第二百四十五話、誘拐ですわっ。
肩までのつややかな黒髪。
シックな制服。
175センチくらいの身長は、周りの女生徒より頭一つ分くらい高い。
誰もが振り返るような美人。
櫻子だ。
聖ミカエル女学園の夕方ですわ。
キーンコーンカーンコーン
ウエストミンスターの鐘が鳴りましたの。
今日の学校が終わりましたわ。
「さようなら、櫻子様」
「さようなら、皆様」
「さようなら、栞子様、剣術部ですか」
私は、左手で落ちてきた黒髪を耳にかけながら聞いたのですわ。
凛とした切れ長の瞳。
肩上で切りそろえられた黒髪。
170センチくらいの身長。
スレンダーな体は、恐ろしくらいに姿勢が良い。
栞子である。
「はい、……そうでござるよ」
あいさつと共に、栞子様と女生徒が教室から出て行く。
――ゆっくりと帰りの用意をするのですわ
いまごろは、正面玄関でマリアージュと大河様が会っているはずですの。
婚約者たちの逢瀬ですわ。
ほうっ
私は、熱い吐息を吐きましたわ。
――マリアージュが大河様とつきあうようになって、マリアージュがどんどんきれいになりますの
ふと金色のモヒカンを思い浮かべましたわ。
少し頬が熱くなりましたの。
一階の教室の外に、運動部が活動しているのが見えますわ。
最後に教室を出ましたの。
「おや?」
廊下に出て少し進んだ先。
90度曲がった所に、女子トイレと理科室。
「社会の先生ですわ」
いつも授業中眠くなる、お年を召した方ですの。
小柄な女生徒を腕をつかんで引っ張っていますわ。
女生徒はたしか、
「翠様」
前首相のお孫様ですの。
理科室の連れ込もうとしているようですわ。
小走りに走りましたの。
「もし、何をなされているのですわ?」
「来いっ」
「た、助け……」
女子トイレと理科室から、清掃業者の服を着た男性があらわれましたの。
翠様の口を後からふさぎましたわ。
あ。
「きゃ、きゃあ」
いつの間にか私の後ろにもっ。
「ちっ、こいつも連れていくぞっ」
腕をつかまれ理科室の外、裏の駐車場へ。
清掃業社のバンに乗せられましたわ。
チラリとMAを着た人が姿を現しましたの。(←ステルス状態から姿を現した)
多分、私の警護の方ですわ。
ズドオオオオン
「きゃあああ」
何か小さなものが飛んできた後、校舎の上の部分で爆発が起きましたの。
キュルルルル
バンがタイヤをきしませながら発射しましたわ。
バシャアアン
駐車場の入口に車と同じくらいの高さの壁が、地面から飛び出しましたの。
「う、うわっ」
ちょうど、追いかけてきた警護の方と車を分けるように立ちましたわ。
屋上近くの角に爆発の煙を上げる校舎から、櫻子と女生徒を乗せたバンが走り去ったのである。
◆
聖ミカエル女学園、正面玄関前。
警備隊長と金髪爆乳メイド。
ひっついてはいないが、他人同士では近すぎる距離だ。
「マリア」
「なあに、大河」
マリアージュが、下から見上げるように小首をかしげる。
金髪の後れ毛がゆれた。
フワリと甘い匂いがする。
――こ、こほん、櫻子お嬢様は、我々に気を遣って、いつもゆっくり出てくるなあ
大河は、婚約者のマリアと櫻子が出てくるのを待っていた。
「きゃあ」
「なんと仲睦まじい」
「婚約者同士ですわ」
周りを少し顔を赤らめた女生徒が通り過ぎていく。
「相変わらず、仲が良さそうねえ」
銀髪、紅い目の女生徒がつぶやいた。
「今日は少し、遅いなあ」
大河だ。
校舎を振り返る。
ズドオオオオン
校舎が爆発した。
「えっ」
「RPGっつ」(←ルチノーイ・プラチヴァターンカヴィイ・グラナタビュート、携帯式対戦車擲弾発射機のこと)
マリアージュが叫ぶ。
[隊長、校舎外からロケット弾っ]
大河のインカム(無線)からの声だ。
キュルルルル
車のタイヤのスキール音。
[隊長、櫻子お嬢様がバンで連れ去られました]
マリアージュのインカム(無線)からの声である。
[バンを見失いました]
「くっ、サクラコッ」
マリアージュがうめく。
バシャアアアン
バシャバシャ
校舎外の生徒が校舎内へ。
校舎の入口と窓、全てに防御用のシャッターが下りた。
「マリアッ、状況の確認だ」
飛び出していこうとするマリアを大河が止める。
警備部の指令室へ。
指令室のモニターに、校舎内の監視カメラの映像が移っていた。
「二人連れ去られました」
録画されていた、連れ去られる瞬間の映像が流れる。
「社会の教諭が手引きした模様です」
「”クロヒョウ”清掃会社です」
警備部の部下の報告だ。
――クロヒョウッ
「”亡国戦線の”トレードマークッ」
マリアージュが叫んだ。
「行くわっ」
「マリアッ、櫻子お嬢様と女生徒も頼むっ」
大河だ。
「分かったわ」
[黒須警護隊、ランクSの事態が発生]
[櫻子お嬢様が連れ去られた]
[全小隊、フル装備で本部広場に集合]
マリアージュがインカム(無線)で指示を出した。
[了解っ]
[私は少し行くところがある]
[戻るまで待機せよ]
[了解]
学園の近くの警護隊セーフハウス。
ズバウウン
その駐車場から、大きなバイクに乗ったメイド服の女性が飛び出したのである。
◆
「女生徒、全て校舎内に入りました」
「無事を確認しました」
「よしっ、学園を沈めるぞ」
「了解っ」
指令室で操作をした。
バシュウウ
学園の敷地の境に白い煙が上がる。
敷地が周りから切り離された。
ガコオオン
「宝石(女生徒)をしまえっ」
学園全体が地下に沈む。
沈み切った後、天井を分厚い扉が左右から閉じた。
聖ミカエル女学園の宝石箱形態である。
この状態で宇宙に放り出されても大丈夫だ。
これで学園は一安心である。
プルルルル
ガチャ
大河が電話を掛けた。
「日元っ、(櫻子お嬢様のことは)聞いているな」
「ああ」
「……海兵隊基地で落ち合おう」
「わかった」
日元と大河、二人の宙軍少佐が動き出した。




