねた。
伏見は静かに理由を告げる。
「霧島の静けさは貴方の痛みを……おそらくですが、受け止められるでしょう。」
そんな…。
その言い方は、期待してしまう…。
佐伯の動揺をよそに、
伏見は「お待たせいたしました」と、
扉が開くことを示唆してきた。
扉を開く一瞬、伏見は少しだけ息を整えた。
そして──扉が、静かに開いた。
店内からの淡い光が、佐伯の胸の奥を照らす。
伏見は柔らかい声で言った。
「恐れ入ります、お名前をお伺いできますか?」
「ま・・・佐伯と申します」
馬鹿か俺は、名字でいいだろう、いい年をした中年のオッサンが…
いや、もしかして偽名も許されてたのか?
「佐伯様、改めましてクラブ・ジェムノットへようこそ。
ここは、本質をさらけ出して
貴方にとってのたった一人と
対等にめぐり合うための場所です。
こちらへどうぞ。霧島のブースへご案内いたします。」
佐伯は、一歩踏み出した。
その一歩は、
誰にも見せられなかった痛みを
誰かに見せるための一歩だった。




