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勾当台公園のすぐ横にあるコンビニの前に立ち、奈津子は忠志が来るのを待っていた。
目の前を歩いていくサラリーマンや学生に顔を見られることを避けるように奈津子は帽子を深く被った。こんなところで知り合いにあうはずがないことはわかっている。それでも、今からやろうとしていることを考えた時、少しでも注意を怠るわけにはいかない。
銀行の角から忠志の運転するSUVが姿を現した。
奈津子はちらりと腕時計で時間を確認した。
10時丁度。待ち合わせ時間ぴったりだ。
忠志はコンビニの前に立つ奈津子を見つけると、傍に車を寄せて止まった。
「おはようございます」
奈津子はそう言って助手席に乗り込むと、持っていたバッグを足元に置いた。
「おはよう」と、忠志も笑顔を見せて軽く手をあげる。
会社は休むと言っていたはずだが、スーツを着込み、後部座席には鞄が置かれている。まるでこれから会社に向かうような姿だ。
きっと恵美に会社に行くと嘘をついて出てきたに違いない。忠志が時折、車で通勤するということは聞いていた。きっと恵美も疑ってはいないだろう。
奈津子は白いビニール袋のなかから、コンビニで買ったコーヒーのペットボトルの小瓶を取り出した。
「これ飲んでください」と忠志に差し出す。
「ありがとう」
忠志はペットボトルを受け取ると、蓋を開けて一口飲んですぐに脇のカップホルダーに収めた。
奈津子も同じように、隣のカップホルダーに入れる。
「それじゃ行きましょうか?」
忠志は再びドアミラーを確認しながら車を動かしはじめた。
「今日、大丈夫だったんですか? 仕事休んで何か言われませんでした?」
「気にしないでも大丈夫。俺が休んだからって会社はつぶれませんから」
忠志は陽気に笑ってみせた。「どこに行きましょうか?」
「そうですね……海でも」
「いいですね」
そう言うと忠志はアクセルを踏んだ。
「恵美さんには言って来たんですか?」
「まさか、内緒ですよ。まさか会社を休んであなたとドライブなんて言えませんからね」
「すいません、私のために」
奈津子は小さく頭を下げた。
「いえ、僕もたまには息抜きをしないとね……それにしても何かあったんですか?」
「え?」
「相談があるって言ってましたよね。だから僕に電話くれたんでしょ? まさか藤井寺さんとうまくいってないとか?」
心配そうに忠志は訊いた。その表情に奈津子は驚いた。
(この人は本当に私を心配して来てくれたの?)
奈津子は戸惑っていた。
「いえ、そんなんじゃありませんよ。涼子さんはとても良い人だから」
「そう……良かった。彼女、けっこう意地っ張りなところがありますからね」
「心配してくれてたんですか?」
「ちょっとね……まあ他人と暮らすのってけっこう気を使うでしょう?」
ぽつりと忠志はつぶやいた。
「なんか実感篭もってますね。川淵さんのほうが何か悩んでるみたいですよ」
「夫婦って言っても他人ですから」
「恵美さんとはうまくいってるんでしょ?」
「微妙なとこですよ」
冗談のつもりか、忠志は大きく笑った。
それを横目でちらりと見ながら奈津子はカップホルダーからペットボトルを手に取った。忠志は周囲に気を配っており、それが忠志側に置かれたものであることに気づいていない。
奈津子はそのペットボトルをバッグのなかへとそっと隠すと、もう一本の同じものを取り出した。そのペットボトルには睡眠薬が入っている。
心臓がドキドキと高鳴る。
そっとペットボトルを口に運ぶようなふりをしながら、再びもとの位置に戻した。
ちらりと忠志の様子を伺う。
忠志は一向に気づかない様子でハンドルを握っている。
(よし……)
奈津子は忠志に気づかれないように窓のほうへ顔を向け、大きく深呼吸した。




