第28話 彷徨える者
「天女様、またまた、何をしているんですか?」
「カフェのチラシ配りだ、店もガラガラだしな。」
「今日は、妙なことに、人通りもほとんどありませんね。」
「確かに、やけに空気が生ぬるい。
月も星も見えぬ。
まあ、時にはこんな日もあるだろう。」
「ご苦労さまです。
でも、程々にして休んでくださいね。
私は、お店の準備でも手伝ってきます。」
「すみませーん、今お店入れますか。」
1人の外国人観光客風の男が、天女様に声を掛けた。
筋骨隆々の大男で、腕っぷしには相当自信がありそうだ。
ちなみに、日本語はそこそこできるようだ。
天女様は、その男と男の周囲をしばらく眺めてから、丁寧に答えた。
「残念ですけど、団体さんはご遠慮させてください。
こんなに沢山のお客様は、この店にはとても入れないので。」
男は首を捻りながら答えた。
「団体って、見た通り私1人だけですよ。
適当な理由つけて、入店拒否するつもりですか。」
「いえいえ、ひとえに店のキャパシティの問題です。」
「、、、キャパシティ?俺1人で。
小娘の分際で、、。
俺を馬鹿にしているのか。
下手に出てれば、いい気になりやがって。」
「ふふっ、そんなにいっぱい引き連れて。
お前、何も気づかないのか。
引き連れるだけでなく、肩や頭にも目いっぱい乗せて。
頭が痛くなったり、肩とかこらんのか。
やれやれ、どれだけ鈍感なのか。
これが脳まで筋肉って奴か。
ただのアホか。」
「てめぇ、調子乗りやがって。
女だからってナメた真似してると、痛い目を見るぞ。」
一気に頭に血が上ったのか、男は、顔を真っ赤にして、いきなり天女様に掴みかかってきた。
その一瞬、音もなく黒い影がどこからともなく現れ、近づく男の両手を思い切り捻り上げた。
「お前、誰に触れようとしている。」
「痛てててぇ、離せ。
この女が俺をコケにしやがったんだ。」
「何ですか、この男?」
「いや、団体さんは入れないと伝えたら、いきなり怒りだしてな。」
「確かに、これはさすがに、、、到底入店は無理ですね。
ここまで、こんなに引き連れたまま、よく歩いて来れたものです。」
「だろう。
よほど基礎体力があり甘っているのか。
全く、知らぬとは、恐ろしいものよ。」
「仕方あるまい。
しっかり動けないようにしておけ。」
天女様は、動きを封じられた男に近づくと、おもむろに男の目の前に右の手のひらをかざした。
「ならば、しかと見るがいい。
お前が引き連れている者達の姿を。」
〜ぎゃあ、あ、あ、あ、あ、~
秋葉原の裏通りに、男の断末魔の悲鳴が響いた。
「我も鬼ではない。
声までを、聞かせることはしない。
しかし、お前に瞼を閉じることは許さない。
ただ、見続けるがいい。
彷徨える者達の姿を。」




