第二百四十六話、倉庫ですのっ。
マリアージュはバイクを飛ばした。
頭にはホワイトプリム。
金髪のポニーテイルがたなびく。
目指すは、港湾地区にある実家だ。
このあたりは国際貨物船の港があり、外国の倉庫がたくさんある。
あまり治安が良くない地域だ。
シチリア系マフィア、”コルレオーネ家”の縄張り(テリトリー)でもあった。
夕暮れ近い地区は、かすかに暗い。
キュキュキュ
ある店の前にタイヤを鳴らして、マリアージュがバイクを停める。
”バー、アルカポネ”
看板にはそう書かれていた。
店の前に三人のガラの悪い男がいた。
「へへっ」
「メイドの姉ちゃんだぜ」
若いチンピラがにやにやと笑う。
「ば、馬鹿野郎」
バキイ
バキイ
真ん中の一人が二人を殴りつけた。
「ア、アニキ」
「いきなり何を」
「あ、あの人はゴッドファーザーが溺愛するお嬢様だぞ」
マリアージュが、それを横目に見ながらバーの中に入った。
カウンターまで急ぐ。
「ウエイター」
カウンターの中に、大河と公園で戦った、”ウエイター”がいた。
本名、スミス・ポートマン、別名、”マッドドック・スミス”である。
「メーカーズマーク・ゴールドトップ、氷一つ」
「はい、マリアお嬢様」
カラン
トクトクトク
ウエイターがグラスにウイスキーを注いだ。
グッ
マリアージュが一気に飲み干す。
ちなみに、敵や裏切り者のウイスキーには毒が入れられる。
「奥でお父様がお待ちです」
バーの壁の隠し扉が開いた。
「ありがと」
急ぎ足で入って行った。
豪奢な書斎。
身長160センチくらいの男性が立っていた。
イケオジだ。
イタリア製の高級ブランドスーツ。
どことなくマリアージュに似ていた。
「パパッ」
「マリアッ」
二人は両手をひろげて抱擁する。
「パパッ、サクラコがっ」
「話は聞いてるよ」
「亡国戦線の下部組織、”エビ茶色の誘拐団”の仕業だ」
机の上の地図をマリアージュに渡す。
港湾地区の倉庫のようだ。
「ここが奴らの本部だ」
「たぶんサクラコちゃんもそこにいるはずだ」
「ありがとう、行くわっ」
「気をつけてな」
「うんっ」
マリアージュが書斎を飛び出した。
――私の縄張り(テリトリー)で誘拐……しかも女の子の……
ゴッドファーザーに、小さなマリアの姿がよぎる。
――しかもファミリー(サクラコ)に手を出すとは
ジャキンッ
葉巻カッターで勢いよく葉巻を切った。
「ウエイター、亡国戦線の支部を全てつぶせっ」
ゴッドファーザーが机の上の内線に向かって言った。
◆
「ココニ、ハイッテロ」
片言の日本語ですわ。
誘拐犯の使っている言葉は、英語でも中国語でもなかったのですの。
ゴオン
分厚い金属製の扉が閉まりましたわ。
「倉庫ですわ」
目隠しを外されましたの。
高い天井。
打ちっぱなしのコンクリートの床。
鉄筋の壁。
ガラス窓は高く背は届かない。
人工の月明かりが窓から差し込んでいた。
シクシク
小さな泣き声が聞こえますわ。
はしの方に女性が、五人ほど座っていましたの。
怯え切っているのでしょう。
「櫻子様」
一緒に連れさられてきた碧様ですの。
「みんなもさらわれてきたのですわ?」
見た感じ両家のお嬢様のようですの。
「はい」
「このまま、売られてしまうのでしょうか」
「おうちに帰りたい……」
小さな声でいいましたの。
こがらなお嬢様達ですわ。
碧様と一緒に座りましたの。
「……大丈夫……ですわ」
――励ましましょう
「私の名は、黒須・櫻子」
「黒須……」
「黒須重工の?」
「MAをたくさん作ってる」
「軍に影響力の強い?」
「そうですわっ」
「必ず、お父様とマリアージュが助けに来てくれますのっ」
「マリアージュ?」
「ふふっ、私の専属メイドですわっ」
「とっても頼りになりますのっ」
――話しましょう、マリアージュとの出会いを
「そうですわね……」
「……私は四歳の時、誘拐されたことがありますの」
「誘拐ですか」
碧様ですわ。
泣かれていた方が泣き止んだようですの。
「ええ、犯人はシチリア系マフィアでしたわ」
「でも、同じシチリア系マフィア、”コルレオーネ家に助けられましたの」
「マフィアにですか」
「あ、コルレオーネ家は、最近、運送業をされてませんか?」
表の仕事、黒須重工の下請けになる。
ゴッドファーザーが、娘のためにマフィアから足を洗おうとしているのだ。
「はい」
「でも、助けてくれた時、怖そうな男性にかこまれてパニックを起こしましたの」
マッドドック・スミスはじめ、マフィアには強面の男性しかいないのだ。
「突然走り出して、近くの用水路に落ちたのですわ」
冷たい水に流された。
茶色い視界の中、必死に手をのばす。
「その時、自分より少し大きな手が私の手をつかんだのですわ」
「”コルレオーネ家”のゴッドファーザーの一人娘、”マリア”でしたの」
マリアージュ、8歳の時である。
小さな女の子(櫻子のこと)を怖がらせないようについてきていた。
水の上に助け上げられる。
「マリアージュにしがみついてワンワン泣きましたわ」
「まあっ」
「その後も、夜中に思い出して泣き叫んだのですの」
フラッシュバックですわ。
「でも、マリアージュと一緒なら眠れましたの」
マリアージュが黒須家に頻繁に来るようになったのですわ。
その後、護身術を学ぶため、紀伊国屋流抜刀術の師範である私の母に弟子入りしましたの。
ちなみに、栞子様との出会いも母経由ですの。
◆
二年の時が流れましたわ。
マリアージュ10歳、私は6歳になりましたの。
「どうだ、サクラコッ」
メイド服を着たマリアージュがクルリと回りましたわ。
金髪のポニーテールがふわりとおどる。
「似合ってるよ、マリアお姉ちゃんっ」
「ふふっ、そうだろう、そうだろう」
「これからは、サクラコの専属メイドだっ」
「専属メイド……?」
私は小首をかしげましたの。
「ずっと一緒ってことだ」
「ずっといっしょっ、うれしいっ」
「ふふ、でだ、サクラコはお嬢様だろ」
「?」
「だから、語尾に、”ですわ”をつけろ」
「”ですわ”……ですわ」
「そうだ、で、おれ……私は、”ございます”をつける」
「それから、呼び方は、”マリアージュ”でございますよ」
マリアはマフィアの娘。
表の仕事につくための偽名だ。
「マリアージュ……ですわ」
「そうでございます」
「このようにして、”マリアージュ”が家に来たのですの」
いつの間にか話を聞き込んでいたお嬢様達を見回しましたわ。
「マリアージュ……」
小さくつぶやきましたの。
「お呼びですか? 櫻子お嬢様」
真後ろから声。
「マ、マリアお姉ちゃんっ」
マリアージュに、飛びつくように抱きつきましたの。
少し泣いてしまいましたわ。
マリアが、優しくサクラコの背中を撫でた。




