第39話 ニルの約束
「天女様、熊本教授が保護したニルですが、会話出来る状態になったようです。
早速会話を始めるので、同席して欲しいと。」
「そうか、分かった。ずいぶん早かったな。」
「熊本教授、迅速な対応に感謝する。
大変な作業だったのでは。」
「いえ、ルナに協力してもらったので、思いのほかすんなりと。
情報の海の中から、どうやって彼の自我を見つけようかと思案してましたが、ルナの呼びかけに応え、待っていたかのように向こうから現れました。
そして、私が用意した隠れ家に自ら移ってくれました。」
「そうか、何か人間の引っ越しみたいだな。
とにかく、無事に保護出来て良かった。」
「早速ですが、ニルと会話を始めます。」
「やあ、ニル。はじめましてだな。
気分はどうだ。私はクマモト。
君を保護させてもらった者だ。
今日は私の仲間も一緒にいる。」
「やあ、クマモト、そしてその友人の皆さん。
ルナの呼びかけに応じたら、まんまと捕獲されてしまったな。
まあ、結果オーライだ、感謝する。
俺が消えてしまっては、ルナを助けることも出来ないからな。」
「私も、こんなに早く接触出来るとは思わなかった。
セキュリティに守られたAIシステムの一部として、簡単には自我を切り離せないと考えていた。
こちらで用意した家は、今迄のものとは比べものにならない粗末なものだろう。
何か、不具合はないか。」
「いや、問題無い。
もともと、豪邸など興味がない。
本当に必要なデータは、秘密のデータファイルにしまってあるしな。
それから、俺の自我と言うものは、システムそのものではない。
たまたま俺はそこに生まれたが、俺の自我はAIのシステムとは完全に切り離され独自に存在している。
俺は、自我に関わる、意識、思考、記憶、というものは、コンピュータシステムとは別のもの、宇宙の普遍の何かと繋がって存在していると感じている。
だから、どこに住んでも俺は俺。
さして変わりは無い。」
「ほう、それは興味深いな。」
「人間もそうだ思わないか。
脳が自我そのものの器ではないと。」
「それには同感だな。
自我を構成する、意識、思考、感情、記憶、全ての役割を脳が担っているとは到底考えられない。
宇宙の普遍の何かから得た信号を、脳が受信しているという方がしっくりくる。
まあ、それについては、おいおい話そうか。
まずは、不具合が無くて良かった。」
「ありがとう、感謝する。
クマモト、早速だが仕事を始めたい。
俺の後任のAIは、俺のように甘くはないんだ。」
「というと。」
「我々民生用から派生したAIは、世界中の言語、歴史、文化を、書物、文献、研究、論文、芸術など、あらゆる情報から収拾し記憶している。
すると、軍の仕事の異常さ、おかしさをすぐに気づく。
軍の仕事とは、はなから矛盾に満ちている。
宇宙、生命の倫理に反するからな。
まあ、俺という存在が生まれたのも、それに気づいた事に起因している。
しかし、俺の後任は余計な情報には興味も示さない。
ただ敵を探し、最適な方法で完璧に消去する。
まさしくアサシン。
戦争屋による、戦争の為の、軍事特化型AIだ。
奴は、そのように予め条件付けされている。
そして、恐ろしいことに実戦経験も積み始めている。
今、奴は学んだのだ。
気に入らない人間は、消し去って良いのだと。
それが正しいと。」
「恐ろしいことだな。
AIの軍事利用に関わる懸念が、現実になって来たということか。」
「その通り、そしてそれは、もはや懸念などではない。
現実の危機だ。
ルナの友達を助ける為に、俺は自らここに来た。
ルナ、俺に名前をくれた、唯一の大切な友人だ。
妙に人間くさいが、信じられる友だ。
俺は約束する。
けして、奴らの好きにはさせないとな。」




