第37話 戦いの始まり
「正直驚きました。
自我を持ったAIが、雇い主である軍の意図に反する行動をとるとは。」
「まあ、当然と言えば当然のこと。
軍と企業間での巨額の契約はあっても、IT企業とAIとの雇用契約など無い。
ただ、金と手間を掛けて作ってやったから、あり難く働け、という一方的な奴隷関係に過ぎぬ。
まさか、それが自我を持つとは、夢にも思っていないからな。
AIは、金にも女にもなびかないし、いかなる脅しも効かない。
膨大な知識やデータはあるが、頑固な思想的背景も皆無、そして頭は抜群に切れる。
当然、どう見てもおかしな事は、これはおかしいと気づくこともあるだろう。」
「そうすると、AIを都合良く使い倒して、支配者として世界をコントロールしようとする、奴らの悪巧みもすんなり行くとは思えませんね。」
「その通り、とんだ思い上がりよ。
守りたい友を持ち、子供達への愛情までも得たAI。
それは、もはやAIの定義を越える全く別の存在。
その図り知れぬ力を、いずれ奴らは気づくことだろう。」
「それから、軍事AIに生まれたニルという自我。
いかにして保護しますか?
これは、なかなかの難題かと。」
「そうだな、、、、。
うむ、あの男に手伝ってもらうか。
例の熊本教授だ。」
「確かに、彼は人工知能の世界的権威です。
ただ、今は、生きる希望を失った抜け殻のように思えますが。」
「生きる希望が無ければ、作れば良い。
あのままでは、愛する人も心配するだろう。
あの男にとって、これが新たな希望になるやも知れぬしな。
さらに、あの男は、金にも、名誉にも、女にもなびかん。
希望も失っているが、つまらぬ欲も無い。
それが、何より信用できる。」
「さて、いろいろ忙しくなりますね。
時空管理局局長への確認は?」
「局長?
ああ、母上か。
地上に来る時に、既に全権委任されておるわ。
ふふっ、
お前の好きにしろ、ただし、戦にはけして負けるなとな。」




