第二百四十七話、装着ですわっ。
清涼感のある香水の香り。
マリアージュが愛用している香水ですわ。
耳に触る彼女の髪がくすぐったいのですの。
「櫻子お嬢様……」
ポンポンと背中を叩いたのですの。
私は、抱きしめていたマリアージュを離しましたわ。
「櫻子様」
翠様ですの。
「ね、助けに来てくれたでしょう」
私は、ウインクしたのですわ。
少し涙がこぼれましたの。
「はいっ」
ほかのお嬢様達も言いましたわ。
◆
月灯りが、高い窓から斜めに入る。
「皆様、少し離れるのでございます」
マリアージュが、倉庫の部屋の真ん中を開けさせた。
パッ
床に丸と×字印が、赤い光で空間表示される。
「下ろすのでございます」
ブン、ブン、ブン、ブン
屋根の上から重低音。
ズドオオン
屋根を突き破って黒い人影が落ちて来た。
地面につく瞬間にふわりと一瞬浮く。
重力制御のため、丸く周りに埃が立った。
ズシュシュン
大きな黒い人影が円の真ん中に立った。
月灯りが、床に人型の影を落とす。
「こ、これはっ」
「……KS(黒須)-06J」
「”鈍黒色の竜”……”鈍竜”でございます」
軽MA、”不知火をまとい、頭には通信機能も備えた鋼鉄製のホワイトプリム。
透明のスカートを両手でつまみながら、完璧なカーテシー。
そのななめ後ろに、
烏帽子の様なヘルメット。
アイコンタクトにより一つ目に見える。
積層構造の重厚な肩アーマー。
銀色の十字を意匠された胸部装甲。
装甲されたウエストはきゅっと締まり、胸部装甲と共に、女性的なシルエットをかもしだす。
細かい板を連ねたスカートアーマーがひざ下まで伸びる。
細い太ももにピンヒール。
左腕には盾と、巨大杭打機。
「私の鈍竜……!!」
「ささ、纏うのでございますよ」
櫻子がおそるおそる、黒いMAに近づく。
ブシュウウ
胸部と腹部装甲が上に。
アーマースカートが左右に、腰部アーマーが下に開いた。
柔らかそうなクッション状のインナーが見える。
「スカートを脱ぐのでございます」
「!?」
膝丈の制服のスカートだ。
MAに巻き込む。
「……分かったのですわ」
ストン
少し顔を赤らめながら、スカートを足元に落とした。
月灯りに白い太ももが浮かぶ。
黒いローファーを脱いだ。
下半身はショーツと三つ折りの白いソックスだけになる。
背中向きに、まず足を入れ、次に腕を入れた。
「起動パスワードは、ゲームと一緒でございます」
「はいですわっ」
「”櫻の下には何かが埋まっている”」
[起動パスワード確認]
「装着者を、黒須、櫻子と認定]
[”鈍竜”、起動します]
女性のマシンボイスが響く。
シュウウウ
ゆっくりと上に跳ね上げられていた、胸部と腹部装甲が下りて来た。
[各関節位置、調節]
櫻子の体に合わせて関節の位置が微調整される。
ズシュシュン
一歩前へ。
「動いたのですわっ」
ズシン
ピンヒールがコンクリートの床に穴を空けた。
「ひええ」
[パワーアシスト、重力制御、再調整]
ズシュシュン
二歩目は普通に歩けた。
タタタタタタ
バウウウウウ
「こ、これは、銃声ですわっ」
――こ、怖いのですの
でも、後ろを振り返ると震えて座り込んだお嬢様達。
――守らなくてはっ
「目は……」
「つむりませんわっ」
「櫻子お嬢様、扉を巨大杭打機で壊すのでございます」
マリアージュが、入口の厚い金属製の扉を指差した。
「はいですわっ」
巨大杭打機用の火器管制プログラムを起動。
視界に丸いレティクルが出た。
「こうですわっ」
ガチャン
チャージングハンドルを引いて薬包を薬室に。
ア:アンゼン
タ:タンパツ
レ:レンパツ
エ:エンキョリ
”ア・タ・レ・エ”と書かれたセレクターレバーを、アからタへ。
「…………(なんだ、どうした)」
「…………(中で音が)」
「…………(正門に襲撃を受けた)」
「…………(人質にしろっ)」
英語でもなく中国語でもない話し声が、扉の向こうから聞こえてきた。
黒い大きなMAが扉の前で中腰に。
盾と巨大杭打機を構えた。
「撃つ、のですわっ」
櫻子が引き金を引いた。
ズドオオン
1メートル近い長さの杭が、火薬の力で撃ち出された。
先端が帯電し、空気がイオン化。
青白く光る。
ガチャッ
ピイイン
缶コ-ヒーと同じくらいの空薬莢が飛び出て、床に落ちた。
金属製の扉に、杭の周りがひしゃげ、大きな穴が開く。
「…………(うわっ)」
「…………(なんだなんだ)」
「もう一回ですのっ」
ズドオオン
ギイイイ
バ――ン
ついに、扉全体がむこう側に倒れたのである。




